日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

同じ歩調で年老いていくことの幸せさ / 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」 F・スコット・フィッツジェラルド

時間を逆行して生きるベンジャミン・バトンの数奇な人生

 

 

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老人として生まれて、どんどん若返っていき、最後には赤ちゃんとなって死んでいく・・・年を取るたびに若返るなんていいじゃない!って思う人もいるだろう。しかし事態はそう簡単じゃない。人と同じ歩調で年を取るという当たり前に思えることがいかに素晴らしいかをこの「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は教えてくれる。

 

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」はF・スコット・フィッツジェラルドによって書かれた短編小説だ。フィッツジェラルドはロストジェネレーション(自堕落な世代・迷える世代)を代表するアメリカの作家である。フィッツジェラルドの代表作『グレート・ギャッツビー』は20世紀アメリカ文学の最高傑作の一つと言われている。『グレート・ギャッツビー』は村上春樹によって訳されており、村上春樹作品の中にもしばしば出てくる(『ノルウェイの森』など)。ロストジェネレーションという言葉は、ガートルード・スタインヘミングウェイに投げかけた台詞からきている。ロストジェネレーションというのは、第一次世界大戦に遭遇して、既成の価値観に懐疑的になった世代の小説家を指し、代表的な作家にF・スコット・フィッツジェラルドアーネスト・ヘミングウェイがいる。

 

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この「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」はデヴィッド・フィンチャー監督によって映画化されている。主演はブラッド・ピットで、アカデミー賞美術賞・視覚効果賞を受賞している。

 

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は、老人として生まれて、若者へと時間を逆行して生きるベンジャミン・バトンの文字通り「数奇な人生」を描いた作品である。1860年の夏、ロジャー・バトン夫妻のもとに奇妙な「赤ちゃん」が生まれる。なんとその「赤ちゃん」は老人のような姿だったのである。そして精神的にも老人であり、生まれた直後に喋りだすのである。ベンジャミン・バトンと名付けられたその子どもは、周囲に冷たくあしらわれながらも強く生きていく。そして周囲の人間と同じように恋愛や苦悩、成功、結婚を経験していく。だがベンジャミン・バトンは老化することなく、どんどん若返っていく。若返っていくうちに周囲の人との年齢差が縮まり、打ち解けていくベンジャミン・バトン。そして美しい女性ヒルデガルドと恋に落ちて、結婚することになる。仕事も順調で順風満帆のように見えたが、周囲の人とは異なる時間の進み方がベンジャミンを孤独にしていく。年を取るにつれて若返るベンジャミンと年老いていくヒルデガンド。すれ違う電車のように、時の流れの違いによって二人の心が離れていく。ベンジャミンは年老いていくヒルデガンドに魅力を感じれなくなる。そして、若返るにつれて幼くなり頭も上手く働かなくなる。そして最後にベンジャミンの意識は生まれた時と同じ闇の中に埋もれていく…この小説を読んでいると人生の始まりと終わりは案外同じようなものに思えてくる。混濁の中から始まり混濁の中で終わる。同じ歩調で人生を歩き、景色を楽しむという一見して普通のことのように思えることが、実はかけがえのないことなのである。ベンジャミン・バトンが送った数奇な人生は、私たちに一緒に年を取ることの幸せさを教えてくれる。 

ベンジャミン・バトン  数奇な人生 (角川文庫)

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