日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

村上春樹がチノ・デルドゥカ世界文学賞を受賞した件について

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村上春樹がチノ・デルドゥカ世界文学賞を受賞したと言うおめでたいニュースが入ってきた。

イタリアの文化人の名前を冠した「チノ・デルドゥカ世界文学賞」は「現代のヒューマニズムのメッセージ」を表現する人に授与される賞のようだ。賞金は20万ユーロ(日本円で約2700万円)だ。これは、ノーベル文学賞に次いで高額らしい。

 

 

チノ・デルドゥカ世界文学賞って何?

チノ・デルドゥカ世界文学賞とは、人道主義的貢献に対して与えられるフランスの文化賞だ。フランス語ではPrix mondial Cino Del Ducaと書き、チーノ・デル・ドゥーカ世界文学賞とも読むようだ。

ウィキペディアで歴代の受賞者を調べてみると、小説家だけではなく、物理学者や歴史学者など幅広く受賞しているようだ。

他にこの賞を受賞している有名な小説家だと、ミラン・クンデラやマリーズ・コンデ、マリオ・バルガス・リョサなどがいる。錚々たる面々だ。

 

 

世界中の文学賞を席巻している村上春樹

チノ・デルドゥカ世界文学賞を受賞した村上春樹だが、これまでにも国際的な文学賞を数多く受賞している。

2006年にはアイルランドの「フランク・オコナー国際短編賞」とチェコの「フランツ・カフカ賞」を受賞している。フランツ・カフカの名を冠したこの文学賞を受賞した作家はノーベル文学賞も受賞していることが多い。2004年のカフカ賞受賞者エルフリーデ・イェリネクと2005年のカフカ賞受賞者ハロルド・ピンターは、両名ともいずれも同年にノーベル文学賞を受賞したのである。このこともあってか、フランツカフカ賞を受賞した村上春樹に「ノーベル賞受賞するか」と注目が集まったのである。

村上春樹はその後もイスラエルの「エルサレム賞」やデンマークの「アンデルセン文学賞」、「カタルーニャ国際賞」など、海外の賞を複数受賞している。

特に、受賞することに政治的な批判があった「エルサレム賞」での受賞スピーチのエピソードは有名である。村上春樹は「壁と卵」という素晴らしいスピーチをエルサレム賞受賞式で披露しているので、ぜひ見てみてほしい。このスピーチは『村上春樹 雑文集』に収録されている。

 

 

村上春樹ノーベル文学賞候補か?祭りの燃料にされそうな予感

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またまた村上春樹が世界の文学賞を受賞したとあって、今年もまたノーベル賞で騒がれるんだろうなと思う。メディアもいい加減やめたらいいのにとも思う。

チノ・デルドゥカ世界文学賞だが、過去にはマリオ・バルガス・リョサや、パトリック・モディアノが受賞しており、2人は後にノーベル文学賞も受賞している。これもあるからまたノーベル賞への期待が高まるだろう。やれやれ。

また、村上春樹と同様にノーベル賞文学賞を受賞するんじゃないかとよく言われるマリーズ・コンデやミラン・クンデラも受賞してる。

まあ、文学賞をとろうがとらまいが作品自体の素晴らしさは変わらないと思っているので、ノーベル賞候補みたいな騒ぎは辞めてほしいなと思うのが本音である。

 

 

 

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偶然の大地を彷徨う / 「彼女の町と、彼女の緬羊」 村上 春樹

村上春樹の小説によく登場する動物といえば、やっぱりだと思う。

 

タイトルに羊と入る『羊をめぐる冒険』は村上春樹の代表作だ。『羊をめぐる冒険』に登場する羊男は有名なキャラクターで、『羊男のクリスマス』や『図書館奇譚』にも登場している。その他にも村上春樹の小説で羊が登場するものがある。

 

その小説が短編集『カンガルー日和』に収録されている「彼女の町と、彼女の緬羊」という小説だ。「彼女の町と、彼女の緬羊」の舞台は札幌だ。

札幌の街や羊といい、『羊をめぐる冒険』との繋がりを感じさせるし、『羊をめぐる冒険』の原型なのかなとも思う。

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「どれくらい好き?」と聞かれたときの最適解を村上春樹から学ぼう

いきなりだが、男子が女子に聞かれて困る質問ってなんだろうか?

 

いきなり来るのはステーキだけにしてくれという人がいるかもしれないが、考えてみて欲しい。ありすぎて、絞りきれないという人もいるかもしれない。

 

男子が女子に聞かれて困る質問の個人的第1位は、「私のことどれくらい好き?」だ(当社調べ)。異論は認めない。ちなみに第2位は「私と仕事どっちが大事なの」だ。

 

私のことどれくらい好き?」って聞かれたら答えに窮してしまうし、羽生結弦トリプルアクセル並みに頭を回転させても最適解が見つからない。いったいこの場合の最適解は何なのだろう。やれやれ。

最悪のケースは、大喜利に走ってしまいIPPONグランプリが突如として開催されてしまう。

 

ポケモンの人気投票でのコイル並に好き」

 

こんなことをして、スベってしまったら大惨事だ。IPPONグランプリを開催したところで女性にモテることはできない。

ではどうやったらこの難局を乗り越えることができるのだろうか。そのヒントを村上春樹から学びたい。

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ゴダールの名作『気狂いピエロ』の原作が文庫化していた件について

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最近本屋でびっくりしたのは、ゴダールの『気狂いピエロ』の原作小説が文庫化されていたことだ。『気狂いピエロ』に原作があったのかってところにまず驚いた。

あとは『気狂いピエロ』の原作は今までに邦訳されたことがないというのにも驚いた。

 

 

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なんでこのタイミングで文庫化するのかなって思っていたけど、調べてみたらゴダールの代表作『気狂いピエロ』と『勝手にしやがれ』がリバイバル上映されているみたいだ。こちらも知らなかった。

学生の頃は、こういう情報は徹底的にリサーチしていたのだけれど、社会人になってからは時間の余裕がないこともあってかなかなか追いついていない。早くFIREして、健康で文化的な生活を送らねば。

 

 

ゴダールを知らない人向けに説明すると、映画の新時代を切り開いたヌーヴェルヴァーグ(フランス語で新しい波という意味)を代表する作家がゴダールだ。映画好きの人なら聞いたことがあるだろう。『気狂いピエロ』というのはゴダール監督の代表作だ。

 

ゴダールの映画はとにかく難解で、とっつきにくい。詩的なセリフが散りばめられ、理解するのが大変なのである。だが、この難解さや洗練されたセンスに惹かれてか、大学生の頃にはゴダールにどっぷりハマっていた。僕が大学生の時は、Netflixが全盛期を迎える前で、TSUTAYAでよくゴダールのDVDを借りていた。

 

ゴダールトリュフォーといったヌーヴェルヴァーグの映画を語れたら、文化系として一人前という勝手なイメージがある。それもあってかヌーヴェルヴァーグの映画を漁るほどみたな。

 

ゴダールというかヌーヴェルヴァーグの映画のDVDってなかなかマニアックなので、普通のTSUTAYAには置いていないことが多かった。なので梅田にある大きなTSUTAYAにわざわざ行ってゴダールの映画を借りに行ったのはいい思い出だ。何回見ても、アンナ・カリーナのファッションは素敵だし、色褪せないよなって思う。

 

今ではすっかりTSUTAYAが廃れてしまった。ゴダールの映画はNetflixにはなく、U-NEXTぐらいじゃないと見れない。DVDを借りてゴダールの映画を浴びるようにみた日々に戻ってみたい気もする。

 

ちなみにだけれど、僕は『気狂いピエロ』のことをあまり理解できていない。セリフが詩的すぎて難しかったのだ。今回刊行された文庫を読んで、あまり分かっていなかったあらすじを理解して、リバイバル上映に再チャレンジしたいと思う。

 

 

 

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過去の輝きが喪失することの哀しさ / 「駄目になった王国」 村上 春樹

小中学校の同級生にとてもサッカーが上手い子がいた。運動神経がとても良くて、走りも早い。ドリブルをすれば誰も止めることができなかった。おまけに顔がカッコよくて、女の子にとてもモテた。まさしく神童だった。

高校からは名のしれた強豪校に推薦で入学していたはずだ。あの頃の僕は、この子が将来サッカー選手になるだろうと思っていた。

しかし、同窓会で再開してみると、その同級生はサッカー選手ではなくフリーターになっていた。

高校の時もスタメンには入れなかったようだ。その時に僕はなんとも言えない物哀しさを感じた。僕の期待や理想をその同級生に投影していた分、落胆がすごかった。なんだか現実を見せられたかのようだ。

皆さんにも同じような体験はないだろうか?

昔は輝いていた友人に再会したが、その友人は過去の輝きを失っていて、なんだか残念な気持ちになるような体験だ。

 

そのなんとも言えない気持ちをうまく言語化してくれたのが、村上春樹の「駄目になった王国」という短編だ。『カンガルー日和』という短編集に収録されている。

昔は輝いていた人がその輝きを失ってしまったことを「立派な王国が色あせていく」と例えているのだが、とてもしっくりくる。僕のサッカーが上手な同級生も、言い方が悪いかも知れないが「駄目になった王国」になってしまっていた。

 

「駄目になった王国」は、主人公の「僕」の友人・Qの話を「駄目になった王国」の挿話で挟んだ構成になっている。

主人公の大学時代の友人Qは欠点のない男だった。「僕」の570倍くらいハンサムで、性格も良かった。ファッションセンスも洗練されていて、スポーツもできた。勉強もそこそこできて、モテる。完璧な男性だ。

そんな友人Qと「僕」はプールサイドで再会する。Qは女の子を連れていた。Qはテレビ局のディレクターのような職についていて、女の方は歌手か女優のようだった。Qは女に番組の降板を伝える役目らしい。Qは無事役目をまっとうしたが、女にコーラを投げつけられてしまう。

輝いていた友人が情けないことになっているのを見るのはなんとも物悲しい。さらに悲しいのは、Qが「僕」に気づかなかったことだ。昔は友人だったけど、今はすっかり忘れてしまっているというのも物哀しい。

輝いていた友人と二人の関係性の2つが「駄目になった王国」になってしまったのだ。

 

「立派な王国が色あせていくのは」とその記事は語っていた。「二流の共和国が崩壊する時よりずっと物哀しい」

「立派な王国が色あせていくのは二流の共和国が崩壊する時よりずっと物哀しい」というフレーズは、このなんとも言えない気持ちを的確に表現しているなと思う。

 

自分の同級生の話と村上春樹の「駄目になった王国」を絡めて記事を書いてみた。

けれども、自分も同級生から見ると駄目な王国になってしまったように見えているのかもしれないなってふと思った。

 

栞の一行

「立派な王国が色あせていくのは」とその記事は語っていた。「二流の共和国が崩壊する時よりずっと物哀しい」

 

 

関連記事(『カンガルー日和』に収録されている他の短編について)

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隠れたミステリの傑作・『神のロジック 人間のロジック』が復刊された件について

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最近仕事が忙しくて本屋に行けていなかったのだが、久しぶりに行ってみると大発見があった。

 

それは、幻のどんでん返しの名作、西澤保彦の『神のロジック 次は誰の番ですか?』が復刊されていたのだ。昔の題名は『神のロジック 人間のマジック』だった。

このミステリは、すごく面白いのだけれど、知名度があまりなく、絶版になっていた本だ。

 

 

その本を読んだのは大学生の頃だ。ミステリ好きの友人に勧められて読んでみたのだが、あまりの衝撃に放心したものだ。

「天地がひっくり返るというのはこのことか」って思うほどインパクトがあった。

 

この本の衝撃を例えるなら、乾くるみの『イニシエーション・ラブ』や綾辻行人の『十角館の殺人』並のインパクトだ。このトリックは見破るのが大変だと思う。

 

僕が大学生の時点で絶版になっていたので、当時は手に入れるのに苦労した。いろんな古本屋を巡った気がする。結局、大阪にあるミステリ専門の古本屋で見つけることができた。

 

それと、「こんなに面白いのに絶版はおかしい」ってすごく思った。

 

僕が本紹介のブログを始めた理由の1つが、知名度がないけど名作な小説を世に広めたいというものだ。この本もそれに該当する。もっと世に知れ渡ってほしい小説だ。

 

『神のロジック』がどんな小説なのかというと、謎の学校を舞台にしたクローズドサークルもののミステリーだ。しかし、ただのクローズドサークルではない。

 

人里離れた「学校」に、生徒が世界中から集められる。学校では、推理ゲームなど風変りな課題が生徒に課されていた。
やがて、「学校」で次々と殺人事件が起きる。なぜ殺人が起こったのか、生徒はなんで「学校」に集められたのか。

最後に衝撃の事実が明かされるのだが、まさに世界が揺らぐような体験を味わえる。

 

本当にすべてがひっくり返されるのだ。こんな読書体験はなかなかない。

 

著者は『七回死んだ男』で有名な西澤保彦だ。『七回死んだ男』もどんでん返しの名作として知られているが、この『神のロジック』はそれを超えるようなインパクトを読者に与えてくれる。

 

また、このミステリなんだけど、ある有名なミステリ小説とトリックが似ている。しかも、出版された時期がほとんど同じだったのだ。すごいシンクロニシティだなって思う。どのミステリかはネタバレになるので書かないけど、調べたらすぐに分かるはず。

 

 

物語は暗闇を照らす光 / 「夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について」 村上 春樹

夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について」は『夜のくもざる』に収録された村上春樹超短編小説だ。いや、ショートショートと言った方がいいのかもしれない。

『夜のくもざる』は、村上春樹イラストレーターの安西水丸がコラボレーションした本だ。村上春樹ショートショート安西水丸のイラストが絶妙に絡み合っている。話は逸れるけど、村上春樹と他の人がコラボした本だと、安西水丸との『夜のくもざる』と糸井重里との『夢で会いましょう』が特にオススメだ。

今回なぜ「夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について」取り上げたかというと、このショートショートには村上春樹の物語観が説明されていると思ったからだ。この物語観は『1Q84』といった長編小説にも通じる。

この記事では、村上春樹の他作品(『1Q84』)やインタビューなども参考にして解釈したいと思う。

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