日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

独断と偏見しかない!村上春樹のおすすめ長編小説ランキング

皆さん、村上春樹を読んだことがあるだろうか?

 

僕は高校生ぐらいから村上春樹にハマって、村上春樹の長編小説は全部読んだ。

一通り全部読んだので村上春樹のおすすめ長編ランキングを独断と偏見で作ってみようと思う。

村上春樹の長編小説をどれから読むかの参考になれば幸いだ。

 

 

第14位 国境の南、太陽の西

今の僕という存在に何らかの意味を見いだそうとするなら、僕は力の及ぶかぎりその作業を続けていかなくてはならないだろう―たぶん。「ジャズを流す上品なバー」を経営する、絵に描いたように幸せな僕の前にかつて好きだった女性が現われて―。日常に潜む不安をみずみずしく描く話題作。 

国境の南、太陽の西』は、不倫を描いた大人の恋愛小説だ。絵に描いたような幸せを享受している男性が不倫にのめり込んでいく。自分は結婚したこともないし、まだありがたいことに20代なので、ちょっと共感しにくいところが多くてこの順位にした。もっと年齢を重ねてから読むと感想がガラッと変わるかもしれないかなと思っている。逆にいうと歳を重ねた方や結婚に倦怠感を感じている方にはおすすめかもしれない。

『ねじまき鳥クロニクル』から派生的に生まれた作品らしい。そう言われてみれば、『ねじまき鳥クロニクル』に繋がる点がいくつかある。

 

 

第13位 アフターダーク

時計の針が深夜零時を指すほんの少し前、都会にあるファミレスで熱心に本を読んでいる女性がいた。フード付きパーカにブルージーンズという姿の彼女のもとに、ひとりの男性が近づいて声をかける。そして、同じ時刻、ある視線が、もう1人の若い女性をとらえる――。新しい小説世界に向かう、村上春樹の長編。

アフターダーク』は、村上春樹作品の中でも前衛・実験小説色が強く、評価が分かれる一冊だ。前衛色が強いのもあってか難解であり、村上春樹の初心者には進めづらい小説でもある。

『アフターダーク』は小説の人称が特殊で、村上春樹でお馴染みの『僕』という一人称が使われておらず、『私たち』という俯瞰的な一人称複数形で物語が進行していく。この小説が描かれた後に三人称を用いた『海辺のカフカ』、『1Q84』が書かれており、一人称から三人称への過渡期の作品とも言える。

小説の中の時間と同じように深夜に読むと世界観に浸れるので、真夜中に凄く読みたくなる。個人的には、ゴダールの『アルファヴィル』が出てくるあたりもポイントが高い。

 

 

第12位 色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年

多崎つくるは鉄道の駅をつくっている。名古屋での高校時代、四人の男女の親友と完璧な調和を成す関係を結んでいたが、大学時代のある日突然、四人から絶縁を申し渡された。理由も告げられずに。死の淵を一時さ迷い、漂うように生きてきたつくるは、新しい年上の恋人・沙羅に促され、あの時何が起きたのか探り始めるのだった。

めちゃくちゃタイトルが長い村上春樹の小説としてお馴染みの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。タイトルがめちゃくちゃ長いので、ここからは『多崎つくる』と略していく。

主人公は、大学生の時に仲が良かったグループから追放されて、心に深い傷を負った多崎つくる。時が経ち、多崎つくるは自分が絶縁された理由を探るため、大学時代の友人を巡り自分の過去・トラウマに向きあっていく

なんで多崎さんは色彩を持たないのかというと、それは名前に答えがある。大学の友人グループの中で、多崎つくるだけが名前に色を示す漢字が入っていないのだ。また、色彩を持たないというのは、ポール・オースターの『幽霊たち』へなオマージュだろう。村上春樹の入門としてもいいんじゃないかなと思う。

 

 

第11位 1973年のピンボール

さようなら、3フリッパーのスペースシップ。さようなら、ジェイズ・バー。双子の姉妹との“僕”の日々。女の温もりに沈む“鼠”の渇き。やがて来る一つの季節の終り―デビュー作『風の歌を聴け』で爽やかに80年代の文学を拓いた旗手が、ほろ苦い青春を描く三部作のうち、大いなる予感に満ちた第二弾。

1973年のピンボール』は、『風の歌を聞け』に引き続いての青春三部作の二作目だ。まず前提として、この本を楽しむためには前作の『風の歌を聴け』を読んでおく必要がある。

前作で登場した「僕」や「鼠」が主人公だ。あらすじとしては、「スペースシップ」というピンボールを探し求めるという話。

双子の女の子が僕に転がり込んでくるという、村上春樹主人公のモテっぷりはこの小説でも健在だ。なんで村上春樹の小説の主人公はこんなにモテるのだろうか。不思議である。失われていくのものへの眼差しというか喪失感が印象的な小説だ。

 

 

第10位 海辺のカフカ

「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」―15歳の誕生日がやってきたとき、僕は家を出て遠くの知らない街に行き、小さな図書館の片隅で暮らすようになった。家を出るときに父の書斎から持ちだしたのは、現金だけじゃない。古いライター、折り畳み式のナイフ、ポケット・ライト、濃いスカイブルーのレヴォのサングラス。小さいころの姉と僕が二人並んでうつった写真…。

海辺のカフカ』は、15歳の『僕』とナカタさんを主人公とする、エディプス王の悲劇を下敷きにした物語だ。『ねじまき鳥クロニクル』に引き続き暴力というテーマが扱われている。2つの話がパラレルに展開していく。

個人的には最近の作品より、『ねじまき鳥クロニクル』までの作品の方が好みなのでこの順位だ。人によっては最近の作品の方が好きという人もいるだろうけど。

クライマックスの場面は、村上春樹でしか味わえないような深い余韻を与えてくれるのでかなり好き。15歳とは思えないほど主人公がタフすぎてるので、私も見習いたい。私はカフカになりたい。

 

 

第9位 風の歌を聴け

1970年の夏、海辺の街に帰省した<僕>は、友人の<鼠>とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。2人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、<僕>の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。

風の歌を聴け』は、群像新人文学賞を受賞した村上春樹のデビュー作だ。原点にして頂点みたいな感じである。読んだ人は分かると思うのだが、村上春樹はデビュー作から独特な文体を完成させているのだ。そんなに長い小説ではないので読みやすい。

一見すると、あるひと夏の思い出の話のように見えるが、実は作中のキーワードを丹念に追っていくと、ジグソーパズルのようにバラバラの断章が繋がっていくのだ。その点で、読みやすいけど、奥がかなり深い小説だ。

すごく洒落た小説で、村上春樹がデビューから完成されていたことがわかる。また、ホットケーキにコーラをかけるという破壊的イノベーションが登場することでも有名だ。

 

 

第8位 1Q84

1Q84年──私はこの新しい世界をそのように呼ぶことにしよう、青豆はそう決めた。Qはquestion markのQだ。疑問を背負ったもの。彼女は歩きながら一人で肯いた。好もうが好むまいが、私は今この「1Q84年」に身を置いている。私の知っていた1984年はもうどこにも存在しない。……ヤナーチェックの『シンフォニエッタ』に導かれて、主人公・青豆と天吾の不思議な物語がはじまる。

社会現象にもなったのが記憶にも新しい『1Q84』。謎の宗教団体、空気さなぎという不思議な小説、リトルピープル、ミステリアスな少女ふかえり、と謎めいた要素がてんこ盛りで、ページをめくる手が止まらなくなる。ワクワクする要素しかない。

ヤナーチェクのシンフォニエッタが壮大な物語の始まりを告げ、心踊る展開。面白くない訳がない!壮大な物語がどのように収束するのか気になってページをめくる手が止まりません。しかし、宗教団体などの社会的な問題(大きな物語)が個人の恋愛(小さな物語)に収束していくのは個人的に評価の分かれるところ。これはこれで好きですけどね。個人的には。

 

 

第7位 騎士団長殺し

一枚の絵が、秘密の扉を開ける――妻と別離し、小田原の海を望む小暗い森の山荘に暮らす36歳の孤独な画家。緑濃い谷の向かいに住む謎めいた白髪の紳士が現れ、主人公に奇妙な出来事が起こり始める。雑木林の中の祠、不思議な鈴の音、古いレコードそして「騎士団長」……想像力と暗喩が織りなす村上春樹の世界へ!

村上春樹の最新刊が『騎士団長殺し』だ。『騎士団長殺し』の特徴だが、村上春樹の小説を構成するアイテムたちが数多く登場し、村上春樹のベストアルバムみたいな小説になっている。

また、人称が、『海辺のカフカ』・『1Q84』の時の三人称から、初期作品で使われていた一人称(「僕」ではなく「私」だが)になっていて、雰囲気も初期作品に近いものになっている。

特に『ねじまき鳥クロニクル』に雰囲気が近いなと感じた。僕はねじまき鳥クロニクルぐらいまでの初期作品が好きなので、『騎士団長殺し』はかなり好きだなと。

 

 

第6位 スプートニクの恋人

22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。――そんなとても奇妙な、この世のものとは思えないラブ・ストーリー!!

スプートニクの恋人』は、リリカルな文体が魅力の恋愛小説だ。なんでこの作品がこんなに評価が高いの?と思う人は多いはず。この『スプートニクの恋人』の順位が高いところに僕の好みが大きく反映されているかなって思う。

『スプートニクの恋人』は文体がとても実験的で、比喩が多い村上春樹作品の中でも過剰に比喩が使われているのだ。すみれとミュウと僕のどこにも行くことが出来ない恋をリリカルな文体で描いている。『ノルウェイの森』に雰囲気が近いので、『ノルウェイの森』が好きな人ならはまると思う。

ちょうど恋愛で悩み、閉塞感を感じていた時にこの本と出会い、心の支えになったのが思い出だ。定期的に読み返したくなる。

 

 

第5位 ダンス・ダンス・ダンス

『羊をめぐる冒険』から4年、激しく雪の降りしきる札幌の町から「僕」の新しい冒険が始まる。羊男、美少女、そしていくつかの殺人――。渋谷の雑踏からホノルルのダウンタウンまで、「僕」は奇妙で複雑なダンス・ステップを踏みながら、暗く危険な運命の迷路をすり抜けていく。70年代の魂の遍歴を辿った著者が80年代を舞台に、新たな価値を求めて闇と光の交錯を鮮やかに描きあげた話題作。

ダンス・ダンス・ダンス』は、『羊をめぐる冒険』につながる青春小説だ。喪失感に満ちた『羊をめぐる冒険』と比べると、かなり救いのある小説になっている。羊男も再登場する。

村上春樹の中で一番おしゃれな雰囲気があるのが『ダンス・ダンス・ダンス』だ。『海辺のカフカ』などに比べると、マイナーな部類に入りますが、おすすめの小説だ。

 

 

第3位 羊をめぐる冒険

「羊のことよ」と彼女は言った。「たくさんの羊と一頭の羊」「羊?」「そして冒険が始まるの」 故郷の街から姿を消した〈鼠〉から〈僕〉宛に、ある日突然手紙が届く。同封されていた一枚の写真が、冒険の始まりだった。『1973年のピンボール』から5年後、20代の最後に〈僕〉と〈鼠〉がたどり着いた場所は――。野間文芸新人賞受賞の「初期三部作」第三作。

羊をめぐる冒険』は、青春三部作の第三作目。村上春樹の小説ではお馴染みの羊男が初めて登場する。暗めの雰囲気で、読み終わったあとの喪失感がかなり大きい。ストーリーもとても面白く、羊の謎に引き込まれてぐいぐい読める。

耳の描写が多く、読んだあとには何故か耳フェチになってしまう。お気に入りの作品なので、順位をつけるのがだんだん難しくなってきた。

 

 

第3位 世界の終りとハードボイルドワンダーランド

高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。

同率3位で『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』がランクイン。初めて村上春樹を読む人に薦めたい小説No.1だ。

村上春樹独特のクセが少なく、村上春樹が苦手な人でもすんなりと読めると思う。「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」がパラレルに進行していき、ページをめくる手が止まらない。読書でしか味わえない世界が楽しめる静謐な大人のファンタジーだ。

 

 

第2位 ノルウェイの森

十八年という歳月が流れ去ってしまった今でも、僕はあの草原の風景をはっきりと思い出すことができる――。1969年、大学生の僕、死んだ友人の彼女だった直子、そして同じ学部の緑、それぞれの欠落と悲しみ――37歳になった僕は、機内に流れるビートルズのメロディーに18年前のあの日々を思い出し、激しく心をかき乱されていた。

村上春樹と言えばこの本を思い浮かべる人も多いはず。赤と緑のおしゃれなカバーが印象的な『ノルウェイの森』。話の内容、性描写の多さ故にかなり好き嫌いが分かれると思う。

高校の時に初めて読んだのだが、その時はさっぱり意味が分からなかった。しかし、大学生になって読み返してみると、不思議と心にしみたのだ。無性に読み返したくなる時がある小説だ。

 

 

第1位 ねじまき鳥クロニクル

「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。

第1位は『ねじまき鳥クロニクル』だ。日本だけではなく、世界中で評価されている。妻の失踪から始まり、暴力、大きな物語と広がっていくのは圧巻。ストーリー展開も秀逸で、文章も素晴らしい。特に皮剥の描写は秀逸すぎて、トラウマもの。話の構成的に『1Q84』と対になるような作品だ。

 

 

 

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