日々の栞

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次回の万博は?2027年セルビア・ベオグラード万博についてまとめてみた

まもなく閉幕を迎える2025年大阪・関西万博。

閉幕が近づく中、次の万博がどこか気になっている人も多いだろう。次の万博は認定博だと2027年のセルビアのベオグラード万博、大阪万博と同規模の登録博は2030年のサウジアラビアのリヤド万博だ。

特にベオグラード万博は、西バルカン地域史上初となる国際博覧会だ。また史上最大規模の認定博にもなりそうである。

紛争の歴史を乗り越え、欧州の新たな結節点として発展を遂げるセルビアが、地域全体の未来を賭けて挑む壮大な国家プロジェクトである。
なぜ数多の候補地の中からベオグラードが選ばれたのか。そして「人類のためのあそび (Play for Humanity)」という、一見すると風変わりにも思えるテーマには、どのような深い意図が込められているのだろうか。

 

この記事では次回万博セルビアのベオグラード万博について紹介したい。

 


万博の種類:「登録博」と「認定博」

次回のベオグラード万博は大阪万博と同じ「登録博」ではなく規模の小さい「認定博」だ。

国際博覧会は、その規模と特徴によって大きく二つのカテゴリーに分類される。一つは、5年ごとに開催される大規模な「登録博(World Expo)」、もう一つは、登録博の間に一度だけ開催が認められる、規模が大きくない「認定博(Specialised Expo)」である 。
1970年の大阪万博、2005年の愛・地球博、2025年の大阪・関西万博は規模の大きい「登録博」に該当する。

一方、2027年にセルビアで開催されるベオグラード万博は後者の「認定博」になる。認定博は、会期が最大3ヶ月、会場面積が25ヘクタール以内と規定されており、参加国は主催者が建設したパビリオン区画を自国の展示に合わせて内装・外装をカスタマイズする形式が基本となる。

ちなみに次回横浜で開催される横浜花博も認定博だ。登録博が人類の進歩を包括的に示す壮大な祭典であるのに対し、認定博は「人類が直面する特定の課題に応える」ことを目的として設計されている。

 

 

BIE総会での熾烈な誘致合戦

2027年認定博の開催地選定は、セルビア(ベオグラード)、アメリカ(ミネソタ)、スペイン(マラガ)、タイ(プーケット)、アルゼンチン(サン・カルロス・デ・バリローチェ)の5カ国による、近年稀に見る激しい競争となった。
最終的に、最後まで競り合ったスペインのマラガを81対70という僅差で破り、ベオグラードは開催権を獲得した 。
各候補地が掲げたテーマは、アメリカが「健康な人々、健康な惑星」、スペインが「都市の時代:持続可能な都市に向けて」、タイが「生命の未来:調和のとれた暮らし」、アルゼンチンが「自然+テクノロジー=持続可能エネルギー」であり、いずれも現代的な重要課題であった。その中で、ベオグラードが掲げた「人類のためのあそび:すべての人のためのスポーツと音楽」というテーマの独自性は際立っていた。
ベオグラードの勝利は、単なる偶然ではない。地政学的な意義とテーマの斬新さが複合的に作用した結果と分析できる。BIEの公式声明やセルビア政府の発表では、「西バルカン地域で史上初の万博」という点が繰り返し強調されている 。これは、BIEが万博の地理的・文化的な多様性を拡大し、これまで光が当てられてこなかった地域での開催に新たな価値を見出した可能性を示唆している。先進国や主要観光地ではない地域が持つ潜在能力を引き出すという、万博の新たな役割が意識されたのである。

 

ベオグラード万博のテーマ:「人類のためのあそび」

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ベオグラード万博の核心は、そのユニークなテーマにある。一見すると軽やかに響く「遊び」という言葉には、現代社会が直面する課題への深い洞察と、人間性の回復を願う強いメッセージが込められている。
公式テーマは「人類のためのあそび~すべての人のためのスポーツと音楽~(Play for Humanity: Sport and Music for All)」である 。このテーマが意図するのは、単なる娯楽やレクリエーションとしての「遊び」ではない。国境、文化、世代を超えて人々を繋ぐ普遍的な言語であり、人間の成長、発見、そしてイノベーションを促す触媒としての「遊び」の再定義である。
万博のプログラムは3つのサブテーマに沿って構成される。

Power of Play(遊びの力): このユニットでは、遊びが心身の健康や持続可能性にどのように貢献するかを探る。来場者は、遊びが心と体に与える影響を科学的に示すインタラクティブな展示や、五感を刺激する体験を通じて、遊びの治癒的な力を実感することになる。


Play for Progress(進歩のための遊び): ここでは、遊びがイノベーションや想像力の原動力となる様が解き明かされる。遊び心から生まれた画期的な発明や、歴史を動かした思想家、科学者、芸術家たちの物語を通じて、創造性のプロセスそのものを探求する。


Play Together(共なる遊び): このユニットは、遊びが人々を結びつけ、平和やインクルージョン(包摂)を促進するツールとなることを示す。チームワークを体現するスポーツ、協調性を生む音楽、そして来場者が共同で何かを創り上げる体験型スペースなどが企画され、共に遊ぶことの社会的価値を提示する。

 

 

ベオグラード万博の会場


万博会場は、ベオグラード南西部のスルチン地区に位置し、ニコラ・テスラ空港とサヴァ川の間に広がる立地にある。プロジェクト全体の総面積は約167ヘクタールに及び、これは万博会場だけでなく、52,000人収容の新国立競技場、アクアティックセンター、そして参加者や関係者のための宿舎施設「万博村」を含む、巨大な都市マスタープランの一部として計画されている。
この野心的なプロジェクトの設計は、2022年FIFAワールドカップ・カタール大会のスタジアム設計などで世界的に知られる、スペインの著名な建築事務所Fenwick Iribarren Architectsが担当している。会場全体のコンセプトは「アーバン・オアシス」。緑豊かな公共空間や水辺が全体を繋ぎ、来場者や市民に安らぎと交流の場を提供するデザインとなっている。

 


ベオグラード万博の建築コンセプトとパビリオン

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会場の中心には、セルビアが生んだ偉大な発明家ニコラ・テスラにちなんで「テスラ・スクエア」と名付けられた広大な広場が設けられる。その中心に、ホスト国であるセルビア国立パビリオンが巨大なドームとして建設され、万博のシンボルとなる。ただし、この国立パビリオンのデザインについては、英国人デザイナーのランプに酷似しているとの指摘が建築専門家からなされており、物議を醸している側面もある。


会場には、7つの大規模な展示パビリオン、3つのテーマ別パビリオン、各国パビリオン、企業パビリオンなどがある。認定博の形式に則り、参加国には主催者が用意したパビリオン区画が提供される。サイズは大規模(972平方メートル)、中規模(648平方メートル)、小規模(324平方メートル)の3種類があり、各国がこれを自国のテーマに合わせてカスタマイズする。また、開発途上国向けには、複数の国が共同で利用する集合パビリオンも用意される計画だ。大阪万博でいうところのコモンズ館だ。

 

ベオグラード万博の計画で最も注目すべき点の一つが、持続可能性と閉幕後のレガシー(遺産)に対する徹底した配慮である。設計段階からサステナビリティとエネルギー効率が最優先事項とされ、太陽光・風力エネルギーの最大活用や、敷地内での水の再利用などが計画に盛り込まれている。
万博終了後、会場は新たなベオグラード見本市会場として恒久的に利用されることが決定している。具体的には、国際参加者エリアは常設の展示場に、テーマエリアは教育・芸術スペースに転用される。さらに、企業パビリオンなどで使用された革新的な木材構造は解体され、セルビア国内の学校6校、幼稚園、体育館22棟の建設に再利用されるという画期的な計画も発表されている 。また、万博村として建設される約1,500戸の住居は、会期終了後、医療従事者や治安関係者、そして一般市民に手頃な価格で提供される予定だ。
ベオグラード万博の会場計画は、万博の役割を一時的な「イベント」から恒久的な「都市開発」へとシフトさせる野心的な試みである。

従来の万博では、閉幕後の施設が「負の遺産」となるケースが世界的な課題であった。ベオグラードは、万博を都市インフラの抜本的な刷新と新都心創造の「起爆剤」として明確に位置づけることで、この課題に正面から向き合っている。特に、パビリオンの建材を解体して国内の公共施設に再利用する計画は、物理的なレガシーを国全体に分散させるという点で非常に具体的である。

 

 

巨大投資プロジェクトとしてのベオグラード万博

2027年ベオグラード万博は、単なる文化イベントではない。それは、セルビアの経済とインフラの風景を根底から変革することを目的とした、国家規模の巨大投資プロジェクトである。
公式発表によれば、万博会場自体の建設費は約12億9,000万ユーロとされている 。しかし、これは氷山の一角に過ぎない。

セルビア政府は、万博に関連する国家インフラプロジェクト全体で、150億から180億ドル(約160億ユーロに相当)という巨額の投資を行うと発表している。この投資は「セルビア2027」と名付けられた国家開発プログラムのメインであり、その内容は多岐にわたる。会場と空港、都心部を結ぶ高速鉄道の新設、国内の主要都市を結ぶ高速道路網の整備、ハンガリーやルーマニア、北マケドニアと結ぶ新たなエネルギーパイプラインの建設、サヴァ川沿いの港湾施設の開発、そして全国的なデジタルインフラの更新などが含まれる。セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領が、このプロジェクトを「国の顔を変えるものだ」と力強く語るように、これは万博を触媒とした国家改造計画なのである。


この巨大投資がもたらす経済効果への期待は大きい。会期中の直接的な経済効果だけでも11億ユーロ以上が見込まれており 、別の試算では約10億ユーロの歳入が予測されている。
最大の牽引役は観光業である。会期中には400万人以上の来場者が見込まれており 、その多くが海外からの訪問者と予測される。これにより、宿泊、飲食、小売、交通といったサービス産業に大きな恩恵がもたらされることは確実だ。また、大規模な建設事業と数千人規模のイベント運営スタッフの雇用により、国内の雇用環境の改善も期待される。
セルビアは、万博開催をテコにして、国際社会における地位向上と経済関係の強化を積極的に進めている。特に日本との関係強化は顕著である。2025年には、両国間の投資協定が実質合意に至り、日本からの投資を歓迎する姿勢を明確にした 。また、2025年大阪・関西万博の開催に合わせて、大阪で大規模なセルビアへの投資カンファレンスを開催するなど、日本企業への具体的なアピールを強めている。

 

 

史上最大規模の認定博?


2025年7月時点で、すでに119カ国がベオグラード万博への参加を正式に表明しており 、最終的には120から140カ国の参加が見込まれている 。この数字は、2017年にカザフスタンで開催されたアスタナ認定博の117カ国を超えるものであり、ベオグラード万博が史上最大規模の認定博になりそうだ。
公開されている参加国リストには、アジア、アフリカ、中南米など、いわゆる「グローバルサウス」と呼ばれる国々が多く含まれている。

もちろん、アメリカといった主要国も参加を表明している。

日本もベオグラード万博への参加が決まっている。日本政府は2025年8月8日、2027年ベオグラード国際博覧会への公式参加を閣議了解した。経済産業省が幹事省、文部科学省が副幹事省となり、実際の日本館の企画・運営は、数々の万博で実績を持つ独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が参加機関として担うことになった。

 

まとめ

2027年ベオグラード万博は、単なる国際イベントの枠を超え、国家の再興と地域の活性化を賭けた壮大な社会実験となりそうだ。テーマは遊びということで、今から開催が楽しみである。
ベオグラードは、万博を都市インフラの抜本的改革と一体化させ、閉幕後のレガシーを徹底的に計画することで、持続可能な万博の新たなモデルを提示しようとしている。一過性の祭典で終わらせず、国家の長期的な発展へと繋げるそのビジョンは、今後の万博開催を目指す国々にとって重要な指針となるだろう。西バルカン初の万博楽しみである。

 

 

 

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