日本の現代文学を代表する作家・村上春樹。巧みな比喩を多用した文体で孤独や喪失感を描き、『1Q84』や『ノルウェイの森』、『騎士団長殺し』など次々とベストセラーを生み出している。今の日本でここまで本を売り上げる作家って村上春樹ぐらいしかいないのではないのだろうか。さらには、世界各国で翻訳されて、世界中で読者を増やし続けている。
僕も村上春樹が凄く好きで、長編は全て、短編もほとんど読んだと思う。村上春樹の小説をあらかた読み終えてしまうと、村上春樹以外で村上春樹っぽい文体や雰囲気の小説を読みたくなる時がある。ないですか?少なくとも僕にはあります。ということで、独断と偏見で村上春樹が好きな人が好きそうな作家、村上春樹っぽい作家を上げてみた。
本多孝好
最初に紹介するのは、村上春樹に影響を受けた村上春樹チルドレンの一人とよく言われている本多孝好。透明感溢れる文章にミステリーを組み合わせているのが特徴。文体や比喩、モチーフに至るまで村上春樹の影響が見られる。例えば『真夜中の五分前』では双子が出てくるが、これは村上春樹の『1973年のピンボール』を彷彿とさせる。この小説は恋愛の喪失と再生をミステリーと絡めた新感覚の恋愛小説だ。映画化された作品も多い。おすすめは『真夜中の五分前』。
大崎善生
こちらも村上春樹チルドレンの代表格と言える作家・大崎善生。小説だけではなくて、『将棋の子』といったドキュメンタリーでも有名(ドキュメンタリーの方が有名かな)。喪失感や喪失からの再生を、透明感溢れる文体で感傷的に描いているのが特徴。村上春樹の文体が好きな人ならきっと好きになると思う。
大崎善生は恋愛小説の名手で、村上春樹で言うところの『ノルウェイの森』や『スプートニクの恋人』のような恋愛の喪失を描いた恋愛小説を書いている。文章の感じといい、感傷的に喪失感を描いている点といい、凄く村上春樹に影響を受けていることが感じられる。おすすめは『パイロットフィッシュ』と、『九月の四分の一』という短編集。
新海誠
『秒速5センチメートル』や『言の葉の庭』、『君の名は。』で知られる映画監督の新海誠。実は映画のノベライズも自ら手掛けている。雑誌のインタビューでもたびたび村上春樹に影響を受けたと語っているように、文章が凄く村上春樹っぽい。
『秒速5センチメートル』は、新海誠版ノルウェイの森といえるぐらい村上春樹の影響を感じられる。この『秒速5センチメートル』では過去の恋愛を引きずり、感傷に浸る自分に陶酔している姿を、叙情的な映像と村上春樹的なモノローグで極限まで美しく描いている。『君の名は。』も『ノルウェイの森』の台詞が引用されていたりと、影響が感じられる。また、映画では描かれていなかった部分が補完されているので、映画と合わせて読むのがおすすめ。特に『秒速5センチメートル』がおすすめ。
衛慧
次は中国の作家。やっぱり村上春樹って海外文学への影響も大きいんだなと。代表作の『上海ベイビー』は、大胆な性描写で話題になり、中国では発禁となったそう。日本でも翻訳されているけれど、絶版になっている模様。古本で探すしかないかな。
佐藤正午
『月の満ち欠け』で直木賞を受賞し、注目を集める佐藤正午。知る人ぞ知る作家みたいな趣がある。雰囲気が村上春樹に似ているとよく言われている。村上春樹の文体を薄めた感じ。この作家は恋愛小説をミステリーやSFと絡めていて、佐藤正午にしか描けない小説世界を構築している。
また佐藤正午の小説には、村上春樹の小説によく見られる恋人・妻の失踪がモチーフに使われていたりする。例としては『ジャンプ』がある。『ジャンプ』は恋人の失踪を基に、過去の選択や、女性の意志を描いている。佐藤正午のおすすめは全部といっても過言ではない。特に上げるなら『ジャンプ』と『Y』、『鳩の撃退法』、『女について』、『取り扱い注意』がおすすめ。
伊坂幸太郎
鮮やかな伏線回収、魅力的なキャラクター、洒脱な会話で人気を集めている伊坂幸太郎。この伊坂幸太郎も文章が村上春樹ぽいとよく言われている。洒脱な比喩や会話の部分が確かに似ているなと。おすすめは『ラッシュライフ』『全部残りバケーション』『砂漠』。
佐藤友哉
知名度がどのくらいあるか分からないけど、個人的にすごく好きな作家・佐藤友哉。メフィスト賞を受賞して、今ではミステリーだけではなく純文学のフィールドでも活躍している。ミステリーだけでなく鬱屈した青春小説の側面もある『フリッカー式鏡公彦にうってつけの殺人』などの鏡家サーガや、三島由紀夫賞を最年少で受賞した『1000の小説とバックベアード』が代表作。
特に『1000の小説とバックベアード』はタイトルからして村上春樹の『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』を彷彿とさせる。おすすめはやっぱり鏡家サーガと『1000の小説とバックベアード』。
加藤秀行
最近デビューした作家だと加藤秀行がオススメだ。加藤秀之は、2015年に「サバイブ」で第120回文學界新人賞を受賞しデビューしている。このデビュー作の『サバイブ』の文体に村上春樹の影響が感じられた。加藤秀行は最近プッシュされているみたいで、「シェア」で第154回芥川賞候補、「キャピタル」で第156回芥川賞候補作となっており、期待の新人だ。
特に『キャピタル』は村上春樹の影響が強いと感じる。物語構造が『羊をめぐる冒険』を踏襲していて、文体も村上春樹により近づいているような印象を受けた。この点に関しては多くの評論家が指摘している。おすすめは『キャピタル』。
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