日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

第168回芥川龍之介賞の候補作を紹介する!

本日早朝(朝五時)に、第168回芥川賞の候補作が発表された。

なぜこの時間帯なのかと毎回思う。話を戻そう。

第168回芥川賞候補作は、安堂ホセジャクソンひとり』、井戸川射子この世の喜びよ』、グレゴリー・ケズナジャット開墾地』、佐藤厚志荒地の家族』、鈴木涼美グレイスレス』の5作品だ。

5人中4人が初のノミネートで、フレッシュな顔ぶれがそろう。複数回候補になっているのは、鈴木涼美だけで、今回が2回目のノミネートだ。

そもそも芥川賞とは何か知らない人がいるかもしれないので簡単に説明しておく。

芥川賞とは、新人作家の純文学作品に与えられる文学賞だ。純文学における登竜門的な賞で、文学賞の中で一番知名度がある賞かもしれない。純文学界のM−1グランプリみたいなものだ。純文学というと定義が難しいのだけれど、芥川賞に限っていえば、「文學界」・「新潮」・「群像」・「すばる」・「文藝」の五大文芸誌に掲載された作品が候補の対象となる。他の文芸誌に載った作品も候補になることがあるが非常にまれだ。

この記事では、各候補作品と候補者の詳細について紹介したい。

 

 

安堂ホセ『ジャクソンひとり』(文藝冬季号)

ジャクソンひとり

ジャクソンひとり

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着ていたTシャツに隠されたコードから過激な動画が流出し、職場で嫌疑をかけられたジャクソンは3人の男に出会う。痛快な知恵で生き抜く若者たちの鮮烈なる逆襲劇!第59回文藝賞受賞作

安堂ホセは、『ジャクソンひとり』で第59回文藝賞を受賞しデビュー。

今回デビュー作の『ジャクソンひとり』で芥川賞候補入りすることになった。『ジャクソンひとり』では、人を属性でカテゴライズすることの暴力性が描かれている。

 

 

井戸川射子『この世の喜びよ』(群像七月号)

幼い娘たちとよく一緒に過ごしたショッピングセンター。喪服売り場で働く「あなた」は、フードコートの常連の少女と知り合う。言葉にならない感情を呼び覚ましていく表題作「この世の喜びよ」をはじめとした作品集。

井戸川射子(いこ)は詩人として活動している作家だ。2021年に初の小説集『ここはとても速い川』を出版した。この作品はかなり話題となり、野間文芸新人賞を受賞するまでに至った。今回候補となった「この世の喜びよ」は、喪服売り場で働く「あなた」の視点で生きることの機微をつづった作品だ。

 

 

グレゴリー・ケズナジャット『開墾地』(群像十一月号)

母が出て行ったサウスカロライナの家には、ラッセルには分からない父の故郷の言葉が流れていた。自分は、故郷に帰るのだろうか。

グレゴリー・ケズナジャットは「鴨川ランナー」で京都文学賞を受賞しデビュー。

今回候補になった「開墾地」では、故郷と「母語」を巡る物語が綴られている。

 

 

佐藤厚志『荒地の家族』(新潮十二月号)

元の生活に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点か――。40歳の植木職人・坂井祐治は、災厄の二年後に妻を病気で喪い、仕事道具もさらわれ苦しい日々を過ごす。地元の友人も、くすぶった境遇には変わりない。誰もが何かを失い、元の生活には決して戻らない。仙台在住の書店員作家が描く、被災地に生きる人々の止むことのない渇きと痛み。

佐藤厚志は第49回新潮新人賞を「蛇沼」で受賞しデビュー。佐藤厚志は丸善仙台アエル店で働く現役の書店員でもある。これまでに、「境界の円居(まどい)」で第3回仙台短編文学賞大賞に選ばれ、「象の皮膚」で第34回三島由紀夫賞候補にノミネートされた。

今回初の芥川賞候補となった「荒地の家族」は宮城県を舞台に「災厄」後のした小説だ。主人公は、東日本大震災の津波で仕事道具を全て失い、妻も病気で亡くした植木職人・坂井だ。東日本大震災後の宮城で、喪失を抱えながら生きる人々の心情を描き出した力作だ。

 

 

鈴木涼美『グレイスレス』(文學界十一月号)

デビュー小説『ギフテッド』に続き、芥川賞候補に選ばれた鈴木涼美の第二作。主人公は、アダルトビデオ業界で化粧師(メイク)として働く聖月(みづき)。彼女が祖母と共に暮らすのは、森の中に佇む、意匠を凝らした西洋建築の家である。まさに「聖と俗」と言える対極の世界を舞台に、「性と生」「生と死」のあわいを繊細に描いた新境地。

鈴木涼美は、『「AV女優」の社会学』、『体を売ったらサヨウナラ』などの著作で知られている論客、社会学者、小説家だ。夜の街に生きる住人たちを描いた「ギフテッド」で小説家デビューを果たした。「ギフテッド」は芥川賞候補にもなっている。

鈴木涼美の第二作「グレイスレス」は、アダルトビデオ業界でメイクとして働く聖月を主人公とした話だ。

 

 

 

芥川賞の選考会は2023年1月19日に行われ、受賞作が決定する。

選考委員は、小川洋子、奥泉光、川上弘美、島田雅彦、平野啓一郎、堀江敏幸、松浦寿輝、山田詠美、吉田修一という豪華な顔ぶれだ。栄光はどの作品に!

 

芥川賞予想は別記事で書こうと思っているので、よかったら覗いてみてください。

 

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