日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

村上春樹が好きな人におすすめの小説10選

村上春樹が好きな人というのは多いはずだ。中には村上春樹の小説を全て読み終わってしまったという人もいるかもしれない。僕もそうだったのだけれど、村上春樹の小説を全て読み終わってしまって、次にどんな小説を読んだらいいのかと思った時期があった。

村上春樹が好きな人が好きそうな小説って他にないのだろうかと探していた中で、他にも素晴らしい小説や作家に出会うことができた。

村上春樹好きならきっとこの小説も好きそうだなという小説を10個選んでみたので紹介したい。文体が似ているのもあれば、不思議な雰囲気が似ているもの、登場人物のキャラクターが似ている小説もある。ぜひ、この記事がきっかけで読書の幅を広げてみて欲しい。

 

 

『パイロットフィッシュ』 大崎 善生

まず紹介したい小説が大崎善生の『パイロットフィッシュ』。大崎義雄さんは、叙情的で透明感あふれる文体が特徴で、村上春樹の恋愛小説に近いような、恋愛の喪失感を描いた小説を多く書いている。大崎善生自体、村上春樹の影響を色濃く受けた「春樹チルドレン」と呼ばれていたりする。村上春樹の作品の中でも『ノルウェイの森』や『スプートニクの恋人』が好きな人におすすめしたい。

『パイロットフィッシュ』は、の喪失感や喪失からの再生を描いた恋愛小説で、文体の透明感が魅力だ。生と死、過去にとらわれた男の喪失感やそこからの再生が描かれている。

 

 

『真夜中の五分前』 本多 孝好

次に紹介するのは本多孝好の『真夜中の五分前』だ。本多孝好も村上春樹に影響を受けた「春樹チルドレン」の一人と言われている。本多孝好は恋愛小説やミステリーをメインに書いている小説家だ。ドラマ化されたり映画化された作品も多いので知っている方は多いかもしれない。読んでみるとわかるのだが、文体やモチーフから村上春樹っぽさが感じられる時がある。

本多孝好の小説の中でも村上春樹好きにおすすめなのが、『真夜中の五分前』と言う小説だ。この小説も『ノルウェイの森』とか村上春樹の恋愛小説が好きな人におすすめしたい。作品では、文体や比喩、モチーフに村上春樹ぽさが感じられる。双子が出てくるあたりは、『1973年のピンボール』を彷彿とさせる。恋人を失った主人公の喪失と再生をミステリー的な要素も絡めて描いた新感覚の小説だ。

恋人を交通事故で失った「僕」は一卵双生児のかすみに出会う。この出会いがきっかけで「僕」は新しい一歩を踏み出すことになるのだが運命の輪は「僕」を奇妙な世界に追いやる。最後には驚愕のエンディングが待ち受けている。

 
 

『秒速5センチメートル』 新海 誠

次は『君の名は。』で一躍大衆に知られる存在となった新海誠の『秒速5センチメートル』だ。新海誠は、デビュー作の『ほしのこえ』からセカイ系の作家として論じられてきた。最新作の『天気の子』もセカイ系の新たな到達点と言える作品だ。

そんな新海誠だが、雑誌のインタビューなどで村上春樹に影響を受けたと語っている。それもあってか、春樹チルドレンを列挙する中で新海誠の名前があがることが多い。感傷的なモノローグや恋愛の喪失感を描くあたりが村上春樹に似ているように思う。

『君の名は。』も、「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」がモチーフになっていたり、『ノルウェイの森』の台詞が引用されていたりと、村上春樹の影響が見られるのだが、ここは『秒速5センチメートル』をおすすめしたい。

『秒速5センチメートル』は新海誠が注目を集めるきっかけとなった作品だが、恋愛の喪失感という点で村上春樹の『ノルウェイの森』と似たところがある。『秒速5センチメートル』では、過去の恋愛を引きずり、感傷に浸る自分に陶酔している姿を、叙情的な映像と村上春樹的なモノローグで極限まで美しく描いている。 新海誠は自ら作品をノベライズしているが、『秒速5センチメートル』の文体はとてもリリカルで、村上春樹の文体に近いものを感じる。村上春樹のリリカルな文体が好きな人なら心に響くはずだ。

 

 

『左上の海』 安西 水丸

続いては安西水丸の『左上の海』だ。村上春樹好きなら安西水丸の名前を聞いたことがあるはずだ。安西水丸はもともとイラストレーターで、小説も書いていたのだ。村上春樹と安西水丸には親交があり、村上春樹の小説を安西のイラストで彩った『夜のくもざる』などの作品を世に送り出している。

村上春樹作品の主人公の特徴といえば、とにかくモテて、女とすぐ寝ることがあると思う。『ノルウェイの森』が特にそうだが、性描写が多かったりする。安西水丸の小説もそのような村上春樹の特徴に近いものがある。とにかく主人公が女の人にモテて、しかも関係を持ってしまう。官能性がありながらも非常にドライな作風で、読む人を虚無の中に引きずり込んでしまうような魅力がある。

 

 

『個人教授』 佐藤 正午

村上春樹の小説の主人公には共通した特徴がある。ユーモアに飛んでいて、女にモテて、やれやれと言っているようなイメージだろうか。ウィットに富んで、女にモテる村上春樹の小説の主人公にハマった人にお勧めしたいのが、佐藤正午の小説だ。個人的に佐藤正午は村上春樹に並ぶくらい好きな小説家なのだが、村上春樹が好きなら佐藤正午を気に入りそうな印象がある。

佐藤正午の小説の主人公も、ウィットに飛んで、女によくモテて、そして女にだらしない。今回お勧めしたいのが『個人教授』という小説だ。

女をとっかえひっかえして、挙句の果てに妊娠させてしまう。そんなダメ男が『個人教授』の主人公・松井英彦だ。間違いなく佐藤正午の小説の中でもNo1のダメ男だと思う。松井英彦はとにかく女にだらしなく、色んな女性と関係を持ち、ついには妊娠させてしまう(しかも2人も!)。しかも清々しいまでに自己中心的な男で責任も取らず、休職して仕事もせず夜な夜な飲み歩いている。

タイトルが『個人教授』となっているように、松井英彦の師匠である「教授」という人物も出てくるのだが、こちらもダメ男である。この「教授」なる人物は定職につかず、夜な夜な飲み歩いている。主人公・松井英彦と「教授」の一方的な師弟関係は夏目漱石の『こころ』の「私」と「先生」の関係を彷彿とさせる。

そんな札付きのダメ男・松井英彦が自分の子どもを妊娠した2人の女性を探しにいくという小説だ。特に村上春樹の初期三部作が好きな人におすすめしたい。『羊をめぐる冒険』に近い雰囲気があり、ある種の自分探しの小説でもある。

 

 

『重力ピエロ』 伊坂 幸太郎

続いて紹介するのは、伊坂幸太郎の『重力ピエロ』だ。伊坂幸太郎は、村上春樹から影響を受けていると言われることが多いが、伊坂幸太郎のインタビューを読んでみるとそんなことはないようだ。どちらかというと大江健三郎の方に影響を受けているみたいだ。

村上春樹作品のユーモアが好きな人であれば、伊坂幸太郎の作品も楽しめるだろう。伊坂幸太郎の作品でも登場人物同士のウィットに飛んだ会話が魅力だ。今回紹介したのは伊坂幸太郎の代名詞でもある『重力ピエロ』だ。ある兄弟の秘密と放火事件がだんだんとリンクしていくミステリ小説だ。

 

 

『キャピタル』 加藤 秀行

『羊をめぐる冒険』が好きな人におすすめしたいのが加藤秀行の『キャピタル』だ。加藤秀行は2015年に「サバイブ」で第120回文學界新人賞を受賞しデビューした作家だ。コンサルタントを経験していたという異色の経歴だ。それもあってか、資本主義におけるエリートの憂鬱を描いたような作品が多い。

この『キャピタル』という作品は、第156回芥川賞候補作にもなった作品だ。加藤秀行の小説の中でも、『キャピタル』は村上春樹の影響が強い。

『キャピタル』は、戦略コンサルというグローバル資本主義の最前線で戦う主人公・須賀の「勝ち組なりの憂鬱」を描いている。この視点は、文学にとって新しいなと感じる。「結果を出さないと生き残れない」という厳しい競争社会を生き抜き、高給を得ている彼らにも「勝者なりの苦労」があるのだ。この小説の根底には「市場で評価されるものしか生き残れない」という残酷な競争原理が流れている。

バンコクで時間を持て余した生活を送っていた須賀だが、かつての上司高野から依頼を受ける。その依頼というのが、高野が務めるファンドへの就職を辞退したタイ人女性・アリサから辞退した理由を聞いて欲しいというものだ。ここに『羊をめぐる冒険』にみられたような「依頼と代行の物語」が顔を出す。

全体的な雰囲気や文体は非常に村上春樹に近い。曖昧な表現や、〇〇的という言い回し、ウィットに富んだ表現など、春樹チルドレンといってもいいほど村上春樹的な表現が多い。さらに双子まで登場する。村上春樹がマッキンゼーに入っていたらこんな小説を書いていたであろうか。

 

 

『もしもし、還る。』 白河 三兎

村上春樹チルドレンとして名前が挙がることは少ないけれど、個人的に春樹チルドレンだと思っているのが白河三兎。メフィスト賞を受賞してデビューしていて、デビュー作の『プールの底に眠る』は青春小説とミステリーを足した内容になっている。この作品も村上春樹の影響が感じられる。『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』のようなファンタジーが好きな人にお勧めしたいのが、『もしもし、還る。』だ。

 

 

『鼓笛隊の襲来』 三崎 亜記

村上春樹といえば、「パン屋再襲撃」や「TVピープル」といったシュールで不可思議な短編小説も書いている。そんな不可思議な短編小説が好きな人におすすめしたい作家が三崎亜記だ。 『鼓笛隊の襲来』は、三崎亜記の不可思議な世界観が凝縮された短編集だ。初めて三崎亜記を読む人や、どんな作風か気になっているので試しに読んでみたい人にぴったりな短編集だと思う。いわば、三崎亜記の入門書だ。短編集全体としては、「世にも奇妙な物語」のような雰囲気がある。不思議な世界を描いたホラーやコメディ、感動する話や恋愛もの。バラエティーが非常に豊か。

コメディ味がある「鼓笛隊の襲来」は、台風の代わりに鼓笛隊が日本に上陸する話だ。「彼女の痕跡展」は、日常で感じるデジャブを上手く表現した文学テイストの小説。「覆面社員」は安部公房みたいな感じ。そして「校庭」は背筋が凍りつくほどの名作ホラー。「校庭」は心霊要素がないにも関わらず、めちゃくちゃ怖いという不思議な小説だ。想像すればするほど鳥肌がたつエンディングをぜひ味わって欲しい。

 

 

『上海ベイビー』 衛 慧

最後は中国の作家、衛慧。この作家も春樹チルドレンと呼ばれていたりする。世界中で読まれている村上春樹だけあって、その影響は日本に留まらない。代表作の『上海ベイビー』は、大胆な性描写で話題になり、中国では発禁となった。恋愛の喪失感や性愛を描いていると言う点でこれも『ノルウェイの森』に近いものを感じる。

 

 

 

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