日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

読まないと!村上春樹の隠れた名作8選

村上春樹といえば日本を代表する現代作家だ。村上春樹作品は日本だけでなく世界中で読まれており、多くの人を惹きつけている。

村上春樹の名作といえば『ノルウェイの森』、『ねじまき鳥クロニクル』、『海辺のカフカ』、『1Q84』などがあるだろう。

それ以外にも、村上春樹作品には面白い作品がある。この記事では村上春樹の隠れた名作を紹介したい。

 

 

 

ダンス・ダンス・ダンス

『羊をめぐる冒険』から4年、激しく雪の降りしきる札幌の町から「僕」の新しい冒険が始まる。羊男、美少女、そしていくつかの殺人――。渋谷の雑踏からホノルルのダウンタウンまで、「僕」は奇妙で複雑なダンス・ステップを踏みながら、暗く危険な運命の迷路をすり抜けていく。70年代の魂の遍歴を辿った著者が80年代を舞台に、新たな価値を求めて闇と光の交錯を鮮やかに描きあげた話題作。

村上春樹の隠れた名作というと『ダンス・ダンス・ダンス』が一番に思い浮かぶ。村上春樹の長編小説の中でも、『ダンス・ダンス・ダンス』は知名度が低いのではと思う。

『ダンス・ダンス・ダンス』は、青春三部作の『羊をめぐる冒険』の続きにあたる青春小説だ。主人公は「僕」だ。喪失感に満ち溢れた『羊をめぐる冒険』と比べると、かなり救いのある小説になっている。羊男も再登場する。

村上春樹の中で一番おしゃれな小説がどれかと言われたら間違いなく『ダンス・ダンス・ダンス』をあげたい。知名度はないかもしれないが間違いなく名作なので読んでみてほしい。

 

 

国境の南、太陽の西

今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう―たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて―。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。 

国境の南、太陽の西』は、不倫を描いた大人の恋愛小説だ。絵に描いたような幸せを享受している男性が初恋の女性に再会し不倫にのめり込んでいくという話である。

大学生の頃に読んだときはあまり良さがわからなかったのだが、年を経て読み返してみるとすごく印象に残る作品となった。

『ねじまき鳥クロニクル』から派生的に生まれた作品らしい。そう言われてみれば、『ねじまき鳥クロニクル』に繋がる点がいくつかある。

 

 

スプートニクの恋人

22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。――そんなとても奇妙な、この世のものとは思えないラブ・ストーリー!!

スプートニクの恋人』は、リリカルな文体が魅力の恋愛小説だ。『スプートニクの恋人』は文体がとても実験的で、比喩が多い村上春樹作品の中でも過剰に比喩が使われている。

すみれとミュウと僕のどこにも行くことが出来ない恋をリリカルな文体で描いている。『ノルウェイの森』に雰囲気が近いので、『ノルウェイの森』が好きな人ならはまると思う。

 

 

神の子どもたちはみな踊る

1995年1月、地震はすべてを一瞬のうちに壊滅させた。そして2月、流木が燃える冬の海岸で、あるいは、小箱を携えた男が向かった釧路で、かえるくんが地底でみみずくんと闘う東京で、世界はしずかに共振をはじめる……。大地は裂けた。神は、いないのかもしれない。でも、おそらく、あの震災のずっと前から、ぼくたちは内なる廃墟を抱えていた――。深い闇の中に光を放つ6つの黙示録。

短編集だと『神の子どもたちはみな踊る』を推したい。『神の子どもたちはみな踊る』は阪神淡路大震災がモチーフになった作品である。

元々「連作『地震のあとで』」という通しタイトルで発表された作品だ。「地震のあとで (After the quake)」とあるように、『神の子どもたちはみな踊る』は1995年1月17日の阪神淡路大震災に影響を受けて書かれた作品だ。しかし舞台は神戸ではなく、被災地から遠く離れた場所(釧路、茨城、千葉、タイ、東京)が舞台になっており、作品中の設定は1995年2月だ。これは阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件という2つのカタストロフィに挟まれた時期だ。

『神の子どもたちはみな踊る』に収録された作品の中でも、「蜂蜜パイ」「かえるくん、東京を救う」が特におすすめだ。

 

 

図書館奇譚

僕と羊男はここから脱出できるのか? 図書館の地下に囚われる不条理を描く名作とカット・メンシックのダークなイラストが響きあう。

不思議な村上春樹ワールドが全開の隠れた名作が『図書館奇譚』だ。

この作品は一般的にはメジャーな作品じゃないと思うけれど、村上作品ではお馴染みの「羊男」というキャラクターが出てきたり、超現実的な展開であったり、異世界に行くストーリーであったりと、村上春樹のエッセンスが詰め込まれている。

村上春樹版の「不思議な国のアリス」のような小説なので、ファンタジーや不思議な人が好きな人なら面白く読めると思う。

 

 

遠い太鼓

ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が聞こえてきたのだ。ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、その太鼓の音は響いてきた。――その音にさそわれて僕はギリシャ・イタリアへ長い旅に出る。1986年秋から1989年秋まで3年間をつづる新しいかたちの旅行記。

村上春樹は小説だけではなく、エッセイもいい。エッセイの中でおすすめなのが、『遠い太鼓』だ。『遠い太鼓』は、村上春樹のギリシャ・イタリアへ長い旅について書かれたエッセイである。ちょうどこの時期は、村上春樹が『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書き上げた頃である。

作家としての転換期となった、三年間の異国生活をスケッチした名作エッセイである。

 

 

夜のくもざる

海亀の執拗な攻撃から僕らの身を守ってくれた秘密兵器とは? ヒトは死んだらどこにいくのだろう? ――読者が参加する小説「ストッキング」から、オール関西弁で書かれた「ことわざ」まで、謎とユーモアに満ちた「超短篇」小説が36本! (さらに替え歌「朝からラーメン」のおまけ付き! )絶好調の村上春樹=安西水丸“nice & easy"コンビが贈る「村上朝日堂」小説特集号!

夜のくもざる』は、村上春樹とイラストレーターの安西水丸がコラボレーションした作品である。村上春樹のショートショートが楽しめる本だ。村上春樹のショートショートと安西水丸のイラストが絶妙に絡み合っている。

村上春樹と安西水丸は親交がとても深く、これ以外にもコラボレーションした本を数多く出版している。

収録作品の中では、特に「夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について」がおすすめだ。村上春樹の物語に対するスタンスが垣間見える良作だ。

 

 

 

夢で会いましょう

強烈な個性と個性がぶつかりあう時、どんな火花が飛び散るか――それがこの本の狙いです。同時代を代表する2人が、カタカナ文字の外来語をテーマにショートショートを競作すると、こんな素敵な世界があらわれました。さあ、2種類の原酒が溶けあってできた微妙なカクテルの酔い心地をじっくりとどうぞ。

夢で会いましょう』は、村上春樹と糸井重里がコラボレーションを果たした本だ。

同時代を代表する2人がカタカナの外来語をテーマにショートショートを披露している。

 

 

関連記事

plutocharon.hatenablog.com

『逆転美人』の両肩読みの仕掛けとは?

最近、紙ならではのトリックが仕掛けられたミステリ小説が話題を集めている。

一つ例を挙げてみると、杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』などがあるだろう。

この小説は、紙ならでは仕掛けが話題になり、ベストセラーとなった。

この他にも藤崎翔の『逆転美人』も紙ならではの仕掛けが施されていると話題になった。

この記事では、『逆転美人』に仕掛けられた「両肩読みの仕掛け」を解説したい。

下記には『逆転美人』のネタバレが含まれるので、未読の人は注意してほしい。

 

 

 

『逆転美人』とは

飛び抜けた美人であるせいで不幸ばかりの人生を歩むシングルマザーの香織(仮名)。娘の学校の教師に襲われた事件が報道されたのを機に、手記『逆転美人』を出版したのだが、それは社会を震撼させる大事件の幕開けだった――。果たして『逆転美人』の本当の意味とは!? ミステリー史に残る伝説級超絶トリックに驚愕せよ!!

藤崎翔の『逆転美人』は、手記の体裁をとったミステリ小説である。

『逆転美人』は、美人であるが故に不幸な人生を送っていた「香織」の手記という設定で書かれている。「香織」は、自らの半生を振り返り、娘の学校の先生に襲われた事件の真相を手記の中で語る。手記を読んでいると違和感を覚えるのだが、どこがおかしいのかわからない。

この手記は香織の無実を訴えるものとして出版されているのだが、話には続きがある。追記という形で別の章があるのだが、ここで全ての真実が明かされる。

 

 

『逆転美人』の本当の著者は?

『逆転美人』は香織が書いた本とされていたのだが、本当は香織の娘がゴーストライターとして書いたものだった。娘は母の香織が父を殺したことに気づき、事件の発覚を恐れた母によって外界との交流を絶たれていた。

娘が母の犯罪を告発するべく使ったのが『逆転美人』という本だった。逆転美人に仕掛けを施したのだ。作中には香織が書いたとしては矛盾が生じる描写が仕掛けられている。

そして、読者にメッセージを届ける方法として「両肩読みの仕掛け」がこの小説に施されたのだ。これが紙、いや文庫本ならではのトリックだ。

 

 

「両肩読みの仕掛け」とは?

「両肩読み」のヒントは手記の最後に書かれた一文にある。

その両肩の角を右肩、左肩、右肩・・・と見ていって、ここからつらい過去をさかのぼれば、私の人生の真理が、そしてこれからやるべきことが見えてくるはずなのです

 

その両肩の角を右肩、左肩と見ていってというのはかなり唐突で不自然な文章だろう。

この文章の意味は見開きの左上と右上の文字を読んでいくということだ。

本編最後の234ページから、最初の5ページまでさかのぼり、右ページの 一行目の頭文字、左ページの最終行の頭文字、右ページの一行目の頭文字と、ページをめくって戻るごとに、「左上、右上角」と文字を追って読むと隠しメッセージが浮かび上がるのだ。

ページごとに「左上、右上角」と読んでいくのが両肩読みだ。

 

そうして浮かび上がるのが、下のような隠しメッセージだ。

 

この手記は嘘だらけです。本当は十六歳の娘である私が書きました。私の母、本名森中優子は、私の父と祖父と、M教諭こと増谷幸二先生を、恋人のKさんこと門田と共謀して殺しました。このメッセージに気付いた人は通報して、深夜に森中家一階裏側の水玉模様のカーテンの無施錠の窓を開け、窓際に置いたカセットテープを取るように伝えてください。そこに母と門田が三件の殺人を認めた会話を録音しました。捕まるぐらいなら私と弟と心中すると言ってます。 だから、私と弟を保護してから、母と門を捕まえてください。

 

著者は読者に助けを求めるために紙ならではのトリックを仕掛けたのだ。この手のトリックは使う必然性がないこともあるんだけど、『逆転美人』ではこのトリックを使わなければならない必然性がある点が非常に良いと思う。

 

 

関連記事

plutocharon.hatenablog.com

 

東野圭吾『仮面山荘殺人事件』が舞台化される件について

prtimes.jp

東野圭吾の小説は数多く映画化されているけれど、中には意外とまだ映像化されていないのだなと思うものがいくつかある。

その一つが『仮面山荘殺人事件』だ。

仮面山荘殺人事件』は東野圭吾のどんでん返しの名作としてあげられる作品である。『ある閉ざされた雪の山荘で』と並んで、東野圭吾のどんでん返しの名作だ。『ある閉ざされた雪の山荘で』の方は映像化できないのだが、『仮面山荘殺人事件』の方は映像化できるタイプのどんでん返し小説だ。

今回、『仮面山荘殺人事件』が2023年に舞台化されるようだ。これにはかなり驚いた。

この記事では、舞台化される『仮面山荘殺人事件』について紹介したいと思う。

 

 

 

『仮面山荘殺人事件』ってどんな作品?

八人の男女が集まる山荘に、逃亡中の銀行強盗が侵入した。外部との連絡を断たれた八人は脱出を試みるが、ことごとく失敗に終わる。恐怖と緊張が高まる中、ついに一人が殺される。だが状況から考えて、犯人は強盗たちではありえなかった。七人の男女は互いに疑心暗鬼にかられ、パニックに陥っていった…。

どんでん返しの名作としてよく話題に上る『仮面山荘殺人事件』。どんでん返しにこだわった、クローズドサークルものだ。きっと貴方も騙される。この仮面山荘の面白いところはクローズドサークル(閉ざされた空間での殺人)が生まれる状況にこだわり、より必然的にクローズドサークルが生じるようにしているところだ。吹雪で閉じ込められたり、孤島に閉じ込められるというのはクローズドサークルのお約束だが、パターンが決まっているし設定に穴が多いのもある。都合よく吹雪起こりすぎじゃねとか、頑張ったら逃げれるとかツッコむところが多いものもある。まあ、クローズドサークルはミステリー好きには堪らない設定だけど。

この仮面山荘では古典的なミステリーの設定をそのまま使うのではなく、八人の男女が集まる山荘に逃亡中の銀行強盗が侵入したために外に出られなくなったという斬新な理由でクローズドサークルになる。そして衝撃のどんでん返し!ミステリー密度の濃い一冊だ。

 

 

『仮面山荘殺人事件』は2023年10月に上演

happinet-phantom.com

『仮面山荘殺人事件』は2023年10月11日から15日まで東京・サンシャイン劇場で上演される。また、18・19日には大阪・サンケイホールブリーゼでも上演される。

あのトリックがどのように再現されるのか気になるところだ。

 

plutocharon.hatenablog.com

plutocharon.hatenablog.com

 

電子書籍化できない?紙媒体ならではの仕掛けが施された小説7選

皆さんは本を読むときは紙派だろうか?それとも電子書籍派だろうか?

最近ならオーディオブック派もあるかもしれない。

最近は利便性ゆえに電子書籍を愛用している人が増えてきているかもしれないが、紙の本には電子書籍にはない魅力がある。ページをめくる感覚、質感や匂い、本棚に並べて眺められるという点などなど。

今回は紙の本の魅力を伝えるために、紙媒体ならではの仕掛けが施された小説を紹介したい。電子書籍化ができない小説や、紙媒体の方が良い小説を紹介する。

今回紹介する小説の魅力は実際に紙媒体で読まないとわからないので、ぜひ紙の本で読んでみてほしい。

続きを読む

『世界でいちばん透きとおった物語』の献辞に書かれているA先生は誰のことか

prtimes.jp

最近、電子書籍化不可能ということで話題になっている小説がある。

その作品が、杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』だ。この小説には、紙ならでは仕掛けが施されている。この仕掛けを電子書籍化することは不可能だろう。

この本の献辞では、影響を受けたA先生について言及されている。このA先生って誰のことと思っている人が多いと思う。

この記事では著者の杉井光が衝撃を受けたA先生が誰なのかについて書きたいと思う。

 

 

 

『世界でいちばん透きとおった物語』とは?

大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。『世界でいちばん透きとおった物語』という彼の遺稿に込められた衝撃の真実とは――。

杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』は、紙ならでは仕掛けが施されたミステリ小説だ。この仕掛けを電子書籍化することは不可能である。紙の本でしか味わえない感動がこの本にはある。体験型読書だ。

大御所ミステリ作家の宮内彰吾は、妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。その隠し子が主人公である「僕」だ。「僕」は、宮内が死ぬ間際に書いていたとされる『世界でいちばん透きとおった物語』という遺稿探しを探すことになる。

この本の仕掛けに気付いた時、作者が仕掛けた緻密なトリックに驚き、感嘆すること間違いなし。よくこのアイデアを実現させたなというのが初めて読んだ時の感想だ。

紙の本への愛情や可能性を感じた一冊である。

 

 

献辞に書かれているA先生は誰のことか?

世界でいちばん透きとおった物語』だが、最後の献辞に気になることが書かれている。

本文から献辞の部分を引用してみよう。

 

僕の生涯で最も激しい驚愕を伴う読書体験を与えてくれた、

A先生に捧げる。

同じ新潮文庫から刊行できたことを喜びたい。

本来なら巻頭に記すべき献辞を巻末に置き、

あまつさえ名を頭文字で伏せるという非礼の理由も、

物語の神秘を愛する読者諸氏であれば理解していただけることと思う。

 

また、著者の杉井光のインタビューでも衝撃を受けた小説について語られている。

「これまでの読書人生において一度だけ、読み終わった後にただ言葉を失うしかなかった、という本がありました。それに匹敵する純粋に強烈な読書"体験"を、読者にぶつけてみたい。そんな想いでこのアイディアをプロットに落とし込み、多くの方々の協力を得て本の形にしました。出版できたこと自体がすでにひとつの奇蹟です」

 

ここでのA先生や衝撃的な読書体験を与えた本とは何だろう?

ヒントとしては、①頭文字がA、②新潮文庫に収録されている③『世界でいちばん透きとおった物語』の内容に関係がある の三つがある。

このヒントからA先生を特定すると、A先生は泡坂妻夫ではないかと考えられる。

①に関しては、頭文字はAであるので泡坂妻夫が該当する。また、泡坂妻夫の代表作は新潮文庫に収録されている。

また、『世界でいちばん透きとおった物語』と同様に、泡坂妻夫も紙媒体ならではの仕掛けにこだわった作品を残している。

また、杉井光がインタビューで書いていたのは『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』のことではないかと思う。ちなみに、『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』は新潮文庫に収録されている。

 

 

泡坂妻夫の代表作品

次に泡坂妻夫の代表作品を紹介したい。泡坂妻夫は紙媒体ならではの小説を数多く残した。元祖「紙ならではトリック」と言ってしまってもいいと思う。

 

しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術 / 泡坂 妻夫

二代目教祖の継承問題で揺れる巨大な宗教団体〝惟霊(いれい)講会〟。超能力を見込まれて信者の失踪事件を追うヨギガンジーは、布教のための小冊子「しあわせの書」に出会った。41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズのその本には、実はある者の怪しげな企みが隠されていたのだ――。

泡坂妻夫の『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』は、紙媒体ならではの仕掛けが施された小説だ。元祖とも言ってもいいかもしれない。

できれば、何も下調べせずに読むようにしてほしい。トリックがわかってしまうと面白さが半減してしまう。

 

 

生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術 / 泡坂 妻夫

この本は絶対に立ち読みできません。はじめに袋とじのまま、短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと、驚くべきことが起こります――。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次々にトリックを見破るヨギ ガンジーが入り乱れる長編ミステリー「生者と死者」が姿を現すのです。史上初、前代未聞驚愕の仕掛け本です。読み方にご注意してお楽しみください。

泡坂妻夫の『生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術』は、袋とじが付いている前代未聞の仕掛け本だ。そうそう、週刊誌のグラビアとかについているのと同じ袋とじだ。文庫本に袋とじがついているのは珍しいのではないか。

最初に文庫本は袋とじがされた状態になっており、このまま読めば短編小説の「消える短編小説」になる。次に、各ページを切り開いて読むと、長編ミステリ「生者と死者」が姿を現すという仕掛けがなされている。袋とじという仕掛けは電子書籍ではできないだろう。

前代未聞の仕掛けが施された『生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術』をぜひ読んでみてほしい。

 

plutocharon.hatenablog.com

一番売れているのは?東野圭吾の売上・発行部数ランキング

東野圭吾は、ガリレオシリーズ加賀恭一郎シリーズでお馴染みの大人気ミステリー作家だ。知らない人は恐らくいないだろう。

東野圭吾は、ガリレオシリーズの『容疑者Xの献身』で直木賞を受賞している。『探偵ガリレオ』などガリレオシリーズは福山雅治主演でドラマ化され、かなり話題になった。他に有名な作品を列挙してみると『白夜行』とか『秘密』がある。映画化もよくされていて、『真夏の方程式』や『ラプラスの悪魔』が公開されている。

そんな大人気作家・東野圭吾だが、著作の国内累計発行部数が1億部を突破した。国内累計発行部数は2023年時点で1億77,380部である。

また、東野圭吾作品の人気は国内にとどまらず、海外でも幅広く翻訳されている。

現在は37の国と地域で出版中のようだ。その推定累計発行部数は約6800万部で、全世界の推定累計発行部数は1億6,800万部を超える。

そんな東野圭吾作品の売上・発行部数ランキングを作成してみた。

 

 

 

売上・発行部数の推定方法

けれども、基本的に本の発行部数は調べることは難しい。本の発行部数は機密情報みたいなもので、一般的には公表されないのだ。

ただ、最近東野圭吾の累計発行部数が1億部を超えたこともあり、その際の出版社のプレスリリースで発行部数が公開されていた。この記事では、プレスリリースやニュースなどで公表された部数を参考に売上・発行部数ランキングを作成した。

 

 

東野圭吾の売上・発行部数ランキング

 

第11位 眠りの森

美貌のバレリーナが男を殺したのは、ほんとうに正当防衛だったのか?完璧な踊りを求めて一途にけいこに励む高柳バレエ団のプリマたち。美女たちの世界に迷い込んだ男は死体になっていた。若き敏腕刑事・加賀恭一郎は浅岡未緒に魅かれ、事件の真相に肉迫する。華やかな舞台の裏の哀しいダンサーの悲恋物語。

発行部数:約110万部(2023年時点、引用元:“新参者”加賀恭一郎「眠りの森」|ドラマ・時代劇|TBSチャンネル - TBS)

眠りの森』は、バレリーナが題材のミステリ小説だ。『眠りの森』は、東野圭吾の大人気シリーズ・加賀恭一郎シリーズの作品である。

バレエ団のプリマが正当防衛でレッスン場に忍び込んだ男を殺害してしまったのが事件の発端。捜査に当った青年刑事は次第に美貌のバレリーナに魅かれていく。華やかな舞台の裏側にはどんなストーリーが広がるのか。

 

 

第10位 夢幻花

花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。遺体の第一発見者である孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、ブログにアップする。
それを見て身分を隠して近づいてきたのが、警察庁に勤務するエリート・蒲生要介。ふとしたことから、その弟で大学院生の蒼太と知り合いになった梨乃は、二人で事件の真相解明に乗り出す。一方、西荻窪署の刑事・早瀬も、別の思いを胸に事件を追っていた……。

発行部数:約110万部(2023年時点、引用元:東野圭吾、著作100冊。国内累計発行部数1億部突破! | NEWSCAST)

夢幻花』は、幻の「黄色いあさがお」を題材にしたミステリ小説だ。東野圭吾はこの作品で第26回柴田錬三郎賞を受賞している。宿命を背負った者たちの人間ドラマが交錯する点が魅力だ。

 

 

第9位 マスカレード・ホテル

都内で起きた不可解な連続殺人事件。残された暗号から判明したのは、次の犯行場所が一流ホテル・コルテシア東京ということのみ。若き刑事・新田浩介は、ホテルマンに化けて潜入捜査に就くことを命じられる。彼を教育するのは、女性フロントクラークの山岸尚美。次から次へと怪しげな客たちが訪れる中、二人は真相に辿り着けるのか!?

発行部数:約116万部(2014年時点、文庫のみ、引用元:東野圭吾:「マスカレード・イブ」が1カ月半で100万部突破 - MANTANWEB(まんたんウェブ))

マスカレード・ホテル』はホテルが舞台となったミステリだ。木村拓哉主演で映画化もされている。

また、『マスカレード・ホテル』はシリーズ化されていて、『マスカレード・ナイト』や『マスカレード・イヴ』といった作品がある。シリーズ累計の発行部数は360万部を超えるようだ。

ちなみにモデルとなったホテルは存在していて、ロイヤルパークホテルが参考にされているようだ。

 

 

第8位 ラプラスの魔女

遠く離れた2つの温泉地で硫化水素による死亡事故が起きた。検証に赴いた地球化学研究者・青江は、双方の現場で謎の娘・円華を目撃する――。東野圭吾が小説の常識をくつがえして挑んだ、空想科学ミステリ!

発行部数:約150万部(2023年時点、文庫のみ、引用元:櫻井翔×広瀬すず×福士蒼汰が挑む、東野圭吾ミステリー史上最も異色かつ衝撃作『ラプラスの魔女』Blu-ray&DVD、11月14日発売 - TOWER RECORDS ONLINE)

ラプラスの魔女』は、超能力的な要素がある小説だ。賛否両論の内容で話題になった。

タイトルにある「ラプラスの魔女」は、フランス人数学者の「ピエール・シモン・ラプラス」が提唱した「ラプラスの悪魔」という仮説から来ている。その仮説の内容というのが、「この世に存在するすべての原子の現在位置と運動量を把握する知性が存在すれば未来を予測できる」というものだ。

このラプラスの悪魔のように未来を見ることができる人物が登場する空想科学ミステリだ。

櫻井翔や広瀬すずが主演で映画化もされている。

 

 

第7位 プラチナデータ

国民の遺伝子情報から犯人を特定するDNA捜査システム。警察庁特殊解析研究所・神楽龍平が操るこのシステムは、現場の 刑事を驚愕させるほどの正確さを持って次々と犯人を特定していく。検挙率が飛躍的に上がる中、新たな殺人事件が発生。殺されたのは、そのシステム開発者である天才数学者・蓼科早樹とその兄・耕作で、神楽の友人でもあった。彼らは、なぜ殺されたのか?現場に残された毛髪を解析した神楽は、特定された犯人データに打ちのめされることになる。犯人の名は、『神楽龍平』――。 追う者から追われる者へ。事件の鍵を握るのは『プラチナデータ』という謎の言葉。

発行部数:約150万部(2023年時点、文庫のみ、引用元:『白夜行』『秘密』『新参者』『プラチナデータ』。名作、ベストセラーだらけ、東野圭吾著作100冊。国内累計発行部数1億部突破!|株式会社 幻冬舎のプレスリリース

プラチナデータ』は、DNA操作システムを題材に容疑者を追う立場から追われる身になった天才数学者を描いた小説だ。

システムの開発者が犯人を追う側から追われる側になるなど、手に汗握る展開が魅力の作品だ。映画化もされている。

 

 

第6位 夜明けの街で

不倫する奴なんてバカだと思っていた。でもどうしようもない時もある――。建設会社に勤める渡部は、派遣社員の秋葉と不倫の恋に墜ちる。しかし、秋葉は誰にも明かせない事情を抱えていた……。

発行部数:約200万部(2023年時点)

夜明けの街で』は不倫を題材としたミステリ小説だ。東野圭吾では珍しく不倫を描いた小説になっている。深田恭子が主演で映画化もされている。

 

 

第5位 秘密

自動車部品メーカーで働く39歳の杉田平介は妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美と暮らしていた。長野の実家に行く妻と娘を乗せたスキーバスが崖から転落してしまう。 妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。

発行部数:約224万部(2023年時点、引用元:東野圭吾、著作100冊。国内累計発行部数1億部突破!|株式会社文藝春秋のプレスリリース)

秘密』は、死んだはずの妻の魂が娘の体に宿ってしまうという状況を描いた小説だ。主人公が男として夫として葛藤していくようすが丁寧に描かれている。

東野圭吾の代表作で、これまでに何回も映像化されている。

 

 

第4位 白夜行

1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々と浮かぶが、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い目をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別の道を歩んでいく。二人の周囲に見え隠れする、いくつもの恐るべき犯罪。だが、証拠は何もない。そして19年……。

発行部数:約250万部(2023年時点、引用元:東野圭吾さん著作、1億部突破 | ロイター

白夜行』は、東野圭吾の代表作とも言える作品だ。犯罪に関わった少年と少女の人生と犯罪を圧倒的な描写力で描いている。映画化もされた名作ミステリだ。

 

 

第3位 手紙

武島剛志と直貴は二人きりの兄弟だった。弟の大学進学のための金がほしくて、剛志は空き巣に入り、強盗殺人の罪を犯してしまう。服役中の剛志から直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く。

発行部数:約262万部(2023年時点、引用元:東野圭吾さん著作、1億部突破 | ロイター

東野圭吾の初期の代表作が『手紙』だ。加害者家族の視点で、家族の葛藤が描かれた作品である。これまでにドラマ化もされている。

 

 

第2位 容疑者Xの献身

運命の数式。命がけの純愛が生んだ犯罪。  天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘の美里と暮らす隣人の花岡靖子に秘かな想いを寄せていた。 ある日、靖子の前夫・富樫が母娘の居場所を突き止めて訪ねてきた。金を無心し、暴力をふるう富樫を、靖子と美里は殺してしまう。 呆然とする二人を救うために、石神は完全犯罪を企てる。 だが皮肉にも、石神と帝都大学の同期であり、親友である物理学者の湯川学がその謎に挑むことになる。 ガリレオシリーズ初の長編。第134回直木賞受賞作。

発行部数:約299万部(2023年時点、引用元:東野圭吾さん著作、1億部突破 | ロイター

東野圭吾の代表作がガリレオシリーズの『容疑者Xの献身』だ。東野圭吾はこの作品で直木賞を受賞している。

『容疑者Xの献身』で描かれるのは、物理学者・湯川と数学者・石神の戦いだ。石神は思いを寄せる花岡を助けるために、完全犯罪を企てる。読者と湯川はその完全犯罪に挑むことになるのだが、石神がどんなトリックを仕掛けたのかが全く分からない。

倒述形式のミステリになっていて、読者は石神がどんなトリックを仕掛けたのか考える事になる。このトリックが本当に凝っていて分からない。最後にこのトリックが明かされる時には、驚きと感動に襲われた。意外性抜群のトリックと、石神の選んだ決断に心震わされたのである。そしてトリックが分かった後、タイトルの『容疑者Xの献身』に唸らされるのである。

 

 

第1位 ナミヤ雑貨店の奇蹟

あらゆる悩み相談に乗る不思議な雑貨店。そこに集う、人生最大の岐路に立った人たち。過去と現在を超えて温かな手紙交換がはじまる……張り巡らされた伏線が奇跡のように繋がり合う、心ふるわす物語。

発行部数:約1500万部(2023年時点、引用元:東野圭吾、著作100冊。国内累計発行部数1億部突破!|株式会社KADOKAWAのプレスリリース

東野圭吾作品で一番売れているのが、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』だ。全世界で約1500万部も売り上げているようだ。東野作品史上もっとも泣けると言われている感動ミステリーである。
過去と未来が手紙でつながる不思議な雑貨店が舞台で、人生の帰路に立った人たちの人間ドラマが描かれる。非常に感動する東野圭吾作品だ。


 

関連記事

plutocharon.hatenablog.com

東野圭吾『ある閉ざされた雪の山荘で』が映画化される件について

happinet-phantom.com

東野圭吾の小説は数多く映画化されているけれど、中には「この小説は絶対映像化できないだろう」と思うものがいくつかある。

その一つが『ある閉ざされた雪の山荘で』だ。『ある閉ざされた雪の山荘で』は東野圭吾のどんでん返しの名作としてあげられる作品である。この作品は映像化できないだろうと思っていたのだが、なんと2024年に映画化されるようだ。これにはかなり驚いた。

主演は、重岡大毅(ジャニーズWEST)だそう。隠遁して読書生活している私にとってはどんな俳優なのかはわからない。きっと有名な人なのだろう。

この記事では、映像化される『ある閉ざされた雪の山荘で』について紹介したいと思う。

 

 

 

『ある閉ざされた雪の山荘で』ってどんな作品?

早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した男女7名。これから舞台稽古が始まる。豪雪に襲われ孤立した山荘での殺人劇だ。だが、1人また1人と現実に仲間が消えていくにつれ、彼らの間に疑惑が生まれた。はたしてこれは本当に芝居なのか?驚愕の終幕が読者を待っている!

東野圭吾の『ある閉ざされた雪の山荘で』はどんでん返しの名作として知られる小説だ。『仮面山荘殺人事件』と並んで、東野圭吾のどんでん返しの名作と言われている。

ある閉ざされた雪の山荘で』は、孤立した環境に閉じ込められ、どんどん人が死んでいくというクローズドサークルもののミステリだ。孤島や吹雪で閉じ込められた山荘でどんどん人が死んでいく系のやつだ。

だが、『ある閉ざされた雪の山荘で』は普通のクローズドサークルと違って、かなり捻られた設定が使われている。それは「仮想の雪の山荘でのクローズドサークル」という異色の設定だ。

ここでの仮想というのは、実際に雪が降っているわけではなく、演じる劇の設定として雪が降っているということだ。舞台の山荘にはオーディションに合格した男女7人が集められる。この7人が舞台の練習をするのだ。

雪は降っていないのだが、舞台の練習として雪で閉じ込められたという設定を登場人物たちが受け入れている。

雪の山荘に閉じ込められると起こりがちなのだが、中盤ではどんどん仲間が消えていく。死体が見つからず、舞台の練習ということもあって、実際に殺人が起きているのか、それとも芝居なのか分からないのである。

このように『ある閉ざされた雪の山荘で』は斬新なクローズドサークルになっている。

 

 

映像化できないトリック

このようなあらすじを聞くと「簡単に映像化できそうじゃないか」と思うかもしれない。

だが、『ある閉ざされた雪の山荘で』には映像化不可能なトリックがしけかられているのだ。頑張れば映像化できそうな気はするのだが、小説で味わうほどの衝撃を映像で表現するのは厳しいと思う。どうやって映像化するのか楽しみである。

余談だが、この作品で使用されている「映像化できないトリック」はとあるフランスの前衛文学に使われている。このフランスの小説に使用されたのが初めてなので、ミステリに応用したのは東野圭吾が初めてなのかなと思う。

 

 

映像化できないと言われていたが映像化された小説

『ある閉ざされた雪の山荘で』のように、映像化できないと言われていたけど映像化された小説はいくつかある。少し紹介してみようと思う。

 

乾くるみの『イニシエーション・ラブ』はどんでん返しの名作として知られ、映像化不可能な作品として知られていた。だが、驚くべき手法を使って映像化されている。

 

 

殊能将之の『ハサミ男』も映像化できない作品として知られていたが、映画化されている。

意外と映画化できるものなんだな。

 

 

『ある閉ざされた雪の山荘で』は2024年新春に公開

happinet-phantom.com

『ある閉ざされた雪の山荘で』は2024年新春に公開予定とのことだ。どのような映像表現で、あのトリックを再現するのか非常に楽しみだ。

 

 

plutocharon.hatenablog.com

plutocharon.hatenablog.com