村上春樹作品にはよく映画が登場する。映画そのものが登場するときもあれば、比喩表現として登場するときもある。村上春樹作品は映画から多大なる影響を受けていると言われることも多い。最近では村上春樹と映画の関係について考察した「村上春樹 映画の旅」という展覧会も開催されていた。
村上春樹と関係がありそうな映画監督としてはジャン=リュック・ゴダールが思い浮かぶ。
ジャン=リュック・ゴダールは、新しい表現技法を追求したフランス映画の潮流・ヌーヴェルヴァーグの巨匠だ。ジャンプカットや手持ちカメラ、書物から引用、原色を多用した色彩の演出が特徴である。「小さな兵隊」や「勝手にしやがれ」、「女は女である」、「アルファヴィル」、「気狂いピエロ」、「女と男のいる舗道」、「中国女」、「軽蔑」など話題作を次々に発表した。
『アフターダーク』などの作品にゴダールの作品が登場しているのだ。この記事では村上春樹とゴダールの関係性を見ていきたい。
村上春樹はゴダールの影響を受けている?
果たして村上春樹はゴダールから影響を受けているのだろうか。これに関してWikipediaに面白い記述があった。『村上朝日堂ホームページ』上で「ゴダールの影響は?」という読者からの質問に対して、村上春樹はゴダールからの影響を認めているようだ。その部分を引用してみよう。
「はっきり言って、僕はゴダールの映画に強い影響を受けています」
「高校時代、神戸のアートシアターでヌーヴェルバーグものを見まくったんですが、(中略)あの当時、神戸の街で僕くらい深くジャン・リュック・ゴダールを愛していた人間はそんなにいなかったと思います」
村上春樹作品にはゴダールやトリュフォーのヌーヴェル・ヴァーグの作品がよく登場するイメージがあったが、どうやら影響を受けているようだ。
村上春樹作品に登場するゴダール作品
ゴダール作品の名前が登場する作品といえば『アフターダーク』が挙げられるだろう。登場するゴダール作品は『アルファヴィル』だ。ラブホテルの名前として『アルファヴィル』が登場する。その部分を引用してみよう。
「そこのラブホだよ」とカオルは言う。
「ラブホ?」
「ラブホテル。カップル・ホテル。要するに、連れ込み。『アルファヴィル』 ってネオンの看板が出てるだろ? あれだよ」
マリはその名前を聞いて、思わずカオルの顔を見る。「アルファヴィル?」
「大丈夫だよ。変なところじゃない。あたしがそのホテルのマネージャーをやってるんだ」
また、Wikipediaによると名古屋市を取材した時の体験が『アフターダーク』のラブホテルの描写のもとになっているようだ。
「名古屋のラブホを取材したとき、従業員の部屋みたいなのがとても面白かったので、それをモデルにして『アフターダーク』のラブホ『アルファヴィル』を描きました。名古屋はラブホと風俗がけっこう充実しています」
また、『アルファヴィル』だが、別の村上春樹作品にも登場していたようだ。
また、Wikipediaによると雑誌発表時の『羊をめぐる冒険』にもアルファヴィルが登場していたようだ。その部分を引用してみる。
「海のかわりに埋立地と高層ビルが見えた。まるでジャン・リュック・ゴダールの『アルファヴィル』みたいな眺めだった。」
残念ながら、単行本化された時にこの部分は削除されてしまったみたいだ。
また、連作短編集『神の子どもたちはみな踊る』にもゴダール作品への言及がある。こちらは作中に登場する訳ではないのだが、ジャン=リュック・ゴダールの映画『気狂いピエロ』の一節がエピグラフに引用されている。
冒頭にも書いたが、映画と村上春樹の関係を考察するのに『村上春樹 映画の旅』という展覧会の図録が役に立った。村上春樹の各作品と関連する映画が網羅的に挙げられていて参考になる。興味のある方は是非読んでみてほしい。
村上春樹が好きなゴダール作品は何か?
ゴダールに影響を受けている村上春樹だが、好きなゴダール映画は何なのだろうか?村上春樹は「ゴダールの作品から3つを選ぶとすれば一体何になるでしょうか?」という質問に対しこう回答している。
僕の好きなゴダール作品は(あくまで個人的に好きだということです)『女と男のいる舗道』『恋人のいる時間』『アルファヴィル』です
『女と男のいる舗道』『恋人のいる時間』『アルファヴィル』はいづれもゴダールの有名な作品だ。『アルファヴィル』に関しては、村上春樹作品の『アフターダーク』にも登場しているので知っている人も多いだろう。