日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

組織の不条理と戦争 /『小隊』 砂川 文次

芥川賞候補作の砂川文次「小隊」は組織の不条理を描いた戦争小説だ。「小隊」は、北海道にロシア軍が上陸し、日本の自衛隊と衝突するという架空の戦争を描いている。

 

まず著者が自衛隊出身ということもあってか、小説のリアリティに圧倒された。専門用語が頻繁し、読んでいる自分も自衛隊として戦場にいるかのような錯覚を抱く。読者である自分も戦場に駆り出されたかのように。文学版の『ダンケルク』と言ったらイメージしやすいだろうか。

 

軍事的なことは僕自身よく分からないのだけれど、「小隊」で描かれているロシア軍の攻め方はかなりリアリティがあるらしい。戦争が始まるぞ!みたいな開戦ではなく、静かに開戦していく様は妙にリアルである。実際の戦争もこんな感じで始まるのだろうか。

 

主人公の安達は戦争を経験したことがなく、開戦した当初は戸惑っているが、組織での役割に突き動かされ滞りなく戦争を遂行していく。官僚的な組織の弊害と、個人の意思ではなく、組織での役割や組織の論理で戦争を遂行していくさまはカフカ的だなと感じた。

 

冒頭での、自衛隊に退去勧告者か伝える「守ってくれるんでしょ」という言葉は、日本とアメリカの関係を暗示しているように思える。

 

小隊

小隊

  • 作者:砂川 文次
  • 発売日: 2021/02/12
  • メディア: 単行本