気がかりな夢から目をさましたら虫になっていたでおなじみのフランツ・カフカ。
代表作の不条理文学『変身』を筆頭に、官僚機構のナンセンスさを描いた『城』や訳の分からない裁判に巻き込まれる男が主人公の『審判』など名作を残していた。カフカの影響もあってか、官僚機構に関わる複雑だったり、煩わしかったりするようなことをカフカエスクと言ったりする。
カフカは生前評価されず、今の世界文学としての地位を確立したのはカフカの死後のことだ。カフカの文学は広く読み継がれ、カフカの影響を受けた作家は数多く存在する。
現在でも、カフカのような不条理や、官僚機構やシステムのナンセンスさを描いている作家は何人かいる。カフカのような、カフカっぽい作家を紹介する。カフカエスクな作家とでもいうのだろうか?
ブッツァーティ
幻想的な小説や、不条理を描いた小説から「イタリアのカフカ」と称されているブッツァーティ。カフカほど重苦しい雰囲気がなく読みやすい。オススメは、いつ来るかわからない敵を待ち続ける 『タタール人の砂漠』と『神を見た犬』。
残雪
残雪は「中国のカフカ」と称される作家だ。
安部公房
日本を代表する前衛文学を代表する作家・安部公房。カフカの文学はシュールレアリスムだと言われたりするが、安部公房の作品も超現実的だ。カフカでは人が虫に返信するが、安部公房の作品では、人が壁や棒や赤い繭になってしまう。虫という有機物になるカフカに対して、棒のような無機物になる点に安部公房の特徴がある。安部公房の作品でも官僚的というか役所的なものの弊害が描かれている 。安部公房のオススメ作品として推したいのは、人が壁になってしまう『壁』と、砂漠の中の穴に閉じ込められる男を描いた『砂の女』、失った顔を取り戻そうとして仮面制作に取り組む男を描いた『他人の顔』だ。
三崎亜記
三崎亜記は、公共事業としての見えない戦争を描いた『となり町戦争』でデビューした作家だ。三崎亜記は不条理をテーマにした作品を数多く執筆している。人が失われるなどの理不尽な不条理を前にした時の人間を描くのが上手い。また、いわゆる「お役所的な」縦割りなど、官僚的ナンセンスを表現した作品も多く描いている。三崎亜記のオススメは、となり町との見えない戦争を描いた『となり町戦争』、本物とニセモノの妻に関する話の『ニセモノの妻』、鼓笛隊が日本に襲来する様子や彼女の痕跡が展示された展覧会の話など短編を集めた『鼓笛隊の襲来』だ。
砂川文次
砂川文次は自衛隊出身の異例の作家だ。自衛隊にいたということもあってか、自衛隊が関係する話はもちろん、官僚的な組織の不条理を描いた小説を数多く描いている。
『臆病な都市』 では謎の感染症に振り回される世間と組織の不条理が描かれている。また芥川賞候補にもなった小隊では、自衛隊小説と組織の不条理を掛け合わせた会心の一作だ。戦争に参加したこともない自衛隊員が自衛隊という官僚的な組織のメカニズムに身を任せて戦争を行う話だ。砂川文時のオススメは、新興感染症によるパニックを描いた『臆病な都市』と、突如北海道でロシア軍との衝突を余儀無くされる『小隊』、芥川賞を受賞した『ブラックボックス』だ。