日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

「依頼」と「代行」による「宝探し」の物語〜『羊をめぐる冒険』と『同時代ゲーム』の物語構造〜

物語にはいくつかの基本パターンみたいなものがある。有名なもので言えばオイディプス王に見られる様な「父殺し」の物語骨格がある。「父」というモチーフは色んな文学作品で扱われていて、志賀直哉の『暗夜行路』も「父」が物語の重要な部分を占めている。文学だけでなく、映画『スター・ウォーズ』も「父殺し」の骨格を持ったストーリーだ。この様に小説や映画など物語には似た様な骨格が見られることがある。同時代に書かれた小説には同じ構造が見られることがある。

 

 

 

 70年代後半から80年代前半にかけて、大掛かりな長編小説が次々と書かれた。それが村上春樹の『羊をめぐる冒険』や大江健三郎の『同時代ゲーム』、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』、井上ひさしの『吉里吉里』などだ。 

羊をめぐる冒険 (講談社文庫)

羊をめぐる冒険 (講談社文庫)

 

 『羊をめぐる冒険』は、主人公の「僕」がある組織に一匹の羊を探すように命じられ、大きな流れに巻き込まれていく話だ。『風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』の続きであり、「僕」と「鼠」が登場する。「僕」は不思議な耳を持つ「彼女」と共に「羊をめぐる冒険」を行う。

 

同時代ゲーム (新潮文庫)
 

 『同時代ゲーム』は、武士の集団が四国の山奥に《村=国=家=小宇宙》を創建し、長い〈自由時代〉のあと、大日本帝国と全面戦争に突入するという話だ。 壊す人、アポ爺、ペリ爺、オシコメ、シリメ、「木から降りん人」等々、奇体な人物が登場するという、作家の想像力が爆発したかの様な小説だ。父=神主の息子〈僕〉が双生児の妹に向けて一族の神話と歴史を語る様な形になっている。

 

 

 蓮實重彦は、『小説から遠く離れて 』で、『羊をめぐる冒険 』と『同時代ゲーム』、そして同時代に書かれた『コインロッカー・ベイビーズ』 『枯木灘』 『吉里吉里人』『裏声で歌へ君が代』 はすべて同じ物語構造があると指摘した。その物語構造が、「依頼と代行」 による 「宝探し」の物語だ。これらの小説の物語の構造は 「依頼」→「代行」→「出発」→「発見」の流れをとる。

 

 

「宝探し」という点で見てみると、『羊をめぐる冒険』では「羊」が、『吉里吉里人』では、東北の「金鉱」が、『裏声で歌えよ君が代』「美術品としての軍刀」が、『コインロッカー・ベイビーズ』では「ダチュラという興奮剤」が宝に当たる。

またこれらの小説には「不可視の権力者」が登場する。『羊をめぐる冒険』では、「強大な地下の王国」を支配している「先生」、『吉里吉里人』では、「吉里吉里国の圧殺を目論む日本国」、『裏声』は「右翼の大物」、『コインロッカー・ベイビーズ』では、この主人公である捨て子の二人を強制的に双子にした世に送り出した「社会・官僚組織」になる。

潜在的な双生児」もキーワードになる。『羊をめぐる冒険』では僕と鼠、『同時代ゲーム』では主人公と双子の妹、『吉里吉里人』では三文小説家と美貌の踊り子、『裏声』では主人公の画商梨田そのものに二重性があり、『コインロッカー・ベイビーズ』ではの捏造された双子「キクとハシ」が「潜在的な双生児」となる。

 

この様にこれらの小説群は「双子」が「依頼」と「代行」によって「宝探し」をするという物語構造に収まるのだ。