日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

一番売れているのは?村上春樹の売上・発行部数ランキング

現代日本文学を代表する作家といえば村上春樹だろう。

その人気は日本にとどまらず、世界中で広く愛されている。村上春樹は日本の現代作家の中で世界で最も翻訳されている作家だと言っても過言ではない。アメリカやロシア、中国、韓国、イスラエル、イギリス、フランス、イタリア、デンマークなど、50以上の言語に翻訳されているのだ。村上春樹は日本の作家の中でも飛び抜けて世界中で読まれている作家と言える。

村上春樹作品には、洒脱な表現や比喩巧みなストーリーテリング、ミステリアスな登場人物やストーリー展開など魅力が詰まっている。

最近ではノーベル文学賞の候補だとかなんだかで騒がれたりと話題が絶えない村上春樹だが、村上春樹の作品の中で一番売れた本が気にならないだろうか?

海辺のカフカ』や『1Q84』、『ノルウェイの森』、『ねじまき鳥クロニクル』など話題作がいくつかあるが、その売り上げランキングとなると公開されていない。

この記事では、過去に公開されている発行部数を参考にして売上・発行部数ランキングを作成してみた。参考になれば幸いだ。

 

 

 

売上・発行部数の推定方法

けれども、基本的に本の発行部数は調べることができない。本の発行部数は機密情報みたいなものなので一般的には公表されないのだ。

ただ、とてつもなく売れたベストセラー本の場合は宣伝の一環で「〇〇万部突破!」と帯などに描かれたりする。この記事では、ニュースなどで公表された部数を参考に売上・発行部数ランキングを作成した。

また、売り上げなどがニュースなどで公表されていなくても、大まかな数字なら推測することが可能だ。

その方法とは、本の後ろに書かれている刷り数を確認することだ。ほとんどの本には最後のページに初刷りの日と現行の刷り数が書かれている。この記事では、参考として文庫本の刷数も同時に記載した。

 

村上春樹の売上・発行部数ランキング

第11位 街とその不確かな壁

その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド。

発行部数:約38万部(2023年時点、引用元:上半期総合1位「街とその不確かな壁」村上春樹氏 - 産経ニュース

街とその不確かな壁』は村上春樹の最新長編小説だ。過去の幻の長編「街と、その不確かな壁」のリメイク作品でもある。「街と、その不確かな壁」では不十分だった部分が保管され、物語の厚みがましていた。僕が読んだ時にこの部分は深堀した方が良いんじゃないかと思っていた点が『街とその不確かな壁』では補充されていた。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』とは違って、『街とその不確かな壁』では作品全体に静謐な雰囲気が漂っていた。静的な物語世界に浸り、村上春樹ワールドを十二分に楽しむことができた。村上春樹のおなじみの要素が登場して、村上春樹作品を数多く読んできた読者にはすごく楽しめるのではないかと思う。ファン向け作品といったところか。

 

 

第10位 海辺のカフカ

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」―15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真…。

発行部数:約73万部(2009年時点、引用元:「1Q84」人気爆発:時事ドットコム

海辺のカフカ』は、15歳の「僕」とナカタさんを主人公とする、エディプス王の悲劇を下敷きにした物語だ。『ねじまき鳥クロニクル』に引き続き暴力というテーマが扱われている。2つの話がパラレルに展開していく。

クライマックスの場面は、村上春樹でしか味わえないような深い余韻を与えてくれるのでかなり好き。

 

 

第9位 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

多崎つくるは鉄道の駅をつくっている。名古屋での高校時代、四人の男女の親友と完璧な調和を成す関係を結んでいたが、大学時代のある日突然、四人から絶縁を申し渡された。理由も告げられずに。死の淵を一時さ迷い、漂うように生きてきたつくるは、新しい年上の恋人・沙羅に促され、あの時何が起きたのか探り始めるのだった。

発行部数:約100万部(2013年時点、引用元:村上春樹の新刊が累計100万部突破 | ダ・ヴィンチWeb

めちゃくちゃタイトルが長い村上春樹の小説としてお馴染みの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。タイトルがめちゃくちゃ長いので、ここからは『多崎つくる』と略していく。なんとこの作品は累計発行部数が発売7日目にして100万部を突破したのだ。

主人公は、大学生の時に仲が良かったグループから追放されて、心に深い傷を負った多崎つくる。時が経ち、多崎つくるは自分が絶縁された理由を探るため、大学時代の友人を巡り自分の過去・トラウマに向きあっていく

なんで多崎つくるは色彩を持たないのかというと、それは名前に答えがある。大学の友人グループの中で、多崎つくるだけが名前に色を示す漢字が入っていないのだ。また、色彩を持たないというのは、ポール・オースターの『幽霊たち』へなオマージュだろう。村上春樹の入門としてもオススメの作品だ。

 

 

第8位 騎士団長殺し

一枚の絵が、秘密の扉を開ける――妻と別離し、小田原の海を望む小暗い森の山荘に暮らす36歳の孤独な画家。緑濃い谷の向かいに住む謎めいた白髪の紳士が現れ、主人公に奇妙な出来事が起こり始める。雑木林の中の祠、不思議な鈴の音、古いレコードそして「騎士団長」……想像力と暗喩が織りなす村上春樹の世界へ!

発行部数:約130万部(2017年時点、引用元:アドタイ

第8位は『騎士団長殺し』。『騎士団長殺し』では、これまでの村上春樹作品に出て来たモチーフがたくさん使われていて、村上春樹のベストアルバムと言える内容だ。これまでの村上春樹作品を読んでいる人ならかなり楽しめるのではないだろうか。また、人称が、『海辺のカフカ』・『1Q84』の時の三人称から、初期作品で使われていた一人称(「僕」ではなく「私」だが)になっていて、雰囲気も初期作品に近いものになっている。特に『ねじまき鳥クロニクル』に雰囲気が近いなと感じた。初期の村上春樹が好きな人におすすめの作品だ。

 

 

第7位 風の歌を聴け

1970年の夏、海辺の街に帰省した<僕>は、友人の<鼠>とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。2人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、<僕>の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。

発行部数:約180万部(2005年時点、引用元:Wikipedia)
風の歌を聴け』は、群像新人文学賞を受賞した村上春樹のデビュー作だ。原点にして頂点みたいな感じである。読んだ人は分かると思うのだが、村上春樹はデビュー作から独特な文体を完成させているのだ。そんなに長い小説ではないので読みやすい。

一見すると、あるひと夏の思い出の話のように見えるが、実は作中のキーワードを丹念に追っていくと、ジグソーパズルのようにバラバラの断章が繋がっていくのだ。その点で、読みやすいけど、奥がかなり深い小説だ。

 

 

第6位 世界の終りとハードボイルドワンダーランド

高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。

発行部数:約227万部(2002年時点、引用元:Wikipedia)

第6位には『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』がランクイン。静謐な世界を舞台にした大人向けのファンタジー小説だ。村上春樹独特のクセが少なく、初めて村上春樹を読む人にも薦めたい。この作品で村上春樹は第21回谷崎潤一郎賞を受賞している。

不思議な異世界を描いた「世界の終り」とスリリングな展開が繰り広げられる「ハードボイルド・ワンダーランド」が並行(パラレル)に進行していく構成になっている。進むにつれて、2つの世界が徐々に繋がっていくのだ。「計算士」や「組織(システム)」、「記号士」、「工場(ファクトリー)」など謎めいた組織が暗躍していて、謎めいた組織は何なのが気になってページをめくる手が止まらなくなる。この作品は、読者を日常から離れた不可思議な世界に読者を連れていってくれる。

 

 

第5位 ねじまき鳥クロニクル

「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。

発行部数:約227万部(2002年時点、引用元:Wikipedia)

文庫第一部  2020年11月15日 59刷発行

文庫第二部  2019年11月15日 53刷発行

文庫第三部  2020年11月15日 53刷発行

第5位は海外でも評価が高い『ねじまき鳥クロニクル』だ。村上春樹はこの作品で読売文学賞を受賞している。

ねじまき鳥クロニクル』は村上春樹の最高傑作との呼び声が高い作品だ。何が村上春樹の最高傑作かというのは意見の分かれるところだと思うけれど、個人的には『ねじまき鳥クロニクル』は最高傑作だと思っている。

日本だけではなく、海外でも広く読まれていて評価が高い。海外に翻訳された村上春樹の作品に書かれている作家紹介にも『ねじまき鳥クロニクル』が代表作と書かれていることが多い。

妻の失踪という身近な話から、歴史や暴力などの壮大なテーマに繋がっていくのは圧巻。ストーリーテリングもさることながら、文章も素晴らしく、描写に迫力がある。特に皮剥の描写は秀逸すぎて、トラウマもの。話の構成的に『1Q84』と対になるような作品だ。

 

 

第4位 ダンス・ダンス・ダンス

『羊をめぐる冒険』から4年、激しく雪の降りしきる札幌の町から「僕」の新しい冒険が始まる。羊男、美少女、そしていくつかの殺人――。渋谷の雑踏からホノルルのダウンタウンまで、「僕」は奇妙で複雑なダンス・ステップを踏みながら、暗く危険な運命の迷路をすり抜けていく。70年代の魂の遍歴を辿った著者が80年代を舞台に、新たな価値を求めて闇と光の交錯を鮮やかに描きあげた話題作。

発行部数:約227万部(2002年時点、引用元:Wikipedia)

ダンス・ダンス・ダンス』は、『羊をめぐる冒険』につながる青春小説だ。喪失感に満ちた『羊をめぐる冒険』と比べると、かなり救いのある小説になっている。羊男も再登場する。

村上春樹の小説の中で一番雰囲気がオシャレなのが『ダンス・ダンス・ダンス』だと思っている。『海辺のカフカ』などの作品に比べると、マイナーな部類に入るが、おすすめの小説だ。

 

 

第3位 羊をめぐる冒険

「羊のことよ」と彼女は言った。「たくさんの羊と一頭の羊」「羊?」「そして冒険が始まるの」 故郷の街から姿を消した〈鼠〉から〈僕〉宛に、ある日突然手紙が届く。同封されていた一枚の写真が、冒険の始まりだった。『1973年のピンボール』から5年後、20代の最後に〈僕〉と〈鼠〉がたどり着いた場所は――。野間文芸新人賞受賞の「初期三部作」第三作。

発行部数:約247万部(2002年時点、引用元:Wikipedia)

文庫上巻  2021年4月28日 53刷発行

文庫下巻  2021年11月26日 52刷発行

第3位の『羊をめぐる冒険』は、『風の歌を聴け』・『1973年のピンボール』に続く青春三部作の第三作目だ。村上春樹の小説ではお馴染みのキャラクター・羊男が初めて登場する小説でもある。村上春樹はこの小説で野間新人文芸賞を受賞していた。

主人公は、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』に登場した「僕」だ。故郷の街から突然姿を消した〈鼠〉から〈僕〉宛に、ある日突然手紙が届く。同封されていた一枚の写真には羊が乗っていた。主人公の「僕」は色々あって星型の模様を持つ羊を探す旅に出ることになる。星型の羊を探す中で、行方不明になっていた鼠がこの事件に関わっていることがわかる。

ミステリアスなストーリーが魅力的でとても面白く、羊の謎に引き込まれてぐいぐい読める。『羊をめぐる冒険』を読む場合は、三部作前作の『風の歌を聴け』・『1973年のピンボール』を読んでから読むことを推奨する。

 

 

第2位 1Q84

1Q84年──私はこの新しい世界をそのように呼ぶことにしよう、青豆はそう決めた。Qはquestion markのQだ。疑問を背負ったもの。彼女は歩きながら一人で肯いた。好もうが好むまいが、私は今この「1Q84年」に身を置いている。私の知っていた1984年はもうどこにも存在しない。……ヤナーチェックの『シンフォニエッタ』に導かれて、主人公・青豆と天吾の不思議な物語がはじまる。

発行部数:約860万部(2019年時点、引用元:朝日新聞

発行部数ランキング第2位は『1Q84』。単行本・文庫の累計部数は約860万部という驚異的な数字だ。ミステリアスな登場人物とストーリーが話題になり、多数の人が買い求めるなど社会現象にもなった。中には発売前から並ぶ人も。

謎の宗教団体、「空気さなぎ」という不思議な小説、リトルピープル、ミステリアスな少女ふかえり、と謎めいた要素がてんこ盛りで、ページをめくる手が止まらなくなる。

ヤナーチェクのシンフォニエッタが壮大な物語の始まりを告げ、心踊る展開。面白くない訳がない!壮大な物語がどのように収束するのか気になってページをめくる手が止まらない。しかし、宗教団体などの社会的な問題(大きな物語)が個人の恋愛(小さな物語)に収束していくのは個人的に評価の分かれるところ。

 

 

第1位 ノルウェイの森

十八年という歳月が流れ去ってしまった今でも、僕はあの草原の風景をはっきりと思い出すことができる――。1969年、大学生の僕、死んだ友人の彼女だった直子、そして同じ学部の緑、それぞれの欠落と悲しみ――37歳になった僕は、機内に流れるビートルズのメロディーに18年前のあの日々を思い出し、激しく心をかき乱されていた。

発行部数:約1000万部

(2009年8月時点、引用元:https://www.oricon.co.jp/news/68198/full/

文庫上巻  2022年3月 94刷発行

文庫下巻  2022年4月 88刷発行

発行部数ランキング堂々の第1位は、『ノルウェイの森』だ。村上春樹の代表作ともいえ、村上春樹と言えばこの本を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。2009年の段階で、約1000万部突破という驚異的な数字を誇る。上巻は、片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』に抜かれるまで、日本での小説単行本の発行部数歴代1位であったらしい。

赤と緑のおしゃれなカバーが印象的な『ノルウェイの森』。話の内容、性描写の多さ故に、村上春樹作品の中でもかなり好き嫌いが分かれると思う。

高校時代、親友のキズキを自殺で失ったワタナベは、知り合いのいない東京で大学生活を送っていた。ある日、キズキの元恋人・直子と再会し、やがて2人はつき合うようになる。だが、彼女は心を病んでしまい、ワタナベの元を去る。ワタナベは直子と緑という二人の女の子の間で揺れ動く。直子は死んだ友人のガールフレンドだった。喪失感を抱え苦悩するワタナベの行き着く先は。

 

 

以上、村上春樹売上ランキングでした。

まずはよく読まれている作品から村上春樹を読み始めるのはどうだろうか。

 

 

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