日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

恋愛あるあるに関するあれこれ / 『もしもし、運命の人ですか。』 穂村 弘

穂村弘は僕にとって「名前は聞いたことあるけど一冊も読んだことがない」作家だった。なんとなく読んでみたいなというのは前から思っていたので、本屋でたまたま見かけた『もしもし、運命の人ですか。』を読んでみた。結論から言うと、すこぶる面白かった。なんで今まで読んでいなかったのだろう。本屋での出会いは運命的なものではなかろうかと、偶然を拡大解釈してみる。

もしもし、運命の人ですか。』は、タイトルからなんとなく分かるかもしれないが、恋愛についてのエッセイだ。一度は経験したことがあるような恋愛「あるある」ネタを穂村弘が妄想力豊かに考察、解き明かしている。とにかく穂村弘の妄想が爆発してる。

メールに忍ばせた好意を確かめる言葉、些細なことで好感度が上がったりすること、送ることの重圧などなど。日常に恋愛の些細なエピソードを読んでいると、思わずあるあると頭を振って共感してしまう。なんとなく考えてはいるけどうまく言語化できていない恋愛についてのことをユーモアたっぷりに言語化してくれている。すっかり穂村弘の魅力に取り憑かれたようだ。各エッセイで感じたことを徒然なるままに書き綴っていこうと思う。

 

 

いちゃいちゃ界で少し安心

男性は親しい女性の前では幼児化すると噂には聞く。

僕にもそのような傾向が少しあるのだが、他の男性もそうなのかなと心配になることがある。「もしや自分がおかしいだけなのでは?」と。しかし、いちゃいちゃ界と言うエッセイを読んで、世間的に幼児化する現象は確認されているんだなと確認でき安心した。

てか、いきなり「君の瞳に乾杯だぴょん」には吹いてしまった。いちゃいちゃ界のファンタジスタって何なんだ。

 

 

「似ている」事件にすごく共感

すごく可愛い人でも変な物に似ているなって思ってしまう瞬間がある。

エッセイではヨーダが出てきたけど、僕は好意を寄せる人がガチャピンに見えたことがある。ガチャピンって。そう見えてしまうとおかしなもので、だんだんガチャピン要素が強調されて見えてくるのだ。しかも他の人からも指摘されるとより補強されてイメージが強化されてしまう。けれど、どんなに美人な人だって不思議な物に似ている要素があったりする。別に似ているからと言って、一部分の要素が似ているだけで、美しさや可愛さが損なわれることはない。ガチャピンに見えてしまった時の自分に読ませたいエッセイだ。

 

 

「1%のラブレター」で恋の駆け引きを思い出す

僕は高校生の時にはメール、大学生以降はLINEがコミュニケーションツールの主流だった。特にLINEでは、好きな人に好意を悟られまいと思う一方で向こうに好意があるか確かめようとジャブを打ってみるようなめんどくさいようなことをしていた。「ノート見せて」や「テスト範囲教えて」などの業務連絡的なメッセージに「ジャブ」を滑り込ませるのだ。たわいもない事を少しメッセージに加えて相手が反応するかどうかみてみると言うものだ。

エッセイを読んでから思うと、あの「ジャブ」はこのエッセイで言うところの「1%のラブレター」だったなと。

 

 

恋愛関係のあるあるって人類共通だな

人類にとって最も「あるある」と共感できることは恋愛に関することではなかろうか。恋愛は世界の共通言語である以上、恋愛あるあるを描いた『もしもし、運命の人ですか。』は人類必読の一冊というのは過言だろうか。うん、過言だろう。言い過ぎ言い過ぎ。けれども、多くの人が共感できて楽しめる一冊であることは過言ではない。

 

栞の一行

生の実感は死に近づくことによって得られる。この絶対的な矛盾が日常のなかで現象化したものが恋の本質だと思う。(p 163)