日々の栞

本や映画について気ままに書く。理系の元書店員。村上春樹や純文学の考察や感想を書いていく

運命の人に出会うことについて / 「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」 村上 春樹

四月のある晴れた朝、原宿の裏通りで僕は100パーセントの女の子とすれ違う。」こんな印象的な書き出しで始まるのが、「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」 だ。とても印象的なタイトルだ。この小説は、村上春樹の比喩の卓越さが全面に出た小説で『ガンガルー日和』という短編集に収録されている。

まず、100パーセントの女の子という比喩が素晴らしい。とても美人な女の子でも、スタイルが良いわけでもない、でも自分にとっては100パーセントの女の子。主人公は、四月のある晴れた朝に「100パーセントの女の子」とすれ違う。しかし、主人公は「100パーセントの女の子」に声をかけることができなかった。どうやって話しかけるべきだったかを主人公は考え、二人の間にあったでストーリーを思いつく。

 二人はもともと赤い糸で結ばれた100パーセントの男女だった。だけれど、二人の間の運命を試そうとして二人はわざと離れ離れになる。互いに100パーセントであれば再び出会うことができると。だが、二人は再び会うことが出来ず記憶を失ってしまう。そしてある晴れた朝にすれ違ったのだ。こんな切り出し方で話しかければ良かったと主人公は思ったのであった。悲しい話だと思いませんか。

 話している中で、「この人とはどこかであったことがある」と思うことがある。デジャヴみたいな感じだ。この小説はその感覚をうまく表現している様に思う。

 

 

  『1Q84』は100パーセントの女の子が元になった小説!?

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

  • 作者:春樹, 村上
  • 発売日: 2012/03/28
  • メディア: ペーパーバック
 

 村上春樹の短編小説といえば、のちに長編小説に変化を遂げるものが多い。有名な『ノルウェイの森』は「螢」から派生したものだし、『スプートニクの恋人』は「人食い猫」から派生している。この「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」も後に長編小説のモチーフになっている。それは村上春樹の代表作『1Q84』だ。

『1Q84』の物語構造だが、簡単にいうと「2人の主人公、天吾と青豆が離ればなれになりながらも、お互いを探し求める」という構造になっている。ニューヨークタイムズ(2011年10月23日号)のインタビューで、『1Q84』は「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」から派生した小説だと村上春樹は語っている。『1Q84』と4月では、「運命によって結ばれた少年と少女が出会い、そして離ればなれになり、お互いを探し始める」という物語構造が共通している。

 

 

 『君の名は。』のモチーフにもなっている?

小説 君の名は。 (角川文庫)

小説 君の名は。 (角川文庫)

 

この短編は新海誠にも影響を与えている。新海誠は村上春樹から影響を受けていることで有名で、映画中のモノローグなどに村上春樹っぽさが見られる。新海誠の代表作といえば『君の名は。』だが、 「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」がモチーフになっているんじゃないかと言われている。

『君の名は。』の冒頭シーンで描かれているのは、何かを探しているけれどそれが分からないという喪失感だ。この喪失感は「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」でも描かれている。互いに100%であることを知りながらも、それを試すためにわざと離ればなれになり互いに記憶を失ってしまった二人。これは『君の名は。』のラストシーンに通じる。お互いに惹かれ合い運命の赤い糸に結ばれた瀧と三葉だが、心を通わせた過去の記憶は失ってしまう。ラストシーンでやっとお互いに出会った時も過去の記憶を失っており、互いに100%悲しい話だと思いませんか。運命の人を探すという『君の名は。』のストーリー骨格も「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」と似通ったものがある。新海誠の解説によると、「君の名は。」は「4月のある晴れた朝に〜」がモチーフになっているようだ。