日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ロマンスがありあまる…文豪たちが書いたドロドロ恋愛小説10選

恋愛小説といえば甘酸っぱい恋愛を描いたものだけではない。不倫三角関係略奪婚など恋愛のドロドロした部分を描いた恋愛小説は数多く書かれてきた。

文豪たちもまた然りだ。夏目漱石三島由紀夫トルストイフローベールなど文豪たちは大人な恋愛小説を数多く残している。 そんなロマンスがありあまった恋愛小説を紹介する。

 

 

 

 友人から妻を略奪 / 『それから』 夏目 漱石

長井代助は三十にもなって定職も持たず、父からの援助で毎日をぶらぶらと暮している。実生活に根を持たない思索家の代助は、かつて愛しながらも義侠心から友人平岡に譲った平岡の妻三千代との再会により、妙な運命に巻き込まれていく……。大助は三千代との愛をつらぬこうと決意する。「自然」にはかなうが、しかし人の掟にそむくこの愛に生きることは2人が社会から追い放たれることを意味した。

トップバッターは略奪婚を描いた『それから』だ。代助は三千代のことを愛していながらも友人の平岡に譲った。しかし、三千代に再会したことで運命の歯車が狂い出す。代助は倫理を捨てて、愛を貫き三千代を平岡から略奪することを決心する。夏目漱石は、自由に生きることの代償を三角関係を通じて描き出した。倫理や道徳に背き、恋愛を選んだ代助に待ち受ける未来を示唆したラストシーンは残酷だ。 

 

 

 略奪婚のその後 / 『門』 夏目 漱石

親友の安井を裏切り、その妻であった御米と結ばれた宗助は、その負い目から、父の遺産相続を叔父の意にまかせ、今また、叔父の死により、弟・小六の学費を打ち切られても積極的解決に乗り出すこともなく、社会の罪人として諦めのなかに暮らしている。そんな彼が、思いがけず耳にした安井の消息に心を乱し、救いを求めて禅寺の門をくぐるのだが。

『三四郎』、『それから』に続く夏目漱石の前期三部作が『』だ。

『門』は略奪婚のその後を描いた小説だ。夏目漱石の小説って思ったよりドロドロしている。宗助は、親友の安井を裏切って、安井の妻・御米と結ばれた。略奪婚をした宗介だが、罪悪感を背負い生きていくことになる。世間の倫理に背き、自分の気持ちに忠実に生きることの苦しさが描かれている。

 

 恋は罪悪ですよ / 『こころ』 夏目 漱石

こころ (新潮文庫)

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恋人を得るために親友を裏切り、自殺へと追いこんだ。その過去の罪悪感に苦しみ、自らもまた死を選ぶ「先生」…。愛と偽善、誠実の意味を追究した傑作。

またまた夏目漱石の小説。夏目漱石は一筋縄ではいかない恋愛小説を数多く残した。ここまでくると、夏目漱石は恋愛で何かあったのか本気で心配になるレベル。

夏目漱石の作品の中でも、『こころ』は「友情をとるか、恋愛をとるか」という普遍的なテーマを扱った作品だ。高校の国語の教科書に掲載されていたので、読んだことある人は多いはず。先生と友人のKは一人の女性を巡って三角関係になる。友情と恋愛の狭間で悩む先生の決断と、Kがとった行動は自由に恋愛することの代償を突きつけてくる。先生の「しかし、しかし君、恋は罪悪ですよ。 わかっていますか?」という台詞は心に深く突き刺さる。

 

 

 友情と恋愛どっちを取る? / 『友情』 武者小路 実篤

脚本家の野島と、新進作家の大宮は、厚い友情で結ばれている。野島は大宮のいとこの友人の杉子を熱愛し、大宮に助力を願うが、大宮に心惹かれる杉子は野島の愛を拒否し、パリに去った大宮に愛の手紙を送る。野島は失恋の苦しみに耐え、仕事の上で大宮と決闘しようと誓う――青春時代における友情と恋愛との相克をきめこまかく描き、時代を超えて読みつがれる武者小路文学の代表作。

友情』というタイトルだが、「走れメロス」の様に美しい友情を描いた話ではない。それとは真逆の親友と 女を巡った三角関係の話だ。友情か恋愛どっちを取るかという普遍的な問いが描かれている。その答えはもちろん恋愛だ。

主人公・野島は杉子を好きになるが、杉子が選んだのは親友の大宮だった。また『友情』は、互いに価値が釣り合っていないと付き合うことは出来ないという恋愛の残酷な真実を伝えている。

 

 

 未亡人の満たされない心 / 『愛の渇き』 三島 由紀夫

杉本悦子は、女性問題で彼女を悩ませつづけた夫が急逝すると、舅弥吉の別荘兼農園に身を寄せ、間もなく彼と肉体関係に陥った。彼女は夜ごと弥吉の骸骨のような手の愛撫を受けながら、一方では、園丁三郎の若若しい肉体と素朴な心に惹かれていく。だが、三郎には女中の美代という恋人がいることを知った時、悦子は……。〈神なき人間の逆説的な幸福の探求〉を主題にした野心作。

愛の渇き』というタイトルだけで何だかすごくイケナイ感じが漂っている。未亡人の悦子は舅・弥吉と肉体関係を持っていたが弥吉を愛しているわけではない。悦子の愛は、三郎に向かっていた。悦子は三郎に恋人がいることを知り嫉妬に襲われることになる...。愛や嫉妬の怖さが感じられる小説だ。

 

 

人妻背徳ラブ・ストーリー / 『美徳のよろめき』 三島 由紀夫

生れもしつけもいい優雅なヒロイン倉越夫人節子の無垢な魂にとって、姦通とは異邦の珍しい宝石のようにしか感得されていなかったが……。作者は、精緻な技巧をこらした人工の美の世界に、聖女にも似た不貞の人妻を配し、姦通という背徳の銅貨を、魂のエレガンスという美徳の金貨へと、みごとに錬金してみせる。“よろめき"という流行語を生み、大きな話題をよんだ作品。

『愛の渇き』に続いて三島由紀夫の小説がランクイン。こちらも『美徳のよろめき』というタイトルだけですごくイケナイ感じが漂っている。 何不自由なく暮らしていた倉越夫人だが、身を滅ぼす不倫にのめり込んでいく...

 

 

残酷な初恋の思い出 / 『はつ恋』 ツルゲーネフ

年上の令嬢ジナイーダに生れて初めての恋をした16歳のウラジミール――深い憂愁を漂わせて語られる、青春時代の甘美な恋の追憶。

はつ恋』というタイトルから初恋の甘酸っぱい思い出を描いた小説を彷彿とさせるが、実際は全くそんなことはなく、どちらかというとトラウマになる様な初恋を描いた小説だ。

恋愛は時に倫理や道徳から外れることがある。こんな初恋の結末を経験したら立ち直れないかもしれない。 

 

 

不倫の代償 / 『アンナ・カレーニナ』 トルストイ

モスクワ駅へ母を迎えに行った青年士官ヴロンスキーは、母と同じ車室に乗り合せていたアンナ・カレーニナの美貌に心を奪われる。アンナも又、俗物官僚の典型である夫カレーニンとの愛のない日々の倦怠から、ヴロンスキーの若々しい情熱に強く惹かれ、二人は激しい恋におちてゆく。

 「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある。」という印象的な一文で始まるのが、トルストイの代表作『アンナ・カレーニナ』だ。人妻である美しいアンナが、青年将校と恋に落ちる話だ。アンナ・カレーニナは夫との愛のない生活から逃避する様に、不倫にのめり込む。アンナ・カレーニナが支払った不倫の代償はいかほどだろう。

 

 

 不倫にトキメキを求める人妻 / 『ボヴァリー夫人』 ギュスターヴ・フローベール

娘時代に恋愛小説を読み耽った美しいエンマは、田舎医者シャルルとの退屈な新婚生活に倦んでいた。やがてエンマは夫の目を盗んで、色男のロドルフや公証人書記レオンとの情事にのめりこみ莫大な借金を残して服毒自殺を遂げる。

結婚したけれどなんか違う、もっと素敵な人と結婚するはずだったのと思ったことがある人なら、この『ボヴァリー夫人』はオススメだ。

主人公のボヴァリー夫人は結婚後の退屈な日々にうんざりしていた。夫はいい人だけど、トキメキがない。ボヴァリー夫人は妥協した結婚の果てに不倫にトキメキを見出す。そこからボヴァリー夫人の転落が始まるのだ。シンデレラや白雪姫の様に王子様が現れるなんてフィクションだけの話で、現実はそんなに甘くはない。ボヴァリー夫人という存在は時代に関係なく普遍的なものだなと考えさせられる。

 

 

 愛と憎しみは紙一重 / 『嵐が丘』 エミリー・ブロンデ

ヨークシャの荒野に立つ屋敷“嵐が丘”。その主人が連れ帰ったヒースクリフは、屋敷の娘キャサリンに恋をする。しかしキャサリンは隣家の息子と結婚、ヒースクリフは失意のなか失踪する。数年後、彼は莫大な財産を手に戻ってきた。自分を虐げた者への復讐の念に燃えて…。

「愛と憎しみは紙一重」とよく言うが、『嵐が丘』ほどこの言葉にぴったりな小説はない。『嵐が丘』はエミリー・ブロンテの唯一の長編小説で、「世界の三大悲劇」や「世界の十大小説のひとつ」などと評されている。愛と執念と復讐の物語は心を震わすだろう。