日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

小説

少し、不思議な世界へ読者を誘う!三崎亜記のおすすめ小説5選

三崎亜記は非現実的な小説世界に読者を誘う小説家だ。 見えない戦争を描いた『となり町戦争』や 、台風の代わりに鼓笛隊が日本に上陸する『鼓笛隊の襲来』など、日常から少しズレたような「少し、不思議(SF)」な小説を書き続けている。シュールレアリスムな…

叙情的で透明感ある文体が魅力!大崎善生のおすすめ小説5選

大崎善生は、叙情的で透明感のある文体が魅力の小説家だ。 代表作『パイロットフィッシュ』のように瑞々しい恋愛小説を数多く書いている。大崎善生と言えば『聖の青春』や『将棋の子』のような将棋に関するノンフィクションを思い浮かべる人が多いかも知れな…

文体がウィットに富んでいて面白い小説家まとめ

どんでん返し系の小説の帯に「2度読みたくなる」と書かれているのをよく見るけれど、結局のところ何回も読みたくなる小説って文体に魅力がある小説じゃないかなと思う。やっぱり、文章自体に魅力がないと何回も読みたいと思うことがない。やっぱり、ユーモア…

『花束みたいな恋をした』 麦と絹のお気に入りの作家まとめ

『花束みたいな恋をした』本編映像【2人だけの新生活編】 麦と絹の「花束みたいな恋」の始まりと終わりを描いた『花束みたいな恋をした』。 脚本は坂本裕二さんだ。カルチャーをこよなく愛する麦と絹が互いの共通点に惹かれ合い、恋に発展していく様は文化系…

あひるが死んでも変わりはいるもの / 「あひる」 今村 夏子 

なにげない日常を描いた小説のようだが、作中には常に不協和音が流れている。これは、「あひる」を初めて読んだ時の印象だ。 今村夏子の「あひる」という小説は平易な文章で書かれていて、一見すると童話のようだ。だけど作中に不穏な雰囲気が常に漂っている…

愛についてのドタバタ喜劇 / 『湖畔の愛』 町田 康

今日も一面霧が立ちこめて。ときに龍神が天翔るという伝説がある九界湖の畔で、むっさいい感じで営業している九界湖ホテル。支配人新町、フロント美女あっちゃん、怪しい関西弁の雑用係スカ爺が凄絶なゆるさで客を出迎える。真心を込めて。そこへ稀代の雨女…

演劇畑からデビューした現代文学作家のまとめ

戯曲と小説には綿密な関係がある。三島由紀夫や安部公房など優れた小説家は、素晴らしい戯曲も書き残してきた。また、小説家が戯曲を書くだけではなく、劇作家が小説を書き小説家としてデビューした事例も数多くある。演劇畑出身で活躍している小説家を紹介…

ゲシュタルト崩壊は「文字の精霊」の仕業?/ 『文字禍』 中島 敦

小学生の頃、漢字をひたすら書き写すという宿題を経験した人は多いはずだ。宿題をやっている時、こんな経験はなかっただろうか?ずっと同じ感じを描いていると、漢字の線の一つ一つが分解して、意味をなさない図形のように見えてしまう。このような現象には…

概念を奪い取る宇宙人の侵略 / 『散歩する侵略者』 前川 知大

真治と鳴海の夫婦は、ちいさな港町に住んでいる。亭主関白ぶって浮気する真治、気づかないふりで黙っている鳴海。だが真治が、3日間の行方不明ののち、まったく別の人格になって帰ってきた。「真ちゃん」と呼ばせてくれる新しい真治と、鳴海はやりなおそう…

センター試験で話題になったボクっ娘小説 / 『僕はかぐや姫』 松村 栄子

進学校の女子高で、自らを「僕」と称する文芸部員たち。17歳の魂のゆらぎを鮮烈に描き出した著者のデビュー作「僕はかぐや姫」。 センター試験の国語で出題される小説は毎回話題になってきた。 スピンスピンスピンというパワーワードが話題を集めたこともあ…

人が「何らかしら」に変身する変身譚・変身小説まとめ

「変身!」という掛け声といえば仮面ライダーだ。これは皆さんよく知っているだろう。 だが、掛け声「変身」の由来は何かと聞かれたら答えに窮するだろう。「変身!」の掛け声の由来は、意外にもフランツ・カフカの『変身』にあった。こんなところに文学の影…

資本主義の勝ち組の憂鬱 / 『キャピタル』 加藤 秀行

『キャピタル』は、タイトルのCapital(資本)が暗示するように、グローバル資本主義の競争原理を色濃く反映した小説だ。この小説が描くのは、グローバル資本主義における勝ち組の憂鬱だ。勝ち組にも憂鬱はあるのだ。文学といえば弱者の視点で描くことが多く、…

フランツ・カフカが好きな人にオススメのカフカっぽい作家

変身 (新潮文庫) 作者:フランツ・カフカ 新潮社 Amazon 気がかりな夢から目をさましたら虫になっていたでおなじみのフランツ・カフカ。 代表作の不条理文学『変身』を筆頭に、官僚機構のナンセンスさを描いた『城』や訳の分からない裁判に巻き込まれる男が主…

残されたモノが突きつける存在の不在 /「トニー滝谷」 村上 春樹

村上春樹は喪失をテーマに数多くの小説を書いてきた。有名な『ノルウェイの森』もそうだし、『羊をめぐる冒険』や『風の歌を聴け』もそうだ。様々な角度や視点から「喪失」を描いてきた村上春樹だが、「トニー滝谷」という短編は残された「遺品」が存在の不…

謎解き『風の歌を聴け』 / タイトルの『風の歌を聴け』ってどういう意味?

風の歌を聴け (講談社文庫) 作者:村上春樹 講談社 Amazon 村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』。短い小説でありながらも、文体が完成されていて、様々な謎が散りばめられている。単純に読めば、ほろ苦い夏の出来事を描いた小説であるように思えるが、この…

ロマンスがありあまる…文豪たちが書いたドロドロ恋愛小説10選

恋愛小説といえば甘酸っぱい恋愛を描いたものだけではない。不倫や三角関係、略奪婚など恋愛のドロドロした部分を描いた恋愛小説は数多く書かれてきた。 文豪たちもまた然りだ。夏目漱石や三島由紀夫、トルストイ、フローベールなど文豪たちは大人な恋愛小説…

「依頼」と「代行」による「宝探し」の物語〜『羊をめぐる冒険』と『同時代ゲーム』の物語構造〜

物語にはいくつかの基本パターンみたいなものがある。有名なもので言えばオイディプス王に見られる様な「父殺し」の物語骨格がある。「父」というモチーフは色んな文学作品で扱われていて、志賀直哉の『暗夜行路』も「父」が物語の重要な部分を占めている。…

三四郎から連なる青春文学の系譜〜『三四郎』から『優しいサヨクのための嬉遊曲』まで〜

日本文学には、『三四郎』から続く青春文学の系譜があると思う。当時の時代背景を反映し、「知識人はこの時代をどう生きるべきか」という問いに悩む主人公が描かれた小説だ。それぞれの時代を反映してきた作品は、芥川賞を受賞したり、ベストセラーになった…

吸血鬼は存在するか? / 「タクシーに乗った吸血鬼」 村上 春樹

皆さんは吸血鬼の存在を信じるだろうか?しかも吸血鬼がタクシーの運転手だったら? 「タクシーに乗った吸血鬼」という『カンガルー日和』の短編小説は、文字通りタクシーの運転手が吸血鬼だったという話だ。いかにも村上春樹らしい言い回しが随所に散りばめ…

謎解き『ノルウェイの森』/ ノルウェイの森(Norwegin Wood)に込められた意味は何か?

村上春樹の作品にはビートルズの楽曲のタイトルが使われているのが多い。ビートルズの楽曲をタイトルに有する村上春樹の作品の中でも最も有名なのが『ノルウェイの森』だろう。作中でも「ノルウェイの森」は重要なモチーフだ。主人公ワタナベを過去の世界に…

謎解き『1Q84 』 / 『1Q84』というタイトルと小説の構成について

1Q84―BOOK1〈4月-6月〉前編―(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 社会現象を引き起こした村上春樹の『1Q84』。謎めいたストーリーが話題を呼び、ベストセラーとなった。 『1Q84』には回収されなかった謎が数多く残され、謎解き要素が強い…

出版業界の闇に切り込んだ問題作 / 『超・殺人事件』 東野 圭吾

東野圭吾は、今では大衆的な人気を誇る実力作家である。『ラプラスの悪魔』など多くの著作が映画化されており、大人気のエンタメ作家でもある。 僕は最近の作品よりも、昔の本格ミステリ指向の小説や、『名探偵の掟』のような本格ミステリのパロディというか…

独断と極度な偏見で選ぶ!東野圭吾のおすすめミステリ6選を雑に紹介!

白夜行 (集英社文庫) 作者:東野圭吾 集英社 Amazon 東野圭吾は、大体の人が知ってるミステリー作家だ。 モンドセレクション最高金賞並みに有名だ。日本人なら大体知ってる作家ベスト3があれば間違いなく入賞していると思う。もちろん一位は、謎めいた表現技…

ヌーヴェルヴァーグがモチーフの小説

ヌーヴェルヴァーグ がモチーフになっている小説 ヌーヴェル・ヴァーグの時代 (紀伊國屋映画叢書 3) 作者: 遠山純生 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2010/08/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) クリック: 11回 この商品を含むブログ (3件) を見る…

情欲と愛情のあいだ / 『上海ベイビー』 衛慧

上海を生きる女性の恋愛と性愛 ココは25歳の大卒。ウエートレスのかたわら小説を書いている。同棲中の恋人とのセックスはうまくいかず、自分の生き方を自問自答しつつ上海の夜を彷徨う。あるパーティで出会った妻子あるドイツ人と結ばれ、激しく満たされるが…

「春樹チルドレン」だと思う作家を列挙してみる

「春樹チルドレン」とは 職業としての小説家 (新潮文庫) 作者:春樹, 村上 新潮社 Amazon 昔、小泉チルドレンという言葉が流行った。ちょうど僕が小学生の頃だろうか。かつてのチルドレンは今はどうしているのだろう。小泉チルドレンのように、ある人の影響下…

35歳は人生の折り返し地点 / 「プールサイド」 村上 春樹

『回転木馬のデッド・ヒート』の名作短編 小説の中には、若いときに読むべきものと、年を取ってからじゃないと心に響かないものがある。村上春樹の「プールサイド」という短編は後者に属すると思う。大学生の時に読んだときよりも25歳になった今読み返した方…

知性を守るための戦い / 『赤頭巾ちゃん気をつけて』 庄司 薫

優しさ世代のためのバイブル 学生運動の煽りを受け、東大入試が中止になるという災難に見舞われた日比谷高校三年の薫くん。そのうえ愛犬が死に、幼馴染の由美と絶交し、踏んだり蹴ったりの一日がスタートするが―。真の知性とは何か。戦後民主主義はどこまで…

学生運動で揺らぐ「僕」のアイデンティティ /『僕って何』 三田 誠広

他人との関係性の中で揺らいでいく「僕」のアイデンティティについて描いた小説が、『僕って何』だ。「僕」はセクト争いに翻弄される中で、自分のアイデンティティを見失っていく。現代版の三四郎だ。「僕」は部活やサークルの延長線上で、学生運動に参加し…

スピンスピンでセンター国語の伝説となった短編 / 『地球儀』牧野 信一 

牧野信一の『地球儀』という小説をご存じだろうか「スピンスピン」というマジックワードで多くの犠牲者を生み出したセンター国語の問題文だ。『地球儀』はセンター試験に出題され、「スピンスピン」という謎の言葉で今もネタにされている、いや愛されている…