日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

文学

「左翼」ではなく「サヨク」 / 『優しいサヨクのための嬉遊曲』 島田 雅彦

「サヨク」を描いた島田雅彦のデビュー作 僕は「左翼」が流行った時代を知らない。生まれたときには冷戦は終わっていたし、ソ連はロシアになっていた。日本でも左翼運動が盛り上がったらしいけれど、歴史の教科書や小説ぐらいでしか見たことがない。『僕って…

美禰子という謎 / 『三四郎』 夏目 漱石

恋愛のアマチュア・三四郎の恋 夏目漱石の小説には恋愛小説が多い。しかも、どれも一筋縄ではいかない恋愛小説だ。『それから』では三角関係の果ての不倫が描かれているし、『門』では略奪婚のその後、『こころ』では三角関係の果ての悲劇を描いている。『そ…

トラウマに向き合うということ / 「七番目の男」 村上 春樹

「七番目の男」は村上春樹の短編の中でも最高傑作の一つだと思う 「七番目の男」は『レキシントンの幽霊』に収録された短編で、村上春樹の短編の中でも印象に残る小説だ。「七番目の男」は、別の「鏡」という短編と同じスタイルを踏襲している。そのスタイル…

村上春樹が好きな人におすすめの作家

職業としての小説家 (新潮文庫) 作者:春樹, 村上 新潮社 Amazon 日本の現代文学を代表する作家・村上春樹。巧みな比喩を多用した文体で孤独や喪失感を描き、『1Q84』や『ノルウェイの森』、『騎士団長殺し』など次々とベストセラーを生み出している。今の日…

イメージが織りなす迷宮 / 『快楽の館』 アラン・ロブ=グリエ

イメージの反復 女の肉体に眺め入る。麻薬や人身売買が横行し、スパイが暗躍する英領香港の一郭、青い館が催す夜会。そこで出会った娼婦を手に入れるため金策に走り出す。一方では老人の不可解な死…あざやかな幻覚が紡ぎ出すエロティシズムの体験。小説の枠…

過ぎ去ってゆく青春 / 『風の歌を聴け』 村上春樹

村上春樹の原点 「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」 この印象的な書き出しで始まるのが『風の歌を聴け』。群像新人文学賞を受賞した村上春樹のデビュー作だ。この小説は日本文学にとってエポックメイキングとな…

同じ歩調で年老いていくことの幸せさ / 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」 F・スコット・フィッツジェラルド

時間を逆行して生きるベンジャミン・バトンの数奇な人生 老人として生まれて、どんどん若返っていき、最後には赤ちゃんとなって死んでいく・・・年を取るたびに若返るなんていいじゃない!って思う人もいるだろう。しかし事態はそう簡単じゃない。人と同じ歩…

深い関係性を求めて/「カンガルー日和」 村上 春樹

初めて読んだ村上春樹の小説は、高校の教科書に載っていた「カンガルー日和」だ。カンガルーの赤ちゃんを見に行くという、男女の何気ない1日を描いた小説だ。高校生の僕にとって、この小説はよくわからないふわふわした小説として映った。しかし、何度も読ん…

現代人の繋がりの薄さ / 「闖入者」 安部 公房

僕の1番好きな作家、安部公房の短編小説「闖入者」について書こうと思う。「闖入者」は『水中都市・デンドロカカリヤ』に収録されている短編だ。世にも奇妙な物語にありそうな、薄気味悪い小説である。民主主義で広く信じられている「多数決」という制度の暴…

スパゲティーに込められた孤独 / 「スパゲティーの年に 」 村上 春樹

カンガルー日和 (講談社文庫) 作者:村上春樹 講談社 Amazon 村上春樹といえば何かとスパゲティーを茹でがちだが(アルデンテが多い)、スパゲティーそのものを題材にした短編がある。それが「スパゲティーの年に」だ。「スパゲティーの年に」は『カンガルー…