日々の栞

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『街とその不確かな壁』が待ちきれない人におすすめの村上春樹作品5選

村上春樹の新作長編小説『街とその不確かな壁』が2023年4月13日(木)に刊行される。待ちきれない人も多いのではないだろうか。『一人称単数』といった短編集は出版されてきたが、新作の長編小説は久しぶりだ。長編だと、2017年2月刊行の『騎士団長殺し』以来、6年ぶりとなる。

『街とその不確かな壁』は、1200枚の書き下ろし新作長編小説であるようで、今から読むのが楽しみである。Twitterなどでは、村上春樹新作長編のニュースで祭り状態になっていた。

刊行が待ちきれない人のために、『街とその不確かな壁』に向けておすすめの村上春樹作品を五つ紹介したい。

 

 

街と、その不確かな壁

まず一番に読んで欲しいのが、「街と、その不確かな壁」だ。発売前なのに読めるわけないじゃないかと思った人も多いかもしれないが、こちらは過去に発表された村上春樹の幻の作品だ。よく見てもらうと、街との後に句読点が入っている。

村上春樹ファンのあいだでも話題になったが、新作長編は村上春樹の幻の作品「街と、その不確かな壁」とタイトルがほとんど同じだ。

「街と、その不確かな壁」は1980年『文學界』9月号に掲載された。インタビューによると、この作品は『1973年のピンボール』が芥川賞候補となったことにより、その受賞第1作として発表することを意識して書いたようだ。結局芥川賞は受賞しなかったのだけれど。

「街と、その不確かな壁」は、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の「世界の終り」パートの元になった作品とも言われている。だが、村上春樹の意向により単行本や全集にも一切収録されていないのだ。なので、この作品を読むのは非常に難しい。国会図書館に写本を頼むしかないのではないか。

物語の結末も本人にとって納得のいくものではなかったようで、村上春樹自身も「あれは失敗」であり、「書くべきじゃなかった」とも語っている。

『街とその不確かな壁』は、過去作「街と、その不確かな壁」のセルフリメイクという形になりそうだ。最新作との違いを考察する上でも読んでおきたい作品だ。

 

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

次におすすめしたいのが、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』だ。

この本を一言で表現すると、大人のための静謐なファンタジー。内容としては、「世界の終り」と「ハードボイルドワンダーランド」の二つの世界が交互に展開していく話になっている。

「計算士」や「組織(システム)」、「記号士」、「工場(ファクトリー)」など謎めいた組織が暗躍していて、謎めいた組織は何なのが気になってページをめくる手が止まらなくなる。この作品は、読者を日常から離れた不可思議な世界に連れていってくれ、読書でしか味わうことのできない体験が待っている。

この小説を進める理由としては、『街とその不確かな壁』は、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終り」パートのようなファンタジー色が強い作品になるのではないかと予想されるからだ。

上でも書いたが、村上春樹の幻の過去作「街と、その不確かな壁」は、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』の「世界の終り」パートの元になった。それを踏まえると『街とその不確かな壁』は、ある種『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』のセルフリメイクのような作品になるのではと思っている。

また作品の長さを考えると、『街とその不確かな壁』は1200枚と言われていて、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』は約1300枚なので、非常に近いものになるのではと思う。

既存の長編小説の中で一番内容が近いと思われるので、『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』をおすすめしたい。

 

 

騎士団長殺し

次に紹介したいのは、村上春樹の最新長編小説 『騎士団長殺し』だ。『街と不確かな壁』の前作の長編小説ということで、こちらを紹介したい。

『騎士団長殺し』では、これまでの村上春樹作品や村上春樹が翻訳した海外作品に出て来たモチーフがたくさん使われている。村上春樹のベストアルバムと言える内容となっている。あるいは村上春樹のセルフパロディとも言えるかもしれない。これまでの村上春樹作品を読んでいる人ならかなり楽しめる作品だ。個人的には、『街と不確かな壁』でもこれまでに村上春樹作品で登場したモチーフが数多く登場するのではないかと予想している。

また、人称が、『海辺のカフカ』・『1Q84』の時の三人称から、初期作品で使われていた一人称(「僕」ではなく「私」だが)になっていて、雰囲気も初期作品に近いものになっている。

ここ最近の流れだと、三人称から、初期作品で使われていた一人称に回帰しているので、『街と不確かな壁』でも一人称が使用されるのではないかと思っている。

 

 

一人称単数

次に紹介するのは最新の短編集『一人称単数』だ。

収録作品は、「石のまくらに」、「クリーム」、「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」、「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」、「『ヤクルト・スワローズ詩集』」「謝肉祭(Carnaval)」、「品川猿の告白」、「一人称単数」だ。

この短編集全般に言えることだが、人生を俯瞰して過去の話を思い返すというスタイルの短編が多い。これは村上春樹が年をとったからなのかなとちょっと思っている。フィクションと私小説の間と言える様な感じの短編が多く収録されている印象だ。

『一人称単数』という短編集のタイトルのように、人称は「僕」や「私」が使われている。一人称単数、特に「僕」は村上春樹が得意とする人称だ。数ある人生の可能性の中から、一人称単数として選んできた人生を振り返ると言う意味合いなのではないかと思う。

『街とその不確かな壁』もこの流れを引き継いで一人称になるのではと思い選出した。また、主人公が年老いていて、人生を俯瞰して過去の話を思い返すというスタイルになるのではとも思っている。

 

 

図書館奇譚

最後におすすめしたいのが、『図書館奇譚』だ。この作品は一般的にはメジャーな作品じゃないと思うけれど、村上作品ではお馴染みの「羊男」というキャラクターが出てきたり、超現実的な展開であったり、異世界に行くストーリーであったりと、村上春樹のエッセンスが詰め込まれている。村上春樹版の「不思議な国のアリス」のような小説なので、ファンタジーや不思議な人が好きな人なら面白く読めると思う。

『街とその不確かな壁』はファンタジー色が濃い作品だと予想しているので、村上春樹作品でも特にファンタジー色が強い『図書館奇譚』を推したい。

 

 

『街とその不確かな壁』の予約受付中

その街に行かなくてはならない。なにがあろうと――〈古い夢〉が奥まった書庫でひもとかれ、呼び覚まされるように、封印された“物語”が深く静かに動きだす。魂を揺さぶる純度100パーセントの村上ワールド。

『街とその不確かな壁』だが、ネット書店では予約が始まっている。Amazonや楽天ブックス、hontoなど主要なネット書店では今から予約することができる。確実に手に入れたい人は予約した方がいいかなと思う。

 

また電子書籍でも発売されるので、Kindleで読むのもいいかもしれない。

『街とその不確かな壁』を単行本で読むか、あるいは電子書籍で読むかはあくまで形而上的な問題であって、それで『街とその不確かな壁』の良さが変わるわけではないのだ。

やれやれ。

 

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