日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

ともにW受賞!第168回芥川賞・直木賞の受賞作が決定!

第168回芥川賞・直木賞の受賞作が1/19に決定した。

芥川賞は井戸川射子の「この世の喜びよ」(群像7月号)と佐藤厚志の「荒地の家族」(新潮12月号)のW受賞に決まった。

直木賞は小川哲の「地図と拳」と千早茜の「しろがねの葉」に決まった。こちらもW受賞だ。

各受賞作の詳細について紹介したい。

 

第168回芥川賞の受賞作の紹介

第168回芥川賞候補作は、安堂ホセジャクソンひとり』、井戸川射子この世の喜びよ』、グレゴリー・ケズナジャット開墾地』、佐藤厚志荒地の家族』、鈴木涼美グレイスレス』の5作品だ。

5人中4人が初のノミネートで、フレッシュな顔ぶれがそろう。複数回候補になっているのは、鈴木涼美だけで、今回が2回目のノミネートだ。

候補作の中で受賞を勝ち取ったのは、井戸川射子この世の喜びよ』、、佐藤厚志荒地の家族』の見作品だ。直木賞もW受賞という結果になった。各受賞作について簡単に紹介したい。

 

井戸川射子『この世の喜びよ』(群像七月号)

幼い娘たちとよく一緒に過ごしたショッピングセンター。喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼び覚ましていく表題作「この世の喜びよ」をはじめとした作品集。

井戸川射子(いこ)は詩人として活動している作家だ。2021年に初の小説集『ここはとても速い川』を出版した。この作品はかなり話題となり、野間文芸新人賞を受賞するまでに至った。今回候補となった「この世の喜びよ」は、喪服売り場で働く「あなた」の視点で生きることの機微をつづった作品だ。この小説の特徴は、主人公・穂賀があなたという二人称で呼びかけられているところだ。ある種の二人称小説の体裁を取っているのだ。

このあなた(穂賀)の視点から、穂賀とフードコートの常連の少女やゲームセンターに入り浸るおじいさん、ゲームセンターで働く多田さんとの交流が描かれる。主人公は目の前の出来事に、自分の過去の記憶を重ねていく。娘が小さかった頃の記憶、自分が子供だった時の記憶、そういった過去の記憶が目の前の出来事に引き出されていく。最近の映画で例えたら『ちょっと思い出しただけ』のような感じだ。

現在に過去の記憶を重ねること、それにどれだけ生きる喜びがあるのかを実感させてくれる名作だ。

 

 

佐藤厚志『荒地の家族』(新潮十二月号)

元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点か――。40歳の植木職人・坂井祐治は、災厄の二年後に妻を病気で喪い、仕事道具もさらわれ苦しい日々を過ごす。地元の友人も、くすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らない。仙台在住の書店員作家が描く、被災地に生きる人々の止むことのない渇きと痛み。

佐藤厚志は第49回新潮新人賞を「蛇沼」で受賞しデビュー。佐藤厚志は丸善仙台アエル店で働く現役の書店員でもある。これまでに、「境界の円居(まどい)」で第3回仙台短編文学賞大賞に選ばれ、「象の皮膚」で第34回三島由紀夫賞候補にノミネートされた。

今回初の芥川賞候補となった「荒地の家族」は宮城県を舞台に「災厄」後を描いた小説だ。主人公は、東日本大震災の津波で仕事道具を全て失い、妻も病気で亡くした植木職人・坂井。東日本大震災後の宮城で、喪失を抱えながら生きる人々の心情を描き出した力作だ。

 

 

第168回直木賞の受賞作の紹介

第168回直木賞候補5作品は、一穂ミチの『光のとこにいてね』、小川哲の『地図と拳』、雫井脩介の『クロコダイル・ティアーズ』、千早茜の『しろがねの葉』、凪良ゆうの『汝、星のごとく』の5作品だ。

候補作の中で受賞を勝ち取ったのは、小川哲の『地図と拳』、千早茜の『しろがねの葉』の見作品だ。直木賞もW受賞という結果になった。各受賞作について簡単に紹介したい。

 

『地図と拳』 / 小川 哲

ひとつの都市が現われ、そして消えた。日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲の名もない都市で繰り広げられる知略と殺戮。日本SF界の新星が放つ、歴史×空想小説。

満洲を舞台に架空の都市を描いたのが小川哲の『地図と拳』だ。小川哲は、「ユートロニカのこちら側」でハヤカワSFコンテストで大賞を受賞してデビュー。以前には、『嘘と正典』で直木賞候補になっている。

地図と拳』では、日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川、ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ、叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空など様々な人生が交錯する。歴史✖️空想というのが新しい切り口の小説だ。

 

 

『しろがねの葉』 / 千早 茜 

戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されて……。

千早茜の『しろがねの葉』は、シルバーラッシュに沸く石見銀山を舞台に少女ウメの過酷な人生を描いた作品だ。千早茜は「魚」で小説すばる新人賞を受賞して、作家デビューしている。これまでに数多くの文学賞を受賞している。

 

 

 

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