日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

電子書籍化できない?紙媒体ならではの仕掛けが施された小説7選

皆さんは本を読むときは紙派だろうか?それとも電子書籍派だろうか?

最近ならオーディオブック派もあるかもしれない。

最近は利便性ゆえに電子書籍を愛用している人が増えてきているかもしれないが、紙の本には電子書籍にはない魅力がある。ページをめくる感覚、質感や匂い、本棚に並べて眺められるという点などなど。

今回は紙の本の魅力を伝えるために、紙媒体ならではの仕掛けが施された小説を紹介したい。電子書籍化ができない小説や、紙媒体の方が良い小説を紹介する。

今回紹介する小説の魅力は実際に紙媒体で読まないとわからないので、ぜひ紙の本で読んでみてほしい。

 

 

 

世界でいちばん透きとおった物語 / 杉井 光

大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。『世界でいちばん透きとおった物語』という彼の遺稿に込められた衝撃の真実とは――。

杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』は、紙ならでは仕掛けが施されたミステリ小説だ。この仕掛けを電子書籍化することは不可能である。紙の本でしか味わえない感動がこの本にはある。体験型読書だ。

大御所ミステリ作家の宮内彰吾は、妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。その隠し子が主人公である「僕」だ。「僕」は、宮内が死ぬ間際に書いていたとされる『世界でいちばん透きとおった物語』という遺稿探しを探すことになる。

この本の仕掛けに気付いた時、作者が仕掛けた緻密なトリックに驚き、感嘆すること間違いなし。よくこのアイデアを実現させたなというのが初めて読んだ時の感想だ。

紙の本への愛情や可能性を感じた一冊である。ぜひ、紙媒体で読んで驚きの体験を味わってみてほしい。

 

 

逆転美人 / 藤崎 翔

飛び抜けた美人であるせいで不幸ばかりの人生を歩むシングルマザーの香織(仮名)。娘の学校の教師に襲われた事件が報道されたのを機に、手記『逆転美人』を出版したのだが、それは社会を震撼させる大事件の幕開けだった――。果たして『逆転美人』の本当の意味とは!? ミステリー史に残る伝説級超絶トリックに驚愕せよ!!

藤崎翔の『逆転美人』は、手記の体裁をとったミステリ小説だ。この本にも、紙の本でしかできない仕掛けが施されている。

最近、『世界でいちばん透きとおった物語』と同じように紙媒体ならではの仕掛けがあることで話題になった本だ。

この小説は、美人であるが故に不幸な人生を送っていた「香織」の手記という設定で書かれている。「香織」は、自らの半生を振り返り、娘の学校の先生に襲われた事件の真相を手記の中で語る。手記を読んでいると違和感を覚えるのだが、どこがおかしいのかわからない。そして終盤には、この本に仕掛けられたトリックに驚くことになる。この小説でも紙媒体でしかできないトリックが仕掛けられている。

 

 

しあわせの書 迷探偵ヨギ ガンジーの心霊術 / 泡坂 妻夫

二代目教祖の継承問題で揺れる巨大な宗教団体〝惟霊(いれい)講会〟。超能力を見込まれて信者の失踪事件を追うヨギガンジーは、布教のための小冊子「しあわせの書」に出会った。41字詰15行組みの何の変哲もない文庫サイズのその本には、実はある者の怪しげな企みが隠されていたのだ――。

泡坂妻夫の『しあわせの書 迷探偵ヨギガンジーの心霊術』は、紙媒体ならではの仕掛けが施された小説だ。元祖・紙しかできないトリックと言ってもいいかもしれない。

とある新興宗教の跡継ぎ争いがメインのストーリー。

できれば、何も下調べせずに読むようにしてほしい。トリックがわかってしまうと面白さが半減してしまう。

 

 

生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術 / 泡坂 妻夫

この本は絶対に立ち読みできません。はじめに袋とじのまま、短編小説の「消える短編小説」をお読みください。そのあと各ページを切り開くと、驚くべきことが起こります――。そして謎の超能力者と怪しい奇術師、次々にトリックを見破るヨギ ガンジーが入り乱れる長編ミステリー「生者と死者」が姿を現すのです。史上初、前代未聞驚愕の仕掛け本です。読み方にご注意してお楽しみください。

泡坂妻夫の『生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術』は、袋とじが付いている前代未聞の仕掛け本だ。そうそう、週刊誌のグラビアとかについているのと同じ袋とじだ。文庫本に袋とじがついているのは珍しいのではないか。

最初に文庫本は袋とじがされた状態になっており、このまま読めば短編小説の「消える短編小説」になる。次に、各ページを切り開いて読むと、長編ミステリ「生者と死者」が姿を現すという仕掛けがなされている。袋とじという仕掛けは電子書籍ではできないだろう。

前代未聞の仕掛けが施された『生者と死者 酩探偵ヨギガンジーの透視術』をぜひ読んでみてほしい。

 

 

三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 / 倉阪 鬼一郎

「4月9日(金)午前0:20にお越しください。お目にかかれるときを楽しみにしております。黒鳥館主人」招待状を手に東亜学芸大生・西大寺俊は黒鳥館と名づけられた壮麗な洋館に赴く。招待客は全員無作為に選ばれたという。ウェルカムドリンクを主人から受け取った西大寺は、館内の完全な密室で怪死!!呪われた館を舞台とした凄惨な連続殺人の火蓋が切って落とされる!

バカミスで有名な倉阪鬼一郎の作品の中でも特に傑作と言われるのが『三崎黒鳥白鳥館連続密室殺人』だ。この作品は、青山ブックセンターで開催された世界バカミス☆アワードで受賞作となっている。

脱力必死のトリックは、人によっては壁に本を投げつけたくなるかもしれない。作者の頑張る方向性が間違っているのではと思うのは私だけだろうか。この本にも紙ならではの仕掛けが施されている。

電子書籍もあるのだが、できれば紙媒体をお勧めしたい。

 

 

紙葉の家 / マーク・Z・ダニエレブスキー

 

単純なミスプリントも含めてすべてが「仕様」、仕掛け・遊びがいっぱいの長編ホラー小説。「ネイヴィッドソンの物語」「ザンパノの物語」「トルーアントの物語」の3つが、三重のクラインの壷の構造でつながり合う。

紙葉の家』は、なぜ本は紙を束ねたものじゃなきゃいけないのか追及した小説だ。この小説はかなりの奇書で実験小説だ。文字のレイアウトが非常に面白く、これは紙媒体じゃないとダメだなと思わされる。

この小説は、「ネイヴィッドソン記録」と呼ばれるビデオについて評論を書いていた老人が死んで、青年が注釈を加えたものを編集して出版したという設定で書かれている。物語が入れ子構造になっており、非常に複雑な構成になっている。

残念ながら絶版になっており、現在入手するのは非常に難しくなっている。

 

 

文体練習 / レーモン・クノー

他愛もないひとつの出来事が、99通りものヴァリエーションによって変幻自在に書き分けられてゆく。20世紀フランス文学の急進的な革命を率いたクノーによる究極の言語遊戯が遂に完全翻訳された。前人未到のことば遊び。

レーモン・クノーの『文体練習』は奇妙な実験小説だ。

「バスに乗っているとき、首が長く奇妙な帽子をかぶった男ともう一人の乗客との口論を目撃する。2時間後に、同じ人物が駅前で友人から『オーバーコートにもう一つボタンをつけるべきだ』と助言されているのを見かける。」という他愛もないストーリーを99通りの異なる文体で描くという作品だ。

文体に応じてレイアウトも工夫されており、電子書籍よりは紙媒体の方がおすすめだ。