日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

深い関係性を求めて/「カンガルー日和」 村上 春樹

 初めて読んだ村上春樹の小説は、高校の教科書に載っていた「カンガルー日和」だ。カンガルーの赤ちゃんを見に行くという、男女の何気ない1日を描いた小説だ。高校生の僕にとって、この小説はよくわからないふわふわした小説として映った。しかし、何度も読んでいるうちに村上春樹の文体の虜になり、村上春樹作品を読むきっかけとなった。なので、この「カンガルー日和」は思入れのある小説になっている。

 

カンガルーを見るのにうってつけの日から、カンガルー日和というタイトルになっている。この小説の英訳のタイトルが、A Perfect Day for Kangaroosとなっていて、サリンジャーの「バナナフィッシュにうってつけの日(A Perfect Day for Bananafish)」に因んでいる。

 

「青山通りのスーパー・マーケットで昼下がりの買物を済ませ、コーヒー・ショップでちょっと一服しているといった感じだ。」といった洒落た比喩、村上春樹特有の諦念が滲み出ている文体に衝撃を受けた。その当時の自分にとって小説の文体と言えば、芥川龍之介、夏目漱石のような古めかしいものというイメージがあった。こんな小説もあるのか!

 

折にふれてカンガルー日和を読み返すけど、明確なテーマというものが掴めない。けれど、こんな感じの話じゃないかなという漠然とした考えがいつも浮かぶ。カンガルー日和は男女の関係性を描いているのじゃないかと。

 

この小説に出てくる男女の関係性を考えてみる。カンガルー日和を読んでみた印象から、この男女は付き合っているが結婚はしていないという風に感じた。2人のあいだに距離感というか、すれ違いがあるように感じるのだ。カンガルーの赤ちゃんに固執する女とそれを理解できない男。男と女は分かりあえないという諦念を感じた。

 

カンガルーの赤ちゃんは女の妊娠願望のメタファーではないかと、高校生の時の同級生は授業中に言っていた。でも僕にはそう解釈できなかった。妊娠願望というよりかは、強い関係性の希求-守る守られる関係性のカンガルー-を表しているのじゃないか。結婚するかしないか瀬戸際の男女の話しに思えた。カンガルーの赤ちゃん(結婚)にこだわる女と、それがよく理解できない男。結婚を巡る水面下のやり取りが描かれているように思えた。彼女がゼクシィで彼氏にプレッシャーをかける的なやつだ。こじつけすぎかもしれないが。いつかこの小説を理解できる日が来るのかな。

 

栞の一行

しかし何はともあれ、カンガルーを見るための朝はやってきた。

 

 

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