日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

村上 春樹

謎解き『ノルウェイの森』/ ノルウェイの森(Norwegin Wood)に込められた意味は何か?

村上春樹の作品にはビートルズの楽曲のタイトルが使われているのが多い。ビートルズの楽曲をタイトルに有する村上春樹の作品の中でも最も有名なのが『ノルウェイの森』だろう。作中でも「ノルウェイの森」は重要なモチーフだ。主人公ワタナベを過去の世界に…

新海誠に見る村上春樹の影響と共通点

秒速5センチメートル 水橋研二 Amazon 美しい情景描写、感傷的なモノローグ、センチメンタルな男女の物語、そしてセカイ系...など、新海誠のアニメ作品は作家性がかなり強い。 独自の路線でアニメを作り続けていていて、『秒速5センチメートル』、『言の葉の…

謎解き『1Q84 』 / 『1Q84』というタイトルと小説の構成について

1Q84―BOOK1〈4月-6月〉前編―(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 社会現象を引き起こした村上春樹の『1Q84』。謎めいたストーリーが話題を呼び、ベストセラーとなった。 『1Q84』には回収されなかった謎が数多く残され、謎解き要素が強い…

システムと魂 / 「壁と卵」-エルサレム賞・受賞のあいさつ- 村上 春樹

もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。 この文章は、村上春樹がエルサレム賞の受賞スピーチの中の一文だ。村上春樹のスピーチの中でも一番有名なものかもしれない。村上春樹の小説そのものも…

完璧な「翻訳」をめぐる冒険 / 『ドリーミング村上春樹』

10/19公開『ドリーミング村上春樹』公式予告編 完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。 村上春樹読者なら大体が知っている有名な文章だろう。これは『風の歌を聞け』の冒頭の文章だ。文字通り、村上春樹はここから始まり…

村上春樹の新作短編小説集「一人称単数」が7月に発売!

一人称単数 (文春文庫) 作者:村上春樹 文藝春秋 Amazon 村上春樹の短編集が6年ぶりに発売されることになった。タイトルは「一人称単数」。『風の歌を聞け』でデビューしてから、「僕」という一人称の可能性を追求してきた村上春樹らしいタイトルだと思う。…

「春樹チルドレン」だと思う作家を列挙してみる

「春樹チルドレン」とは 職業としての小説家 (新潮文庫) 作者:春樹, 村上 新潮社 Amazon 昔、小泉チルドレンという言葉が流行った。ちょうど僕が小学生の頃だろうか。かつてのチルドレンは今はどうしているのだろう。小泉チルドレンのように、ある人の影響下…

35歳は人生の折り返し地点 / 「プールサイド」 村上 春樹

『回転木馬のデッド・ヒート』の名作短編 小説の中には、若いときに読むべきものと、年を取ってからじゃないと心に響かないものがある。村上春樹の「プールサイド」という短編は後者に属すると思う。大学生の時に読んだときよりも25歳になった今読み返した方…

村上春樹の『騎士団長殺し』が遂に文庫化!

村上春樹のベストアルバム『騎士団長殺し』が文庫化 騎士団長殺し―第1部 顕れるイデア編(上)―(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 騎士団長殺し―第1部 顕れるイデア編(下)―(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 村上春樹の最新長編『騎士団…

村上春樹版「不思議の国のアリス」 / 『羊男のクリスマス』 村上 春樹

羊男とクリスマス 穴に落ちて不思議な世界に迷いこむ村上春樹版不思議の国のアリス。羊男、双子など村上春樹の小説のモチーフが随所に散りばめられていた。佐々木マキさんの絵が、村上春樹の奇妙な世界観に合っていて、大人のための絵本になっていた。シュー…

そうだ、村上春樹を読もう!初心者におすすめの村上春樹作品

今や日本を代表する作家・村上春樹。その人気は日本にとどまらず、世界中で読まれている。洒脱な表現や比喩と、巧みなストーリーテリング、魅力的な謎解き要素などの魅力が詰まった村上春樹作品。これから村上春樹を読むという人のために、初心者におススメ…

「村上春樹が新ノーベル文学賞最終候補」について思うこと

村上春樹が正式に候補に!? www.jiji.com もはや秋の風物詩ともいえる「村上春樹はノーベル文学賞を受賞するのか」祭り。ハルキストたちがカフェに集まって、今年こそは受賞するとインタビューに答えている風景は見慣れた景色だ。そして、村上春樹が受賞を逃…

トラウマに向き合うということ / 「七番目の男」 村上 春樹

「七番目の男」は村上春樹の短編の中でも最高傑作の一つだと思う 「七番目の男」は『レキシントンの幽霊』に収録された短編で、村上春樹の短編の中でも印象に残る小説だ。「七番目の男」は、別の「鏡」という短編と同じスタイルを踏襲している。そのスタイル…

【やれやれ】村上春樹の小説にありがちなこと

村上春樹の小説にありがちなこと 職業としての小説家(新潮文庫) 作者:村上春樹 新潮社 Amazon 現代日本文学シーンを牽引する村上春樹。その村上春樹の小説にありがちなことを挙げてみた。やれやれ。 「やれやれ」言いがち 村上春樹の小説頻出ワードNo.1と…

失われたものへのレクイエム / 『1973年のピンボール』 村上 春樹

青春三部作の二作目 村上春樹の第二作目であり、青春三部作の2作目である『1973年のピンボール』。『風の歌を聴け』に続いて、主人公は「僕」と「鼠」で、二人の話がパラレルに綴られて行く。この小説で二人が邂逅を果たすことはなく、2人が再び出会うことに…

あの時彼女と寝るべきだったのか /『バート・バカラックはお好き?』 村上 春樹

あの時彼女と寝るべきだったのか ? 「もしかしたらやれていたかもしれない」という経験を世の男性たちはどの位経験しているのだろうか。あの時彼女と寝れたかもしれなかったという経験は僕にはないけれど、もしかしたら付き合っていたかもしれないというよ…

象徴としてのあしか / 「あしか祭り」 村上 春樹

メタファーとしてのあしか そういえばあしかを見た記憶がない。子供の時に見た気がするが、あれはあざらしだっかかもしれない。この「あしか祭り」にとってあしかという存在は重要なものではなく、ある種の象徴性を備えたメタファー的な存在としてあらわされ…

本当に怖いものは... / 「鏡」 村上 春樹

鏡は「この世ではないもの」を映すと言われていて、心霊話の題材としてよく使われる。僕も子どもの時に、合わせ鏡をすると「何か良くないもの」が紛れ込むから辞めなさいと言われた記憶がある。ここでいう「何か良くないもの」というのは心霊的でオカルト的…

村上春樹が好きな人におすすめの作家

職業としての小説家 (新潮文庫) 作者:春樹, 村上 新潮社 Amazon 日本の現代文学を代表する作家・村上春樹。巧みな比喩を多用した文体で孤独や喪失感を描き、『1Q84』や『ノルウェイの森』、『騎士団長殺し』など次々とベストセラーを生み出している。今の日…

人はみな孤独な旅人 / 『スプートニクの恋人』 村上 春樹

恋愛の痛みと不条理さを描いた『スプートニクの恋人』 22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒 し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎ…

村上春樹のベストアルバム / 『騎士団長殺し』 村上 春樹

村上春樹の総集編とも言える『騎士団長殺し』 謎めいたタイトルと内容が明かされないことで同発売前から大きな注目を集め、発売当日には長蛇の列ができるなど、注目を集めている村上春樹の最新長編小説 『騎士団長殺し』。どこの書店に行っても『騎士団長殺…

『ノルウェイの森』が好きな人におすすめの小説

『ノルウェイの森』みたいな小説が読みたい! ノルウェイの森 上 (講談社文庫) 作者:村上 春樹 講談社 Amazon 『ノルウェイの森』は村上春樹の代表作として有名な小説だ。タイトルはビートルズの名曲「ノルウェイの森」に由来していて、主人公ワタナベと直子…

過ぎ去ってゆく青春 / 『風の歌を聴け』 村上春樹

村上春樹の原点 「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」 この印象的な書き出しで始まるのが『風の歌を聴け』。群像新人文学賞を受賞した村上春樹のデビュー作だ。この小説は日本文学にとってエポックメイキングとな…

村上春樹『騎士団長殺し』と又吉直樹『劇場』で新潮社の勢いが止まらない

調子いいんじゃない!?新潮社 騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2017/02/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (31件) を見る 騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編 作者: 村上春樹 出版社/メーカ…

哲学的ゾンビ / 『ゾンビ』 村上春樹

最近どこの本屋に行っても村上春樹の『騎士団長殺し』が平積みされている。本が売れないと言われる中、ここまで売れる村上春樹は本当にすごいなと思う。小説の発売に並ぶというのはほとんどない気がする。村上春樹以外だとハリー・ポッターぐらいかな。純文…

深い関係性を求めて/「カンガルー日和」 村上 春樹

初めて読んだ村上春樹の小説は、高校の教科書に載っていた「カンガルー日和」だ。カンガルーの赤ちゃんを見に行くという、男女の何気ない1日を描いた小説だ。高校生の僕にとって、この小説はよくわからないふわふわした小説として映った。しかし、何度も読ん…

スパゲティーに込められた孤独 / 「スパゲティーの年に 」 村上 春樹

カンガルー日和 (講談社文庫) 作者:村上春樹 講談社 Amazon 村上春樹といえば何かとスパゲティーを茹でがちだが(アルデンテが多い)、スパゲティーそのものを題材にした短編がある。それが「スパゲティーの年に」だ。「スパゲティーの年に」は『カンガルー…