日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

なぜ村上春樹はノーベル文学賞最有力候補として毎年騒がれるのか?

日も短くなり、Tシャツだけでは肌寒くなる10月になりましたね。10月といえばそう、「村上春樹ノーベル文学賞受賞なるか」が話題になる季節です。ここ数年ぐらい、毎年10月になるとその話題で騒がしくなる。もはや、テレビでハルキストの集まりが中継され、受賞者発表後に落胆するという光景が秋の風物詩となっている。

毎年イギリスのブックメーカーで、受賞者予想の上位に村上春樹が食い込むことが恒例行事となっている。毎年、村上春樹祭りが盛り上がっている。

毎回思うのだけれど、村上春樹がノーベル文学賞をとっても取らなくても別にいいんじゃないか。村上春樹は日本の作家の中で最も知名度がある作家といっても過言ではないし、現に世界中で翻訳されて読まれている。間違いなく日本を代表する作家だ。別にノーベル文学賞を受賞できなかったからといって、作品の素晴らしさがなくなるわけではない。

この記事ではなぜ村上春樹がノーベル文学賞候補と言われているのか理由を考察してみる。

 

 

ノーベル文学賞はどうやって決まる?

まず初めにノーベル文学賞の概要を説明しておこう。

ノーベル文学賞は、ノーベル賞6部門のうちの一つで、文学の分野において傑出した作品を創作した人物に授与される賞だ。

芥川賞や直木賞のように授賞対象作品というものはない。(芥川賞とノーベル文学賞を比べるのもおかしいかもしれないが)

受賞においては対象国や対象言語の制限はない。ノーベル文学賞の選考は、「スウェーデン・アカデミー」という団体が行っている。

選考では初めに、アカデミーが世界中の文学関係者に対して、受賞者の推薦の声を集める。

推薦リストををもとに、アカデミー内の選考委員が候補者を絞り込んでいくのだ。絞り込みの過程で、選考メンバーは候補の作品を読み込んでいかなければならない。最終的には10月までに1人に絞り込むのだ。

 

 

そもそもなぜ村上春樹はノーベル文学賞最有力候補と言われる様になったのか?

そもそもノーベル文学賞の候補者は公開されていない

安部公房の様に、作家の死後に候補だったと公表されることはあるが作家が在命であるうちは発表されることはない。では村上春樹春樹はノーベル文学賞最有力候補と言われる様になったのか?原因は3つほどあるのではないかと思う。

 

①村上春樹の作品は様々な言語に翻訳され世界中の人々に読まれている。

②エルサレム賞やカフカ賞など世界的な文学賞を数多く受賞している。

③イギリスの「ブックメーカー」が行なっているノーベル文学賞予想で最有力候補とされる

 

 

それぞれの理由について見ていこう。

 

 

①村上春樹の作品は様々な言語に翻訳され世界中の人々に読まれている。

村上春樹は現代日本作家の中では、飛び抜けて世界中で読まれている。村上春樹の作品は50以上の言語に翻訳されていて、世界中で読まれ愛されている。

村上春樹の作品には、現代の人々に通じる普遍性があり、それが広く読まれる理由なのかもしれない。この様に世界中で読まれているからノーベル文学賞の候補としてあげられるのだろう。

 

 

②エルサレム賞やカフカ賞など世界的な文学賞を数多く受賞している。 

村上春樹は世界中で読まれていることもあり、国際的な文学賞を数多く受賞している。2006年にはアイルランドの「フランク・オコナー国際短編賞」とチェコの「フランツ・カフカ賞」を受賞している。フランツ・カフカの名を冠したこの文学賞を受賞した作家はノーベル文学賞も受賞していることが多い。2004年のカフカ賞受賞者エルフリーデ・イェリネクと2005年のカフカ賞受賞者ハロルド・ピンターは、両名ともいずれも同年にノーベル文学賞を受賞したのである。このこともあり、フランツカフカ賞を受賞した村上春樹に「ノーベル賞受賞するか」と注目が集まったのである。

村上春樹はその後もイスラエルの「エルサレム賞」やデンマークの「アンデルセン文学賞」、「カタルーニャ国際賞」など、海外の賞を複数受賞している。特に、受賞することに政治的な批判があった「エルサレム賞」での受賞スピーチのエピソードは有名である。村上春樹は「壁と卵」という素晴らしいスピーチをエルサレム賞受賞式で披露している。このスピーチは『村上春樹 雑文集』に収録されている。

 

 

③イギリスの「ブックメーカー」が行なっているノーベル文学賞予想で最有力候補とされる

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国際的な文学賞を数々受賞していることもあり、村上春樹はイギリスの「ブックメーカー」が行っているノーベル文学賞受賞者を予想する賭けでは、上位へのランクインの常連となっている。

このブックメーカーでの順位が日本のマスコミによって過熱報道されて、「ノーベル文学賞最有力候補」と呼ばれる様になったのだろう。ブックメーカーの順位が上位だからといってノーベル文学賞の候補というわけではない。ブックメーカーはただの賭けのオッズなのだから。

 

これらの理由で村上春樹はノーベル文学賞最有力候補だと言われれているのだろう。僕個人の予想では、直近での村上春樹の受賞は厳しいのではないかと思っている。ボブ・ディランやカズオ・イシグロなど割とポップな選考がされていた頃は村上春樹が受賞するのではないかなと思っていた。

がしかし、最近では受賞者の傾向が大きく変わってきているので、世界文学の中でもポップな部類に入る村上春樹の受賞は少し厳しいのではないかなと思っている。

 

勝手にノーベル文学賞の有力候補にされて大変な村上春樹だが、文学賞との因縁は昔にもあった。それは芥川賞だ。

 

 

村上春樹はそもそも芥川賞を受賞していない 

村上春樹だが、実は有名な純文学の賞・芥川賞を受賞していない。 芥川賞とは純文学における新人賞だ。ベテランの村上春樹が受賞することはもうないのだ。村上春樹が世界的な作家へ成長したこともあり、村上春樹に芥川賞を与えることができなかったことは「取りこぼしだ」として批判の的となっている。

芥川賞は取りこぼしが多く、現芥川賞選考委員の島田雅彦も散々落選させられた挙句芥川賞を受賞することはなかった。村上春樹は二回候補に上がっているが、内容の先進さもあり選考委員の大多数に評価されなかった。その後、村上春樹は長編小説を書く様になり、短編小説や中編小説が対象となる芥川賞の候補に選ばれることはなかった。やれやれ。

 

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文学賞と作家の関係性について村上春樹自身はどう思っているのか?

秋の風物詩と化したノーベル文学賞騒ぎを村上春樹はどう感じているのだろうか。多分うんざりしているんのじゃないかなと個人的には思っている。

ノーベル文学賞とは関係がないかもしれないが『職業としての小説家』のというエッセイで村上春樹は芥川賞を例に作家と文学賞の関係性を語っている(第三回 文学賞について)。村上春樹の言葉を直接引用してみよう。

 

あらためて言うまでもありませんが、後世に残るのは作品であり、賞ではありません。二年前の芥川賞の受賞作を覚えている人も、三年前のノーベル文学賞の受賞者を覚えている人も、世間にはおそらくそれほど多くはいないはずです。あなたは覚えていますか?しかしひとつの作品が真に優れていれば、しかるべき時の試練を経て、人はいつまでもその作品を記憶にとどめます。アーネスト・ヘミングウェイがノーベル文学賞をとったかどうか(とりました)、ホルヘ・ルイス・ボルヘスがノーベル文学賞をとったかどうか(とったっけ?)、そんなことをいったい誰が気にするでしょう?文学賞は特定の作品に脚光をあてることはできるけれど、その作品に生命を吹き込むことまではできません。いちいち断るまでもないことですが。

 

後世に残るのは文学賞ではない、作品そのものなのだ。また村上春樹はこうも語っている。

 

僕がここでいちばん言いたかったのは、作家にとって何よりも大事なのは「個人資格」なのだということです。賞はあくまでその資格を側面から支える役を果たすべきであって、作家がおこなってきた作業の成果でもなければ、褒賞でもありません。ましてや結論なんかじゃない。ある賞がその資格を何らかのかたちで補強してくれるのなら、それはその作家にとって「良き賞」ということになるでしょうし、そうでなければ、あるいはかえって邪魔になり、面倒のタネになるようであれば、それは残念ながら「良き賞」とは言えない、ということです。

 

文学賞を取っても取らなくても作品の価値が変わるわけではない。村上春樹の小説が唯一無二で面白いものであることに変わりはないのだから。

 

最後に初心者にもおすすめな村上春樹作品を紹介したい。これを機会に、村上春樹を読んだことがない人もぜひ村上ワールドを体験してみてほしいなと思う。

 

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