一時的にのみ活躍を見せた歌手や芸人を一発屋と読んだりする。一発屋というと芸人のイメージが強いかもしれない。
だが、ミステリ作家にも一発屋はいる。インパクトのあるトリックでデビューしたものの、その後の作品が続かない作家のことだ。
この記事では、デビュー作で爪痕を残したものの次回が出ていない作家を紹介する。
『消失!』 / 中西 智明
高塔市―赤毛の人々が数多く住む奇妙な街で、その事件は起こった。美しい赤毛の持ち主ばかりを次々に殺害し、忽然と「消失!」する黒ずくめの男の謎。痕跡ゼロ、関連性ゼロの完全犯罪に名探偵新寺仁が挑む!ミステリマニアの間で伝説と化していた本書が今また甦る。
ミステリにおける一発屋を考えた時に真っ先に思いつくのは、中西智明の『消失!』だろう。中西智明は、『消失!』以外に作品を発表していない。
読者を驚かすことに力点がおかれたこの作品は、衝撃的なトリックが仕掛けられている。どんでん返しの名作と行っても良いかもしれない。こんなトリックは例をみない。是非読んでみて、衝撃的なトリックに挑んで見てほしい。
『火蛾』 / 古泉 迦十
十二世紀の中東。聖者たちの伝記録編纂を志す作家・ファリードは、取材のため、アリーと名乗る男を訪ねる。男が語ったのは、姿を顕わさぬ導師と四人の修行者たちだけが住まう山の、閉ざされた穹廬の中で起きた殺人だった。未だかつて誰も目にしたことのない鮮麗な本格世界を展開する。第十七回メフィスト賞受賞作。
クセの強いミステリが受賞することに定評があるメフィスト賞で一発屋といえば古泉迦十だろう。
古泉迦十はメフィスト賞受賞作『火蛾』しか発表していない。『火蛾』は一発という名が相応しいほど完成度の高いミステリだ。中世の中近東を舞台に修行者たちの間で起こる密室殺人を描いた本作は、本格ミステリ史上に残る伝説的傑作と評価されてる。
『火蛾』はイスラム世界を舞台にした幻想ミステリである。ミステリ要素よりも、イスラムの特異な世界観に魅力がある小説だ。「本格ミステリこれがベストだ!」2001年版第一位を初めとして、「本格ミステリ・ベスト10」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」などあらゆるミステリー・ベスト10にランクインしている。
『ヴィーナスの命題』 / 真木 武志
夏休み、学園のグランドで発見された生徒の死体。自殺? 他殺? 才能溢れる高校生たちの仮説がついにあぶり出す"解"とは? 『読者を選ぶ』ともいわれる難解さゆえに賛否が大きく分かれた野心的、待望の文庫化!
真木武志の『ヴィーナスの命題』は、第20回横溝正史賞の選考会で賛否両論をよんだ作品だ。横溝正史賞の受賞は逃したものの、選考委員の1人である綾辻行人の推薦もあり、刊行されることとなった。ミステリよりも青春小説に近いような内容だ。
『予告された殺人の記録』 / 高原 伸安
ダイイングメッセージは華麗なカトレアの花…。ロサンジェルスの高級住宅街で起こった殺人事件は、密室で自殺した男の犯行なのか。物言わぬ花はいったい何を告げるのか。事件に巻きこまれた“私”推理行は、ありうるべからざる犯人の名前を指し示す。ミステリー最後の放れ業に挑戦した驚天動地の大異色作。
『予告された殺人の記録』は、ミステリ最後の放れ技と言われている「読者が犯人」に挑戦した作品だ。
『鬼に捧げる夜想曲』/ 神津 慶次朗
続発する怪死、更には十九年前の失踪事件をも包含する真相が暴かれるとき、満月島は震撼する。第十四回鮎川哲也賞受賞作。
戦後間もない時代設定、曰く付きの島、奇妙な風習とそして新婚初夜に密室で惨殺されるというように横溝をかなり意識している内容になっている。