日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

『世界でいちばん透きとおった物語』の献辞に書かれているA先生は誰のことか

prtimes.jp

最近、電子書籍化不可能ということで話題になっている小説がある。

その作品が、杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』だ。この小説には、紙ならでは仕掛けが施されている。この仕掛けを電子書籍化することは不可能だろう。

この本の献辞では、影響を受けたA先生について言及されている。このA先生って誰のことと思っている人が多いと思う。

この記事では著者の杉井光が衝撃を受けたA先生が誰なのかについて書きたいと思う。

 

 

 

『世界でいちばん透きとおった物語』とは?

大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。『世界でいちばん透きとおった物語』という彼の遺稿に込められた衝撃の真実とは――。

杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』は、紙ならでは仕掛けが施されたミステリ小説だ。この仕掛けを電子書籍化することは不可能である。紙の本でしか味わえない感動がこの本にはある。体験型読書だ。

大御所ミステリ作家の宮内彰吾は、妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。その隠し子が主人公である「僕」だ。「僕」は、宮内が死ぬ間際に書いていたとされる『世界でいちばん透きとおった物語』という遺稿探しを探すことになる。

この本の仕掛けに気付いた時、作者が仕掛けた緻密なトリックに驚き、感嘆すること間違いなし。よくこのアイデアを実現させたなというのが初めて読んだ時の感想だ。

紙の本への愛情や可能性を感じた一冊である。

 

 

献辞に書かれているA先生は誰のことか?

世界でいちばん透きとおった物語』だが、最後の献辞に気になることが書かれている。

本文から献辞の部分を引用してみよう。

 

僕の生涯で最も激しい驚愕を伴う読書体験を与えてくれた、

A先生に捧げる。

同じ新潮文庫から刊行できたことを喜びたい。

本来なら巻頭に記すべき献辞を巻末に置き、

あまつさえ名を頭文字で伏せるという非礼の理由も、

物語の神秘を愛する読者諸氏であれば理解していただけることと思う。

 

また、著者の杉井光のインタビューでも衝撃を受けた小説について語られている。

「これまでの読書人生において一度だけ、読み終わった後にただ言葉を失うしかなかった、という本がありました。それに匹敵する純粋に強烈な読書"体験"を、読者にぶつけてみたい。そんな想いでこのアイディアをプロットに落とし込み、多くの方々の協力を得て本の形にしました。出版できたこと自体がすでにひとつの奇蹟です」

 

ここでのA先生や衝撃的な読書体験を与えた本とは何だろう?

ヒントとしては、①頭文字がA、②新潮文庫に収録されている③『世界でいちばん透きとおった物語』の内容に関係がある の三つがある。

このヒントからA先生を特定すると、A先生は泡坂妻夫ではないかと考えられる。

①に関しては、頭文字はAであるので泡坂妻夫が該当する。また、泡坂妻夫の代表作は新潮文庫に収録されている。

また、『世界でいちばん透きとおった物語』と同様に、泡坂妻夫も紙媒体ならではの仕掛けにこだわった作品を残している。

また、杉井光がインタビューで書いていたのは『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』のことではないかと思う。ちなみに、『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』は新潮文庫に収録されている。

 

 

泡坂妻夫の代表作品

次に泡坂妻夫の代表作品を紹介したい。泡坂妻夫は紙媒体ならではの小説を数多く残した。元祖「紙ならではトリック」と言ってしまってもいいと思う。

 

しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術 / 泡坂 妻夫

二代目教祖の継承問題で揺れる巨大な宗教団体〝惟霊(いれい)講会〟。超能力を見込まれて信者の失踪事件を追うヨギガンジーは、布教のための小冊子「しあわせの書」に出会った。41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズのその本には、実はある者の怪しげな企みが隠されていたのだ――。

泡坂妻夫の『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』は、紙媒体ならではの仕掛けが施された小説だ。元祖とも言ってもいいかもしれない。

できれば、何も下調べせずに読むようにしてほしい。トリックがわかってしまうと面白さが半減してしまう。

 

 

生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術 / 泡坂 妻夫

この本は絶対に立ち読みできません。はじめに袋とじのまま、短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと、驚くべきことが起こります――。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次々にトリックを見破るヨギ ガンジーが入り乱れる長編ミステリー「生者と死者」が姿を現すのです。史上初、前代未聞驚愕の仕掛け本です。読み方にご注意してお楽しみください。

泡坂妻夫の『生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術』は、袋とじが付いている前代未聞の仕掛け本だ。そうそう、週刊誌のグラビアとかについているのと同じ袋とじだ。文庫本に袋とじがついているのは珍しいのではないか。

最初に文庫本は袋とじがされた状態になっており、このまま読めば短編小説の「消える短編小説」になる。次に、各ページを切り開いて読むと、長編ミステリ「生者と死者」が姿を現すという仕掛けがなされている。袋とじという仕掛けは電子書籍ではできないだろう。

前代未聞の仕掛けが施された『生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術』をぜひ読んでみてほしい。

 

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