日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ミステリ・純文学とジャンルを越境!佐藤友哉のおすすめ小説5選

メフィスト賞からデビューし、ミステリ・純文学の枠に収まらない小説を執筆してきた佐藤友哉。

 

サブカルチャーを小説内に取り込み、様々な意匠をパロディ的に用いるのが作風だ。先行作品を下敷きにし、オマージュ的な作品を多く執筆している。

代表例を挙げると、サリンジャーの「グラスサーガ」を下敷きにした「鏡家サーガ」、高橋源一郎の『日本文学盛衰史』を佐藤友哉的にオマージュした『1000の小説とバックベアード』、中上健次の「灰色のコカコーラ」のタイトルをもじった『灰色のダイエット・コカコーラ』などがある。

 

鬱屈した内面を抱えた登場人物を主人公にすることが多く、焦燥や葛藤を生々しく描写するスタイルはコアなファンを引きつける。『クリスマステロル』など、作者である佐藤友哉自身の状況が反映されていることが多く、私小説的な作風でもある。

 

サリンジャーに影響を受けたことを公言していて、サリンジャーの「グラースサーガ」からインスパイアされた「鏡家シリーズ」を執筆している。「フリッカー式」、「エナメルを塗った魂の比重」、「水没ピアノ」など、鏡家の個性豊かな兄弟姉妹たちを主人公に据えたシリーズだ。ミステリの枠組みを使いながらも、鬱屈した主人公の内面を描きミステリの枠組みを超える小説になっていて面白い。

 

そんな佐藤友哉のおすすめ小説5選を紹介! 

 

 

 

 フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人

メフィスト賞を受賞した佐藤友哉のデビュー作。タイトルに鏡公彦とあるように、サリンジャーの「グラース家」がモチーフになった「鏡家」シリーズの一つだ。あらすじがあらすじなので読む人を選びそうではあるが、ミステリだけではなく鬱屈した青年の内面を生々しく描くスタイルは、ただのミステリには収まらない。ミステリとしても、どんでん返し的な仕掛けがあり、ミステリ好きもうならせる小説だ。

 

 

水没ピアノ 鏡創士がひきもどす犯罪 

こちらも個性豊かな「鏡家」が登場する「鏡家シリーズ」だ。鏡家シリーズ3作目の水没ピアノは、鏡家シリーズの中でも最高傑作だ。この小説でも主人公が鬱屈していて、なかなか重々しい雰囲気ではある。ミステリ的なギミックが冴え渡っていて、佐藤友哉のミステリ小説の中でも一番完成度が高いのではないかなと思う。

 

 

 クリスマス・テロル

『クリスマス・テロル』は佐藤友哉の最大の問題作だ。密室をテーマにした『密室本』という企画で執筆され、密室が登場するミステリではあるのだがそれだけに収まらない。終盤で禁じ手といっても過言ではないことをやってのける。捨て身の問題作で、出版当時も賛否両論を引き起こしたらしい。水没ピアノまでの佐藤友哉のことを知っていると、『クリスマス・テロル』がより楽しめる。

『クリスマス・テロル』の発表後、佐藤友哉はメインで活動するジャンルをミステリから純文学に移す。佐藤友哉は『子どもたち怒る怒る怒る』や『1000の小説とバックベアード』のような純文学作品を執筆し、三島由紀夫賞を受賞し純文学界で評価されるようになる。『クリスマス・テロル』は、佐藤友哉の転換点的な小説だ。佐藤友哉の作家生命をかけた渾身の作品を是非味わって欲しい。

 

 

1000の小説とバックベアード

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)

1000の小説とバックベアード (新潮文庫)

 

佐藤友哉が活躍するジャンルはミステリだけに留まらず、純文学も評価を固めている。純文学で評価を固めた作品が、三島由紀夫賞を受賞した『1000の小説とバックベアード』だ。純文学なのかと言われるとミステリ要素もあるしファンタジー要素もあって、ラノベ要素もある。いろんなジャンルを横断した魅力的な小説だ。

「小説とは何か」、「何のために小説を書くのか」という作家として描くことと向き合った小説だ。随所に佐藤友哉らしい言い回しがあり、はまる人にははまる。「1000の小説」・「バックベアード」・「片説」・「図書館」など、村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を彷彿とさせる設定にも心惹かれる。「日本文学」に対する佐藤友哉の所信表明のような小説だ。 

 

 

ベッドサイド・マーダーケース 

『ベッドサイド・マーダーケース』もミステリの枠に収まらない小説だ。『ベッドサイド・マーダーケース』はミステリー長編でありながら単なるミステリに収まらない小説だ。小さな町で密かに進行する『連続主婦首切り殺人事件』復讐者となった夫たちは犯人を追う。しかし、真相に迫る彼らの前に立ちはだかったのは、人類規模の問題だった。クライマックスに待ち受けるものとは...