日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

現代文学の奇才!中原昌也のおすすめ小説5選

中原昌也は、現代文学の奇才と言ってもいいくらい、尖った小説を書いている小説家だ。

 

アンチ・クライマックス、無意味な暴力、規則的な反復、紋切り型の表現と普通の小説とは一味違った現代文学を書いていている。今までに、三島由紀夫賞や野間新人文学賞などを受賞しており、純文学のフィールドで評価を受けている。

小説だけでなく、音楽家、映画評論家、イラストレーターなど複数の肩書きを持ち、幅広いジャンルで活躍している。

 

中原昌也は、紋切り型の文章・陳腐な表現を多用し、掌編ぐらいの長さで唐突に小説を終わらせる。小説の種を発芽させて開花させるのではなく、芽が出始めのところで刈り取るのは暴力的でもある。普通の小説に異議を唱えるアンチロマンの小説だ。

短編集『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』では、短編にも満たないような枚数の小説が、理不尽な暴力や唐突な展開でピリオドを打たれている。

 

中原昌也の小説の魅力にブラックユーモアがある。人を選ぶかもしれないが、ブラックすぎるユーモアが癖になってしまうのだ。

 

また、中原昌也の小説はあらすじにまとめるのが困難で、要約されるのを拒んでいるように思える。文章の流れに身を任せて読むような小説だ。物語的に小説を展開させているのではなく、イメージを連想で繋げて話を展開させていく。どんどん話題がズレていくので、脈略がないような印象を受ける。

しかし、ただ脈略がないのではなくて、暴力のイメージや構図が反復されているなど、構造を持った脈略のなさだ。イメージを連鎖させているので、気が尽きた時には全く関係ない話になっていることもしばしば。アランロブグリエの映画のタイトルから拝借すれば、その手法は漸次的横すべり的な小説とでもいうのだろうか。

規則性に基づいた反復性など、中原昌也の文学は「ヌーヴォー・ロマン」 の傍流ではないかと思う。

 

そんな現代文学の奇才・中原昌也のおすすめ5冊を紹介したい。

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伏線回収の神!伊坂幸太郎のおすすめ小説10選

鮮やかな伏線回収、魅力的なキャラクター、ウィットに富んだ文章で人気を集めている伊坂幸太郎。

 

巧みすぎる伏線回収には毎回驚かせられる。時系列がバラバラであったりと小説の構成が凝っていて、どんでん返しなどが仕掛けられた小説が多い。

 

伊坂幸太郎の魅力のひとつが、ウィットに富んだ文体だ。登場人物たちのウィットに富んだセリフが伏線にもなっていて、伊坂幸太郎おそるべしとしか言いようがない。特に「陽気なギャング」シリーズは伊坂作品の中でも会話のユーモアが多くてオススメだ。登場人物たちの洒脱でユーモアに溢れた会話が心地よすぎて、何度も読んでしまう。

 

ポップカルチャーが引用されることも多く、キューブリックやゴダールなどの映画が登場したりモチーフになることもしばしば。

 

 伊坂作品を読む面白さの一つに作品間のリンクがある。ある小説に登場した人物が別の小説に登場することがあるのが伊坂作品の特徴だ。ほとんどの作品にリンクがある。有名な例をあげると、『ラッシュライフ』に登場する泥棒・黒澤は、『重力ピエロ』や『首折り男のための協奏曲』、『フィッシュストーリー』、『ホワイトラビット』にも登場している。隠れた作品間のリンクを探すのも伊坂作品の楽しみの一つだ。 

 

そんな伊坂幸太郎のおすすめ小説を10冊紹介したい。

 

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ミステリ・純文学とジャンルを越境!佐藤友哉のおすすめ小説5選

メフィスト賞からデビューし、ミステリ・純文学の枠に収まらない小説を執筆してきた佐藤友哉。

 

サブカルチャーを小説内に取り込み、様々な意匠をパロディ的に用いるのが作風だ。先行作品を下敷きにし、オマージュ的な作品を多く執筆している。

代表例を挙げると、サリンジャーの「グラスサーガ」を下敷きにした「鏡家サーガ」、高橋源一郎の『日本文学盛衰史』を佐藤友哉的にオマージュした『1000の小説とバックベアード』、中上健次の「灰色のコカコーラ」のタイトルをもじった『灰色のダイエット・コカコーラ』などがある。

 

鬱屈した内面を抱えた登場人物を主人公にすることが多く、焦燥や葛藤を生々しく描写するスタイルはコアなファンを引きつける。『クリスマステロル』など、作者である佐藤友哉自身の状況が反映されていることが多く、私小説的な作風でもある。

 

サリンジャーに影響を受けたことを公言していて、サリンジャーの「グラースサーガ」からインスパイアされた「鏡家シリーズ」を執筆している。「フリッカー式」、「エナメルを塗った魂の比重」、「水没ピアノ」など、鏡家の個性豊かな兄弟姉妹たちを主人公に据えたシリーズだ。ミステリの枠組みを使いながらも、鬱屈した主人公の内面を描きミステリの枠組みを超える小説になっていて面白い。

 

そんな佐藤友哉のおすすめ小説5選を紹介! 

 

 

 

 フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人

メフィスト賞を受賞した佐藤友哉のデビュー作。タイトルに鏡公彦とあるように、サリンジャーの「グラース家」がモチーフになった「鏡家」シリーズの一つだ。あらすじがあらすじなので読む人を選びそうではあるが、ミステリだけではなく鬱屈した青年の内面を生々しく描くスタイルは、ただのミステリには収まらない。ミステリとしても、どんでん返し的な仕掛けがあり、ミステリ好きもうならせる小説だ。

 

 

水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪 

こちらも個性豊かな「鏡家」が登場する「鏡家シリーズ」だ。鏡家シリーズ3作目の水没ピアノは、鏡家シリーズの中でも最高傑作だ。この小説でも主人公が鬱屈していて、なかなか重々しい雰囲気ではある。ミステリ的なギミックが冴え渡っていて、佐藤友哉のミステリ小説の中でも一番完成度が高いのではないかなと思う。

 

 

 クリスマス・テロル

『クリスマス・テロル』は佐藤友哉の最大の問題作だ。密室をテーマにした『密室本』という企画で執筆され、密室が登場するミステリではあるのだがそれだけに収まらない。終盤で禁じ手といっても過言ではないことをやってのける。捨て身の問題作で、出版当時も賛否両論を引き起こしたらしい。水没ピアノまでの佐藤友哉のことを知っていると、『クリスマス・テロル』がより楽しめる。

『クリスマス・テロル』の発表後、佐藤友哉はメインで活動するジャンルをミステリから純文学に移す。佐藤友哉は『子どもたち怒る怒る怒る』や『1000の小説とバックベアード』のような純文学作品を執筆し、三島由紀夫賞を受賞し純文学界で評価されるようになる。『クリスマス・テロル』は、佐藤友哉の転換点的な小説だ。佐藤友哉の作家生命をかけた渾身の作品を是非味わって欲しい。

 

 

1000の小説とバックベアード

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)

 

佐藤友哉が活躍するジャンルはミステリだけに留まらず、純文学も評価を固めている。純文学で評価を固めた作品が、三島由紀夫賞を受賞した『1000の小説とバックベアード』だ。純文学なのかと言われるとミステリ要素もあるしファンタジー要素もあって、ラノベ要素もある。いろんなジャンルを横断した魅力的な小説だ。

「小説とは何か」、「何のために小説を書くのか」という作家として描くことと向き合った小説だ。随所に佐藤友哉らしい言い回しがあり、はまる人にははまる。「1000の小説」・「バックベアード」・「片説」・「図書館」など、村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を彷彿とさせる設定にも心惹かれる。「日本文学」に対する佐藤友哉の所信表明のような小説だ。 

 

 

ベッドサイド・マーダーケース 

『ベッドサイド・マーダーケース』もミステリの枠に収まらない小説だ。『ベッドサイド・マーダーケース』はミステリー長編でありながら単なるミステリに収まらない小説だ。小さな町で密かに進行する『連続主婦首切り殺人事件』復讐者となった夫たちは犯人を追う。しかし、真相に迫る彼らの前に立ちはだかったのは、人類規模の問題だった。クライマックスに待ち受けるものとは...

 

少し、不思議な世界へ読者を誘う!三崎亜記のおすすめ小説5選

三崎亜記は非現実的な小説世界に読者を誘う小説家だ。

 

見えない戦争を描いた『となり町戦争』や 、台風の代わりに鼓笛隊が日本に上陸する『鼓笛隊の襲来』など、日常から少しズレたような「少し、不思議(SF)」な小説を書き続けている。シュールレアリスムな世界観とでもいうのだろうか。

三崎ワールドでは、登場人物が不条理な出来事に巻き込まれる。その独特な世界観は、世にも奇妙な話やフランツ・カフカに通じるものがあると思う。独特な世界観ゆえに読者を選ぶところがあるが、ハマる人はとことんはまる唯一無二の作家だ。安部公房やカフカ、筒井康隆が好きな人ならきっと気にいると思う。

 

三崎亜記の小説のテーマとして、不条理や喪失があげられると思う。そして不条理を目の前にしても、生き続ける人間の希望も描いている。『失われた町』では、人の消滅という不条理の前に立ち向かう人々の希望を描いていた。

 

そんな「少し、不思議な」世界に誘う三崎亜記のおすすめ小説を5冊紹介したい。

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叙情的で透明感ある文体が魅力!大崎善生のおすすめ小説5選

大崎善生は、叙情的で透明感のある文体が魅力の小説家だ。

 

代表作『パイロットフィッシュ』のように瑞々しい恋愛小説を数多く書いている。大崎善生と言えば『聖の青春』や『将棋の子』のような将棋に関するノンフィクションを思い浮かべる人が多いかも知れないが、小説の方も十分に魅力的だ。

 

大崎善生の小説の魅力は何と言っても叙情的でエモいところだ。感傷的な小説世界は、読む者の心を優しく包み込む。特に、大崎善生の恋愛小説は、心の奥深くまで染みるような印象がある。感傷的な気分に浸りたいときは無性に大崎善生の小説が読みたくなる。

 

その文章の叙情性や透明感からか、村上春樹から影響を受けた「村上春樹チルドレン」とも呼ばれている。大崎善生自身も村上春樹が好きなようで、『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『納屋を焼く』『パン屋再襲撃』『中国行きのスロウ・ボート』などを繰り返し読んだとのこと。確かに、『パイロットフィッシュ』といい、叙情的な文体や喪失感について描いているところなど、村上春樹に通じるところが多い。

 

大崎善生といえば『聖の青春』のイメージが強いかも知れないが、ロマンチックな小説の方を紹介していきたい。

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ウルトラマンのバンザイ / 「バンザイコーナー」 柳 幸典

 

この前、直島にアート観光に行ってきた。

 

草間彌生の水玉かぼちゃや大竹伸朗が制作に関わった銭湯、地中美術館、ANDOミュージアムなど島中にアート作品があふれていて、まさにアートの聖地。

草間彌生杉本博司といった有名な作家はもちろんのこと、知らなかったアーティストにも出会えて鑑賞の幅が広がる旅行だった。

 

今回の旅行で出会った興味深い作品「バンザイ・コーナー」について紹介したいと思う。

「バンザイ・コーナー」は、直島にある美術館の一つ、ベネッセハウスミュージアムで展示されている。柳幸典というアーティストの作品だ。

 

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ベネッセハウスミュージアムに展示されている作品の大半は撮影可能だったけれど、「バンザイ・コーナー」は撮影することができなかったので、ネットに落ちていた写真を貼り付けてみた。全体像が見えないのでわかりずらいかな。他のサイトにわかりやすい写真があるので、きになる人はGoogle先生に聞いてみてください。

 

「バンザイ・コーナー」は、バンザイのポーズをとったウルトラマンウルトラマンセブンののフィギュアが1/4円状に配置されている作品だ。ウルトラマンのフィギュア自体は展示空間の角に配置されているが、両側の壁に鏡を配置することのよってあたかもウルトラマンのフィギュアが円状に配置されているように見える作品だ。

 

良くみてみると床が白色で、ウルルトラマンとウルトラマンセブンのフィギュアが織りなす円が赤色だ。そう、日本の国旗(日章旗)になっているのだ。

 

この作品は何を意味しているのだろう。作品と対峙する中で、考察を深めてみた。

 

ウルトラマン自身は虚像の円の中心部を見つめている。そしてバンザイをしている。

 

日本においてバンザイと結びつくのは天皇だろう。「天皇陛下万歳」というと戦時中のようなイメージになるが。ウルトラマンが中心部に見ているのは天皇だろう。日本の中心でもある天皇。その天皇という存在を中心にして日本社会の共同性が成立しているという風に読み解けた。

 

そしてこの作品は天皇という中心点をもとに日本という虚像の共同体の連帯を守っているとも読み解ける。そして、ウルトラマンが見つめる先は、虚像だ。

 

この作品は鑑賞しながら、何を意味するのか読み解くが楽しかった作品だ。

シンプルにかっこいいし、ウルトラマンという大衆文化を用いたポップアートのようにも思える。

 

直島のベネッセハウスミュージアムに行った際には是非とも鑑賞してみてほしい。

 

 

 

日本の国旗になっている

 

全体

 

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恋愛あるあるに関するあれこれ / 『もしもし、運命の人ですか。』 穂村 弘

穂村弘は僕にとって「名前は聞いたことあるけど一冊も読んだことがない」作家だった。なんとなく読んでみたいなというのは前から思っていたので、本屋でたまたま見かけた『もしもし、運命の人ですか。』を読んでみた。結論から言うと、すこぶる面白かった。なんで今まで読んでいなかったのだろう。本屋での出会いは運命的なものではなかろうかと、偶然を拡大解釈してみる。

もしもし、運命の人ですか。』は、タイトルからなんとなく分かるかもしれないが、恋愛についてのエッセイだ。一度は経験したことがあるような恋愛「あるある」ネタを穂村弘が妄想力豊かに考察、解き明かしている。とにかく穂村弘の妄想が爆発してる。

メールに忍ばせた好意を確かめる言葉、些細なことで好感度が上がったりすること、送ることの重圧などなど。日常に恋愛の些細なエピソードを読んでいると、思わずあるあると頭を振って共感してしまう。なんとなく考えてはいるけどうまく言語化できていない恋愛についてのことをユーモアたっぷりに言語化してくれている。すっかり穂村弘の魅力に取り憑かれたようだ。各エッセイで感じたことを徒然なるままに書き綴っていこうと思う。

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