日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ウディ・アレン監督はどのようにして生まれた? / 『映画と恋とウディ・アレン』

 ウディ・アレンの映画に迫るドキュメンタリー

『アニー・ホール』や『マンハッタン』、『カイロと紫のバラ』、『マッチポイント』、『ミッドナイト・イン・パリ』など数々の名作を残してきたウディ・アレン監督。

多作な映画監督として知られるウディは、アカデミー賞に何度もノミネートされ、今でも第一線で映画を撮り続けている。人生の不条理をコミカルに描き、ほろ苦い大人のラブストーリーや、気軽に楽しめるコメディ映画など色々な作風の映画を撮り続けてきた。

名作を生み出し続けてきた彼の映画作りはどのようなものなのだろう?ウディ・アレン監督の素顔や映画の舞台裏に迫ったのがこの『映画と恋とウディ・アレン』だ。

 

 


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この映画は、ウディの経歴をひもとき家族や共演者、映画評論家などのインタビューや、ウディ・アレンへの密着取材で、名監督「ウディ・アレン」がどのようにして誕生したのかを解き明かしている。過去作をさかのぼりながら製作の舞台裏を話してくれるので、ウディ映画の復習にもなる。

まだ観たことがない人には、作品ガイドにもなっていて面白いと思う。ウディの映画製作術も垣間見れて面白い。ウディは今だにタイプライターを使って脚本を書いているのには驚いた。コピペするときは、タイプした紙を切りとって脚本に張り付けるらしい。なんて原始的。また、俳優や女優への演技指導はまったくしないのにも驚いた。

 

 

『アニー・ホール』という転換点

ウディ・アレンはギャグ・ライターとしてキャリアをスタートさせている。そこからコメディアン、コメディ映画の監督と活躍の幅を広げていく。時には、カンガルーとボクシングをしたりしている。テレビのバラエティに出ている映像が流れていたけど、やっぱりウディの冗談は面白かった。

そんなコメディの人として活躍していたウディ・アレンの転換点となったのが『アニー・ホール』 だ。この『アニー・ホール』はこれまでのコメディ路線と違って、ほろ苦い大人の恋愛映画になっている。上手くいかない恋愛や男女の機敏、生死観が描かれていて、深みのある映画に仕上がっている。

『アニー・ホール』をきっかけに、ウディは深みのあるシリアスな映画も撮るようになる。それが『インテリア』なのだけれど、これはあまり評判が良くなかったみたい。しかし、次作の『マンハッタン』で大きな飛躍を遂げる。モノクロで描かれるマンハッタンはとても美しいし、ラストシーンはとても印象的だ。

 

 

夢を選ぶのは楽しいが正気の沙汰ではない。現実を選ぶしかないが現実には落胆させられる 

この映画の中で印象に残ったのが「夢を選ぶのは楽しいが正気の沙汰ではない。現実を選ぶしかないが現実には落胆させられる 」という言葉だ。この言葉は『カイロと紫のバラ』のくだりでウディがいうのだけれど、これはウディの映画によくでてくるモチーフだと思う。現実は直視するにはあまりも理不尽でやるせないものだから、人生には虚構が必要だ。このモチーフを発展させた名作が『カイロと紫のバラ』だと思う。他にも『恋のロンドン狂騒曲』、『マジック・イン・ムーンライト』でもこのテーマが引き継がれている。

 

 

ウディ・アレンの「黒歴史」にも触れている 

この映画の面白いところはウディの「黒歴史」にもちゃんと触れているところだ。ウディのスキャンダルはもちろんのこと、評判の良くなかった映画についても「あれは良くなかった」と失敗を認めている。ドキュメンタリー映画だと、そういう「黒歴史」的なことは触れずに終わらせる印象があったので、なかなか新鮮だった。あ、「黒歴史」的な作品とは、『スターダスト・メモリー』のことです。僕自身は『スターダスト・メモリー』は観たことがないから何とも言えないけれど、『映画と恋とウディ・アレン』によるとなかなか評判が悪かったらしい。スン・イー事件にもちゃんと触れていて、事件の真相が赤裸々に語られていた。当時はマスコミに「悪魔」だとバッシングされたようだ。確かに「悪魔」的なことはしたなと思う。さすがにミア・ファローのインタビューはなかった。

 

 

スカーレット・ヨハンソンとウディの復活

マッチポイント (字幕版)

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  • ジョナサン・リース・マイヤーズ
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やっぱりスキャンダルのせいもあってか、一時期ウディの低迷期があった。それを払拭したのがスカーレット・ヨハンソン 主演の『マッチポイント』だ。これまでの恋愛映画・コメディ映画路線と違い、シリアスなサスペンス映画になっている。ただのサスペンスに終わるのではなく、「人生は運に左右される」という人生の理不尽さをテーマにしていることもあって見応えがある。

ウディはスカーレット・ヨハンソンを新しいミューズにしたようだ。『それでも恋するバルセロナ』や『タロットカード殺人事件』などヨハンソンを起用して次々と映画を撮っている。

 

 

 

『ミッドナイト・イン・パリ』で再びの黄金期へ

ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)

ミッドナイト・イン・パリ(字幕版)

  • オーウェン・ウィルソン
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最後にウディ自身が「大ヒット作を生みたいが生きてる間は無理だろう」というのだけれど、『ミッドナイト・イン・パリ』で達成してしまう。何というフラグ回収能力。『ミッドナイト・イン・パリ』は確かに傑作だと思う。個人的にはベスト3に入る。

『アニー・ホール』や『マンハッタン』、『マッチポイント』、『ミッドナイト・イン・パリ』など映画史に残る名作を次々に製作してきたのに、最後の言葉が「昔からの夢だった事は全て実現させた。しかし人生の落伍者みたいな気持ちなのは何故だ?」なのは笑ってしまう。