日々の栞

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謎解き『すずめの戸締まり』 / 村上春樹「かえるくん、東京を救う」から考察する


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今年の11月11日に新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』が公開された。

水溜りの上にある扉の印象的なビジュアル観るものを圧倒する華麗な情景描写。予告を観ただけでも期待が高まる。

音楽は、『君の名は。』と『天気の子』に引き続きRADWIMPSが担当する。映画の予告映像で流れている「すずめ」は、RADWIMPSが作詞作曲で女性ボーカルの十明(とあか)が歌唱している。また、主題歌の「カナタハルカ」はRADWIMPSが歌唱している。

ネタバレしない程度に簡単に書くと、『すずめの戸締まり』は天災に真っ向から向き合ったロードムービーだ。これまで新海誠監督は『君の名は。』や『天気の子』で人間に襲いかかる天災を描いていたと思うが、『すずめの戸締まり』ではある天災について真っ向から描いている。

そんな新海誠だが、色んなインタビューなどで村上春樹に影響を受けたと度々語っている。それもあってか、春樹チルドレンを列挙する中で新海誠の名前があがることが多い。

この「すずめの戸締まり」は村上春樹作品に影響を受けたのではないかと思える部分がいくつかある。この記事では、『すずめの戸締まり』と村上春樹の「かえるくん、東京を救う」の共通点などを考察していきたい。

ここから下ではネタバレ全開で『すずめの戸締まり』の考察を行っていく。内容にがっつり触れるので、未読のかたは注意してほしい。

 

 

新海誠『すずめの戸締まり』と村上春樹「かえるくん、東京を救う」

『すずめの戸締まり』でもある村上春樹作品がモチーフになっているのではないかと思っている。その作品というのが、「かえるくん、東京を救う」という短編小説だ。

かえるくん、東京を救う」という短編は『神の子どもたちはみな踊る』という短編集に収録されている。英訳名が「After the quake」となっているように、この短編集は地震がテーマになっている。阪神淡路大震災がきっかけで執筆された作品だ。

新海誠『すずめの戸締まり』と村上春樹『かえるくん、東京を救う』だが、①地震が作品のテーマ②ミミズが地震を引き起こす③東京を地震から救うという設定が共通点だ。

「すずめの戸締まり」に関しては、日本神話の内容によるところが多いのだが、地震を引き起こす要因としてナマズではなくミミズを選んでいるあたりに村上春樹の影が見える。

『すずめの戸締まり』では東日本大震災が作品のテーマにつながっているのだが、「かえるくん、東京を救う」では阪神淡路大震災が作品のテーマになっている。ともに大震災がテーマになっているのが共通している。

また、どちらの作品においてもみみずが地震を引き起こす要因として描かれている。どの作品においても、地震の発生を止めるというのがメインストーリーだ。

また、人知れず世界の安定を守っている部分や、地震を防ぐために戦うという点でも共通している。「かえるくん、東京を救う」からいくつかのモチーフが使われているのではないかと思う。

 

 

「かえるくん、東京を救う」のあらすじ

では、簡単に村上春樹「かえるくん、東京を救う」の内容を紹介しよう。

主人公の片桐がアパートの部屋に戻ると、巨大な蛙が待っていた。蛙は「かえるくんと呼んでください」と言い、片桐に協力を求める。それは、地下にいるみみずくんが地震を引き起こし、東京に甚大な被害を与えるというものであった。片桐はかえるくんと共に地下に降り、みみずくんと闘い、地震を阻止する。それがかえるくんの依頼だった。片桐はかえるくんに協力することに決めるのだが、片桐は狙撃された。そして目が覚めたとき、片桐は病院のベッドに横たわっていた。その日の夜中、かえるくんが病室に現れ、ミミズくんとの戦いの顛末を伝える。かえるくんはみみずくんと引き分けたが、地震をなんとか食い止めることができたのである。かえるくんは戦いの後、崩れ落ちてしまう。

『すずめの戸締まり』に通じる部分があるので、気になる人はぜひ読んでみてほしい。

 

 

『海辺のカフカ』の影響もある?

もう1つ『すずめの戸締まり』と関係がありそうな村上春樹作品がある。その作品は『海辺のカフカ』だ。村上春樹の代表的な長編小説だ。

主人公が「戸締まり」する点と「喋る猫」が登場する点が、『すずめの戸締まり』と『海辺のカフカ』の共通点だ。また、カフカはチェコ語でカラスを意味する。もしかしたら、『海辺のカフカ』の影響もあるかもしれない。

 

新海誠と村上春樹

新海誠だが、色んなインタビューなどで村上春樹に影響を受けたと度々語っている。

それもあってか、春樹チルドレンを列挙する中で新海誠の名前があがることが多い。

感傷的なモノローグや恋愛の喪失感を描くあたりが村上春樹に似ているように思う。『秒速5センチメートル』は新海誠が注目を集めるきっかけとなった作品だが、恋愛の喪失感や過去の恋愛に囚われた男を描いたという点で村上春樹の『ノルウェイの森』と似たところがある。『秒速5センチメートル』は新海誠版の『ノルウェイの森』と言えるかもしれない。

 

君の名は。

君の名は。

  • 神木隆之介
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新海誠が大ブレイクするきっかけとなった『君の名は。』にも村上春樹の影響が見られる。『君の名は。』のオープニングシーンでは「何かを探しているが、それがわからない」という喪失感が描かれていたが、僕はこの喪失感に既視感を覚えた。既視感の原因となったのは「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」という村上春樹の短編小説だ。この小説の喪失感によく似ているのだ。

「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」は『カンガルー日和』に収録されている短編小説で、悲劇的な運命の恋を描いた名作だ。この短編は100%の女の子に出会った男の話だ。男はその100%の女の子とのかつての出会いを想像し、互いに失った記憶に思いをはせるのだ。これは『君の名は。』のラストシーンに通じる。運命の人を探すという『君の名は。』のストーリー骨格も「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」と似通ったものがある。新海誠の解説によると、「君の名は。」は「4月のある晴れた朝に〜」がモチーフになっているようだ。

 また奥寺先輩の最後のセリフ「幸せになりなさい」は、『ノルウェイの森』でレイコさんがワタナベに告げたセリフだ。ここでのレイコさんは、『君の名は。』の奥寺先輩と同じように主人公にとって年上の女性だ。『ノルウェイの森』では、ワタナベが直子との過去の恋から立ち直り次の一歩を踏み出すことができるようにと、レイコさんが伝えた重要なセリフだ。新海誠も引用していることをインタビューで認めていた。

 

 

 

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