日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

少し、不思議な世界へ読者を誘う!三崎亜記のおすすめ小説5選

三崎亜記は非現実的な小説世界に読者を誘う小説家だ。

 

見えない戦争を描いた『となり町戦争』や 、台風の代わりに鼓笛隊が日本に上陸する『鼓笛隊の襲来』など、日常から少しズレたような「少し、不思議(SF)」な小説を書き続けている。シュールレアリスムな世界観とでもいうのだろうか。

三崎ワールドでは、登場人物が不条理な出来事に巻き込まれる。その独特な世界観は、世にも奇妙な話やフランツ・カフカに通じるものがあると思う。独特な世界観ゆえに読者を選ぶところがあるが、ハマる人はとことんはまる唯一無二の作家だ。安部公房やカフカ、筒井康隆が好きな人ならきっと気にいると思う。

 

三崎亜記の小説のテーマとして、不条理や喪失があげられると思う。そして不条理を目の前にしても、生き続ける人間の希望も描いている。『失われた町』では、人の消滅という不条理の前に立ち向かう人々の希望を描いていた。

 

そんな「少し、不思議な」世界に誘う三崎亜記のおすすめ小説を5冊紹介したい。

 

 となり町戦争

となり町戦争』は小説すばる新人賞を受賞した三崎亜記のデビュー作だ。デビュー作だが、「少し、不思議」な世界観はすでに確立されている。斬新な設定から話題を集めた新時代の戦争小説だ。戦争といっても血なまぐさいものではなく、隣町と隣町という小さいスケールで戦っている話だ。

この戦争は、不思議なことに町の公共事業として扱われていて、実際の戦闘に巻き込まれるということもほとんどない。目に見えない戦争だ。主人公はひょんなことから偵察業務を町から依頼され戦争に深く関わっていくのだが、実際の戦闘に遭遇することがなく現実感を抱けないでいる。

日本に住む私たちも、『となり町戦争』の主人公のように他国での戦争やテロを自分とは関係ない非現実的な出来事として捉えていないだろうか?そんな問いを突きつける小説だ。

 

 

鼓笛隊の襲来 

鼓笛隊の襲来』は、三崎亜記の不可思議な世界観が凝縮された短編集だ。初めて三崎亜記を読む人や、どんな作風か気になっているので試しに読んでみたい人にぴったりな短編集だと思う。三崎亜記の入門書だ。短編集全体としては、「世にも奇妙な物語」のような雰囲気がある。不思議な世界を描いたホラーやコメディ、感動する話や恋愛もの。バラエティーが非常に豊かだ。星新一のショートショートが好きな人は楽しめると思う。

コメディ味がある「鼓笛隊の襲来」は、台風の代わりに鼓笛隊が日本に上陸する話だ。「彼女の痕跡展」は、日常で感じるデジャブを上手く表現した文学テイストの小説。「覆面社員」は安部公房みたいな感じ。そして「校庭」は背筋が凍りつくほどの名作ホラー。「校庭」は心霊要素がないにも関わらず、めちゃくちゃ怖いという不思議な小説だ。想像すればするほど鳥肌がたつエンディングをぜひ味わって欲しい。

 

 

 廃墟建築士

廃墟建築士 (集英社文庫)

廃墟建築士 (集英社文庫)

  • 作者:三崎 亜記
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: 文庫
 

廃墟建築士』は、建物に関する不思議な中編を4つまとめた中編集。七階の撤去を求めるシュールな「七階闘争」、廃墟を作り続ける「廃墟建築士」、野生の本を飼いならし操る日野原さんを描いた「図書館」、抽象的に希望のあり方を描いた「蔵守」と個性豊かな小説が4つ揃っている。

三崎亜記の小説には「日野原さんシリーズ」というものがある。ここでは「図書館」だ。このシリーズは、日野原さんというある種の超能力を持った女性がいろんな場所で能力を活用するというものだ。他には『手のひらの幻獣』に収録されている「研究所」、「遊園地」がある。三崎亜記作品には欠かすことのできないシリーズなのでぜひ読んでみてほしい。 

 

 

 失われた町

『失われた町』は、直木賞候補にもなったSF超大作だ。人の消滅という圧倒的不条理に対して抗う人々が描かれている。登場人物はそれぞれの思いを抱え、消滅や自らの運命に立ち向かっていく。その思いが受け継がれ、人々の消滅に立ち向かう姿に、力強い希望の光が見える。

冒頭に「プロローグ、そしてエピローグ」、最後には「エピローグ、そしてプロローグ」という面白い試みをしているのも特徴だ。

 

 

ニセモノの妻 

非日常な世界に巻き込まれた4組の夫婦を描いた短編集。自分のことをニセモノだと思う妻とホンモノ捜しの奇妙な日々を描いた「ニセモノの妻」、無人の巨大マンションで奇妙な世界に巻き込まれた「終の筈の住処」、坂ブームに揺れる町の夫婦関係を描いた「坂」、妻だけが時の歪みに囚われてしまった「断層」。奇妙な話でありながらも、時に切なく時に温かな短編集だ。