日々の栞

本、映画、ファッションについて気ままに書く。理系の元書店員。

ウルトラマンのバンザイ / 「バンザイコーナー」 柳 幸典

 

この前、直島にアート観光に行ってきた。

 

草間彌生の水玉かぼちゃや大竹伸朗が制作に関わった銭湯、地中美術館、ANDOミュージアムなど島中にアート作品があふれていて、まさにアートの聖地。

草間彌生杉本博司といった有名な作家はもちろんのこと、知らなかったアーティストにも出会えて鑑賞の幅が広がる旅行だった。

 

今回の旅行で出会った興味深い作品「バンザイ・コーナー」について紹介したいと思う。

「バンザイ・コーナー」は、直島にある美術館の一つ、ベネッセハウスミュージアムで展示されている。柳幸典というアーティストの作品だ。

 

PB190001

ベネッセハウスミュージアムに展示されている作品の大半は撮影可能だったけれど、「バンザイ・コーナー」は撮影することができなかったので、ネットに落ちていた写真を貼り付けてみた。全体像が見えないのでわかりずらいかな。他のサイトにわかりやすい写真があるので、きになる人はGoogle先生に聞いてみてください。

 

「バンザイ・コーナー」は、バンザイのポーズをとったウルトラマンウルトラマンセブンののフィギュアが1/4円状に配置されている作品だ。ウルトラマンのフィギュア自体は展示空間の角に配置されているが、両側の壁に鏡を配置することのよってあたかもウルトラマンのフィギュアが円状に配置されているように見える作品だ。

 

良くみてみると床が白色で、ウルルトラマンとウルトラマンセブンのフィギュアが織りなす円が赤色だ。そう、日本の国旗(日章旗)になっているのだ。

 

この作品は何を意味しているのだろう。作品と対峙する中で、考察を深めてみた。

 

ウルトラマン自身は虚像の円の中心部を見つめている。そしてバンザイをしている。

 

日本においてバンザイと結びつくのは天皇だろう。「天皇陛下万歳」というと戦時中のようなイメージになるが。ウルトラマンが中心部に見ているのは天皇だろう。日本の中心でもある天皇。その天皇という存在を中心にして日本社会の共同性が成立しているという風に読み解けた。

 

そしてこの作品は天皇という中心点をもとに日本という虚像の共同体の連帯を守っているとも読み解ける。そして、ウルトラマンが見つめる先は、虚像だ。

 

この作品は鑑賞しながら、何を意味するのか読み解くが楽しかった作品だ。

シンプルにかっこいいし、ウルトラマンという大衆文化を用いたポップアートのようにも思える。

 

直島のベネッセハウスミュージアムに行った際には是非とも鑑賞してみてほしい。

 

 

 

日本の国旗になっている

 

全体

 

PB190001

恋愛あるあるに関するあれこれ / 『もしもし、運命の人ですか。』 穂村 弘

穂村弘は僕にとって「名前は聞いたことあるけど一冊も読んだことがない」作家だった。なんとなく読んでみたいなというのは前から思っていたので、本屋でたまたま見かけた『もしもし、運命の人ですか。』を読んでみた。結論から言うと、すこぶる面白かった。なんで今まで読んでいなかったのだろう。本屋での出会いは運命的なものではなかろうかと、偶然を拡大解釈してみる。

『もしもし、運命の人ですか。』は、タイトルからなんとなく分かるかもしれないが、恋愛についてのエッセイだ。一度は経験したことがあるような恋愛「あるある」ネタを穂村弘が妄想力豊かに考察、解き明かしている。とにかく穂村弘の妄想が爆発してる。

メールに忍ばせた好意を確かめる言葉、些細なことで好感度が上がったりすること、送ることの重圧などなど。日常に恋愛の些細なエピソードを読んでいると、思わずあるあると頭を振って共感してしまう。なんとなく考えてはいるけどうまく言語化できていない恋愛についてのことをユーモアたっぷりに言語化してくれている。すっかり穂村弘の魅力に取り憑かれたようだ。各エッセイで感じたことを徒然なるままに書き綴っていこうと思う。

続きを読む

文体がウィットに富んでいて面白い小説家まとめ

どんでん返し系の小説の帯に「2度読みたくなる」と書かれているのをよく見るけれど、結局のところ何回も読みたくなる小説って文体に魅力がある小説じゃないかなと思う。やっぱり、文章自体に魅力がないと何回も読みたいと思うことがない。やっぱり、ユーモアに溢れる文体の小説って読むのが止まらなくなっちゃう。

ということで、文章がウィットに富んでいて何回も読みたくなるような小説家をまとめてみた。

 

 

森見 登美彦

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

([も]3-1)恋文の技術 (ポプラ文庫)

 

文体が面白い作家として真っ先に思い浮かんだのが森見登美彦。古風な言い回しで阿呆なことを書いているのがすこぶる面白い。ハマるとクセになって読むのをやめられない。文学的中毒である。また、古風な言い回しの組み合わせが面白くて、独特の言葉遣いで無益なことを書いてあるのが笑いを誘う。

腹を抱えて笑うという点で森見登美彦のオススメは『恋文の技術』『美女と竹林』だ。特に『恋文の技術』は腹筋崩壊しすぎて電車の中で読めなかった。『恋文の技術』は手紙のやり取りで構成された書簡小説なのだが、その手紙の内容がおかしすぎて笑いが止まらなかった。今まで読んできた本の中で一番笑った気がする。『美女と竹林』は竹を刈ることについてのエッセイなのだが、後半はもはや竹すら刈っておらず妄想で構成されているという異色の作品である。そもそも竹林の話だけで一冊の本にするまで引っ張るのがすごい。

ぜひ存分に笑える家で読んでください。もし電車で読んで笑いが止まらなくなって、周りの人から白い目で見られても私は一切責任を負いません。

 

 

町田 康

くっすん大黒 (文春文庫)

くっすん大黒 (文春文庫)

  • 作者:町田 康
  • 発売日: 2002/05/10
  • メディア: 文庫
 

町田康も文章が面白い作家の代表格だろう。関西弁と話の脈略の無さが面白いのだ。『くっすん大黒』を読んだ時は、衝撃だった。『湖畔の愛』という小説も文学版よしもと新喜劇みたいな感じですごく面白い。

 

 

村上 春樹

新装版 パン屋再襲撃 (文春文庫)

新装版 パン屋再襲撃 (文春文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2011/03/10
  • メディア: 文庫
 

村上春樹は、ウィットに富んだ言い回しや比喩が面白い。村上春樹はとにかく比喩がうまくて、的を得ていてかつなかなか思い浮かばない比喩を小説中に散りばめている。村上春樹の中でもウイットが利いていると思うのは『パン屋再襲撃』に収録されている「ファミリー・アフェアー」という小説だ。

 

 

伊坂 幸太郎

陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)
 

 伊坂幸太郎といえばウィットに富んだ会話だ。ウィットに富んだセリフが伏線にもなっていて、伊坂幸太郎おそるべしとしか言いようがない。「陽気なギャング」シリーズは伊坂作品の中でもユーモアが多くてオススメだ。

 

 

佐藤 正午

取り扱い注意 (角川文庫)

取り扱い注意 (角川文庫)

 

 佐藤正午は登場人物たちのウィットに富んだ会話が面白い。イメージとしては、酒場で繰り広げられるとりとめない話といったところか。軽口やウィットの効いた会話の応酬は読むのがクセになってしまう!佐藤正午のウィットが特に楽しめるのは『取り扱い注意』と『女について』といった短編集だ。オススメだ。

 

 

又吉 直樹

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

 

芸人でもあるピース又吉の小説も面白い。又吉直樹の小説の面白いところは、ボソッと破壊力のあるフレーズや面白エピソードが挿入されているところだ。時たま斜め上すぎて意味不明なエピソードがあるが、それがまた笑いを誘う。特に『火花』は漫才師のことを描いていることもあって、ネタが散りばめられている。『火花』は、冒頭の太鼓の音のシーンが出囃子に見立てられるように、構成的にも漫才の形式を取り込んだ小説だ。

 

  

円城 塔

これはペンです(新潮文庫)

これはペンです(新潮文庫)

 

円城塔は、内容が難しいけれど、文章はユーモアがあって面白い。円城塔は、理系の身内ネタのような面白さがある。『後藤さんのこと』の理系ジョークは、理系だからかめっちゃツボにハマった。円城塔の中でもウィットが利いていると思うのは『後藤さんのこと』と『これはペンです』、『オブ・ザ・ベースボール』だ。

 

 

木下 古栗

金を払うから素手で殴らせてくれないか?

金を払うから素手で殴らせてくれないか?

 

木下古栗は、その溢れんばかりの文学的才能を下ネタに全振りしているという稀有な作家。初めて読んだのは群像に載っていた小説かな⁈まさか、文芸誌よんで大爆笑するとは思って無かったよ。アメトークの読書芸人でも取り上げられたこともあり、木下古栗を信仰するフルクリストが増加中とかなんとか。Amazonの作者紹介の欄で、「饒舌な文体で澱みなく語られるその内容のほとんどに意味はない」と書かれていたのは笑った。まさにその通りなのだけれど。最近では『サピエンス前戯』という、話題のベストセラーを下ネタ方向にもじった小説集を刊行している。

 

 

ウディ・アレン監督の笑えるユーモア映画まとめ

ユーモアが魅力のウディ・アレン作品


『映画と恋とウディ・アレン』予告編

 疲れているから重い映画は見たくないけれど、軽いコメディは見たい。そんなときは間違いなくウディ・アレンの映画をみる。ウディ・アレンの映画はストーリーを楽しむというよりも、登場人物たちの軽妙な掛け合いを楽しみたいから観ているような気がする。ウイットに富んだウディ・アレン節を味わいたいときがしばしば訪れるのだ。寝る前に、肩の力を抜いて笑える映画が観たくなる時がある。そんな映画を観たくなった時は大体ウディ・アレンの映画を観ているような気がする。

笑って楽しめるウディ・アレンの映画を紹介しようと思う。

 

 

 

誘惑のアフロディーテ

誘惑のアフロディーテ (字幕版)
 

 『誘惑のアフロディーテ』はギリシャ悲劇を下敷きに、ある男の運命の悲劇をコミカルに描いている。主人公のレニーはマックスという養子をとる。マックスが順調に成長していく中で、レニーは、マックスの母親がどんな人であるか気になり始める。レニーは母親のリンダを探し当てるが、リンダは娼婦でありポルノ女優だったのである。ギリシャ悲劇の『オイディプス王』と同様に、知りたいという好奇心が悲劇を引き起こしていく。劇中にコロス(合唱団)が出てくるように、『誘惑のアフロディーテ』がギリシャ悲劇のパロディになっている。この映画はレニーとリンダの悲劇的で喜劇的な運命を、『オイディプス王』といったギリシャ悲劇になぞらえて描いている。ただ、あらすじがあらすじなので、ウディ・アレン作品の中でもハイレベルな下ネタが繰り広げられている。下ネタが苦手な人はご注意を。

 

 

 おいしい生活

おいしい生活 (字幕版)

おいしい生活 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

 レイとその妻のフレンチーは、銀行の隣の空家の地下から穴を掘って銀行の金庫を破る計画を立てる。 銀行強盗が題材のサスペンスになるのかなと思って見ていたら、ウディ・アレンらしいおかしい展開になっていく。空家で人の目を誤魔化すために開いたクッキー屋が予想外に繁盛してしまって、銀行強盗をしなくてもお金持ちになってしまったのだ!お金持ちになったものの、育ちがいい訳ではないので教養がない。そのコンプレックスをネタに昇華しているのがおもしろい。

 

 

 マンハッタン殺人ミステリー

マンハッタン殺人ミステリー (字幕版)

マンハッタン殺人ミステリー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

『マンハッタン殺人ミステリー』は肩の力を抜いて観れるコメディタッチのミステリーだ。登場人物たちの掛け合いはジョークがきいていて面白いし、コメディタッチといってもミステリーの部分はしっかりとしていて、ミステリーとしてもしっかり楽しめる。ラリー(ウディ・アレン)と妻のキャロル(ダイアン・キートン)はひょんなことから同じマンションに住むハウス夫妻の家に招かれる。しかし、次の日ハウス夫人が心臓発作で死んだと知らされる。夫のハウス氏が妻を殺したと疑うキャロルは、何とか証拠を見つけようと、友人のテッドの協力を得て、探偵のまねごとを始める。ウディ節満載のコメディタッチのミステリーでもあるし、倦怠期の夫婦が冒険に繰り出すことで夫婦の危機を乗り越える話でもある。休日の夜に肩の力を抜いて、のんびりと楽しめる映画であることは間違いない。

 

 

タロットカード殺人事件

タロットカード殺人事件 [DVD]

タロットカード殺人事件 [DVD]

 

タロットカード殺人事件』は、脱力して楽しめるコメディタッチのサスペンスだ。タロットカードが関係する事件の謎解きを楽しむというよりかは、スカーレット・ヨハンソン演じる女子大生とウディ・アレン演じるマジシャンとのコミカルな会話を楽しむ映画だ。『マッチポイント』でも予想を超えるエンディングを持ってきたけど、『タロットカード殺人事件』でも普通とは違う一ひねり効いたエンディングが待っている。ウディ・アレンらしいブラックユーモアが効いたシニカルなエンディングは予想外すぎて、笑ってしまう。

 

 

 

 

 

村上春樹とユニクロがコラボ!村上春樹UTを買ってみたのでレビューする

村上春樹ユニクロがコラボして、村上春樹の小説を題材にしたUTが発売された。これには結構驚いた。まさかユニクロ村上春樹がコラボするなんて。やれやれ。

 

UTからは『1Q84』や『ダンスダンスダンス』、『ノルウェイの森』、『スプートニクの恋人』、『1973年のピンボール』といった村上春樹を代表する長編小説をモチーフとしたTシャツが発売された。『1Q84』では、作中で印象的な二つの月のプリントがされている。『ノルウェイの森』は、印象的な本のカバーをそのままTシャツに落とし込んだかのようなデザインだ。

 

f:id:plutocharon:20210331013716j:image

僕は『1Q84』と『ノルウェイの森』の二つのTシャツを購入した。今回のTシャツのデザインの中では『1Q84』が一番いいと思っている。次点で『ノルウェイの森』かな。

 

f:id:plutocharon:20210331013711j:image

またTシャツだけでなく、ピンズも発売された。またこれが可愛いのである。ピンズになったのは、『羊をめぐる冒険』から登場し村上春樹の代表的なキャラクターとなった羊男だ。あとは『ダンス・ダンス・ダンス』のカバー絵のピンズだ。どのイラストも、村上春樹とは縁がある佐々木マキのイラストだ。これは全種類買ってしまった。

 

この村上春樹Tシャツを着ながら村上春樹を読めば読書が捗るかもしれない。やれやれ。

 

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: ペーパーバック
 

 

www.uniqlo.com

『花束みたいな恋をした』 麦と絹のお気に入りの作家まとめ


『花束みたいな恋をした』本編映像【2人だけの新生活編】

 麦と絹の「花束みたいな恋」の始まりと終わりを描いた『花束みたいな恋をした』。カルチャーをこよなく愛する麦と絹が互いの共通点に惹かれ合い、恋に発展していく様は文化系の人なら一度は憧れたことがあるシチュエーションだろう。

二人の恋を語る上で欠かせないのが、時代を彩ったカルチャーだ。きのこ帝国の「クロノスシタス」や、今村夏子の「ピクニック」など二人の感性を象徴するカルチャーやサブカル要素が散りばめられている。

『花束みたいな恋をした』を彩った作家についてまとめてみた。

 

 

 

 

今村 夏子

こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

 

『花束みたいな恋をした』で猛プッシュされていたのが今村夏子だ。今村夏子は『こちらあみ子』で太宰治賞を受賞し、デビューしている。ちょうど、麦と絹が出会ったころは活動休止状態だった。だが、2016年から活動を再開し、「あひる」や『星の子』など話題作をどんどん発表していく。日常に潜む歪みを描くのが非常に上手い作家だ。この今村夏子の復活と麦と絹の付き合っていた時期が重なったこともあってか、作中では今村夏子が二人の距離感や感性を示す重要な物差しとなっている。

特に「ピクニック」という小説は麦と絹の感性を表す重要な小説だ。映画の中では「その人は、きっと今村夏子さんのピクニック読んでも何も感じない人だ」というフレーズがリフレインされる。2回目にこのセリフが話されるときには、麦の感性が変わってしまったことを切実に示していた。

 

 

滝口 悠生

茄子の輝き

茄子の輝き

 

 滝口悠生の小説も麦と絹のすれ違いを暗示するアイテムとして登場している。映画の中では『茄子の輝き』という小説が登場する。この本を読み終えた絹は麦に勧めるのだが、麦は仕事に追われて読まずにいた。麦が本を車に投げるシーンは悲しかったな。

滝口悠生は、人称や視点の実験的表現に特徴がある。芥川賞を受賞した『死んでいない者』がおすすめ。

 

 

 穂村 弘

世界音痴 (小学館文庫)

世界音痴 (小学館文庫)

 

麦と絹が初めて出会った時に、麦が読んでいたのが穂村弘。短歌やエッセイ、翻訳など執筆ジャンルは多岐に渡る。

 

 

長嶋 有

猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)

 

麦と絹が初めて出会った時に、絹が読んでいたのが長嶋有。少し世間からずれたような人物の描写が上手い。

 

 

いしい しんじ

ある一日(新潮文庫)

ある一日(新潮文庫)

 

童話に近いテイストの小説が多いいしいしんじマジックリアリズムのような『ある一日』がオススメ。

 

 

堀江 敏幸

雪沼とその周辺 (新潮文庫)

雪沼とその周辺 (新潮文庫)

 

堀江敏幸は、静かで優しい小説を書く作家だ。静謐な小説世界と、研ぎ澄まされた文章は心にしみる。エッセイか小説か分からないような『おぱらばん』や味わい深い短編集の『雪沼とその周辺』がオススメ。

 

 

柴崎 友香

わたしがいなかった街で (新潮文庫)

わたしがいなかった街で (新潮文庫)

  • 作者:柴崎 友香
  • 発売日: 2014/11/28
  • メディア: 文庫
 

場所に積み重なった時間や記憶を書くことに定評がある柴崎友香。最近では、『春の庭』や『わたしがいなかった街で』など、小説の人称や視点の表現に一石を投じるような小説を書いている。確かに、滝口悠生堀江敏幸が好きだったら柴崎友香も好きそうだなと思う。あと保坂和志とかも好きそうだな。そういえば、麦の本棚に保坂和志の本があったっけ。

 

 

小山田 浩子

穴 (新潮文庫)

穴 (新潮文庫)

 

日常の中に不条理な出来事が紛れ込んでくるのが小山田浩子の小説だ。この不条理感はカフカに通じるものがある。おすすめは『工場』と、芥川賞を受賞した『穴』。

 

 

多和田 葉子

日本の女性作家を代表する多和田葉子。近年ではノーベル文学賞の有力候補として名前が挙がっている。多和田葉子の特徴といえば、作品の前衛性だ。言語学に関連する内容や、前衛的な文学表現を行なった小説が多い。『かかとをなくして』が個人的に1番好き。

 

 

舞城 王太郎

ディスコ探偵水曜日(上)(新潮文庫)
 

舞城王太郎は破壊力がとにかくすごい作家だ。小説内構造をいじるメタフィクション小説に定評があり、『九十九十九』や『ディスコ探偵水曜日』などインパクトの大きい問題作を多く執筆している。 

 

 

 

以上、『花束みたいな恋をした』を彩った小説家でした。

あひるが死んでも変わりはいるもの / 「あひる」 今村 夏子 

なにげない日常を描いた小説のようだが、作中には不協和音が常に流れている。これは、「あひる」を初めて読んだ時の印象だ。今村夏子の「あひる」という小説は平易な文章で書かれていて、一見すると童話のようだ。だけど作中に不穏な雰囲気が常に漂っている。全体的に歪んでいるのだ。この歪みというのは読者が感じるもので、作中の登場人物は「歪み」をおかしいものと捉えていないところがある。その点で、「あひる」の不穏さが増しているように思う。

 「あひる」にはおかしな所がいくつも登場する。三回も交換されたあひると、あひるが交換された事実を黙殺する母と父。働いていてもおかしくない年齢なのに資格の勉強を続けている「わたし」。そして「わたし」は存在しないものとして扱われているようなフシがある。暴力的な弟。真夜中に突然現れた子ども。このように「あひる」には変なところがたくさんあるのだけれど、怖いことに登場人物たちはそれを普通のことのように捉えているのだ。

この小説は平易な文章で書かれているけれど、本質には恐ろしいことが書かれているように思う。本当は何が書かれているかについて考察しようと思う。

 

 

交換可能なあひる「のりたま」

「あひる」は、「わたし」の家に「のりたま」というあひるがやってくるところから始まる。「わたし」と母と父の3人暮らしなこともあり、静かな生活をおくる一家だったが「のりたま」によってそんな生活は一変する。あひるの「のりたま」を飼い始めてから、子どもたちが遊びにくるようになり家の中も賑やかになっていった。

「わたし」の家に賑やかさをもたらした「のりたま」だったが、病気になってしまい病院に運ばれる。「のりたま」がいなくなったと同時に、あひる目当てで来ていた子どもたちは姿を見せなくなってしまう。元の生活に戻ろうとしていた時、「のりたま」が帰ってきた。しかし、帰ってきた「のりたま」は以前よりも小さくなっていたのだ。

「あひる」では、「のりたま」が交換可能な存在として描かれている。あひるが死んでも変わりはいるもの(これはエヴァのオマージュ)。あひるが死んでも「のりたま」という名前は受け継がれ、何事もなかったように日常が進行している。

 

自分は交換可能な存在だと考えることは虚しいことだ。だが、会社や組織では一人一人が歯車のようで、欠員が出れば代わりの人材が補充されシステムは継続していく。交換可能であることに対する恐ろしさや不安を表現しているのではないかと思う。

最後に、あひるの小屋は取り壊され、代わりにわたしの弟の赤ちゃんのためのブランコが置かれる。それは弟の赤ちゃんも「のりたま」のように交換可能な存在であるということを暗示しているように思えて怖くなった。

 

 

あひる (角川文庫)

あひる (角川文庫)