日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

叙情的で透明感ある文体が魅力!大崎善生のおすすめ小説5選

大崎善生は、叙情的で透明感のある文体が魅力の小説家だ。

 

代表作『パイロットフィッシュ』のように瑞々しい恋愛小説を数多く書いている。大崎善生と言えば『聖の青春』や『将棋の子』のような将棋に関するノンフィクションを思い浮かべる人が多いかも知れないが、小説の方も十分に魅力的だ。

 

大崎善生の小説の魅力は何と言っても叙情的でエモいところだ。感傷的な小説世界は、読む者の心を優しく包み込む。特に、大崎善生の恋愛小説は、心の奥深くまで染みるような印象がある。感傷的な気分に浸りたいときは無性に大崎善生の小説が読みたくなる。

 

その文章の叙情性や透明感からか、村上春樹から影響を受けた「村上春樹チルドレン」とも呼ばれている。大崎善生自身も村上春樹が好きなようで、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『納屋を焼く』『パン屋再襲撃』『中国行きのスロウ・ボート』などを繰り返し読んだとのこと。確かに、『パイロットフィッシュ』といい、叙情的な文体や喪失感について描いているところなど、村上春樹に通じるところが多い。

 

大崎善生といえば『聖の青春』のイメージが強いかも知れないが、ロマンチックな小説の方を紹介していきたい。

 

 

 

 

パイロットフィッシュ 

パイロットフィッシュ (角川文庫)

パイロットフィッシュ (角川文庫)

 

まずオススメしたいのが、『パイロットフィッシュ』。吉川英治文学新人賞を受賞した大崎善生の代表作だ。かつて恋人だった由希子から、19年ぶりに電話をもらった主人公の山崎。それがきっかけで、過去の由紀子との恋愛を思い出す。過去のかけがえのない恋愛について綴った恋愛小説だ。恋愛の喪失感や再生、生や死についてを、透明感溢れる文体で感傷的に描いている。
過去の恋愛なんて忘れていってしまうものだと思う人も多いかも知れないが、『パイロットフィッシュ』はそんなことはないと説く。印象的な文章を引用してみよう。、過去の記憶は今に生き続けているんだというテーマが書かれている。

 

人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない。なぜなら人間には記憶という能力があり、そして否が応にも記憶とともに現在を生きているからである

 

小説のタイトルになっているパイロットフィッシュとは、飼育するのが難しい魚のために水槽の中の生態系を整えておく魚のことだ。このパイロットフィッシュは、役目を終えたら捨てられるか、食べられてしまうかという過酷な運命が待ち受けている。 そんなパイロットフィッシュのように、過去のかけがえのない恋愛や思い出は、今という環境のためのパイロットフィッシュとして生き続けているのではないのかなと思えてくる。

感傷的な気分に浸りたいときや、過去の記憶について思いを馳せたいときにオススメしたい小説だ。

この『パイロットフィッシュ』は、『アジアンタムブルー』、『エンプティスター』と繋がっていく三部作だ。『パイロットフィッシュ』を読んだ人は是非とも続きを読んでみてほしい。

 

 

アジアンタムブルー 

アジアンタムブルー (角川文庫)

アジアンタムブルー (角川文庫)

 

アジアンタムブルー』は『パイロットフィッシュ』に続く恋愛小説だ。主人公・山崎と恋人・葉子とのかけがえのない日々。葉子の命は残り限られていた。南仏ニースでの葉子との最後の日々。次第に大きくなっていく心の痛みをアジアンタムの葉が枯れていくことになぞらえている。涙を誘い、読後には余韻が残る青春小説だ。この続編として『エンプティスター』がる。

 

 

九月の四分の一 

九月の四分の一 (新潮文庫)

九月の四分の一 (新潮文庫)

 

『九月の四分の一』は、深い余韻が残る四つの短編小説集だ。特にオススメは表題作の「九月の四分の一」で、小説を書き切ることが出来ない主人公の焦燥感や閉塞感そして失われた恋が描かれている。終わりの見えない暗闇の中で主人公が感じる焦燥感や不安、閉塞感が手に取るように伝わってくる。

挫折した主人公は、グランラプスに行くことを決意する。グランプスとは「世界一美しい場所」と評された場所だ。そこで奈緒と出会い一緒に過ごすうちに、互いにひかれあうようになる。旅先で出会った男女の淡い恋愛模様は、映画『ビフォア・サンライズ』を彷彿とさせる。数日間を共に過ごした後、奈緒は「九月四日で会いましょう」とメモを残して消えてしまう。

失われた恋は、崩されたビルのように二度と戻ってくることはない。ただ、残像が残っているだけである。

失われた恋は、失われたがゆえに美しい。時にその残像は深く心に刻まれる。果たして「九月四日で会いましょう」とは何なのか?

「九月の四分の一」を女性側の視点から描いた話があって、それが『ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶』という短編集に収録されている「キャトルセプタンブル」という短編だ。気になる人はこちらも読んでみて。

 

 

ロックンロール 

ロックンロール (角川文庫)

ロックンロール (角川文庫)

  • 作者:大崎 善生
  • 発売日: 2007/08/24
  • メディア: 文庫
 

大崎善生の小説ではロックバンドが題材になることが多い。『ロックンロール』ではツェッペリンの名曲をバックに、パリで少し複雑な恋模様が繰り広げられる。小説執筆のためパリに滞在していた作家・植村は、なかなか筆が進まないでいた。だが、そこに突然訪れた奇跡が彼を恋愛の複雑さに誘い込んでいく。『パイロットフィッシュ』や『アジアンタムブルー』は少し重いところがあるが、『ロックンロール 』はそれと違って軽いタッチの小説でさらっと読める。パリで繰り広げられる恋愛模様を楽しんでみては?

 

 

孤独か、それに等しいもの 

孤独か、それに等しいもの (角川文庫)

孤独か、それに等しいもの (角川文庫)

 

『孤独か、それに等しいもの』は、灰色の日々に光を差し込むような味わいの短編小説集だ。オススメは「八月の傾斜」だ。何かを失っていくという喪失感を上手く描写しているなと思う。