日々の栞

本、映画、ファッションについて気ままに書く。理系の元書店員。

「春樹チルドレン」だと思う作家を列挙してみる

春樹チルドレン」とは

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

 昔、小泉チルドレンという言葉が流行った。ちょうど僕が小学生の頃だろうか。かつてのチルドレンは今はどうしているのだろう。小泉チルドレンのように、ある人の影響下にある人という意味で、〇〇チルドレンという言葉が使われる。〇〇チルドレンというと、僕は小泉チルドレン春樹チルドレンのことを思い浮かべる。「春樹チルドレン」というのは、端的にいうと村上春樹から強い影響を受けた作家のことだ。Wikipediaから引用すると、

春樹チルドレン、もしくは村上春樹チルドレンとは、評論家などが特定の作家を村上春樹の影響下にあるものと評価して呼ぶレッテルである。また、村上春樹に影響を受けた者が自称することもある。

というように定義されている。村上春樹ほどの作家になると影響を受けていない作家の方が少ないと思うが、影響を受けた作家の中でも特に強い影響下にある作家を今回は村上春樹チルドレンとしていこうと思う。個人的にこの作家は春樹チルドレンだなと思う作家を独断と偏見で列挙していく。

 

新海誠

 まずは『秒速5センチメートル』、『言の葉の庭』、『君の名は。』、『天気の子』などのアニメ映画で知られている新海誠だ。『秒速5センチメートル』あたりで熱狂的なファンを獲得し、『君の名は。』で一躍大衆に知られる存在となった新海誠監督。デビュー作の『ほしのこえ』からセカイ系の作家として論じられてきた。最新作の『天気の子』もセカイ系の新たな到達点と言える作品だ。そんな新海誠だが、雑誌のインタビューなどで村上春樹に影響を受けたと語っている。それもあってか、春樹チルドレンを列挙する中で新海誠の名前があがることが多い。感傷的なモノローグや恋愛の喪失感を描くあたりが村上春樹に似ているように思う。『秒速5センチメートル』は新海誠が注目を集めるきっかけとなった作品だが、恋愛の喪失感という点で村上春樹の『ノルウェイの森』と似たところがある。『秒速5センチメートル』は新海誠版の『ノルウェイの森』と言えるかもしれない。『秒速5センチメートル』では、過去の恋愛を引きずり、感傷に浸る自分に陶酔している姿を、叙情的な映像と村上春樹的なモノローグで極限まで美しく描いている。 新海誠は自ら作品をノベライズしているが、『秒速5センチメートル』の文体は村上春樹の文体に近いものを感じる。

 新海誠が世間に広く知れ渡るきっかけとなった『君の名は。』にも村上春樹の影響が見られる。オープニングシーンで描かれている「何かを探しているが、それがわからない」という喪失感は、村上春樹の「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」という短編小説を彷彿とさせる。運命の人を探すという『君の名は。』のストーリーの骨格も「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」と似通ったものがある。新海誠の解説によると、「君の名は。」は「4月のある晴れた朝に〜」に影響を受けているようだ。また奥寺先輩の最後のセリフ「幸せになりなさい」は、『ノルウェイの森』でのレイコさんのセリフだ。新海誠が好きな人はぜひ『ノルウェイの森』とかの恋愛小説よりの村上春樹作品を読んでみてほしい。きっとハマると思うから。


 

大崎善生

パイロットフィッシュ (角川文庫)

パイロットフィッシュ (角川文庫)

 

 大崎善生村上春樹チルドレンとしてよく名前が挙がる作家だ。『パイロットフィッシュ』や『アジアンタムブルー』などの喪失感や喪失からの再生を描いた恋愛小説で知られている。また小説だけではなく、『将棋の子』といったドキュメンタリーでも有名だ。大崎善生は、恋愛の喪失感やその再生を、透明感溢れる文体で感傷的に描いているのが特徴だ。村上春樹で言うところの『ノルウェイの森』や『スプートニクの恋人』などの恋愛小説に近い。長編小説だと『パイロットフィッシュ』がオススメ。生と死、過去にとらわれた男の喪失感やそこからの再生が描かれている。

九月の四分の一 (新潮文庫)

九月の四分の一 (新潮文庫)

 

短編集だと『九月の四分の一』がオススメ。 旅先での刹那的な恋とその喪失が感傷的に描かれている。



 

本多孝好

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐B〉 (新潮文庫)

真夜中の五分前―five minutes to tomorrow〈side‐B〉 (新潮文庫)

 

 次に紹介するのは本多孝好本多孝好村上春樹チルドレンの一人とよく言われている。本多孝好は恋愛小説やミステリーを中心に書いている小説家だ。読んでみるとわかるのだが、村上春樹の影響が文体やモチーフから感じられる。例を挙げると、『真夜中の五分前』と言う作品では、文体や比喩、モチーフに村上春樹の影響が見られる。双子が出てくるあたりは、『1973年のピンボール』を彷彿とさせる。恋人を失った主人公の喪失と再生をミステリー的な要素も絡めて描いた新感覚の小説だ。ミステリー的な『ノルウェイの森』と言えるかも。恋人を交通事故で失った「僕」は一卵双生児のかすみに出会う。この出会いがきっかけで「僕」は新しい一歩を踏み出すことになるのだが運命の輪は「僕」を奇妙な世界に追いやる。最後には驚愕のエンディングが待ち受けている。真夜中の5分前というタイトルや5分が意味することがとてもお洒落。偶然かもしれないけど、新海誠の『秒速5センチメートル』といい、数字を効果的に使っていく点で共通している。

MOMENT (集英社文庫)

MOMENT (集英社文庫)

 

 代表作の『MOMENT』の主人公も、村上春樹感が強い。

 

 

 衛慧

上海ベイビー (文春文庫)

上海ベイビー (文春文庫)

 

  次は中国の作家、衛慧。世界中で読まれている村上春樹だけあって、その影響は日本に留まらない。代表作の『上海ベイビー』は、大胆な性描写で話題になり、中国では発禁となった。恋愛の喪失感や性愛を描いていると言う点でこれも『ノルウェイの森』に近いものを感じる。日本ではこの作品ぐらいしか読めないのが残念なところ。

 

 

 

白河三兎

もしもし、還る。 (集英社文庫)

もしもし、還る。 (集英社文庫)

 

 村上春樹チルドレンとして名前が挙がることは少ないけれど、個人的に春樹チルドレンだと思っているのが白河三兎。メフィスト賞を受賞してデビューしていて、デビュー作の『プールの底に眠る』は青春小説とミステリーを足した内容になっている。この作品も村上春樹の影響が感じられる。『もしもし、還る。』と言う小説は『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』のようなファンタジーに近いなと思う。

 

 

加藤 秀行

キャピタル

キャピタル

 

 最近デビューした作家だと加藤秀行が春樹チルドレンとしてあげられるんじゃないかと思う。2015年に「サバイブ」で第120回文學界新人賞を受賞しデビューしている。このデビュー作の『サバイブ』の文体に村上春樹の影響が感じられた。加藤秀行は最近プッシュされているみたいで、「シェア」で第154回芥川賞候補、「キャピタル」で第156回芥川賞候補作となっており、期待の新人だ。特に『キャピタル』は村上春樹ぽい。話の構造が『羊をめぐる冒険』に似ていて、文体も村上春樹により近づいているような印象を受けた。この点に関しては多くの評論家が指摘している。おすすめは『キャピタル』。

 

 

 

以上、私が村上春樹チルドレンだと思う作家の紹介でした。やれやれ。

 

 

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