日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

森鴎外『舞姫』を読むならちくま文庫版を推したい件について

森鴎外の『舞姫』といえば、知識人(エリート)の挫折と苦悩を描いた名作だろう。 高校国語で勉強するので、大抵の人は読んだことがあるはずだ。 ドイツでエリスと恋に落ち、エリスに子どもを身篭らせるも、ついにはエリスを捨てて日本に帰国した豊太郎には…

フィクションは人生に必要か? / 『カイロと紫のバラ』 ウディ・アレン

人はなぜ映画を観るのだろう? 人生における映画(フィクション)の役割とは何か? そんな問いに答えるのがウディ・アレンの隠れた名作『カイロの紫のバラ』だ。この映画では、映画そのものが題材になった作品だ。劇中では、映画の画面から登場人物が出てく…

村上春樹とゴダール

村上春樹作品にはよく映画が登場する。映画そのものが登場するときもあれば、比喩表現として登場するときもある。村上春樹作品は映画から多大なる影響を受けていると言われることも多い。最近では村上春樹と映画の関係について考察した「村上春樹 映画の旅」…

謎解き『すずめの戸締まり』 / 村上春樹「かえるくん、東京を救う」から考察する

www.youtube.com 今年の11月11日に新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』が公開された。 水溜りの上にある扉の印象的なビジュアル、観るものを圧倒する華麗な情景描写。予告を観ただけでも期待が高まる。 音楽は、『君の名は。』と『天気の子』に引き続きR…

「みみずくん」との戦い / 「かえるくん、東京を救う」 村上 春樹

村上春樹の小説には動物をモチーフとした個性的なキャラクターが登場する。『羊をめぐる冒険』の羊男が有名だろう。あるいは、「かえるくん、東京を救う」に登場する「かえるくん」も印象に残るキャラクターだろう。 村上春樹の「かえるくん、東京を救う」は…

父親と戦争 / 『猫を棄てる 父親について語るとき』 村上 春樹

ある夏の日、僕は父親と一緒に猫を海岸に棄てに行った。歴史は過去のものではない。このことはいつか書かなくてはと、長いあいだ思っていた―――村上文学のあるルーツ 『猫を棄てる 父親について語るときに僕の語ること』は、村上春樹が自らの父について語った…

謎解き『すずめの戸締まり』 / 日本神話・天岩戸隠れから考察する

www.youtube.com 今年の11月11日に新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』が公開された。 水溜りの上にある扉の印象的なビジュアル、観るものを圧倒する華麗な情景描写。予告を観ただけでも期待が高まる。 11月の公開まで待ちきれなかったので、8月に発売さ…

中島敦『山月記』を読むならちくま文庫版を推したい件について

中島敦の『山月記』といえば、自意識にとらわれた男の苦悩を描いた名作だ。 高校の国語で勉強するので、大抵の人は読んだことがあるはずだ。 「臆病な自尊心」や「尊大な羞恥心」とキラーワードは、何者かになろうとしてなれなかった人には突き刺さるフレー…

驚きが止まらない!伊坂幸太郎のどんでん返しおすすめ小説5選

鮮やかな伏線回収、魅力的なキャラクター、ウィットに富んだ文章で人気を集めている伊坂幸太郎。伊坂幸太郎は人気ミステリ作家の代表格だろう。 巧みな伏線が仕掛けられた伊坂幸太郎のミステリには毎回驚かせられる。特にあっと驚くようなどんでん返しが仕掛…

最近読んで面白かった本をざっくり紹介する

今週のお題「最近おもしろかった本」 今週のお題が「最近おもしろかった本」ということで、ここ数ヶ月読んだ中で面白かった本を紹介したい。小説・新書とジャンルは様々だ。 『すずめの戸締まり』 / 新海 誠 『ユーチューバーが消滅する未来 2028年の世界を…

あなたも騙される!東野圭吾のどんでん返しミステリ6選!

東野圭吾は、大人気のミステリ作家だ。 ガリレオシリーズの『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞し、『白夜行』など有名作品を次々に送り出してきた東野圭吾。ガリレオシリーズや加賀シリーズなど人気が高いシリーズも多い。これまでに数多く作品を執筆しており…

夏目漱石の最後の作品『明暗』について紹介

日本の国民的作家といえば夏目漱石だろう。 『吾輩は猫である』や『坊っちゃん』、『三四郎』、『こころ』などの多くの名作を夏目漱石は生み出した。『こころ』や『夢十夜』は高校の国語で扱われることが多いので、読んだことがある人は多いはずだ。 夏目漱…

ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーってどんな作家?

2022年のノーベル文学賞の発表があり、受賞者はフランスの作家アニー・エルノー(Annie Ernaux)だと発表された。 ブックメーカーのノーベル文学賞予想のオッズではかなり上位にいた作家だ。 案外、ブックメーカーは当たるのかもしれない。 最近、アニーエルノ…

なぜ村上春樹はノーベル賞受賞に近い作家と言われるようになったのか?

10月になってノーベル賞が発表される季節になった。 こうなると話題になるのが、「村上春樹ノーベル文学賞受賞なるか」だ。テレビでハルキストの集まりが中継され、受賞者発表後に落胆するという光景が秋の風物詩となっている。 毎年ブックメーカー(賭け屋…

一番売れているのは?村上春樹の売上・発行部数ランキング

現代日本文学を代表する作家といえば村上春樹だろう。 その人気は日本にとどまらず、世界中で広く愛されている。村上春樹は日本の現代作家の中で世界で最も翻訳されている作家だと言っても過言ではない。アメリカやロシア、中国、韓国、イスラエル、イギリス…

今年も村上春樹が人気?ブックメーカーを参考にして2022年ノーベル文学賞を予想してみた

news.yahoo.co.jp 「村上春樹、今年こそノーベル賞受賞なるか?」というニュースを見かける季節になった。 もう10月になったんだなと思う。「村上春樹、今年こそノーベル賞受賞なるか?」というのはもはや秋の風物詩だ。 産経新聞によると、村上春樹は今年も…

さよなら、ジャン=リュック・ゴダール

昨日の夕方、衝撃的なニュースが入ってきた。 www.nikkei.com あのゴダールが死んだ。それはもう衝撃だった。 医師処方の薬物を自ら使用する「自殺ほう助」により亡くなったそうだ。スイスでは安楽死が認められている。お疲れ様と伝えたい。 ゴダールの映画…

人生にゴールはあるのか? / 「ゴール」 三崎 亜記

三崎亜記の「ゴール」は人生の意味や到達点について考えさせられるショートショートだ。 日常に非日常が溶け込んだような作品で世にも奇妙な物語のテイストのような小説だ。ちょっと不思議で、三崎亜記らしい作品だと思う。 この「ゴール」だが、高校の国語…

個人的に面白かった新書を10冊紹介してみる

今回は個人的に面白かった新書を10冊ほどピックアップして紹介したいと思う。 新書は幅広いジャンルの知識を養うのにとても役立つ。専門家と言うよりかは一般向けに書かれているものが多いので、初心者にも優しい。幅広く読んでみて自分の興味があるのもが見…

天災に真っ向から向き合ったロードムービー / 『すずめの戸締まり』 新海 誠

www.youtube.com 今年の11月11日に新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』が公開される。 水溜りの上にある扉の印象的なビジュアル、観るものを圧倒する華麗な情景描写。予告を観ただけでも期待が高まる。 音楽は、『君の名は。』と『天気の子』に引き続きR…

喪失からの再生と人生の肯定 / 「ドライブ・マイ・カー」 村上 春樹

村上春樹の短編集『女のいない男たち』に収録された「ドライブ・マイ・カー」は、主人公が亡くなった妻の秘密や自分が負ってきた心の傷に向き合う小説だ。濱口竜介監督によって映画化もされ、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞するという快挙も成し遂げてい…

真夏のピークは去ったけれど『サマータイム・マシン・ブルース』が観たい

猛暑日も少なくなって段々と過ごしやすくなってきた。 真夏のピークが去ったのかもしれない。天気予報士がテレビで言っていたかどうかは知らない。 涼しくなることに嬉しさを感じる一方で、まだ夏っぽいことしてないなと寂しくなってしまう自分もいる。花火…

もはや注釈がメイン!?注釈が多い小説まとめ

小説や評論などで、補足のために注釈が付けられていることはよくあることだ。 しかし、本文よりも注釈がメインになっている小説があるといえば驚くだろうか? ポストモダン*1小説と言われる小説には、既存の発想にとらわれない様な小説が数多くある。 その中…

濃密に漂う死の匂い / 「ニューヨーク炭鉱の悲劇」 村上 春樹

村上春樹の「ニューヨーク炭鉱の悲劇」は、濃密な死の匂いが立ち込める小説だ。 話の意味するところや、構成の意図するところが分からなくても、作中に漂う「死の匂い」を感じ取った人は多いんじゃないかなと思う。この小説では、主人公の周りで多くの人が死…

夏目漱石『こころ』の遺書が長すぎる件について

こころ (ちくま文庫) 作者:夏目 漱石 筑摩書房 Amazon 夏目漱石『こころ』といえば、男女の三角関係を描いた不朽の名作だ。 「友情をとるか、恋愛をとるか」という普遍的なテーマを扱った『こころ』は、同じようなことを経験したことがある人なら深く心に刺…

現代の戦争!戦後生まれの作家が描いた戦争小説まとめ

戦争の形は時代とともに移り変わる。 こんな時代だからこそ、現代作家が描いた戦争小説を紹介したい。 『となり町戦争』 / 三崎 亜記 『小隊』 / 砂川 文次 『わたしたちに許された特別な時間の終わり』 / 岡田 利規 『ヨハネスブルグの天使たち』 / 宮内 悠…

ホラーすぎる!?人間の怖さを描いた芥川賞受賞作品まとめ

純文学の新人賞として知られている芥川賞。 受賞作品は、恋愛や青春、親子関係など様々なテーマを描いている。 人間の内面を深く描いた作品の中にはホラーにも匹敵するくらい怖いものもある。 芥川賞受賞作品の中から、ホラーすぎる人間の怖さを描いた小説を…

夏目漱石『こころ』を読むならちくま文庫版を推したい件について

こころ 作者:夏目 漱石 Amazon 夏目漱石の『こころ』といえば、男女の三角関係を描いた不朽の名作だろう。 高校の国語で勉強するので、大抵の人は読んだことがあるはずだ。 「友情をとるか、恋愛をとるか」という普遍的なテーマを扱った『こころ』は、同じよ…

心を揺さぶる!感傷的でエモい恋愛小説をまとめてみた

「エモい」という言葉は、英語の「emotional(エモーショナル)」が由来の若者言葉だ。 ニュアンスとしては、「感情が揺り動かされる」・「切ない」といった感じだろうか。昔でいうところの「をかし」かもしれない。いや違うか。 この「エモい」というフレー…

幾何学的な形の「坊っちゃんの塔」を見てきた

東京の飯田橋には東京理科大学がある。 理系の人なら知っているであろう有名な私立大学だ。 大学名に「理科」が入っているということで文系とは無縁な感じがするが、校内には文学にちなんだものがある。 それは「坊っちゃんの塔」だ。 下に実際の写真を貼っ…