日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

『秒速5センチメートル』が好きな人におすすめの恋愛小説


www.youtube.com

新海誠の最高傑作は何かという問いがあったら、僕は間違いなく『秒速5センチメートル』をあげる。

『秒速5センチメートル』は、美しすぎる初恋の呪いに囚われてしまった男性を、圧倒的な映像美で描いた名作アニメーション映画だ。新海誠監督の代表作の一つだ。

過去の感傷に陶酔している姿を、叙情的な映像と内省的なモノローグで極限まで美しく描いた作品であり、エモーショナルな内容は多くの人を惹きつけている。特に、過去の恋愛に名前をつけて保存する系男子が多いと思うが。

この記事では、『秒速5センチメートル』が好きな人におすすめしたい恋愛小説を紹介したい。どの作品も忘れられない恋愛を描いた作品だ。

 

 

 

新海誠作品でのおすすめ

まずは、新海誠が自らノベライズした小説を紹介したい。新海誠監督は、自作のノベライズを自ら手掛けてい。

雑誌のインタビューで村上春樹に影響を受けたと語っていることもあり、新海誠の叙情的な文体は村上春樹を彷彿とさせる。

 

秒速5センチメートル

まずは、『秒速5センチメートル』のノベライズだ。

この記事を読んでいる方ならご存知だと思うが、タイトルが意味するのは桜の花びらが落ちるスピードのことである。『秒速5センチメートル』では、時間とともに移ろいゆく貴樹と明里の二人の心の距離を叙情的に描いている。貴樹は失われた過去の恋愛の呪縛から逃れることが出来ず、自己愛ゆえに周りの人を傷つけてしまう。この『秒速5センチメートル』では、過去の恋愛を引きずり、感傷に浸る自分に陶酔している姿を、叙情的な映像と村上春樹的なモノローグで極限まで美しく描いている。

後述するが、小説版『秒速5センチメートル』いや、アニメの『秒速5センチメートル』が村上春樹のとある作品に影響を受けているのだ。小説の文体にも村上春樹の影響が感じられる。

この小説版では、映画では詳しく描かれなかった最終章が深く掘り下げて描かれている。映画の内容を補完する内容になっているので、『秒速5センチメートル』を見た人は是非とも小説版も読んでみてほしい。

 

 

言の葉の庭

『秒速5センチメートル』に引き続いて、次に紹介したいのは『言の葉の庭』のノベライズだ。新海誠作品を大まかに分けると、セカイ系要素が強い『君の名は。』や『天気の子』などと、文学的な要素が強い『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』に分けれるのではないかと思っている。

新海作品の中でも『秒速5センチメートル』系統が好きな人なら、『言の葉の庭』も映画を見て小説を読んでみてほしい。

 

 

 

他の作家の作品

次は他の小説家の作品を紹介する。どの作品も忘れられない恋愛を描いた名作恋愛小説だ。

新海誠が公言していることだが、新海誠は村上春樹の影響を大きく受けている。特に、『秒速5センチメートル』は、とある村上春樹作品から影響を受けているので、それも紹介したい。

 

国境の南、太陽の西 / 村上 春樹

今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう―たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて―。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。

『秒速5センチメートル』が強く影響を受けたと思われるのが、村上春樹の『国境の南、太陽の西』という小説だ。忘れられない初恋の人と再会し、不倫という道を踏み外した恋に走ってしまう男女を描いた作品である。村上春樹の中では知名度が低い作品かもしれないが、隠れた名作でもある。

実際に読んでもらえばわかってもらえるのだが、新海誠の『秒速5センチメートル』は村上春樹の『国境の南、太陽の西』からすごい影響受けてるように感じる。オマージュと言ってしまってもいいかもしれない。

文章の雰囲気も近いし、似たような表現もある。両方作品とも、初恋の呪いに囚われてしまい苦しむ男子の話だ。主人公が一人っ子であるという設定も同じなのである。

どちらとも初恋の呪いに苦しむ男子の話なのだけれども、結末は違う。その違いを是非読んで確かめてほしい。

村上春樹の『国境の南、太陽の西』は、小説版『秒速5センチメートル』の次点におすすめしたい。

 

 

グレート・ギャツビー / スコット・フィッツジェラルド

失ってしまった恋に囚われてしまう男子は世界共通だ。

次に紹介するのは、アメリカ文学を代表する名作『グレート・ギャツビー』だ。『グレート・ギャツビー』はスコット・フィッツジェラルドの代表作で、アメリカ文学あるいは20世紀文学を代表する一冊と言われている。特に、村上春樹が翻訳したものがおすすめだ。

『グレート・ギャツビー』は簡単に要約すると、失われた恋を取り戻そうとした男の話だ。最後の文章が本当に美しいので、是非とも読んでほしい。

 

 

パイロット・フィッシュ / 大崎 善生

かつての恋人から19年ぶりにかかってきた一本の電話。アダルト雑誌の編集長を務める山崎がこれまでに出会い、印象的な言葉を残して去っていった人々を追想しながら、優しさの限りない力を描いた青春小説。

『パイロットフィッシュ』は感傷的で透明感溢れる文体で描かれた大崎善生の代表作だ。

現在と過去を交錯させながら、人生の切なさや恋愛の喪失感を透明感あふれる文体で描いている。

パイロットフィッシュは、かつての恋人や友人との思い出を辿っていく小説でもあり、誰もが持っているであろう忘れられない恋愛を描いた恋愛小説でもある。

タイトルにもなっているパイロットフィッシュとは、熱帯魚を飼う前にバクテリアを増やし適した環境にするために飼う魚のことだ。パイロットフィッシュは、環境を整えるという役割が終われば捨てられてしまうという悲しい運命を背負っている。このタイトルは内容を暗示していて、パイロットフィッシュとなる役割を担った人物が登場する。

印象的なタイトルという点でも『秒速5センチメートル』と近いかもしれない。

この小説にはパイロットフィッシュ以外にも印象的なものが多く登場する。例を挙げると、世界一の透明度を誇るバイカル湖アジアンタムブルーなどだ。印象的な事象と村上春樹のような叙情的な文体が作中のメロウな雰囲気を醸し出している。

作中に印象的な一節がある。「人は、一度巡り合った人と二度と別れることはできない

巡り合った人は自分の心の中に居場所を見つけて存在し続ける。だから忘れられない恋があるのは当然なんだと思わされる小説だ。

 

 

女について / 佐藤 正午

彼女はぼくと同じ18歳だった。初めての女性だった。好きかと尋ねられて頷いた―家族以外の女性についた初めての嘘。嘘を重ねるために他の女性を拾い、途切れ途切れに続いた彼女との関係も、ぼくが街を出ることで終止符が打たれた―。そして長い時を経て、ぼくは再び彼女と出逢った。(「糸切歯」)青春のやるせなさ、ほろ苦さを瑞々しい感性で描く秀作集。

知名度は低いかもしれないが小説の完成度が非常に高いのが佐藤正午だ。実際、かなりの小説好きなら佐藤正午の作品の素晴らしさを知っている人が多いが、ライトな小説読者層には知名度がないように思う。

『女について』は、タイトル通り「女について」の短編集だ。佐藤正午の作品の魅力の一つである会話の洒脱さが満ち溢れている。また、男女の機敏を描くのが非常に上手く、過去の忘れられない恋を描くのが上手い。

この短編集の中でも印象に残っているのは「糸切歯」と「イヤリング」だ。どちらも過去の淡い恋愛を引きずる感傷的な恋愛小説だ。男は恋愛を名前を付けて保存するというけれど、そんな未練たらしい男が主人公になっている。持っていて恥ずかしい未練を小説に変えてしまうのが佐藤正午だ。

佐藤正午の別の小説にはなるが、初恋について印象的な文章がある。

初恋とは、少年が少年時代に経験する恋ではなくて、大人が少年だった頃に経験した恋のことである。

大人が少年だった頃に経験した恋を描くのが上手いのが佐藤正午なのだ。

 

 

四月になれば彼女は / 川村 元気 

4月、精神科医の藤代のもとに、初めての恋人・ハルから手紙が届いた。“天空の鏡”ウユニ塩湖からの手紙には、瑞々しい恋の記憶が書かれていた。だが藤代は1年後に結婚を決めていた。愛しているのかわからない恋人・弥生と。失った恋に翻弄される12か月がはじまる

若い時に経験した恋は特別で印象に残っていることが多いと思う。恋愛に対する抗体が出来上がっていない状態だからか、恋愛の熱に心が激しくほだされてしまう。

ただ、恋愛に対する抗体が出来てしまうと、昔のように激しい恋はできない。恋愛に対する抗体が出来ていない時の恋が忘れられない恋愛になるのではないかと思う。その恋と比較してしまうと、物足りなさを感じてしまうのではないか。『秒速5センチメートル』の遠野貴樹のように。

前置きが長くなったが、川村元気の『四月になれば彼女は』は、失った過去の恋と冷え切った現在の恋との間で葛藤する主人公を描いた恋愛小説だ。なぜ、恋も愛も過ぎ去ってしまうのか。「人を愛するということはどういうことなのか」といった愛に関する哲学について描かれている。

 

 

ラヴレター / 岩井 俊二

雪山で死んだフィアンセ・樹の三回忌に博子は、彼が中学時代に住んでいた小樽に手紙を出す。天国の彼から? 今は国道になっているはずのその住所から返事がきたことから、奇妙な文通がはじまった。

日本を代表する映画監督・岩井俊二の名作『ラヴレター』を本人が小説化した作品だ。

奇妙な文通から始まる、心揺さぶる恋物語である。

 

 

ボクたちはみんな大人になれなかった / 燃え殻

それは人生でたった一人、ボクが自分より好きになったひとの名前だ。気が付けば親指は友達リクエストを送信していて、90年代の渋谷でふたりぼっち、世界の終わりへのカウントダウンを聴いた日々が甦る。彼女だけがボクのことを認めてくれた。本当に大好きだった。過去と現在をSNSがつなぐ、切なさ新時代の大人泣きラブ・ストーリー。

忘れられない恋を描いた恋愛小説で最近のものが『ボクたちはみんな大人になれなかった』だ。SNSの時代のラブストーリーとあって、元カノにFacebookで友達申請したところから小説は始まる。とにかくエモーショナルな小説だ。 

エモさを引き立てているのは、作中に散りばめられた固有名詞だ。日常の描写に固有名詞を使うとエモーショナルな描写ができる。例えば、「ラフォーレ原宿」、「小沢健二」など、その当時の生活を鮮明に想像させる工夫がなされている。

主人公は元カノにFacebookで友達申請しかことがきっかけで、90年代の特別な恋愛を反芻していく。

 

以上、『秒速5センチメートル』が好きな人におすすめの小説のまとめでした。

是非是非気になる作品は読んでみて!

 

 

関連記事

plutocharon.hatenablog.com