日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ビター&スイートな大人のおとぎ話 / 『カフェ・ソサエティ』 ウディ・アレン

ウディ・アレン監督の新たな21世紀ベスト作品!

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お洒落なBGMが流れ、真っ暗なスクリーンにタイトルが浮かび上がるオープニング。このウディ・アレン印のオープニングを観ると、今年もウディ・アレンの映画を観れると顔がにやついてくる。前作の『教授のおかしな妄想殺人』(日本語タイトルが微妙だと思っている)は、『恋のロンドン狂騒曲』みたいにかなりシニカルで皮肉が効いている映画だったので今年はどうなるのかと思っていたけど、『カフェ・ソサエティ』ウディ・アレンの21世紀ベスト作品じゃないか!他のウディ・アレン監督作品に例えると『ミッドナイトインパリ』の甘美なノスタルジーと『アニー・ホール』の恋愛のほろ苦さを足し合わせたような映画だ。この年にしてさらにベスト級の作品を生みだしてくるとは...ウディ・アレン監督作品は大体見ているけど、この『カフェ・ソサエティ』はミッドナイトインパリ以来の傑作じゃないかと思っている。これより下では内容に触れます。

 

 

人生のもしかしたらを描いたビター&スイートな大人のおとぎ話 

映画の舞台は1930年代のハリウッドとニューヨーク。黄金期のハリウッドに、夢を抱いた青年ボビーがやってきた。ハリウッドでエージェントとして成功した叔父のもとで働き始めたボビーは、美しい女性・ヴェロニカ(愛称:ヴォニー)に出会い恋に落ちる。二人はデートを重ね惹かれあっていくが、実はヴェロニカは叔父の愛人だった...プロポーズをヴェロニカに断られ、ボビーは失恋の痛手を引きずり故郷に帰った。

故郷に戻ったボビーはギャングである兄ベンが経営するクラブ「レ・トロピック」で働き始めた。ボビーは店長としての才能を発揮し、店は大繁盛!ボビーは店長として忙しい日々を送る中、来店した美しい女性に魅了される。彼女の名前は奇しくもハリウッドで振られたヴォ二ーと同じヴェロニカ。やがて二人は結婚して子供ももうける。順風満帆に見えたボビーの人生だったが、ある日波風が立ち始めた。ひょんなことからヴォ二ーが「レ・トロピック」に現れたのだ。動揺するボビーであったが、かつての情熱がよみがえってくるのであった。2人のヴェロニカの間で揺れ動くボビー。あり得たかもしれないもう一つの人生がボビーの郷愁を誘うのであった。

 

人生は喜劇さ。悲劇が好きな喜劇作家が書いたんだ。

 

シニカルでユーモアに溢れたアレン節は健在で、この『カフェ・ソサエティ』でも印象的な台詞がいくつかある。特に上の引用の台詞が僕のお気に入りだ。序盤のコールガールのくだりではユダヤ人であることに対する自虐が効いていて面白い。人生は喜劇であると言いたげないつものドタバタ劇やお洒落なジャズも健在である。ボビーの兄ベンが繰り広げるドタバタ劇もこの映画に彩りを添えている。いつものようにウディ・アレンワールドが全開となっている。

さらには衣装がシャネルなのが豪華すぎる...

魅力がたくさん詰まった『カフェ・ソサエティ』だけども、一番魅力的なのは、誰しもが考えたことがあるであろう人生のもしかしてが描かれているところだ。もしもあのときこうしてたら...あり得たかもしれない過去を夢想することは魅力的で、甘美なノスタルジーに満ちている。永遠におこりえない過去だからこそ儚く、そして美しくみえてしまう。ボビーが思い描くヴォニーとの「もうひとつの過去」は魅力的だ。だがウディ・アレン監督は甘美なノスタルジーへの自己陶酔だけでは終わらせない。甘美なあり得た過去への陶酔だけではなく、上手くいくことだけではないビターな現実も突きつけてくる。

ラストシーンのボニーの表情はあり得た過去と現実を見つめたほろ苦い表情。この表情は『それでも恋するバルセロナ』のラストシーンのヴィッキーとクリスティーナの表情を彷彿とさせる。まさにビター&スイートなラストシーン。

『カフェ・ソサエティ』は、ほろ苦さと甘さが絶妙に入り混じった大人のおとぎ話だ。

 

 

ウディ・アレン版ラ・ラ・ランド!?

ラ・ラ・ランド(字幕版)

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最初に観たとき、これはウディ・アレン版ララランドではないか!と思った。

夢追い人の人生を描いたところ、お洒落なジャズが映画を彩っているところ、人生のタラレバを描いたほろ苦いところ、サントラが欲しくなってしまうところ(僕だけ!?)、と『カフェ・ソサエティ』と『ラ・ラ・ランド』の共通点はいくつかある。『カフェ・ソサエティ』と『ラ・ラ・ランド』の主人公があり得たかもしれない過去に思いを馳せ、陶酔しきっているシーンは、とても美しく心が締め付けられる。『ラ・ラ・ランド』は、ありえた過去を思い描き振り返るという自己陶酔的で夢想的なエンディングだったのに対し、『カフェ・ソサエティ』の方は大人の余裕とでもいうのか現実を見つめたエンディングとなっている。これが今までコンスタントに恋愛映画を送りだしてきたウディ・アレン監督の大人の余裕ってやつかなと思ってみたり。結論としてはどちらの作品も素晴らしい!

 

カフェ・ソサエティ(字幕版)

カフェ・ソサエティ(字幕版)

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