日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

村上春樹の新刊『街とその不確かな壁』を予想する試み

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村上春樹の新作長編小説『街とその不確かな壁』が2023年4月13日(木)に刊行される。英語でのタイトルは、「The city and its uncertain walls」だ。2017年2月刊行の『騎士団長殺し』以来、6年ぶりとなる書下ろし長編である。

 

『街とその不確かな壁』は、1200枚の書き下ろし新作長編小説であるようだ。

村上春樹ファンのあいだでも話題になったのだが、村上春樹の幻の作品「街と、その不確かな壁」とタイトルがほとんど同じなのだ。新作長編の題名は、読点が一つ抜かれたものである。この点からも内容を予想できそうである。

また、新しい試みとして村上作品の長編では初めて刊行と同日に電子書籍も配信するようだ。

今から読むのが楽しみである。Twitterなどでは新作長編のニュースで祭り状態になっていた。

刊行が待ちきれないので、現時点でわかっている情報をまとめて、内容について予想してみようと思う。

 

 

村上春樹とは?

わざわざ書くことでもないかと思うが、村上春樹は日本を代表する小説家だ。

1979年に『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞し、作家デビュー。主な長編小説だと、『羊をめぐる冒険』、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、『ノルウェイの森』、『ねじまき鳥クロニクル』、『海辺のカフカ』が挙げられる。『1Q84』が大ベストセラーになったのが記憶に新しいだろう。

1番最近の長編小説は、『騎士団長殺し』(第1部 顕れるイデア編、第2部 遷ろうメタファー編)だ。

また、村上春樹は海外でも人気がある。日本の現代作家の中で世界で最も翻訳されている作家は村上春樹と言っても過言ではない。アメリカやロシア、中国、韓国、イスラエル、イギリス、フランス、イタリア、デンマーク、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、フィンランドなど、その数は50以上の言語に及んでいる。村上春樹は日本の作家の中でも飛び抜けて世界中で読まれているのだ。

村上春樹の作品では、都市部に住む人間の孤独や喪失感などが描かれている。村上春樹作品には現代の人々に通じる普遍性があるために、世界中で広く読まれているのかもしれない。このように世界中で読まれているためか、ノーベル文学賞の有力候補と毎年騒がれている。やれやれ。

村上春樹は世界中に読者がいることもあり、国際的な文学賞を数多く受賞している。国際的な文学賞、特にフランツ・カフカ賞を受賞していることもあって、日本の作家の中でノーベル文学賞候補に見なされるようになったのだ。

村上春樹は、チェコの「フランツ・カフカ賞」を受賞している。特にフランツ・カフカ文学賞を受賞した作家はノーベル文学賞も受賞していることが多い。フランツ・カフカ賞を受賞したあたりから村上春樹に「ノーベル賞受賞するか」と注目が集まったのである。

村上春樹はその後もイスラエルの「エルサレム賞」やデンマークの「アンデルセン文学賞」、「カタルーニャ国際賞」、イタリアの「ラッテス・グリンツァーネ文学賞」など、海外の賞を複数受賞している。

また村上春樹は小説を書くだけでなく、海外小説の翻訳にも取り組んでいる。フィッツジェラルド、サリンジャー、カポーティ、マッカラーズなどのアメリカ文学の翻訳を数多く手掛けている。

 

 

幻の中編「街と、その不確かな壁」とは?

村上春樹ファンのあいだでも話題になったが、新作長編は村上春樹の幻の作品「街と、その不確かな壁」とタイトルがほとんど同じだ。

「街と、その不確かな壁」は1980年『文學界』9月号に掲載された。インタビューによると、この作品は『1973年のピンボール』が芥川賞候補となったことにより、その受賞第1作として発表することを意識して書いたようだ。結局芥川賞は受賞しなかったのだけれど。

街と、その不確かな壁」は、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の「世界の終り」パートの元になった作品と言われている。だが、村上春樹の意向により単行本や全集にも一切収録されていないのだ。なので、この作品を読むのは非常に難しい。

この作品を読む方法としては国立国会図書館の遠隔複写サービスを利用する方法がある。ぜひ検討してみてほしい。

物語の結末も本人にとって納得のいくものではなかったようで、村上春樹自身も「あれは失敗」であり、「書くべきじゃなかった」とも語っている。

「街と、その不確かな壁」から『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』へ、そして『街とその不確かな壁』へ。『街とその不確かな壁』は、過去作「街と、その不確かな壁」のセルフリメイクという形になりそうだ。最新作との違いを考察する上でも読んでおきたい作品だ。

 

 

街と、その不確かな壁」の内容が掘り下げられる?

街と、その不確かな壁」では、街は主人公ではなく、ガールフレンドが作った場所となっている。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』では、主人公「私」の内部世界として描かれているのとは正反対だ。

街と、その不確かな壁」では、彼女を救うために主人公が「街」に向かう。「街とその不確かな壁」でも同様のストーリーになるのではないかと予想している。

また枚数が1200枚程度あるので、「街と、その不確かな壁」では掘り下げられていなかった主人公と彼女の関係性の部分について詳しく書かれるのではないかと思う。

また、村上春樹自身が「街と、その不確かな壁」のことを失敗作と評しているので、ストーリー上の欠点部分が訂正されているのではないかと予想している。

 


公開されたあらすじ

www.shinchosha.co.jp

少しではあるが、新潮社の公式サイトであらすじが公開されている。

その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド。

あらすじを見る感じ、「街と、その不確かな壁」や『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の「世界の終り」パートに近い内容になりそうだ。

 

 

人称は一人称と予想

また、小説の人称だが『街とその不確かな壁』では一人称が使用されると予想している。

村上春樹の人称といえば、『風の歌を聴け』や『羊をめぐる冒険』の初期作品から使用されてきた「僕」などの一人称だろう。だが、『海辺のカフカ』・『1Q84』・『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』の時には、三人称を使用している。一人称から三人称へというのが村上春樹の人称の変遷だろう。

だが、最近の長編小説『騎士団長殺し』では、初期作品で使われていた一人称(「僕」ではなく「私」だが)に回帰していて、雰囲気も初期作品に近いものになっていた。

また、最新の短編集ではタイトルが『一人称単数』となっており、すべての短編が一人称で書かれたものであった。

ここ最近では三人称から一人称に回帰しているので、「街と、その不確かな壁」の内容も踏まえると、『街とその不確かな壁』でも一人称が使用されるのではないかと予想している。

 

 

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』に近い内容?

街とその不確かな壁』は、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終り」パートのようなファンタジー色が強い作品になるのではないかと予想される。

上でも書いたが、村上春樹の幻の過去作「街と、その不確かな壁」は、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終り」パートの元になった。それを踏まえると『街とその不確かな壁』は、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終り」パートのセルフリメイクのような作品になるのではと思っている。

また作品の長さを考えると、『街とその不確かな壁』は1200枚と言われていて、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』は約1300枚なので、非常に近いものになるのではと思う。

既存の長編小説の中で一番内容が近いと思われるので、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』をおすすめしたい。「計算士」や「組織(システム)」、「記号士」、「工場(ファクトリー)」など謎めいた組織が暗躍していて、謎めいた組織は何なのが気になってページをめくる手が止まらなくなる。

 

 

1200枚はどのくらいなのか?

『街とその不確かな壁』だが、詳細な情報についてはあまり公開されていない。

公開されている情報の1つが、原稿用紙1,200枚というものだ。

参考程度に過去作品の枚数を紹介したい。

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 約1,300枚

 

ダンス・ダンス・ダンス 約1,300枚

 

ねじまき鳥クロニクル 第1部+第2部 約1,200枚

作品の長さを考えると、『街とその不確かな壁』は1200枚と言われていて、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』は約1300枚なので、非常に近いものになるのではと思う。

 

 

『街とその不確かな壁』の予約受付中

『街とその不確かな壁』だが、ネット書店では予約が始まっている。Amazonや楽天ブックス、hontoなど主要なネット書店では今から予約することができる。確実に手に入れたい人は予約した方がいいかなと思う。

僕は発表が出てから秒速でAmazon予約した。発売日が木曜日なので有給を取るか悩んでいるところだ。

また電子書籍でも発売されるので、Kindleで読むのもいいかもしれない。

『街とその不確かな壁』を単行本で読むか、あるいは電子書籍で読むかはあくまで形而上的な問題であって、それで『街とその不確かな壁』の良さが変わるわけではないのだ。

やれやれ。

『街とその不確かな壁』に備えて、幻の中編「街と、その不確かな壁」や『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を読むのもいいかもしれない。

 

 

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