日々の栞

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意外すぎる!?芥川賞を受賞していない有名作家まとめ

芥川賞といえば純文学の登竜門的な賞だ。

純文学で優れた新人に与えられる賞で、安部公房大江健三郎中村文則平野啓一郎川上未映子綿矢りさ阿部和重など数多くの有名作家が受賞してきた。

実力のある作家に賞を与えて世に送り出してきた芥川賞だが、一部の作家は正当に評価できていなかったという声もある。実力はあるが、意外にも芥川賞を受賞していない作家もいるのだ。

かつて選考委員だった池澤夏樹は、「かつて芥川賞は村上春樹、吉本ばなな、高橋源一郎、島田雅彦に賞を出せなかった。」というコメントを残している。

そんな実力があるが芥川賞を受賞してない有名作家を紹介したい。

 

 

 

芥川賞とはどんな文学賞?

まず、芥川賞について簡単に説明する。芥川龍之介賞、通称芥川賞は、新人作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。文学賞の中で一番知名度がある賞じゃないだろうか。他の文学賞と違って、一年に2回実施されている。

純文学というと定義が難しいのだけれど、芥川賞に限っていえば、「文學界」・「新潮」・「群像」・「すばる」・「文藝」の五大文芸誌に掲載された作品が候補の対象となる。候補の作品となる小説の長さは中編程度が多い。

「三島由紀夫賞」と「野間文藝新人賞」とならんで、三大純文学新人賞と言われている。純文学の新人にとっては登竜門的な賞だ。

 

 

芥川賞を受賞していない作家

 

太宰 治

『人間失格』や『斜陽』などの作品で知られる太宰治だが芥川賞を受賞していない。太宰治が生きていた時には芥川賞はなかったんじゃないかと思う人もいるかもしれない。だが実は、太宰治は第1回芥川賞で候補になっているのだ。太宰治がデビューしたての頃の話だ。

太宰治は当時パビナール中毒症に悩んでいることもあり、薬品代の借金もあったため芥川賞の賞金を熱望していた。だが結局は受賞しなかった。

ちなみにこの時の選考委員には川端康成がいた。この時選考委員の一人だった川端康成は太宰について、「例へば、佐藤春夫氏は『逆行』よりも『道化の華』によつて作者太宰氏を代表したき意見であつた。(中略)そこに才華も見られ、なるほど『道化の華』の方が作者の生活や文学観を一杯に盛つてゐるが、私見によれば、作者目下の生活に嫌な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みがあつた」と言ったことに対し[、太宰は『文藝通信』において以下のように反論し

 

中島敦

高校国語でお馴染みの「山月記」を書いた中島敦も実は芥川賞を受賞していない。中島敦は、「光と風と夢」で第15回芥川賞の候補になっているのだが、惜しくも受賞を逃している。

中島敦は喘息を患っており、それが原因で33歳という若さでこの世を去ってしまう。もっと長生きしていたら数多くの名作を残していただろうに。遺作となった『李陵』の評価は高く、代表作として読まれている。

 

 

三島由紀夫

三島由紀夫も芥川賞を受賞していない。よく言わせる説としては、三島由紀夫が新人の時は戦争が原因で芥川賞が中断されていたというものだ。芥川賞が再開された時には三島由紀夫は新人という範疇に入らない作家になっていたために候補に選ばれていないという理由である。ただ厳密にいうとそこまで、新人の時期と芥川賞中断の時期が被っていないので、他にも理由がある気がする。

 

 

津島佑子

『ヤマネコ・ドーム』などで知られる津島佑子も芥川賞を受賞していない。ちなみに、津島佑子は太宰治の娘である。これまでに、「狐を孕む」、「壜のなかの子ども」、「火屋(ほや)」が候補に挙げられている。

 

 

村上春樹

現代日本文学を代表する作家・村上春樹も実は芥川賞を受賞していない。村上春樹はデビューしてから2回芥川賞候補にあげられている。候補になった作品というのが、デビュー作の『風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』だ。

今では世界的な作家となっている村上春樹だが、デビュー当時の文壇の反応は賛否が分かれていた。村上春樹は、『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビューした。この時の群像文學新人賞の選考委員は佐々木基一、佐多稲子、島尾敏雄、丸谷才一、吉行淳之介だ。この中では、丸谷才一吉行淳之介からは高い評価を受けた。

デビュー作の『風の歌を聴け』は第81回芥川賞候補作品に選ばれたが、そこでは否定的な反応の方が多く、受賞にはつながらなかった。結局、村上春樹は『1973年のピンボール』でも芥川賞を受賞できなかった。

次回作の『羊をめぐる冒険』から村上春樹は長編小説を中心的に書くようになり、芥川賞候補になることはなかった。芥川賞は中短編の小説を対象とする賞だからである。

村上春樹を評価できなかったというのも芥川賞が批判される理由の1つである。

 

 

高橋源一郎

高橋源一郎は、パロディやパスティーシュを駆使し、前衛的なポストモダン文学を数多く生み出してきた作家だ。

代表作には、『さようなら、ギャングたち』、『ジョン・レノン対火星人』、『優雅で感傷的な日本野球』、『日本文学盛衰史』などがある。個人的には『さようなら、ギャングたち』を初めて読んだ時の驚きが忘れられない。

高橋源一郎に関しては一度も芥川賞候補に入ったことがない。芥川賞と同様の若手向けの文学賞・三島由紀夫賞は受賞しているのだが。芥川賞が取りこぼした有名作家というと高橋源一郎や村上春樹、島田雅彦あたりが1番に思い浮かぶ。

 

 

島田雅彦

芥川賞の選考委員を務めている島田雅彦も実は芥川賞を受賞していない。

デビューからわずか四年で、芥川賞に六回ノミネートされたのだが、六回とも落選している。候補になったのは、「優しいサヨクのための嬉遊曲」「亡命旅行者は叫び呟く」「夢遊王国のための音楽」「僕は模造人間」「ドンナ・アンナ」「未確認尾行物体」の6作品。どの作品も素晴らしいのだが、何故か受賞を逃している。これに関してはどう考えても選考委員側でのミスではないかと思う。

ちなみに、これらの候補作は『島田雅彦芥川賞落選作全集』という短編集に収録されている。凄まじいタイトルだ。気になる人は是非読んで見てほしい。

 

 

山田詠美

芥川賞選考委員を務める有名作家・山田詠美も芥川賞を受賞していない。山田詠美に関しては芥川賞ではなく直木賞を受賞している。芥川賞と直木賞を同時に取れることはかなり難しいのだ。

山田詠美は、「ベッドタイムアイズ」や 「ジェシーの背骨」、「蝶々の纏足」で芥川賞候補になっていた。

結局、山田詠美は『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞している。『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』だが、現在は絶版になっているので、是非とも幻冬舎には復刊して頂きたいものだ。

 

 

吉本ばなな

TSUGUMI』や『キッチン』といった名作を残している吉本ばななも芥川賞を受賞していない。意外である。「うたかた」や「サンクチュアリ」という小説が芥川賞候補になっているのだが、受賞には至っていない。

 

 

松浦理英子

松浦理英子は、前衛的な小説で知られる小説家だ。

寡作で有名な作家で、『親指Pの修業時代』から次作『裏ヴァージョン』まで7年、『犬身』までさらに7年が費やされている。寡作なのも影響しているかもしれない。

「葬儀の日」や「乾く夏」が芥川賞候補になっている。

 

 

舞城王太郎

舞城王太郎はエンタメや純文学といったジャンルを横断し活躍している作家だ。小説内構造をいじるメタフィクション小説に定評があり、『九十九十九』や『ディスコ探偵水曜日』などインパクトの大きい問題作を多く執筆している。 『好き好き大好き超愛してる。』や『ビッチマグネット』、『短編五芒星』、『美味しいシャワーヘッド』が候補入りしている。特に『短編五芒星』は、短編集が芥川賞候補になるという異例の事態だった。村上龍が選考を棄権するという珍事も起こった。

 

 

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