最近、紙ならではのトリックが仕掛けられたミステリ小説が話題を集めている。
一つ例を挙げてみると、杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』などがあるだろう。
この小説は、紙ならでは仕掛けが話題になり、ベストセラーとなった。
この他にも藤崎翔の『逆転美人』も紙ならではの仕掛けが施されていると話題になった。
この記事では、『逆転美人』に仕掛けられた「両肩読みの仕掛け」を解説したい。
下記には『逆転美人』のネタバレが含まれるので、未読の人は注意してほしい。
『逆転美人』とは
飛び抜けた美人であるせいで不幸ばかりの人生を歩むシングルマザーの香織(仮名)。娘の学校の教師に襲われた事件が報道されたのを機に、手記『逆転美人』を出版したのだが、それは社会を震撼させる大事件の幕開けだった――。果たして『逆転美人』の本当の意味とは!? ミステリー史に残る伝説級超絶トリックに驚愕せよ!!
藤崎翔の『逆転美人』は、手記の体裁をとったミステリ小説である。
『逆転美人』は、美人であるが故に不幸な人生を送っていた「香織」の手記という設定で書かれている。「香織」は、自らの半生を振り返り、娘の学校の先生に襲われた事件の真相を手記の中で語る。手記を読んでいると違和感を覚えるのだが、どこがおかしいのかわからない。
この手記は香織の無実を訴えるものとして出版されているのだが、話には続きがある。追記という形で別の章があるのだが、ここで全ての真実が明かされる。
『逆転美人』の本当の著者は?
『逆転美人』は香織が書いた本とされていたのだが、本当は香織の娘がゴーストライターとして書いたものだった。娘は母の香織が父を殺したことに気づき、事件の発覚を恐れた母によって外界との交流を絶たれていた。
娘が母の犯罪を告発するべく使ったのが『逆転美人』という本だった。逆転美人に仕掛けを施したのだ。作中には香織が書いたとしては矛盾が生じる描写が仕掛けられている。
そして、読者にメッセージを届ける方法として「両肩読みの仕掛け」がこの小説に施されたのだ。これが紙、いや文庫本ならではのトリックだ。
「両肩読みの仕掛け」とは?
「両肩読み」のヒントは手記の最後に書かれた一文にある。
その両肩の角を右肩、左肩、右肩・・・と見ていって、ここからつらい過去をさかのぼれば、私の人生の真理が、そしてこれからやるべきことが見えてくるはずなのです
その両肩の角を右肩、左肩と見ていってというのはかなり唐突で不自然な文章だろう。
この文章の意味は見開きの左上と右上の文字を読んでいくということだ。
本編最後の234ページから、最初の5ページまでさかのぼり、右ページの 一行目の頭文字、左ページの最終行の頭文字、右ページの一行目の頭文字と、ページをめくって戻るごとに、「左上、右上角」と文字を追って読むと隠しメッセージが浮かび上がるのだ。
ページごとに「左上、右上角」と読んでいくのが両肩読みだ。
そうして浮かび上がるのが、下のような隠しメッセージだ。
この手記は嘘だらけです。本当は十六歳の娘である私が書きました。私の母、本名森中優子は、私の父と祖父と、M教諭こと増谷幸二先生を、恋人のKさんこと門田と共謀して殺しました。このメッセージに気付いた人は通報して、深夜に森中家一階裏側の水玉模様のカーテンの無施錠の窓を開け、窓際に置いたカセットテープを取るように伝えてください。そこに母と門田が三件の殺人を認めた会話を録音しました。捕まるぐらいなら私と弟と心中すると言ってます。 だから、私と弟を保護してから、母と門を捕まえてください。
著者は読者に助けを求めるために紙ならではのトリックを仕掛けたのだ。この手のトリックは使う必然性がないこともあるんだけど、『逆転美人』ではこのトリックを使わなければならない必然性がある点が非常に良いと思う。
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