日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

人が「何らかしら」に変身する変身譚・変身小説まとめ

 「変身!」という掛け声といえば仮面ライダーだ。これは皆さんよく知っているだろう。

だが、掛け声「変身」の由来は何かと聞かれたら答えに窮するだろう。「変身!」の掛け声の由来は、意外にもフランツ・カフカの『変身』にあった。こんなところに文学の影響があるなんて。

フランツ・カフカ『変身』は、朝起きると虫になっていたという話だ。こんな感じで人が何かしらに変身するという「変身譚」と呼ばれる小説は、カフカの『変身』に限らず色んなバリエーションがある。例えば、尊大な自尊心を拗らせて虎になっちゃった李徴を描いた『山月記』など。人が何かしらに変身する変身小説をまとめてみた。

 

 

 

 『変身』(変身後の姿:虫)/ フランツ・カフカ

人が何かに変身する小説のはしりといえば、フランツ・カフカの『変身』だろう。主人公のザムザはいたって普通の一般市民だ。だが、ある日目を覚ますと自分が「虫」になっていることに気づく。

ザムザは「虫」に変身してしまったが、この「虫」が何かには諸説ある。大体は「虫」や「害虫」と訳されているが、ドイツ語の原文はUngezieferとなっており、これは有害生物全般を意味する単語だ。『変身』の記述からはどのような種類の生物かは特定することができない。僕は「カナブン」みたいな虫を想像していた。ザムザが変身した「虫」にはどんな意味があるのか考えるのが面白い小説だと思っている。

 

 

『恋するザムザ』(変身後の姿:グレゴール・ザムザ)/ 村上 春樹

恋するザムザ」は村上春樹が描いた『変身』のスピンオフというか後日談のような小説だ。『変身』の番外編として紹介しておく。『変身』では目を覚ましたとき、ザムザは「虫」になっていた。それに対して、「恋するザムザ」では主人公が目を覚ますと自分がグレゴール・ザムザに変身していることを発見するのだ。完全なパロディだ。カフカの『変身』と対比して読むと村上春樹が仕掛けた企みに気付けて面白い。この「恋するザムザ」は、『恋しくて』というアンソロジーに収録されている。

 

 

『山月記』(変身後の姿:虎)/ 中島 敦

山月記』は中島敦の小説で、高校の授業で扱われることもあり読んだことがある人が多いんじゃないかなと思う。この『山月記』は、自尊心をこじらせたエリート・李徴が虎になってしまう話だ。尊大な自尊心と臆病な羞恥心を買い太らせてしまった結果、李徴は虎になってしまった。現在で言うところの、何者かになれずもがく「意識だけ高い系」とでも分類されるのだろうか。あなたは自尊心をこじらせて虎になっていませんか?

 

 

『フラミンゴの村』(変身後の姿:フラミンゴ)/ 澤西 祐典 

澤西祐典の『フラミンゴの村』では、村の女たちがフラミンゴに変身してしまう。赤い鳥『フラミンゴ』というのは作中でも出てくるメーテルリンクの『青い鳥』との対比なのだろうか?作中の中では、村中の女達が何故フラミンゴになってしまったかという理由には触れられていない。カフカの『変身』のように変身してしまった理由は明かされず、ただただ不条理な状況下での人間心理が描かれている。

カフカの『変身』と大きく異なるのは、変身してしまったものの目線ではなく残された男たちの目線で進行するところだ。フラミンゴ(女たち)の内面は描かれずに、男たちの狼狽している様子や、不条理な状況にいかに対応するかが描かれている。村八分など、閉鎖的な環境下において常識的には考えられない出来事が起こったらどうなるかの思考実験であるようだ。

 

 

『犬婿入り』(変身後の姿:犬?人間?)/ 多和田 葉子

多和田葉子の 『犬婿入り』は変身譚かと言われると違うような気がする。あるおばさんの元に若い男が住むようになるのだが、それが犬みたいなのである。犬が人間に化けているのかどうかは明かされていないが、ユーモア溢れるポップな前衛文学になっている。

 

 

『棒になった男』(変身後の姿:棒)/ 安部 公房

日本が誇る前衛文学のエース・安部公房も人間が変身する変身譚を数多く書いている。その一つが『』だ。この話は小説でもあり、のちに安部公房の手で戯曲化されている(棒になった男)。この話では人間が棒に変身する。ここまで紹介してきた小説は動物や昆虫などの生き物に変身していたが、安部公房にいたっては生き物ですらない。ここでは人間が変身した「棒」というものにどんな象徴的な意味が込められているかが重要な論点となる。あなたは「棒」をどう解釈する?

 

 

『壁』(変身後の姿:壁)/ 安部 公房

続いても安部公房だ。この話では人間が「壁」に変身する。この小説は非常に難解で、「壁」にどんな意味が込められているか読み解くのが難しい。作中では、意味不明な出来事が多発するので、普通の小説に飽きた人は非常に楽しめるのではないかと思う。

 

 

 

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