日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

2021-01-01から1年間の記事一覧

新型感染症と組織の不条理 / 『臆病な都市』 砂川 文次

新型コロナウイルスが流行し、注目された小説がいくつかある。カミュの『ペスト』が代表的な小説だ。しかし、『ペスト』以外にも感染症を題材にして、話題になった小説がある。それが砂川文次の『臆病な都市』だ。端的に言って、この小説は傑作だと思う。『…

麻耶雄嵩の超問題作 / 『夏と冬の奏鳴曲』 麻耶 雄嵩

麻耶雄嵩の超問題作 首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった!20年前に死んだはずの美少女、和音の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは?メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。 …

謎解き『羊をめぐる冒険』 / 「依頼」と「代行」による「宝探し」の物語

羊をめぐる冒険 (講談社文庫) 作者:村上春樹 講談社 Amazon 物語にはいくつかの基本パターンみたいなものがある。有名なもので言えばオイディプス王に見られる様な「父殺し」の物語骨格がある。「父」というモチーフは色んな文学作品で扱われていて、志賀直…

演劇畑からデビューした現代文学作家のまとめ

戯曲と小説には綿密な関係がある。三島由紀夫や安部公房など優れた小説家は、素晴らしい戯曲も書き残してきた。また、小説家が戯曲を書くだけではなく、劇作家が小説を書き小説家としてデビューした事例も数多くある。演劇畑出身で活躍している小説家を紹介…

ゲシュタルト崩壊は「文字の精霊」の仕業?/ 『文字禍』 中島 敦

小学生の頃、漢字をひたすら書き写すという宿題を経験した人は多いはずだ。宿題をやっている時、こんな経験はなかっただろうか?ずっと同じ感じを描いていると、漢字の線の一つ一つが分解して、意味をなさない図形のように見えてしまう。このような現象には…

概念を奪い取る宇宙人の侵略 / 『散歩する侵略者』 前川 知大

真治と鳴海の夫婦は、ちいさな港町に住んでいる。亭主関白ぶって浮気する真治、気づかないふりで黙っている鳴海。だが真治が、3日間の行方不明ののち、まったく別の人格になって帰ってきた。「真ちゃん」と呼ばせてくれる新しい真治と、鳴海はやりなおそう…

センター試験で話題になったボクっ娘小説 / 『僕はかぐや姫』 松村 栄子

進学校の女子高で、自らを「僕」と称する文芸部員たち。17歳の魂のゆらぎを鮮烈に描き出した著者のデビュー作「僕はかぐや姫」。 センター試験の国語で出題される小説は毎回話題になってきた。 スピンスピンスピンというパワーワードが話題を集めたこともあ…

人が「何らかしら」に変身する変身譚・変身小説まとめ

「変身!」という掛け声といえば仮面ライダーだ。これは皆さんよく知っているだろう。 だが、掛け声「変身」の由来は何かと聞かれたら答えに窮するだろう。「変身!」の掛け声の由来は、意外にもフランツ・カフカの『変身』にあった。こんなところに文学の影…

資本主義の勝ち組の憂鬱 / 『キャピタル』 加藤 秀行

『キャピタル』は、タイトルのCapital(資本)が暗示するように、グローバル資本主義の競争原理を色濃く反映した小説だ。この小説が描くのは、グローバル資本主義における勝ち組の憂鬱だ。勝ち組にも憂鬱はあるのだ。文学といえば弱者の視点で描くことが多く、…

人生は偶然に左右されるもの / 『マッチポイント』 ウディ・アレン

人生は偶然の連続だ。宝くじが当たったり、事故に巻き込まれたり、運命の人に出会ったり、世の中には人が制御できない偶然が多い。「人生は偶然によって大きく左右される」というテーマはウディ・アレンの映画で何度も使われている。 『マッチポイント』は偶…

阿部和重と伊坂幸太郎の夢の共作! / 『キャプテンサンダーボルト』阿部和重 伊坂幸太郎

伊坂幸太郎と阿部和重の共作小説。エンタメと純文学を代表する作家のコラボということもあって、期待に胸を膨らませて読んだ。単行本が発売された当初から話題になっていて読みたかったが、結局文春文庫になっても読まずに新潮文庫の新装版になってから読む…

フランツ・カフカが好きな人にオススメのカフカっぽい作家

変身 (新潮文庫) 作者:フランツ・カフカ 新潮社 Amazon 気がかりな夢から目をさましたら虫になっていたでおなじみのフランツ・カフカ。 代表作の不条理文学『変身』を筆頭に、官僚機構のナンセンスさを描いた『城』や訳の分からない裁判に巻き込まれる男が主…

新しい定番になるか?教科書に載っている村上春樹作品のまとめ

中高生の国語の授業で扱う小説といえば、中島敦の『山月記』や芥川龍之介の『羅生門』、夏目漱石の『こころ』があるだろう。 国語の教科書に載っている小説って昔の作家が多い印象だが、そうでもない。現代日本を代表する村上春樹の小説も新しい定番として国…

組織の不条理と戦争 /『小隊』 砂川 文次

芥川賞候補作の砂川文次「小隊」は組織の不条理を描いた戦争小説だ。「小隊」は、北海道にロシア軍が上陸し、日本の自衛隊と衝突するという架空の戦争を描いている。 まず著者が自衛隊出身ということもあってか、小説のリアリティに圧倒された。専門用語が頻…

第164回芥川賞受賞作を全力で予想してみた!

第164回芥川龍之介賞受賞作を予想してみた! 1月といえば芥川賞受賞作発表の月だ。今回の候補作品を全部読んでみて芥川賞受賞作を予想してみた。今回の候補作はどれもレベルが高く甲乙付け難かった。今回の候補作は、クリープハイプの尾崎世界観の『母影』や…

「歩く、書く、蹴る」の練習の旅 /『旅する練習』 乗代 雄介

中学入学を前にしたサッカー少女と小説家の叔父。 2020年、コロナ禍で予定がなくなった春休み、 ふたりは利根川沿いに、徒歩で 鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出る。 新型コロナウイルスが流行してから、日常の景色が一変した。マスクは必需品になっ…

推しに愛される妄想が現実を変える / 『コンジュジ』 木崎 みつ子

芥川賞候補にもあがっていた木崎みつ子の『コンジュジ』を読んだ。 木崎みつ子はこの『コンジュジ』ですばる文学賞を受賞しデビューしている。『コンジュジ』で芥川賞を受賞すれば、すばる文学賞受賞作で芥川賞受賞という金原ひとみ以来の快挙となる。『コン…

奇妙な図書館からの脱出 / 『図書館奇譚』 村上 春樹

図書館の地下のその奥深く、羊男と恐怖と美少女のはざまで、ぼくは新月の闇を待っていた。 『図書館奇譚』は一般的にはメジャーな作品ではないと思うけれど、村上作品ではお馴染みの「羊男」というキャラクターが出てきたり、超現実的な展開であったり、異世…

残されたモノが突きつける存在の不在 /「トニー滝谷」 村上 春樹

村上春樹は喪失をテーマに数多くの小説を書いてきた。有名な『ノルウェイの森』もそうだし、『羊をめぐる冒険』や『風の歌を聴け』もそうだ。様々な角度や視点から「喪失」を描いてきた村上春樹だが、「トニー滝谷」という短編は残された「遺品」が存在の不…

クリープハイプ尾崎世界観も芥川賞候補に!第164回芥川龍之介賞の候補作まとめ

第164回芥川龍之介賞の候補作が発表された! 1月といえば芥川賞受賞作発表の月ですね。今回の候補作品は話題作が豊富。クリープハイプの尾崎世界観も芥川賞候補にノミネートされています。今回の芥川賞候補って「新潮」・「群像」・「文藝」・「文學界」・「…

丑年の始まりにぴったりな小説 / 「牛」 岡本 綺堂

あけましておめでとうございます。今年は丑年なので、タイトルに牛と入る小説を探していたらたまたま出会ったのが『牛』だ。まさに丑年にぴったり。作者は岡本綺堂で、他の作品には『半七捕物帳』などがある。また怪奇譚なども書いており、『牛』にも少しホ…

とんがり焼は村上春樹の文壇批評? / 『とんがり焼の盛衰』 村上 春樹

「とんがり焼」と聞くと「とんがりコーン」の事を思い浮かべる。名前がほとんど同じだし、「とんがり焼」は「とんがりコーン 」のことを言っているのだろうと思っていた。「とんがり焼き」とは何ぞやと思う人が多いと思うが、知らない人が大半だろう。 「と…

YOASOBIの紅白歌合戦の舞台に使用された角川武蔵野ミュージアムがオシャレすぎる件について

YOASOBIの紅白歌合戦での演奏が素晴らしかった YOASOBI「夜に駆ける」 Official Music Video あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。2021年こそは良い年になって欲しいものです。 大晦日は紅白歌合戦を見ていた。目当てはYOASOBIの「…