夏目漱石の『こころ』といえば、男女の三角関係を描いた不朽の名作だろう。
高校の国語で勉強するので、大抵の人は読んだことがあるはずだ。
「友情をとるか、恋愛をとるか」という普遍的なテーマを扱った『こころ』は、同じようなことを経験したことがある人なら深く心に刺さるだろう。
夏目漱石の『こころ』だが、色々な出版社から文庫本が発売されている。
例を挙げてみると、新潮文庫、角川文庫、岩波文庫、文春文庫、集英社文庫、ちくま文庫と6つの出版社から文庫本が販売されている。
「内容は『こころ』なんだからどれも同じじゃないのか」と思うかもしれないが違うのだ。
表紙・解説の内容が違っていて選ぶ余地があるのだ。
僕としては新潮文庫とちくま文庫の二冊を持っている。
夏目漱石は主に新潮文庫で集めているので、統一性のために新潮文庫で買ったのだ。
ただ、解説の内容でいくとダントツでちくま文庫版を推したい。
じゃあ、ちくま文庫版『こころ』の何がいいのかというと、解説として小森陽一の論文「こころ」を生成する「心臓(ハート)」が収録されているからだ。
小森陽一の「こころ」を生成する「心臓(ハート)」というのは、『こころ』の解釈に一石を投じた記念的な論文だ。
実際にこの論文と石原千秋の論文・「こゝろ」のオイディプス : 反転する語りが元で「こころ論争」という「こころ」の解釈をめぐる大きな議論が巻き起こった。
では「こころ」を生成する「心臓(ハート)」という論文にはどんなことが書いてあるのだろうか?
端的にいうと、「私」は先生の死後お嬢さんと共に生きているという論が提示されている。
作者と作品を切り離し文章に基づいて解釈を行う「テクスト論」に基づいた方法で『こころ』を読み解いたのだ。「テクスト論」で有名なのが小森陽一と石原千秋だった。
この小森陽一と石原千秋が提唱した読解は大きな反響を呼び、日本近代文学研究に一石を投じた。
このような『こころ』の新しい読み方を提示した論文が一緒に掲載されている点で、ちくま文庫版がおすすめなのだ。
ぜひ、ちくま文庫版を読んで欲しい。