日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

そうだ、村上春樹を読もう!初心者におすすめの村上春樹作品

 

今や日本を代表する作家・村上春樹。その人気は日本にとどまらず、世界中で読まれている。洒脱な表現や比喩と、巧みなストーリーテリング、魅力的な謎解き要素など魅力が詰まった村上春樹作品。僕も高校生の頃から村上春樹作品の魅力に取りつかれ、大体の作品は読んできた。最近ではノーベル文学賞の候補だとかなんだかで騒がれたり、新ノーベル文学賞候補に選出されるもそれを辞退したりと話題が絶えない村上春樹だが、読んだことがない人も多いんじゃないだろうか。

これから村上春樹を読むという人のために、初心者におすすめの小説をタイプ別にまとめてみた。ぜひ村上春樹の小説を楽しんでみて!

 本好きの人:『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』

本好きの人におススメなのが、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』だ。いや、本好きに関わらず色んな人に読んでもらいたい一冊だ。ちょっと長いので全く本を読まない人にはハードルが高いかもしれないけれど、とにかく面白いので読んでみてほしい!この『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』は村上春樹の代表作として言われていて、『ノルウェイの森』のように性描写が多いわけではないから万人に薦めたい。『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』というタイトルからしてワクワクしませんか?

この本を一言で表現すると、大人のための静謐なファンタジー。内容としては、「世界の終り」と「ハードボイルドワンダーランド」の二つの世界が交互に展開していき、最後には二つの世界がつながっていくという風になっている。「計算士」や「組織(システム)」、「記号士」、「工場(ファクトリー)」など謎めいた組織が暗躍していて、謎めいた組織は何なのが気になってページをめくる手が止まらなくなる。この作品は、読者を日常から離れた不可思議な世界に連れていってくれ、読書でしか味わうことのできない体験が待っている。
 
 

 本をあまり読まない人:『パン屋再襲撃』

普段本を読まない人なら、「いきなり長編小説を読むのはキツい...」と思う人も多いはず。そんなあなたにおススメなのは短編集の『パン屋再襲撃』。村上春樹は『ノルウェイの森』や『ねじまき鳥クロニクル』、『1Q84』などの長編小説で有名だけれども、短編小説も精力的に書いている。短編集の中でおススメなのが『パン屋再襲撃』。村上春樹作品の特徴であるシュールな展開やユーモアあふれる文章、喪失というモチーフがコンパクトに楽しめる。

表題作「パン屋再襲撃」はとある夫婦がパン屋を襲おうとする話だ。村上春樹作品に特有のシュールなストーリーを楽しめる。村上春樹の面白いところの一つに比喩の巧みさがあるが、「パン屋再襲撃」での空腹の比喩は本当に秀逸で唸らされる。「パン屋再襲撃」はイラストレーターとコラボして、『パン屋を襲う』という大人向けの絵本となっているのでそちらも是非!

別の収録作の「象の消滅」は村上春樹の短編小説の中でも名作と言われている。また、『ねじまき鳥と火曜日の女たち』という、長編『ねじまき鳥クロニクル』の原型も収録されているので、この短編集から長編小説を読むのもあり。

 

 

サクッと村上春樹を楽しみたい人:『カンガルー日和』

短編小説よりももっとサクッと村上春樹を楽しみたいという人におススメなのが『カンガルー日和』という短編集。この『カンガルー日和』に収録されているのは、短編とショートショートの間ぐらいの長さの小説なので、凄く読みやすい。表題作の「カンガルー日和」は高校の教科書にも採用されたことがあるので、読んだことがある人も多いはず。

この短編集に収録されている「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」は深い余韻を残すの名短編だ。タイトルが秀逸で、理想の女性に出会うことがテーマになっている。ちなみに、この短編は村上春樹好きで知られる新海誠監督の大ヒット映画『君の名は。』のモチーフになっていると言われている。また、「4月のある晴れた朝」は『1Q84』の原型と言われているので、この短編集から『1Q84』に進むのもおすすめ。

 

 

ミステリー的展開が好きな人:『1Q84』

「 謎に引き込まれてページをめくる手が止まらない体験をしたい」あなたには、『1Q84』がおすすめ。この『1Q84』は大ベストセラーとなり、社会現象にもなった。今の日本文学でここまで売れる作家は村上春樹ぐらいだろう。村上春樹作品が面白い理由の一つに、謎解きの要素が多く出てくることがあると思う。この謎は作中で解決しないことが多いけれど、自分なりに小説を読みこんで謎解きをするのが楽しい。

『1Q84』には、「リトルピープル」や「ふかえり」、「空気さなぎ」、「二つの月」などこれでもかと、魅力的な謎が出てくる。謎に引き込まれて、ページをめくる手が止まらない読書体験が出来る。『ねじまき鳥クロニクル』と内容的にリンクするところがあるので、『1Q84』を読んだ後には『ねじまき鳥クロニクル』を読むのがおススメ。

 

 

村上春樹の最高傑作を読みたい人:『ねじまき鳥クロニクル』

とにかく最高傑作を読みたいと思う人には、『ねじまき鳥クロニクル』がおススメ。何が村上春樹の最高傑作かというのは意見の分かれるところだと思うけれど、個人的には『ねじまき鳥クロニクル』は最高傑作だと思っている。(『ノルウェイの森』と『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、『羊をめぐる冒険』、『ダンスダンスダンス』あたりも)日本だけではなく、海外でも広く読まれていて評価が高い。海外に翻訳された村上春樹の作品に書かれている作家紹介にも『ねじまき鳥クロニクル』が代表作と書かれていることが多い。

妻の失踪というスケールの小さい話から、歴史や暴力などの壮大なテーマに繋がっていくのは圧巻。ストーリーテリングもさることながら、文章も素晴らしく、描写に迫力がある。

 

 

 知る人ぞ知る作品から読み始めたい人:『図書館奇譚』

メジャーな作品ではなくて、マイナーな作品から攻めていきたいというあなたには『図書館奇譚』がおススメ。この『図書館奇譚』はメジャーな作品じゃないと思うけれど、村上作品ではお馴染みの「羊男」というキャラクターが出てきたり、超現実的な展開であったり、異世界に行くストーリーであったりと、村上春樹のエッセンスが詰め込まれている。村上春樹版の「不思議な国のアリス」のような小説なので、ファンタジーや不思議な人が好きな人なら面白く読めると思う。

この『図書館奇譚』には、カンガルー日和に収録されている『図書館奇譚』、佐々木マキの絵とコラボした『ふしぎな図書館』、カット・メンシックのイラストと組み合わせた『図書館奇譚』の3つのバージョンがある。この3つを読み比べると通っぽい!?

 
 

村上春樹の別の一面を知りたい人:『グレート・ギャツビー』

村上春樹の、小説家とは別の一面を知りたい人におススメなのが、村上春樹が翻訳した『グレート・ギャツビー』。村上春樹は小説だけではなく、エッセイも書いたり、海外文学の翻訳を手掛けてもいる多角経営的な作家なのだ。

村上春樹が翻訳した中でおすすめなのがスコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』だ。この『グレート・ギャツビー』は村上春樹が影響を受けた作品で、『ノルウェイの森』にも出てくる。『グレート・ギャツビー』は日本人にはなじみがないかもしれないけれど、アメリカ文学を代表する作品で、20世紀最高の小説と言われている。ぜひ読んでみてほしい。特に最後の文章が、今まで読んだ小説の中で一番といえるほど美しい。ぜひ一読あれ。

 
 

村上春樹をこれから読んでいこうと思う人:『風の歌を聴け』

「村上春樹をこれからしっかりと読んでいくぞ!」というあなたには、デビュー作の『風の歌を聴け』がおススメ。そして『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』の青春三部作と、その続きの『ダンス・ダンス・ダンス』と読んでいくことをおすすめする。『風の歌を聴け』は中編ぐらいの長さで、物語というよりかは散文的な小説だ。青春三部作とは「僕」と「鼠」が主人公の青春小説だ。

 
 
 
 
 
色々紹介してきましたが、百聞は一読にしかず。ぜひ、現代日本文学を代表する村上春樹作品を読んでみて!やれやれ