日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

『花束みたいな恋をした』 麦と絹のお気に入りの作家まとめ


『花束みたいな恋をした』本編映像【2人だけの新生活編】

 の「花束みたいな恋」の始まりと終わりを描いた『花束みたいな恋をした』。

脚本は坂本裕二さんだ。カルチャーをこよなく愛する麦と絹が互いの共通点に惹かれ合い、恋に発展していく様は文化系の人なら一度は憧れたことがあるシチュエーションだろう。

 

二人の恋を語る上で欠かせないのが、時代を彩ったカルチャーだ。きのこ帝国の「クロノスシタス」や、今村夏子の「ピクニック」など二人の感性を象徴するカルチャーやサブカル要素が散りばめられている。同時代に青春を過ごした人なら、触れたものもあり、懐かしさが込み上げてきただろう。

『花束みたいな恋をした』の作中に登場した小説家や小説についてまとめてみた。シナリオ本を参考にし、二人の会話の中に上がった作家をまとめている。

 

 

今村 夏子

『花束みたいな恋をした』で猛プッシュされているのが今村夏子だ。今村夏子は『こちらあみ子』で太宰治賞を受賞し、デビューしている。ちょうど、麦と絹が出会ったころは活動休止状態だった。だが、2016年から活動を再開し、「あひる」や『星の子』など話題作をどんどん発表していく。今村夏子は日常に潜む歪みを描くのが非常に上手い作家だ。

この今村夏子のデビューから芥川賞をとるまでの期間と、麦と絹の付き合っていた時期が重なったこともあってか、作中では今村夏子のが二人の距離感や感性を示す重要な物差しとなっている。

特に「ピクニック」という小説は麦と絹の感性を表す重要な小説だ。映画の中では「その人は、きっと今村夏子さんのピクニック読んでも何も感じない人だ」というフレーズがリフレインされる。1回目は絹が就活に押しつぶされそうになっていた時だ。そして、2回目にこのセリフが話されるときには、麦の感性が変わってしまったことを切実に示していた。

今村夏子のおすすめは、やっぱり「ピクニック」が収録された『こちらあみ子』という本だ。

 

 

滝口 悠生

滝口悠生の小説も麦と絹のすれ違いを暗示するアイテムとして登場している。映画の中では『茄子の輝き』という小説が登場する。この本を読み終えた絹は麦に勧めるのだが、麦は仕事に追われて読まずにいた。麦が本を車に投げるシーンは悲しかったな。

『茄子の輝き』という小説は、過去のかけがえのない記憶についての小説だ。それもあってか、『花束みたいな恋をした』のテーマに通じるものがある。小説内では派手な出来事は起こらず、ゆったりとした時間が流れている小説だった。

読んでいると、大切な人との過去の記憶を思い出したくなる。主人公は離婚した妻のことをなにかにつけて思い出すのだけど、私たちは過去の延長線上にいるんだなと実感させられる。けれど、どんな大切な思い出だって時の流れには逆らえず、部分部分が風化していってしまう。だから、新しい思い出を塗り重ねて生きていくのかなと感じた。今思い出せる過去を大切にしたいなと思った。消えていってしまう前に。

滝口悠生は、人称や視点の実験的表現に特徴がある。滝口作品でおすすめは、作中に登場した『茄子の輝き』と、芥川賞を受賞した『死んでいない者』だ。

 

 

 穂村 弘

麦と絹が初めて出会った時に、麦が読んでいた作家が穂村弘だ。穂村弘は現代短歌を代表する歌人の1人でもある。短歌だけではなく、エッセイや翻訳など執筆ジャンルは多岐に渡る。歌集でオススメなのが『シンジゲート』だ。

短歌だけでなくエッセイの方もウィットに富んでいて、すこぶる面白いのでぜひ読んでみてほしい。エッセイの中では、『世界音痴』と『もしもし、運命の人ですか。』が特にオススメだ。

 

 

長嶋 有

麦と絹が初めて出会った時に、絹が読んでいたのが長嶋有。少し世間からずれたような人物の描写が上手い。おすすめはユーモラスな『猛スピードで母は』だ。長嶋有はこの作品で芥川賞を受賞している。

 

 

いしい しんじ

童話に近いテイストの小説が多いのが、いしいしんじだ。マジックリアリズムのような『ある一日』がオススメ。それと恋愛小説の『トリツカレ男』もオススメだ。

 

 

堀江 敏幸

堀江敏幸は、静かで優しい小説を書く作家だ。静謐な小説世界と、研ぎ澄まされた文章は心にしみる。エッセイか小説か分からないような『おぱらばん』や、味わい深い短編集の『雪沼とその周辺』がオススメ。『雪沼とその周辺』に収録された短編は、センター試験の問題にも使われているので、実は読んだことあった人も多いのでは。

 

 

柴崎 友香

場所に積み重なった時間や記憶を書くことに定評がある柴崎友香。最近では、『春の庭』や『わたしがいなかった街で』など、小説の人称や視点の表現に一石を投じるような小説を書いている。

確かに、滝口悠生や堀江敏幸が好きだったら柴崎友香も好きそうだなと思う。あと保坂和志とかも好きそうだな。そういえば、麦の本棚に保坂和志の本があったっけ。

 

 

小山田 浩子

日常の中に不条理な出来事が紛れ込んでくるのが小山田浩子の小説だ。この不条理感はカフカに通じるものがある。おすすめは『工場』と、芥川賞を受賞した『』。

 

 

多和田 葉子

日本の女性作家を代表する多和田葉子。近年ではノーベル文学賞の有力候補として名前が挙がっている。多和田葉子の特徴といえば、作品の前衛性だ。言語学に関連する内容や、前衛的な文学表現を行なった小説が多い。『かかとをなくして』が個人的に1番好き。他におすすめを上げると、芥川賞を受賞した『犬婿入り』かな。

 

 

舞城 王太郎

舞城王太郎は破壊力がとにかくすごい作家だ。小説内構造をいじるメタフィクション小説に定評があり、『九十九十九』や『ディスコ探偵水曜日』などインパクトの大きい問題作を多く執筆している。 

 

 

 

以上、『花束みたいな恋をした』を彩った小説家でした。

 

シナリオ本を読むと、新たな発見もあるのでおすすめだ。