日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

第37回三島由紀夫賞候補作品の紹介と受賞作予想

今年も三大純文学新人賞の1つ、三島由紀夫賞の季節がやってきた。

 

芥川龍之介賞に比べると知名度が大きく下がる三島由紀夫賞だけれども、受賞作の前衛性は芥川賞を超えると思っている。これまでに三島由紀夫賞は舞城王太郎佐藤友哉中原昌也など芥川賞では評価されにくい尖った才能を見出してきた。個人的に一番好きな純文学新人賞だ。

 

今回の候補作が公開されたが、芥川賞と違って独自色が強いなって思う。

候補は下記通り。

 

・久栖博季「ウミガメを砕く」

・小砂川チト「猿の戴冠式」

・鈴木涼美「YUKARI」

・大田ステファニー歓人「みどりいせき」

・間宮改衣「ここはすべての夜明けまえ」

 

今回の三島由紀夫賞ではデビュー作が候補になっているのが多いなと感じた。

では、それぞれの作家と作品を簡単に紹介していき、最後に自分の予想を書きたいと思う。

 

 

 

ウミガメを砕く / 久栖 博季

北海道が全停電した夜、わたしは剥製のウミガメを抱え、まっすぐな迷宮と化した公園を彷徨う――。孤独な魂を描く気鋭渾身の一作。

「ウミガメを砕く」は、久栖博季の新潮新人賞受賞作品だ。この小説は、北海道が全停電した夜に、主人公が剥製のウミガメを抱えて公園を彷徨う姿を描いている。

 

 

猿の戴冠式 / 小砂川 チト

ある事件以降、引きこもっていたしふみはテレビのなかに「おねえちゃん」を見つけ動植物園へ向かう。言葉を機械学習させられた過去のある類人猿ボノボ”シネノ”と邂逅し、魂をシンクロさせ交歓していく――”わたしたちには、わたしたちだけに通じる最強のおまじないがある”。幻想と現実が互いに侵蝕していく圧倒的筆致。人間存在の根源的な闇に光をあてる”唯一無二の才能”。

小砂川チトのは幻想と現実が入り混じる小説が特徴の作家だ。群像文學新人賞を受賞した小砂川チトのデビュー作「家庭用安心坑夫」では、マネキンのツトムを中心に現実と幻想が入り混じる世界を描いた。芥川賞にもノミネートされた。

今回候補となった『猿の戴冠式』も幻想が現実を蝕んでいくような作風の小説だ。主人公のしふみと類人猿ボノボのシネノの交流を描いた作品だ。

シネノとしふみの視点がシームレスに切り替わる構造が、「二人」の意識レベルでの繋がりを我々に感じさせてくれる。「人並みの知能を持った猿」であるシネノは現実なのか、それともしふみの幻想なのか?

 

 

YUKARI / 鈴木 涼美

YUKARI

婚約者との結婚を控え、何の不自由もなく暮らしていた紫。あるダンサーとの過ちを機に、高校時代に惹かれた柿本先生に手紙を出すことに。そこで綴られるのは、幾度となく先生が話してくれた『源氏物語』のことだったーー。

鈴木涼美は、『「AV女優」の社会学』、『体を売ったらサヨウナラ』などの著作で知られている論客、社会学者、小説家だ。夜の街に生きる住人たちを描いた「ギフテッド」で小説家デビューを果たした。「ギフテッド」は芥川賞候補にもなった。「ギフテッド」では、夜の街に生きる主人公と母親の関係性を端正な文章で綴っていた。「夜の街」に生きる住人たちを圧倒的なリアリティで描いた作品で、作者の経歴が重なるような自伝的な内容のようにも思えた。

今回候補になった『YUKARI』は、『源氏物語』を題材とした歌舞伎町文学の新境地だ。小説は、夜の歌舞伎町で働く女性が、過去の男性たちに手紙を書く形で進行する。それぞれの手紙が、彼女の人生や恋愛に光を当てている。源氏物語をモチーフにした表現や仕掛けが多く、ある程度源氏物語の知識があった方が楽しめるなと感じた。

 

 

みどりいせき / 大田ステファニー歓人

このままじゃ不登校んなるなぁと思いながら、高2の僕は小学生の時にバッテリーを組んでた一個下の春と再会した。そしたら一瞬にして、僕は怪しい闇バイトに巻き込まれ始めた……。でも、見たり聞いたりした世界が全てじゃなくって、その裏には、というか普通の人が合わせるピントの外側にはまったく知らない世界がぼやけて広がってた――。

大田ステファニー歓人の『みどりいせき』はすばる文学賞を受賞したデビュー作だ。この小説は、新人賞受賞スピーチで話題となった大田ステファニー歓人の独特な文体で綴られています。未知の言葉やスラングが次々と登場し、読者を引き込んでいく。

 

 

ここはすべての夜明けまえ / 間宮 改衣

2123年10月1日、九州の山奥の小さな家に1人住む、おしゃべりが大好きな「わたし」は、これまでの人生と家族について振り返るため、自己流で家族史を書き始める。それは約100年前、身体が永遠に老化しなくなる手術を受けるときに提案されたことだった。

間宮改衣の『ここはすべての夜明けまえ』は第11回ハヤカワSFコンテスト特別賞を受賞したデビュー作だ。ちなみに、早川書房からの三島由紀夫賞ノミネートは史上初とのこと。発売から話題を集めていたこともあり、受賞するかどうかが気になるところ。三島由紀夫賞がダメでも何かしらの賞はとりそう。

 

 

個人的な受賞作予想だが、『ここはすべての夜明けまえ』と予想。

選考会は5月16日、東京都内で開かれる。

さあ、結果はどうなるか。