夏目漱石といえば日本で有名な文豪の一人だ。
元々教師をしていた夏目漱石は『吾輩は猫である』を発表し注目を集める。『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表した。新聞社に入社して創作に専念してからは、『三四郎』『それから』、『行人』、『こころ』など文学史に残る数々の名作を残した。
『こころ』や『夢十夜』は高校国語の定番教材になっていて、読んだことがある人は多いはずだ。少し前では千円札の肖像画としても描かれていた。
意外に思われるかもしれないが、夏目漱石の作品は男女の三角関係を描いたものが多い。『こころ』、『それから』、『行人』、『明暗』など、三角関係を描いた作品がほとんどとも言える。男女の三角関係を通じて、人間のエゴイズムや近代知識人の葛藤を描いた。
この記事では、夏目漱石のおすすめ小説を5つ紹介したい。
坊っちゃん
松山中学在任当時の体験を背景とした初期の代表作。物理学校を卒業後ただちに四国の中学に数学教師として赴任した直情径行の青年“坊っちゃん"が、周囲の愚劣、無気力などに反撥し、職をなげうって東京に帰る。主人公の反俗精神に貫かれた奔放な行動は、滑稽と人情の巧みな交錯となって、漱石の作品中最も広く愛読されている。
近代小説に勧善懲悪の主題を復活させた快作である。
まず紹介したいのは夏目漱石の初期代表作『坊っちゃん』だ。文豪・夏目漱石の作品というと堅苦しいイメージがあるかもしれないが、『坊っちゃん』はとても読みやすく面白い。
主人公の「坊っちゃん」は四国の中学校に数学教師として赴任する。教頭の「赤シャツ」や美術教師の「野だいこ」、数学主任の「山嵐」、英語教師の「うらなり」と出会い、学生とともにドタバタ劇を繰り広げる。
「親譲りの無鉄砲で子供の頃から損ばかりしている」坊っちゃんは、嘘や不正が嫌いで義理人情に厚い青年だ。「坊っちゃん」が社会の不条理に揉まれながらも自分の信念を貫く姿はとても清々しい。例えると、半沢直樹のような爽快感だ。
初めて夏目漱石を読むなら『坊っちゃん』を一番におすすめしたい。
三四郎
熊本の高等学校を卒業して、東京の大学に入学した小川三四郎は、見る物聞く物の総てが目新しい世界の中で、自由気儘な都会の女性・里見美禰子に出会い、彼女に強く惹かれてゆく……。青春の一時期において誰もが経験する、学問、友情、恋愛への不安や戸惑いを、三四郎の恋愛から失恋に至る過程の中に描いて『それから』『門』に続く三部作の序曲をなす作品である。
夏目漱石の『三四郎』は、恋にオクテな大学生・三四郎が主人公の青春小説だ。三四郎と年上の美禰子の恋や成長、挫折を描いている。
舞台は近代化が急速に進む明治四〇年頃の東京。『三四郎』では文明開化によって変わる日本や、文明開化への批評が書き込まれている。
主人公の三四郎は東京大学に入学したエリートであるのだが、女性に積極的になれない草食系男子であり、女性に振り回されてばかり。そんな三四郎がほのかな恋心を抱いているのが、年上の知的でミステリアスな女性・美禰子だ。美禰子の振る舞いは思わせぶりで、三四郎を翻弄する。三四郎の恋心の行方は…
誰もが経験する、学問、友情、恋愛への不安や戸惑いを描いた青春小説の名作だ。
それから
長井代助は三十にもなって定職も持たず独身、父からの援助で毎日をぶらぶらと暮している。実生活に根を持たない思索家の代助は、かつて愛しながらも義侠心から友人平岡に譲った平岡の妻三千代との再会により、妙な運命に巻き込まれていく……。破局を予想しながらもそれにむかわなければいられない愛を通して明治知識人の悲劇を描く、『三四郎』に続く前期三部作の第二作。
夏目漱石の作品では男女の三角関係が描かれることが多い。『それから』は略奪婚を描いた作品だ。『それから』では、女を取り戻す様子が描かれている。『三四郎』と『それから』、そして『門』の三作品で前期三部作と言われている。
主人公の長井代助は、定職につかずぶらぶらと過ごしている高等遊民だ。三千代のことを愛していながらも、友人の平岡に三千代を譲った。しかし、代助が三千代に再会したことで運命の歯車が狂い出す。代助は何もかも捨てて、愛を貫き三千代を平岡から略奪することを決心する。しかし、近代的自我に目覚め、正直に生きようとする代助を待ち受けていたのは大きな代償であった。
夏目漱石は、自由に生きることの代償を三角関係を通じて描き出した。倫理や道徳に背き、恋愛を選んだ代助に待ち受ける未来を示唆したラストシーンは残酷だ。
彼岸過迄
誠実だが行動力のない内向的性格の須永と、純粋な感情を持ち恐れるところなく行動する彼の従妹の千代子。愛しながらも彼女を恐れている須永と、彼の煮えきらなさにいらだち、時には嘲笑しながらも心の底では惹かれている千代子との恋愛問題を主軸に、自意識をもてあます内向的な近代知識人の苦悩を描く。
夏目漱石の『彼岸過迄』は、三角関係の中で嫉妬に苦しむ主人公を描いた作品だ。
内向的でヘタレな須永と、純粋な感情を持ち恐れるところなく行動する彼の従妹の千代子。『彼岸過迄』では、この二人の恋愛問題が主軸となっている。恋愛問題を主軸に、自意識をもてあます近代知識人の苦悩を描いている。
主人公・須永は千代子に結婚する気はないというのだが、千代子に別の男が現れると激しい嫉妬を示す。自我を頼りに生きる知識人・須永も他者への嫉妬という感情に振り回されているというのは、夏目漱石の作品のテーマの1つである「知識人の苦悩」に繋がる。
こころ
「私」は、ある夏の日、海辺ではじめて「先生」に出合う。足繁く「先生」の家を訪れるようになった「私」には、「先生」の、すべてを諦らめたような生き方を解き明かしたいという気持が次第に強くなる…。友を死に追いやった「罪の意識」によって、ついには人間不信に至る近代知識人の心の暗部を描いた傑作。
夏目漱石は一筋縄ではいかない恋愛小説を数多く残した。『こころ』もそのような恋愛小説の1つだ。
『こころ』は「友情をとるか、恋愛をとるか」という普遍的なテーマを扱った作品だ。高校の国語の教科書に掲載されていたので、読んだことある人は多いはず。
先生と友人のKは一人の女性・静を巡って三角関係になる。「先生」は恋と友情との間で悩むのだが、最終的にはKを出し抜いて静との結婚を決めてしまう。叔父に裏切られた「先生」が、自分も親友の「K」を裏切ってお嬢さんをとってしまったことに苦悩する。
友情と恋愛の狭間で悩む先生の決断とKがとった行動は、自由に恋愛することの代償を突きつけてくる。先生の「しかし、しかし君、恋は罪悪ですよ。 わかっていますか?」という台詞は心に深く突き刺さる。
『こころ』は自分を過信し、他人を疑うことをやめられない知識人の自我のあり方を問うている。また、近代人の我執とそれに気づいた先生の苦悩の話でもある。
以上、夏目漱石のおすすめ小説5選でした。
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