日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

第164回芥川賞受賞作を全力で予想してみた!

第164回芥川龍之介賞受賞作を予想してみた!

1月といえば芥川賞受賞作発表の月だ。今回の候補作品を全部読んでみて芥川賞受賞作を予想してみた。今回の候補作はどれもレベルが高く甲乙付け難かった。今回の候補作は、クリープハイプ尾崎世界観の『母影』や、アイドルを推すこと題材にした『推し、燃ゆ』など話題作が多い。

さらには、今回の候補作は、「新潮」・「群像」・「文藝」・「文學界」・「すばる」の五大文芸誌からそれぞれ選出されている。これって意外と珍しい。純文学雑誌バトルロイヤル感があってゾクゾクする。まず先に僕の予想を書いておく。

 

芥川賞

乗代雄介『旅する練習』と宇佐見りん『推し、燃ゆ』のW受賞と予想!

 

この2作はコロナ禍やアイドルを推すという文化など、今の時代を反映した内容となってる。僕は芥川賞の受賞作の役割には、その当時の時代を反映しているというものがあると思っている。その点で、この2作はぴったりじゃないかと思う。

 

次にそれぞれの作品の選評的なものを書いておく。選評って何様だよと思った方も多いだろうが、生暖かい目で見守ってもらえたら幸いだ。

 

 


宇佐美りん『推し、燃ゆ』(文藝秋季号)

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

2019年に『かか』で第56回文藝賞を受賞をしデビュー。同作は2020年、第33回三島由紀夫賞を受賞している。そして二作目の「推し、燃ゆ」で芥川賞候補に。勢いのある新人作家だ。今回は、その勢いのままに芥川賞を受賞すると予想。主人公の一人称語りでアイドルを推すことをリアルに描いている。

推しを推すことに全力を尽くす主人公を、キレキレの文体で描いているのだけれど、ストーリー部分が主人公の成長譚としてしっかりしているので、割としっかりと構成された小説だなと言う印象。バランスが良く取れた小説だ。

 


尾崎世界観『母影』(新潮十二月号)

母影(おもかげ)

母影(おもかげ)

 

 クリープハイプのボーカル・ギター尾崎世界観芥川賞候補に。今回の「母影」で初の芥川賞候補となった。これまでにいくつか作品を発表していて、半自伝的小説『祐介』などがある。「祐介」は尾崎祐介が尾崎世界観になるまでの話だ。千早茜との共著『犬も食わない』でも話題を集めた。今回候補になった「母影」は、自伝的小説ではなく小学校低学年の女の子の視点から見た母親の姿を描いている。

 

 

木崎みつ子『コンジュジ』(すばる十一月号)

コンジュジ (集英社文芸単行本)

コンジュジ (集英社文芸単行本)

 

「コンジュジ」で第44回すばる文学賞を受賞しデビュー。デビューしたてなので、『コンジュジ』で初の芥川賞候補。すばる文学賞受賞作で芥川賞候補になっている。「すばる」掲載作品が芥川賞をとるのは最近では珍しいが、すばる文学賞受賞作で芥川賞受賞となれば金原ひとみの『蛇にピアス』以来の快挙となる。

タイトルの「コンジュジ」というのは、ポルトガル語で「配偶者」を意味する。実父から性暴力を受ける辛い現実、架空のバンドの緻密な自伝、好きなバンドのボーカルに愛されているという妄想、の3つの物語が重なって、奥行きのある小説になっている。「推しに愛される」と言う妄想が主人公を救う。文体のユーモアもすごく良い。

ただこれデビュー作なので芥川賞受賞は少し厳しいか。二作目を待ちたいみたいな選評がありそう。

 

 

砂川文次『小隊』(文學界九月号)

小隊

小隊

  • 作者:砂川 文次
  • 発売日: 2021/02/11
  • メディア: 単行本
 

「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞しデビュー。以前『戦場のレビヤタン』で芥川賞候補になっている。今回の『小隊』で2回目の芥川賞候補。元自衛官という異色の経歴を持つ。元自衛官とあってか、戦争や兵隊をモチーフにした小説が多く、カフカ的な作風が特徴だ。最近では、新型感染症をモチーフにした『臆病な都市』が話題を集めていた。『臆病な都市』は新型コロナ流行前に書かれていたこともあり、未来を予見した小説と評された。今回候補になった『小隊』は、北海道にロシア軍が上陸し、日本の自衛隊と衝突するという話だ。

 さすが自衛隊出身と言うべきか、自衛隊の描写のディティールがすごく細かくてリアル。

 

 

乗代雄介『旅する練習』(群像十二月号)

旅する練習

旅する練習

  • 作者:乗代 雄介
  • 発売日: 2021/01/14
  • メディア: 単行本
 

「十七八より」で第58回群像新人文学賞を受賞しデビュー。『本物の読書家』で第40回野間文芸新人賞を受賞している。以前には「最高の任務」で芥川賞候補に挙がっている。今回の「旅する練習」で2回目の芥川賞候補。書物の題名や引用、エピソードが読み込まれる作風が特徴だ。「旅する練習」は、サッカー少女とその叔父が利根川沿いに、徒歩で千葉の我孫子から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅に出るという話だ。コロナで予定がなくなるなどタイムリーな出来事が小説中に登場する。この小説の魅力は構成にある。

乗代雄介の小説は、書物の題名や引用、エピソードが読み込まれるのが特徴だ。その特徴は『旅する練習』でも健在で、柳田國男小島信夫それに加えてサッカー選手のジーコの引用やエピソードが挿入される。さらにはおジャ魔女どれみ真言宗も重要なモチーフとなっている。

『旅する練習』は、叔父が語り手として亜美との「練習の旅」を描くという構造になっている。「練習の旅」の時点で描いた名所の描写に、後から当時の様子を細かく描いたという体裁だ。『旅する練習』はこの構造にちょっとした仕掛けがある。

語りの工夫によって、『旅する練習』は最初に読んだ時と2度目に読んだ時とでは印象が異なる小説に変貌する。僕は1度目に読んだときは衝撃を受けて、読み返したときは語りに隠された真実に心を揺さぶられた。

構成といい、文体といい、新型コロナウィルスと言う時代性を取り込んだ点で芥川賞にふさわしいのではないかと思う。

 

 

さて結果はどうなるであろうか⁇