日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

おしゃれ映画の代名詞!ウディ・アレン監督のおすすめ映画10選

多くの人に愛されているウディ・アレン作品


『映画と恋とウディ・アレン』予告編

ある時は人生の不条理をコミカルに描き、ある時はラブストーリーをロマンチックに演出してきたウディ・アレン監督。アカデミー賞に何度もノミネートされ、今でも精力的に映画を撮り続けている。人生の不条理や人生への皮肉を描いてきたウディ・アレンの映画は多くの人に愛されてきた。

BGMのジャズや、気の利いたジョークや洒脱な会話といい、ウディ・アレンの映画はおしゃれ映画の代名詞だ。最近では、ウディ・アレン監督自身のスキャンダルで逆風が吹いているけれども、ウディ・アレンの映画の面白さは変わらないと思う。個人的におすすめの10作品を紹介したい。

 

 

マンハッタン

マンハッタン

マンハッタン

  • ウディ・アレン
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まずは、 初期の傑作『マンハッタン』。ウディ・アレンの映画の中でも傑作と名高い作品だ。とにかくモノクロのマンハッタンの町が美しい。マンハッタンで繰り広げられる男女の恋愛模様がウディ・アレンらしいシニカルでユーモアに溢れるタッチで描かれている。

 

 

ギター弾きの恋

ギターは上手いが性格に難があるギタリスト:エメット・レイをドキュメンタリータッチで描いた伝記映画だ。

彼にはジャンゴ・ラインハルトの次にギターが上手いという自負があった。そんなエメットは口がきけないハメットに出会い、一緒に過ごすことになる。惹かれあう二人だったが…この映画のテーマは「大切なものは失ってから気づく」というものだ。エメットが失ったものは何なのか?喪失感に満ちたラストシーンの切なさは胸にしみる。この映画は一見すると伝記映画のように思えるが本当は違う。実は、エメット・レイというギタリストは存在しないのだ。この映画は、架空のギター弾きの伝記映画というメタフィクション的な作りになっている。映画中に観客に話しかけたりと変わった演出をしてきたウディ・アレン監督ならではの構成だ。ジャズ全盛期の時代を描いていることもあり、ジャズ好きの人にもおすすめ。

 

 

ハンナとその姉妹

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  • ミア・ファロー
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ウディ・アレンは人生の不条理や喜び、幸せを映画の中で描き続けている。『ハンナとその姉妹』はマンハッタンを舞台に、ハンナ三姉妹の人間関係を描く中で、人生とは何かを表現している映画だ。ユーモラスで知的な会話や、シニカルな台詞などウディ・アレン節が随所にみられる。この映画も「人生は無意味だ」という諦念で覆われているけれども、観終わったあとには何故か心が温かくなる。おすすめの映画だ。

 

 

誘惑のアフロディーテ

ウディ・アレンは、人生の不条理や悲劇をコミカルに描いてきた映画監督だ。『誘惑のアフロディーテ』はギリシャ悲劇を下敷きに、ある男の運命の悲劇をコミカルに描いている。

主人公のレニーはマックスという養子をとる。マックスが順調に成長していく中で、レニーは、マックスの母親がどんな人であるか気になり始める。レニーは母親のリンダを探し当てるが、リンダは娼婦でありポルノ女優だったのである。ギリシャ悲劇の『オイディプス王』と同様に、知りたいという好奇心が悲劇を引き起こしていく。

劇中にコロス(合唱団)が出てくるように、『誘惑のアフロディーテ』がギリシャ悲劇のパロディになっている。この映画はレニーとリンダの悲劇的で喜劇的な運命を、『オイディプス王』といったギリシャ悲劇になぞらえて描いている。ギリシャ悲劇を知っていると何倍もこの作品が楽しめる。ウディ・アレンはギリシャ悲劇を下敷きにすることで、身近な運命の悲劇とギリシャ悲劇は同じようなものだといっているように思えた。悲劇のように思えても、自分の解釈次第では喜劇にもなりうる。観終わったあとに、少し心が楽になる映画だ。ただ、このあらすじがあらすじなので、ウディ・アレン作品の中でもハイレベルな下ネタが繰り広げられている。下ネタが苦手な人はご注意を。

 

 

マッチポイント

マッチポイント (字幕版)

マッチポイント (字幕版)

  • ジョナサン・リース・マイヤーズ
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人生は偶然の連続だ。宝くじが当たったり、事故に巻き込まれたり、運命の人に出会ったり、世の中には人が制御できない偶然が多い。「人生は偶然によって大きく左右される」というテーマはウディ・アレンの映画で何度も使われている。『マッチポイント』は偶然や運をテーマにしたウディ・アレン映画の集大成だ。映画のタイトルの『マッチポイント』とはテニスのことだ。マッチポイントを迎えている時に、偶然ボールがネットにひっかかる。相手のコートに落ちたら、勝ち。自分のコートに落ちたら、マッチポイントが消滅し、負けもありうる。ボールがどちらに落ちるかは運だ。

主人公のプロテニス選手のクリスは、テニス選手以外の道を模索していた。指導しているテニスクラブがきっかけで、上流階級のトムとその家族と親しくなる。そのうちクリスはトムの妹クロエと付き合うようになるが、トムのフィアンセのノラにも強く惹かれ関係を持ってしまう。 クリスは結局、クロエと結婚し上流階級への道を選んだ。しかし、ある日偶然ノラと再会し、再び関係を持ち始めてしまう。欲望と野望の狭間で、クリスの想いは激しく揺れ動き、偶然に委ねられた結末へ辿りついてしまう。クリスに幸運の女神は微笑むのか?ウディ・アレン版「罪と罰」とも言える『マッチポイント』。

 

 

タロットカード殺人事件

タロットカード殺人事件(字幕版)

タロットカード殺人事件(字幕版)

  • スカーレット・ヨハンソン
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寝る前に、肩の力を抜いて笑える映画が観たくなる時がある。そんな映画を観たくなった時は大体ウディ・アレンの映画を観ているような気がする。気軽に観れるコメディとしておすすめなのが『タロットカード殺人事件』だ。

『タロットカード殺人事件』は、『マッチポイント』のようなシリアスなサスペンスではなく、脱力して楽しめるコメディタッチのサスペンスだ。タロットカードが関係する事件の謎解きを楽しむというよりかは、スカーレット・ヨハンソン演じる女子大生とウディ・アレン演じるマジシャンとのコミカルな会話を楽しむ映画だ。『マッチポイント』でも予想を超えるエンディングを持ってきたけど、この『タロットカード殺人事件』でも普通とは違う一ひねり効いたエンディングが待っている。ウディ・アレンらしいブラックユーモアが効いたシニカルなエンディングは予想外すぎて、笑ってしまう。

 

 

カフェ・ソサエティ 

カフェ・ソサエティ(字幕版)

カフェ・ソサエティ(字幕版)

  • ジェシー・アイゼンバーグ
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忘れられない恋 をしたことはあるだろうか?「あのときこうしてれば、付き合っていたかもしれない...」と人生のタラレバを考えたことがある人もいるだろう。人生のもしかしてを描いているのが『カフェ・ソサエティ』だ。

1930年代ハリウッド黄金時代を舞台に、男女のほろ苦い恋愛模様がロマンチックに描かれている。この映画の魅力的なところは、誰しもが考えたことがあるであろう人生のもしかしてが描かれているところだ。もしもあのときこうしてたら...あり得たかもしれない過去を夢想することは魅力的で、甘美なノスタルジーに満ちている。永遠におこりえない過去だからこそ儚く、そして美しくみえてしまう。ボビーが思い描くヴォニーとの「もうひとつの過去」は魅力的だ。

だが、ウディ・アレン監督は甘美なノスタルジーへの自己陶酔だけでは終わらせない。甘美なあり得た過去への陶酔だけではなく、上手くいくことだけではないビターな現実も突きつけてくる。『カフェ・ソサエティ』は、ビター&スイートな大人のおとぎ話だ。

 

 

ミッドナイト・イン・パリ

ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)

ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)

  • オーウェン・ウィルソン
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ミッドナイト・イン・パリ』は、ヘミングウェイのエッセイ『移動祝祭日』で描かれている1920年代のパリを舞台にしたロマンチックファンタジーだ。作家志望の主人公・ギルは1920年代のパリにタイムスリップしてしまい、色んな芸術家と交流するようになる。1920年代のパリにタイムスリップしたギルはそこでアドリアナに恋をするのだが...この映画がテーマにしているのは「過去へのノスタルジー」だ。過去はいつだって美しい。現在から振り返る過去は多かれ少なかれ美化されているもの。いつでも未来は不安なもので、今は苦しく、過去は甘美な郷愁に満ちているものであることを教えてくれる。この映画を観て1920年代のパリにタイムスリップしてみては?

 

 

アニー・ホール 

ウディ・アレン監督作品の中で絶対に外せないのが『アニー・ホール』だ。ちなみに、この『アニー・ホール』は1977年アカデミー賞の主要4部門を受賞している。

数々の恋愛映画の名作を残してきたウディ・アレンだが、その原点は『アニー・ホール』にある。この映画は最初から最後まで実験的だ。観客に突然話しかけてきたりするし、アニメーションが入ったり、時系列シャッフルであったりと、様々な技巧がつかわれている。個性的な演出で描かれているのは男女の出会い、恋愛模様、そして別れだ。この映画は単に甘い恋愛映画ではない。ユーモアでシニカルな会話の中にも、恋愛の本質を突いた台詞が散りばめられている。「恋愛はサメと同じだ。前進し続けないと死んでしまう」『アニー・ホール』はほろ苦い恋愛を描いた大人の恋愛小説だ。

 

 

カイロの紫のバラ 

人はなぜ映画を観るのだろう?人生における映画(フィクション)の役割とは何か?そんな問いに答えるのがウディ・アレンの隠れた名作『カイロの紫のバラ』だ。

映画から登場人物が出てくるというウディ・アレン十八番のメタフィクションになっている。主人公のセシリアは惨めな生活と愛のない夫婦生活から逃れるようにして、映画に夢中になっている。セシリアが夢中になっていたのは「カイロと紫のバラ」という映画だ。

ある時、「カイロと紫のバラ」から主人公・トムが第四の壁を破り、現実世界に出てきてしまう。映画の中も大騒ぎになり、セシリアはトムと逃避行することになるのだが...ウディ・アレンの映画には「人生は不条理にまみれていて辛いものだ」という諦めや諦念が強くにじみ出ている。そんな辛い人生を乗り切るためにはどうすればいいのか?ウディがこの映画で提示する答えは「映画」だ。辛い人生には逃げるための虚構(フィクション)が必要だ。映画はその避難地になってくれる。ラストシーンのセシリアの表情は、人生に映画が不可欠であることを実感させてくれる。この映画にはウディ・アレンの映画愛に満ちている。映画が好きな人ならぜひ見てほしい。個人的にはこの『カイロと紫のバラ』がウディ作品の中で一番傑作だと思っている。

 

 

番外編:映画と恋とウディ・アレン

おまけで、ウディ・アレンの映画作りにフォーカスしたドキュメンタリー作品。ウディ・アレン監督だけではなく、家族や共演者、映画関係者にもインタビューしていて、ウディファンならみて損はない!

映画でムラカミワールドを堪能!村上春樹原作の映画まとめ

日本を代表し、世界中で読まれている村上春樹作品。卓越した比喩と、謎めいたストーリー、ムラカミワールドとしか形容のできない唯一無二の世界観、村上春樹の魅力を語り出すとキリがない。

村上春樹作品が持つ雰囲気は映像化するのが難しいと思うのだが、これまでにいくつか映画化されている。映画によっては忠実に映画化したものと独自の脚色を加えたものがある。

村上春樹原作の映画を紹介しよう。

 

 

風の歌を聞け

1979年度、第22回「群像」新人文学賞を受賞した村上春樹の最初の長編小説「風の歌を聴け」の映画化。村上春樹と芦屋市の中学校の同窓生でもある大森一樹監督が、『ヒポクラテスたち』(80年)の翌年に描いた70年代青春映画の佳作。主人公の「僕」を小林薫、「小指のない女」を真行寺君枝、「鼠」を<ヒカシュー>の巻上公一が演じている他、ジャズ・ミュージシャンの坂田明、当時、自主映画の人気女優だった室井滋が出演。

村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の映画化。特にこれといったストーリーがない(厳密に言うとバラバラの断片の中にストーリーが隠されている)『風の歌を聴け』を映像に落とし込んでいて、独特な雰囲気を映像で表現している。イメージとしては昔のトレンディードラマぽい感じもあり、ゴダールの映画のような雰囲気もある。

ジェイズバー、小指のない女の子、僕と鼠、と『風の歌を聴け』の読者ならお馴染みのモチーフが映像化されているのは不思議な気分だった。

原作に忠実と言うわけではなく、鼠が小説ではなく映画を作っていたりと変更点もある。また『1973年のピンボール』のエピソードも少し加えられている。

 


Hear the Wind Sing 「風の歌を聴け」 (1981) Trailer 予告編

 

 

100%の女の子・パン屋襲撃  

100%の女の子 / パン屋襲撃 [DVD]

100%の女の子 / パン屋襲撃 [DVD]

  • 発売日: 2001/11/09
  • メディア: DVD
 

村上春樹原作の短編映画2作品を収録。センチメンタルでちょっぴり悲しいストーリー『100%の女の子』と、スタイリッシュな映像と独特のユーモアが秀逸な『パン屋襲撃』。ロンドン国際映画祭他、世界10ヵ国の映画祭で絶賛された傑作短編集。 

 村上春樹の傑作短編小説としても名高い「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」と「パン屋襲撃」の二作を映画化。室井滋が主演を演じている。両作品とも20分に満たない短編映画ではあるが、遊び心に溢れた演出がなされている。

 

 

森の向う側

森の向う側 [VHS]

森の向う側 [VHS]

  • バンダイ・ミュージックエンタテインメント
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タイトルとは違っているが、『森の向こう側』は短編小説「土の中の彼女の小さな犬」を映画化したものだ。「土の中の彼女の小さな犬」という小説は短編集『中国行きのスロウボード』に収録されている。原作に忠実に映画化されている作品だ。

行方不明になっている友人を探すため、リゾートホテルへやって来た主人公は、食堂で1人の女性を見かける。主人公はその女性と打ち解けていき、彼女が心に秘めていた秘密を知ることになる。

DVDも見つからず、Netflixやprimevideoでも配信されていないので、現在この作品を鑑賞することは困難だ。非常に残念である。

 

 

トニー滝谷

トニー滝谷

トニー滝谷

  • イッセー尾形
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村上春樹の原作を市川準監督がイッセー尾形と宮沢りえを主演に迎えて映画化。孤独を常としてきながらある女性を愛した男・トニーの姿を通し、最愛の人を失う切なさと人を愛する喜びを映し出す。 

 村上春樹の短編小説の中でも人気が高い「トニー滝谷」の映画化。「トニー滝谷」は短編集『レキシントンの幽霊』に収録されている短編小説で、主人公・トニー滝谷が抱える孤独を描いた作品だ。

監督の市川準、主演のイッセー尾形はともに村上春樹ファンであるようだ。孤独を抱えて成長したトニー滝谷と、服に異様な執着を見せる妻。トニーは妻を失ってしまうのだが、彼の元には妻が残した膨大な量の服があった。トニーは妻が残した衣服を着てくれる女性を探すのだが...

西島秀俊のナレーションや坂本龍一作曲のピアノ曲が静謐な雰囲気の作品を彩る。また原作にはないエピローグが付け加えられている。

 


トニー滝谷

 

 

神の子どもたちはみな踊る

ロサンゼルスに住む若者ケンゴは、宗教活動に情熱を注ぐエキセントリックで美貌の母・イヴリンとの二人暮らし。イヴリンはケンゴを全身全霊で愛し、「神の子」だと言って育ててきた。恩人であり職場のボスでもあるグレンとも距離を置いた付き合いしかできず、恋人のサンドラが結婚したいと願っても、「神の子」であることを理由にそれをはねのけるケンゴ。人生に踏み出せぬ彼の前に、ある日、耳の欠けた男が現れる。それは、本当の父かもしれぬ男。必死に彼の後を追うケンゴは、思いも寄らぬ体験をする‥。 

 「神の子どもたちはみな踊る」の映画化。原作小説は日本を舞台としているが、映画では舞台がアメリカに変更になっており、登場人物もすべてアメリカ人となっている。

出生時のエピソードから「神の子」と呼ばれるケンゴ。自らの父と思わしき人を見つけ、後を追いかけるのだが...

 

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ノルウェイの森

ノルウェイの森

ノルウェイの森

  • 松山ケンイチ
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村上春樹原作の『ノルウェイの森』が名匠トラン・アン・ユンによって映画化!高校時代に親友・キズキを自殺で喪ったワタナベは、偶然キズキの恋人だった直子と再会する。大切なものを喪った者同士付き合いを深めていき、ワタナベは直子に魅かれていく。だが、直子は京都の療養所に入院することになり…。松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子ほか出演。

村上春樹の代表作である『ノルウェイの森』の映画化だ。監督は『青いパパイヤの香り』のトラ・アン・ユン。村上春樹から映画化の許可を得るのに4年かかったそうだ。また、異例なことにビートルズの「ノルウェイの森」の原曲使用許可が下りている。

『ノルウェイの森』は村上春樹作品の中でも広く知れ渡った作品であるので、「原作のイメージを壊さないでほしい」と厳しい目で見られることも多いと思うが、原作の文章が持つ独特の雰囲気をうまく映画化できていると個人的には感じた。学生運動真っ盛りの大学の雰囲気や原作が持つじっとりとした雰囲気など忠実に再現されていた。草原のシーンもすごく叙情的で美しい。

配役に関していえば、ワタナベを演じた松山ケンイチや永沢さんはイメージが近かった。特に、緑役を演じた水原希子はかなりハマり役だと思う。

ただ、原作の重要なシーンがいくつか割愛されていて、そこが残念なところだった。あのシーンがなかったら、意味が分かりにくいと感じる部分が多かったのが残念なポイント。きっと、尺の都合で映像化できなかったのではと思うけど。原作が大好きなので厳しいことも書いてしまったが、村上春樹作品の雰囲気をうまく映画化できた成功例ではないかなと思う。

 


映画 ノルウェイの森 予告

 

 

バーニング

世界的ベストセラー作家・村上春樹の“小説家デビュー40周年記念イヤー"である今年、 短編小説「納屋を焼く」を原作とした極上のミステリーが誕生。全編に仕掛けられた伏線、現実と幻像がクロスする映像、映画だけの衝撃的ラストなど、原作を大胆に脚色しつつも、その世界感を完璧に表現したイ・チャンドン監督の最高傑作! 人気俳優ユ・アイン、ドラマ「ウォーキング・デッド」のスティーブン・ユァン、新人女優チョン・ジョンソが、現代社会の若者の実像を熱演する。

納屋を焼く」と言う短編をもとに『バーニング』と言うタイトルとして韓国で映画化された作品。 原作とは異なり韓国を舞台にしており、ストーリーも原作と大幅に異なっている。

 


村上春樹「納屋を焼く」を実写化『バーニング 劇場版』予告編

 

 

ハレナイ・ベイ

ハナレイ・ベイ

ハナレイ・ベイ

  • 吉田羊 佐野玲於 村上虹郎 佐藤魁 栗原類
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シングルマザーのサチ(吉田羊)は、息子のタカシ(佐野玲於)がハワイのカウアイ島にあるハナレイ・ベイで亡くなったことを電話で知らされる。大好きだったサーフィン中に大きなサメに襲われ死んだという。彼女は、彼が命を落としたハナレイ・ベイへ向かい、海辺近くの大きな木の下で読書をして過ごした。毎年、この「行為」は続いた。同じ場所にチェアを置き、10年間。だが、彼女は決して海には近づかない。ある日、サチは2人の若い日本人サーファーと出会う。無邪気にサーフィンを楽しむ2人の若者に、19歳で亡くなった息子の姿を重ねていくサチ。そんな時、2人から“ある話”を耳にする。「赤いサーフボードを持った、片脚の日本人サーファーを何度も見た」と…。サチは決意する。もう一度、息子に会うために─。

 『東京奇譚集』と言う短編集に収録されている「ハナレイ・ベイ」の映画化。ハナレイ・ベイで息子を失ったシングルマザーの喪失と再生を描いた作品だ。息子が死んだハナレイ・ベイを眺め気持ちの整理をつけていた彼女だが、息子の幽霊を見たという話を聞きつけ、海辺を彷徨する。彼女は喪失にどのようにして向き合うのか。

村上春樹の小説の中でも、リアリズム寄りで喪失と再生を描いたものは映像化しやすし、他の映画にはない魅力を持った作品になるのかなとも思った作品だ。

 


映画『ハナレイ・ベイ』予告編

 

 

ドライブ・マイ・カー

 『女のいない男たち』に収録されている「ドライブ・マイ・カー」をメインに、「シェエラザード」と「木野」の内容も取り入れて映画化されたのが『ドライブ・マイ・カー』だ。

監督は『寝ても覚めても』の濱口竜介監督。『ドライブ・マイ・カー』はカンヌ映画祭など数多くの映画祭で高い評価を受けており、アカデミー賞の脚色賞や国際長編映画賞にノミネートされている。作品賞と脚色賞でのノミネートは日本映画では初のようだ。

妻を失った家福は目の不調から演劇祭の間専属のドライバーを雇うことになる。そのドライバーは女性で、妻が座っていた助手席に座ることによって家福は妻の喪失に向き合う。この作品も喪失や心の傷からどうやって立ち直るかを描いた映画だ。

原作の「ドライブ・マイ・カー」にチェーホフの『ワーニャ伯父さん』を組み込んだ構成が素晴らしく、重層的なストーリーに仕上がっていた。これはアカデミー賞を取ってもおかしくなと思えるくらい素晴らしい作品だ。

村上春樹作品を映画化した中でもかなりの成功作と言えるのではないかと思う。

 


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ここまで紹介した映画の内、『風の歌を聴け』、『トニー滝谷』、『ノルウェイの森』、『バーニング』、『ハナレイ・ベイ』、『ドライブ・マイ・カー』は、U-NEXTで配信されている。観たくなった人はぜひ、U-NEXTに登録してみて欲しい。今なら、31日間の無料トライアルを試すことができる。

 

 

 

番外編 『ドリーミング村上春樹』

ドリーミング村上春樹

ドリーミング村上春樹

  • メッテ・ホルム
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番外編で 『ドリーミング村上春樹』を紹介したい。『ドリーミング村上春樹』は、村上春樹の小説を映画化したものではなく、村上春樹のデンマーク語翻訳を担当してきたメッテ・ホルムがどのようにして『風の歌を聞け』を翻訳するのかを描いたドキュメンタリーだ。

しかも、普通のドキュメンタリーではない。現実と空想の境界線を跨ぐように、ムラカミワールドが交錯する。例えば、『かえるくん、東京を救う』のかえるくんが全編に渡って登場し、『かえるくん、東京を救う』の文章がモノローグのように挿入される。他には『1Q84』の二つの月や、『アフターダーク』の真夜中のデニーズや、ピンボールなどムラカミワールドを彩ってきたアイテムがところどころ登場してくる。村上春樹が海外でどのように読まれているかがよくわかる映画だ。

 

 

番外編 『村上春樹 映画の旅』

村上春樹と映画の関係や、村上春樹原作の映画について考察した「村上春樹 映画の旅」という展覧会が開催されていた。その展覧会の図録だが、貴重な資料も掲載されているので村上春樹ファンにおすすめだ。

 

 

以上、村上春樹原作の映画の紹介でした。やっぱり、リアリズム系の村上春樹作品は映画化しやすいのかなと感じた。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』とかは映像化が厳しいのではないかなと思う。またこれからも村上春樹作品がどんどん映画化されるのだろう。

個人的には「プールサイド」や「眠り」の映画化を見てみたいなと思う。

 

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ビター&スイートな大人のおとぎ話 / 『カフェ・ソサエティ』 ウディ・アレン

ウディ・アレン監督の新たな21世紀ベスト作品!

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お洒落なBGMが流れ、真っ暗なスクリーンにタイトルが浮かび上がるオープニング。このウディ・アレン印のオープニングを観ると、今年もウディ・アレンの映画を観れると顔がにやついてくる。前作の『教授のおかしな妄想殺人』(日本語タイトルが微妙だと思っている)は、『恋のロンドン狂騒曲』みたいにかなりシニカルで皮肉が効いている映画だったので今年はどうなるのかと思っていたけど、『カフェ・ソサエティ』ウディ・アレンの21世紀ベスト作品じゃないか!他のウディ・アレン監督作品に例えると『ミッドナイトインパリ』の甘美なノスタルジーと『アニー・ホール』の恋愛のほろ苦さを足し合わせたような映画だ。この年にしてさらにベスト級の作品を生みだしてくるとは...ウディ・アレン監督作品は大体見ているけど、この『カフェ・ソサエティ』はミッドナイトインパリ以来の傑作じゃないかと思っている。これより下では内容に触れます。

 

 

人生のもしかしたらを描いたビター&スイートな大人のおとぎ話 

映画の舞台は1930年代のハリウッドとニューヨーク。黄金期のハリウッドに、夢を抱いた青年ボビーがやってきた。ハリウッドでエージェントとして成功した叔父のもとで働き始めたボビーは、美しい女性・ヴェロニカ(愛称:ヴォニー)に出会い恋に落ちる。二人はデートを重ね惹かれあっていくが、実はヴェロニカは叔父の愛人だった...プロポーズをヴェロニカに断られ、ボビーは失恋の痛手を引きずり故郷に帰った。

故郷に戻ったボビーはギャングである兄ベンが経営するクラブ「レ・トロピック」で働き始めた。ボビーは店長としての才能を発揮し、店は大繁盛!ボビーは店長として忙しい日々を送る中、来店した美しい女性に魅了される。彼女の名前は奇しくもハリウッドで振られたヴォ二ーと同じヴェロニカ。やがて二人は結婚して子供ももうける。順風満帆に見えたボビーの人生だったが、ある日波風が立ち始めた。ひょんなことからヴォ二ーが「レ・トロピック」に現れたのだ。動揺するボビーであったが、かつての情熱がよみがえってくるのであった。2人のヴェロニカの間で揺れ動くボビー。あり得たかもしれないもう一つの人生がボビーの郷愁を誘うのであった。

 

人生は喜劇さ。悲劇が好きな喜劇作家が書いたんだ。

 

シニカルでユーモアに溢れたアレン節は健在で、この『カフェ・ソサエティ』でも印象的な台詞がいくつかある。特に上の引用の台詞が僕のお気に入りだ。序盤のコールガールのくだりではユダヤ人であることに対する自虐が効いていて面白い。人生は喜劇であると言いたげないつものドタバタ劇やお洒落なジャズも健在である。ボビーの兄ベンが繰り広げるドタバタ劇もこの映画に彩りを添えている。いつものようにウディ・アレンワールドが全開となっている。

さらには衣装がシャネルなのが豪華すぎる...

魅力がたくさん詰まった『カフェ・ソサエティ』だけども、一番魅力的なのは、誰しもが考えたことがあるであろう人生のもしかしてが描かれているところだ。もしもあのときこうしてたら...あり得たかもしれない過去を夢想することは魅力的で、甘美なノスタルジーに満ちている。永遠におこりえない過去だからこそ儚く、そして美しくみえてしまう。ボビーが思い描くヴォニーとの「もうひとつの過去」は魅力的だ。だがウディ・アレン監督は甘美なノスタルジーへの自己陶酔だけでは終わらせない。甘美なあり得た過去への陶酔だけではなく、上手くいくことだけではないビターな現実も突きつけてくる。

ラストシーンのボニーの表情はあり得た過去と現実を見つめたほろ苦い表情。この表情は『それでも恋するバルセロナ』のラストシーンのヴィッキーとクリスティーナの表情を彷彿とさせる。まさにビター&スイートなラストシーン。

『カフェ・ソサエティ』は、ほろ苦さと甘さが絶妙に入り混じった大人のおとぎ話だ。

 

 

ウディ・アレン版ラ・ラ・ランド!?

ラ・ラ・ランド(字幕版)

ラ・ラ・ランド(字幕版)

  • ライアン・ゴズリング
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最初に観たとき、これはウディ・アレン版ララランドではないか!と思った。

夢追い人の人生を描いたところ、お洒落なジャズが映画を彩っているところ、人生のタラレバを描いたほろ苦いところ、サントラが欲しくなってしまうところ(僕だけ!?)、と『カフェ・ソサエティ』と『ラ・ラ・ランド』の共通点はいくつかある。『カフェ・ソサエティ』と『ラ・ラ・ランド』の主人公があり得たかもしれない過去に思いを馳せ、陶酔しきっているシーンは、とても美しく心が締め付けられる。『ラ・ラ・ランド』は、ありえた過去を思い描き振り返るという自己陶酔的で夢想的なエンディングだったのに対し、『カフェ・ソサエティ』の方は大人の余裕とでもいうのか現実を見つめたエンディングとなっている。これが今までコンスタントに恋愛映画を送りだしてきたウディ・アレン監督の大人の余裕ってやつかなと思ってみたり。結論としてはどちらの作品も素晴らしい!

 

カフェ・ソサエティ(字幕版)

カフェ・ソサエティ(字幕版)

  • ジェシー・アイゼンバーグ
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フィクションは人生に必要か? / 『カイロと紫のバラ』 ウディ・アレン

人はなぜ映画を観るのだろう?

人生における映画(フィクション)の役割とは何か?

そんな問いに答えるのがウディ・アレンの隠れた名作『カイロの紫のバラ』だ。この映画では、映画そのものが題材になった作品だ。劇中では、映画の画面から登場人物が出てくるというメタフィクション的な演出がなされている。

 

主人公のセシリアは惨めな生活と愛のない夫婦生活から逃れるようにして、映画に夢中になっている。セシリアが夢中になっていたのは「カイロと紫のバラ」という映画。ある時、「カイロと紫のバラ」から主人公・トムが第四の壁を破り、現実世界に出てきてしまう。映画の中も大騒ぎになり、セシリアはトムと逃避行することになるのだが...

 

ウディ・アレンの映画には「人生は不条理にまみれていて辛いものだ」という諦めや諦念が強くにじみ出ているように思う。そんな辛い人生を乗り切るためにはどうすればいいのか?ウディがこの映画で提示する答えは「フィクション」だ。辛い人生には逃げるための虚構(フィクション)が必要だ。映画は辛い現実からの避難地になってくれる。ラストシーンのセシリアの表情は、人生に映画が不可欠であることを実感させてくれる。この映画にはウディ・アレンの映画愛が満ちているように思う。

 

カイロの紫のバラ [DVD]

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華やかなセレブの裏側は? / 『セレブリティ』 ウディ・アレン

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作家志望の芸能記者リーは、なんとかセレブリティの仲間入りをしようと、女優、モデル、人気俳優に近づくが、ことごとく振り回される。その彼と離婚した元妻ロビンは、自分の生きかたをマイペースで貫き、いつのまにかセレブリティの仲間入りを果たす。

『セレブリティ』は、有名人の人間模様を皮肉たっぷりに描いたウディ・アレンのコメディ映画だ。モノクロがお洒落感を醸し出している。映画のポスターを見た感じ、主演がレオナルド・ディカプリオだと思っていたがそうではなかった。ディカプリオが実際に出ているのは20分ぐらいだろうか。まあ、ディカプリオの知名度を押し出して売り出そうとしたのだろう。こういった売り方はあんまり良くないんじゃないかな…って思う。主人公はケネス・ブラナーが演じていて、ウディそっくりの落ち着きのない早口の演技が様になっている。

 

 

華やかな生活に憧れた男と自分の生き方を貫いた女

作家志望の芸能記者リーは、ありきたりな生活に甘んじることを良しとせずロビンとの別れを切り出す。リーは良く言う35歳問題に突き当たったのだろう。そして中年デビューというのだろうか、なんとか「セレブリティ」の仲間入りをしようと、女優、モデル、人気俳優に近づく。しかし、ことごとく振り回され仲間入りすることは叶わない。

この近づいた人気俳優を演じているのがディカプリオだ。このワガママなアイドルスターは周りを振り回し、若さゆえの乱暴さを見せる。下半身も奔放で、複数人でしようとしたりする。こういったようにこの「セレブリティ」は有名人の裏側を皮肉たっぷりに描いている。

リーは小説家となり名を上げようとするが、頑張って作り上げた原稿は元カノのボニーによって処分されるという散々な目にあう。ただリーは自己中心的だったので自業自得といったところか。

リーに対し、その彼と離婚した元妻ロビンは、最初落ち込んだ生活を送っていた。ひょんなことからトニーと出会いテレビの制作に関わるようになる。そして、自分の生きかたをマイペースに貫いた結果、いつのまにかセレブリティの仲間入りを果たす。

 

セレブリティに憧れたリーが何者にもなれず、自分のなりの生き方を模索したロビンが「セレブリティ」になり成功を手にするというのはなんとも皮肉な結末だ。ウディ・アレンらしい皮肉の効いた結末といったところか。ちなみにこの映画には若かりし頃のドナルド・トランプが登場している。気になるひとはチェックしてみて。

 

セレブリティ(字幕版)

セレブリティ(字幕版)

  • ケネス・ブラナー
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パリは移動祝祭日 / 『ミッドナイト・イン・パリ』 ウディ・アレン


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ミッドナイト・イン・パリ』は、ヘミングウェイのエッセイ『移動祝祭日』で描かれている1920年代のパリを舞台にしたロマンチックファンタジーだ。ウディ・アレン監督の作品の中でもベスト3に入るんじゃないかなと思う。

あらすじは、主人公が黄金時代のパリにタイムスリップしてしまうという話だ。作家志望の主人公・ギルは1920年代のパリにタイムスリップしてしまい、色んな芸術家と交流するようになる。ヘミングウェイはもちろん、フィッツジェラルドやピカソ、マン・レイ、ダリなどが登場する。

1920年代のパリにタイムスリップしたギルはそこでアドリアナに恋をするのだが...

この映画がテーマにしているのは「過去へのノスタルジー」だ。過去はいつだって美しい。現在から振り返る過去は多かれ少なかれ美化されているもの。いつでも未来は不安なもので、今は苦しく、過去は甘美な郷愁に満ちている。けれど私たちが生きるのは辛いかもしれないが、現在だ。そんなことをこの映画は教えてくれる。この映画を観て1920年代のパリにタイムスリップしてみては?

 

ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)

ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)

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ウディ・アレン監督はどのようにして生まれた? / 『映画と恋とウディ・アレン』

 ウディ・アレンの映画に迫るドキュメンタリー

『アニー・ホール』や『マンハッタン』、『カイロと紫のバラ』、『マッチポイント』、『ミッドナイト・イン・パリ』など数々の名作を残してきたウディ・アレン監督。

多作な映画監督として知られるウディは、アカデミー賞に何度もノミネートされ、今でも第一線で映画を撮り続けている。人生の不条理をコミカルに描き、ほろ苦い大人のラブストーリーや、気軽に楽しめるコメディ映画など色々な作風の映画を撮り続けてきた。

名作を生み出し続けてきた彼の映画作りはどのようなものなのだろう?ウディ・アレン監督の素顔や映画の舞台裏に迫ったのがこの『映画と恋とウディ・アレン』だ。

 

 


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この映画は、ウディの経歴をひもとき家族や共演者、映画評論家などのインタビューや、ウディ・アレンへの密着取材で、名監督「ウディ・アレン」がどのようにして誕生したのかを解き明かしている。過去作をさかのぼりながら製作の舞台裏を話してくれるので、ウディ映画の復習にもなる。

まだ観たことがない人には、作品ガイドにもなっていて面白いと思う。ウディの映画製作術も垣間見れて面白い。ウディは今だにタイプライターを使って脚本を書いているのには驚いた。コピペするときは、タイプした紙を切りとって脚本に張り付けるらしい。なんて原始的。また、俳優や女優への演技指導はまったくしないのにも驚いた。

 

 

『アニー・ホール』という転換点

ウディ・アレンはギャグ・ライターとしてキャリアをスタートさせている。そこからコメディアン、コメディ映画の監督と活躍の幅を広げていく。時には、カンガルーとボクシングをしたりしている。テレビのバラエティに出ている映像が流れていたけど、やっぱりウディの冗談は面白かった。

そんなコメディの人として活躍していたウディ・アレンの転換点となったのが『アニー・ホール』 だ。この『アニー・ホール』はこれまでのコメディ路線と違って、ほろ苦い大人の恋愛映画になっている。上手くいかない恋愛や男女の機敏、生死観が描かれていて、深みのある映画に仕上がっている。

『アニー・ホール』をきっかけに、ウディは深みのあるシリアスな映画も撮るようになる。それが『インテリア』なのだけれど、これはあまり評判が良くなかったみたい。しかし、次作の『マンハッタン』で大きな飛躍を遂げる。モノクロで描かれるマンハッタンはとても美しいし、ラストシーンはとても印象的だ。

 

 

夢を選ぶのは楽しいが正気の沙汰ではない。現実を選ぶしかないが現実には落胆させられる 

この映画の中で印象に残ったのが「夢を選ぶのは楽しいが正気の沙汰ではない。現実を選ぶしかないが現実には落胆させられる 」という言葉だ。この言葉は『カイロと紫のバラ』のくだりでウディがいうのだけれど、これはウディの映画によくでてくるモチーフだと思う。現実は直視するにはあまりも理不尽でやるせないものだから、人生には虚構が必要だ。このモチーフを発展させた名作が『カイロと紫のバラ』だと思う。他にも『恋のロンドン狂騒曲』、『マジック・イン・ムーンライト』でもこのテーマが引き継がれている。

 

 

ウディ・アレンの「黒歴史」にも触れている 

この映画の面白いところはウディの「黒歴史」にもちゃんと触れているところだ。ウディのスキャンダルはもちろんのこと、評判の良くなかった映画についても「あれは良くなかった」と失敗を認めている。ドキュメンタリー映画だと、そういう「黒歴史」的なことは触れずに終わらせる印象があったので、なかなか新鮮だった。あ、「黒歴史」的な作品とは、『スターダスト・メモリー』のことです。僕自身は『スターダスト・メモリー』は観たことがないから何とも言えないけれど、『映画と恋とウディ・アレン』によるとなかなか評判が悪かったらしい。スン・イー事件にもちゃんと触れていて、事件の真相が赤裸々に語られていた。当時はマスコミに「悪魔」だとバッシングされたようだ。確かに「悪魔」的なことはしたなと思う。さすがにミア・ファローのインタビューはなかった。

 

 

スカーレット・ヨハンソンとウディの復活

マッチポイント (字幕版)

マッチポイント (字幕版)

  • ジョナサン・リース・マイヤーズ
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やっぱりスキャンダルのせいもあってか、一時期ウディの低迷期があった。それを払拭したのがスカーレット・ヨハンソン 主演の『マッチポイント』だ。これまでの恋愛映画・コメディ映画路線と違い、シリアスなサスペンス映画になっている。ただのサスペンスに終わるのではなく、「人生は運に左右される」という人生の理不尽さをテーマにしていることもあって見応えがある。

ウディはスカーレット・ヨハンソンを新しいミューズにしたようだ。『それでも恋するバルセロナ』や『タロットカード殺人事件』などヨハンソンを起用して次々と映画を撮っている。

 

 

 

『ミッドナイト・イン・パリ』で再びの黄金期へ

ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)

ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)

  • オーウェン・ウィルソン
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最後にウディ自身が「大ヒット作を生みたいが生きてる間は無理だろう」というのだけれど、『ミッドナイト・イン・パリ』で達成してしまう。何というフラグ回収能力。『ミッドナイト・イン・パリ』は確かに傑作だと思う。個人的にはベスト3に入る。

『アニー・ホール』や『マンハッタン』、『マッチポイント』、『ミッドナイト・イン・パリ』など映画史に残る名作を次々に製作してきたのに、最後の言葉が「昔からの夢だった事は全て実現させた。しかし人生の落伍者みたいな気持ちなのは何故だ?」なのは笑ってしまう。