日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ヌーヴェルヴァーグがモチーフの小説

ヌーヴェルヴァーグ がモチーフになっている小説

ヌーヴェル・ヴァーグの時代 (紀伊國屋映画叢書 3)

ヌーヴェル・ヴァーグの時代 (紀伊國屋映画叢書 3)

 

 僕はフランス映画が好きだ。特にヌーヴェルヴァーグの作品群が好きだ。大学の頃にゴダールにはまって、『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』、『小さな兵隊』、『アルファヴィル』などのゴダール映画を見続けた。当然近くのツタヤにはゴダール作品なんて置いていないから、わざわざ梅田や天王寺まで行って借りたのものだ。それからトリュフォーの『大人は判ってくれない』や『アメリカの夜』、アラン・レネの『去年マリエンバートで』、ジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』、『ロシュフォールの恋人たち』を観た。

 

ゴダール

気狂いピエロ [Blu-ray]

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 ヌーヴェルヴァーグの代名詞ともなっている、ジャン・リュック・ゴダール。その作品は難解であることで知られ、多くの人からはかなり退屈な映画とも言われる。僕もよく分からないことが多いのだが、センスというか映画の持つ雰囲気に惹かれてみるようになった。『気狂いピエロ』には圧倒された。ヌーヴェルヴァーグの代名詞ともあって、よく小説に上がることが多い。

 

小さな兵隊

小さな兵隊 [Blu-ray]

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 ゴダールといえば『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』みたいなとこがあって、『小さな兵隊』はあまり有名じゃないかもしれない。アンナカリーナが初めてゴダール作品に出演した映画でもある。この『小さな兵隊』がモチーフとなった小説には伊坂幸太郎の『残り全部バケーション』がある。伊坂幸太郎は映画が好きで、伊坂作品にはゴダール の名前がよく出てくる。『陽気なギャング』の章のはじめに書いてある辞書の定義に出てくる「写真が真実なら、映画は毎秒24倍真実だ」という文章も『小さな兵隊』からの引用である。伊坂幸太郎の代表作『重力ピエロ』もなんか『気狂いピエロ』に近い。

 

 残り全部バケーション

残り全部バケーション (集英社文庫)
 

 ゴダールの『小さな兵隊』がモチーフになっているのが伊坂幸太郎の『残り全部バケーション』だ。『残り全部バケーション』は連作短編になっていて、その一つの短編のタイトルが「小さな兵隊」になっている。この小説のタイトルにもなっている「残り全部バケーション」はゴダールの『小さな兵隊』からきている。拷問を受けている主人公のセリフ「嫌なことがあったら、バカンスのことを考えることにする」や、「悲しみを忘れなければならない。僕にはまだ残された時間があった」という印象的なセリフが由来となっている。

 

アルファヴィル

アルファヴィル Blu-ray
 

ゴダールSF映画SF映画としてみると色々とツッコミどころが多いが、詩的なセリフと夜の幻想的なパリは素晴らしい。『アルファヴィル』がモチーフになった小説ではないが、 村上春樹の『アフターダーク』の中で『アルファヴィル』に言及されている。

 

 

トリュフォー

 『大人は判ってくれない』、『アメリカの夜』などで知られているフランソワ・トリュフォートリュフォーの映画には、どこか私小説的な雰囲気が漂う。フランソワ・トリュフォーの特定の映画をモチーフにしたというような小説は見つけることができなかったが、トリュフォーが印象的に引用されている小説を挙げるとするなら佐藤正午の『Y』だ。

 

Y

Y (ハルキ文庫)

Y (ハルキ文庫)

 

 佐藤正午という作家はあまり知られていないが、その小説は本当に面白い。『Y』は佐藤正午の印象的な恋愛小説だ。「アイリス・アウト」といった技法や、トリュフォーなどのヌーヴェルヴァーグ の映画について言及されている。

 

 

アラン・レネ

二十四時間の情事(ヒロシマ・モナムール)Blu-ray
 

 ヌーヴェルヴァーグの左岸派のアラン・レネアラン・レネヌーヴェルヴァーグ の監督の中でも文学との親和性が高い。『二十四時間の情事』の脚本はマルグリット・デュラスが書いており、難解映画として知られている『去年マリエンバートで』はヌーボーロマンの代表的作家ロブグリエが執筆している。代表作の『二十四時間の情事』をモチーフにした小説には鹿島田真希の『六〇〇〇度の愛』、『去年マリエンバートで』をモチーフにした小説には恩田陸の『夏の名残りの薔薇』が挙げられる。

 

二十四時間の情事

広島の原爆投下をモチーフにした作品。日本語版のタイトルである「二十四時間の情事」はイマイチな気がしてならない。原題のままで良かったのではないか。 

 

 

 『六〇〇〇度の愛』

六〇〇〇度の愛 (新潮文庫)

六〇〇〇度の愛 (新潮文庫)

 

 『二十四時間の情事』がヒロシマであるのに対し、ナガサキが扱われている。かなり観念的で抽象的な小説。

 

 

『去年マリエンバードで』 

非常に難解な映画として知られている『去年マリエンバートで』。あらすじは、男が女に「去年マリエンバートで会った」というが、女にはその記憶がなく押し問答が続くというものだ。難解な小説で知られているアラン・ロブ=グリエが脚本を書いていることもあり、時系列が複雑になっている。現在と過去、そして回想が入り混じり、混沌としていく。現在と過去の境界線がだんだんと溶けていくのだ。映像がモノクロで美しく、シャネルの衣装が使われている。 

 

 

夏の名残りの薔薇

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)

夏の名残りの薔薇 (文春文庫)

 

 『去年マリエンバートで』をモチーフにした小説としては恩田陸の『夏の名残りの薔薇』がある。小説内に、『去年マリエンバートで』の脚本が挿入されており、『去年マリエンバートで』のように時系列や真実が分からなくなるような構成になっている野心作だ。一応ミステリの括りには入るのだろうが、本格ミステリというわけではなく変化球的な変格ミステリとなっている。