日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

伏線回収の神!伊坂幸太郎のおすすめ小説10選

鮮やかな伏線回収、魅力的なキャラクター、ウィットに富んだ文章で人気を集めている伊坂幸太郎。

 

巧みすぎる伏線回収には毎回驚かせられる。時系列がバラバラであったりと小説の構成が凝っていて、どんでん返しなどが仕掛けられた小説が多い。

 

伊坂幸太郎の魅力のひとつが、ウィットに富んだ文体だ。登場人物たちのウィットに富んだセリフが伏線にもなっていて、伊坂幸太郎おそるべしとしか言いようがない。特に「陽気なギャング」シリーズは伊坂作品の中でも会話のユーモアが多くてオススメだ。登場人物たちの洒脱でユーモアに溢れた会話が心地よすぎて、何度も読んでしまう。

 

ポップカルチャーが引用されることも多く、キューブリックやゴダールなどの映画が登場したりモチーフになることもしばしば。

 

 伊坂作品を読む面白さの一つに作品間のリンクがある。ある小説に登場した人物が別の小説に登場することがあるのが伊坂作品の特徴だ。ほとんどの作品にリンクがある。有名な例をあげると、『ラッシュライフ』に登場する泥棒・黒澤は、『重力ピエロ』や『首折り男のための協奏曲』、『フィッシュストーリー』、『ホワイトラビット』にも登場している。隠れた作品間のリンクを探すのも伊坂作品の楽しみの一つだ。 

 

そんな伊坂幸太郎のおすすめ小説を10冊紹介したい。

 

 

 

ラッシュライフ 

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。

伊坂幸太郎の構成の妙が光るのが『ラッシュライフ』だ。交錯する5人の登場人物とバラバラ死体の物語。一見するとなんの繋がりもない5人のストーリーだが、ジグソーパズルのように一つ一つピースがはまっていくと、一枚の騙し絵のように見えてくる。ラストになるにつれて、ジグソーパズルのピースがぴったりとはまっていくような快感が味わえる。まさに、エッシャーのだまし絵のような緻密な小説。映画で例えたらタランティーノ監督の『パルプ・フィクション』。

ちなみに『ラッシュライフ』に登場する泥棒・黒澤は、『重力ピエロ』や『首折り男のための協奏曲』、『フィッシュストーリー』、『ホワイトラビット』にも登場している。黒澤の魅力にはまってしまった人はどこに登場しているのか探してみてほしい。

 

 

陽気なギャングが地球を回す

嘘を見抜く名人、天才スリ、演説の達人、精確な体内時計を持つ女。この四人の天才たちは百発百中の銀行強盗だった…はずが、思わぬ誤算が。せっかくの「売上」を、逃走中に、あろうことか同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯に横取りされたのだ!奪還に動くや、仲間の息子に不穏な影が迫り、そして死体も出現。映画化で話題のハイテンポな都会派サスペンス。

 

 

死神の精度

CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。

奇妙な死神・千葉が登場するのが『死神の精度』だ。雨男の死神・千葉は、対象者を調査して死の可否の判断を下すために人間界にやってきた。死神と出会う人間の人生模様を描いた傑作短編だ。

 

 

 アヒルと鴨のコインロッカー

引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的は――たった1冊の広辞苑!? そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだ! 清冽な余韻を残す傑作ミステリ。

どんでん返しの名作として名前が挙がることが多いのが『アヒルと鴨のコインロッカー』。引っ越してきたアパートで出会った青年に持ちかけられたのは本屋の襲撃だった。1冊の広辞苑を狙った書店襲撃とそれに協力する主人公。事件の全貌が明らかになった時、全てがひっくり返るような衝撃に襲われる。衝撃の展開、明かされる真実。現在と過去が繋がるとき、切なさが胸に込み上げてくる。切ない余韻を残す、名作ミステリだ。

 

 

砂漠

入学した大学で出会った5人の男女。ボウリング、合コン、麻雀、通り魔犯との遭遇、捨てられた犬の救出、超能力対決……。共に経験した出来事や事件が、互いの絆を深め、それぞれを成長させてゆく。自らの未熟さに悩み、過剰さを持て余し、それでも何かを求めて手探りで先へ進もうとする青春時代。二度とない季節の光と闇をパンクロックのビートにのせて描く、爽快感溢れる長編小説。

 『砂漠』は、個性豊かな大学生たちのキャンパスライフを描いた青春小説だ。魅力的なキャラクターが繰り広げるキャンパスライフを見てると、自らの大学生生活を思い出すだろう。また、まだ大学生ではない人はこの小説を読んでキャンパスライフに夢を膨らませるのも良いだろう。どこか足りなくて、どこか過剰で、何者かになれないかともがく青春時代。あっという間に過ぎ去ってしまう大学生時代を追体験できるような小説だ。

登場人物の魅力的な会話だけではなく、小説の構成も優れている。不毛かもしれないが、可能性に満ちた大学生活を伊坂作品で味わうのはどうだろう。

 

 

ゴールデンスランバー 

衆人環視の中、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。なぜだ? 何が起こっているんだ? 俺はやっていない――。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走。行く手に見え隠れする謎の人物達。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテインメント巨編。

伊坂幸太郎の伏線回収の醍醐味が詰まった超大作が『ゴールデンスランバー』。この小説、とにかく伏線回収がすごい!「これが伏線になるのか」と思うほど、ありとあらゆるところから伏線回収を仕掛けてくるのだ。個人的には伊坂幸太郎の最高傑作だと思っている。

首相暗殺の濡れ衣を着せられ、巨大な陰謀に巻き込まれた青柳雅春。彼はいろんな手段を使って追っ手から逃げようとする。手に汗握るストーリーにページをめくる手が止まらなくなる。後半にかけての怒涛の伏線回収は圧倒されるし、爽快感がある。

 

 

マリアビートル

幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する――。

マリアビートル』は『グラスホッパー』に続く殺し屋シリーズの作品だ。エンタメ性と文学性を両立した優れた作品だ。

マリアビートル』では、東北新幹線にクセの強い殺し屋たちが集結する。疾走する東北新幹線という密室の中で、殺し屋たちの対決が繰り広げられる。殺し屋たちのキャラクターや軽妙な会話が魅力的だ。伏線も張り巡らされテンポよく進むストーリーはエンターテイメントとして一級品だ。

だが、『マリアビートル』の良さはエンターテイメント性以外にもある。「王子」というキャラクターに象徴されるように、「悪とは何か」といったテーマが扱われている。この「王子」というキャラクターだが、一見普通の少年に見えるが、サイコパス的なキャラクターなのである。ちょうど『マリアビートル』という作品は伊坂幸太郎作品の中では第二期といわれる時期の作品だ。この第二期では、エンターテイメント性よりも純文学的なテーマを追求する傾向が強かった。なので、分かりやすいエンタメ的な面白さがない分、賛否両論が別れる作品が多かったように思う。そんな第二期と言われる時期の中でも、『マリアビートル』はエンタメ性と文学性を両立した稀有な作品だと思っている。

 

 

ホワイトラビット 

兎田孝則は焦っていた。新妻が誘拐され、今にも殺されそうで、だから銃を持った。母子は怯えていた。眼前に銃を突き付けられ、自由を奪われ、さらに家族には秘密があった。連鎖は止まらない。ある男は夜空のオリオン座の神秘を語り、警察は特殊部隊 SIT を突入させる。軽やかに、鮮やかに。「白兎事件」は加速する。誰も知らない結末に向けて。驚きとスリルに満ちた、伊坂マジックの最先端!

伊坂マジックが冴え渡っているのが『ホワイトラビット』。仙台の高級住宅地で人質事件が発生する。犯人と警察との緊迫した交渉戦や事件の鍵を握るオリオン座の秘密など、鮮やかな展開に目が離せなくなる。怒涛の展開に圧倒される小説だ。個人的には『ラッシュライフ』と並ぶくらいの名作だと思っている。『ラッシュライフ』で登場した人気キャラクター黒澤も登場する。

 

 

残り全部バケーション

当たり屋、強請りはお手のもの。あくどい仕事で生計を立てる岡田と溝口。ある日、岡田が先輩の溝口に足を洗いたいと打ち明けたところ、条件として“適当な携帯番号の相手と友達になること”を提示される。デタラメな番号で繋がった相手は離婚寸前の男。かくして岡田は解散間際の一家と共にドライブをすることに―。その出会いは偶然か、必然か。裏切りと友情で結ばれる裏稼業コンビの物語。

 

 

逆ソクラテス

敵は、先入観。世界をひっくり返せ! 伊坂幸太郎史上、最高の読後感。デビュー20年目の真っ向勝負! 無上の短編5編(書き下ろし3編を含む)を収録。<収録作>「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」

逆ソクラテスは、全五編すべての主人公が小学生という、伊坂幸太郎にとって初の試みの短編集だ。「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」と、ネーミングが面白い短編が並んでいる。読後感がとてもいい短編集だ。